ちっちゃいガイガンになってた   作:大ちゃんネオ

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あけましておめでとうございます!
あけおめテンションと深夜テンションで書き上げたのでみんな心して読んでね!


番外編 野良猫捕獲命令ヤクザ対ガイガン

 はじまりは些細なことだった。

 フィーネとの激戦から一週間、翼ちゃんと四六時中一緒だったので少し一人になろうと思いちょっと外に出た。

 それがまずかった…  

 

 

 

 結構遠くまで来たな…

 見知らぬ河川敷を眺める。

 お、あれはサッカーゴール…グラウンドだったんだここ。

 しかし…

 おそらくフィーネとの決戦の時か、それとは別にノイズの被害にあったのか、サッカーゴールは歪み、グラウンドは地面が抉れてサッカーなんてとても出来ない状況だ。

 ここでサッカーを楽しんでた子供達から遊び場を奪ってしまったか…

 いや、子供は大人が思ってるより強い。

 多分、ここが使えなくなった代わりの遊びや場所を手に入れているだろう。

 …腹が減った。

 この川って魚いるかな?

 まあとりあえず降りてみるか…

 

 

 

 おー!いるいる!

 魚いるよ!

 よし、先史文明期に鍛えた俺の腕を見せてやるよ…

 …ほいッ!

 水面を抉るように鉤爪で水ごと魚をすくう。

 地面に落ちた魚はびちびちと跳ねたがやがて動かなくなった。

 これは…なんだろう。

 魚には詳しくないから分からん。

 まあなんであれ、ありがたくいただくとするか、いただきま…

 ちらと、視線の中にあるものが入った。

 子猫だ。

 子猫が魚を欲しそうにこちらを見ている。

 魚をあげますか?

 はい

 いいえ

 …野良のというか野生の生き物に餌付けをしてはならない。

 それが原因で人里におりてきたり、狩りをしなくなるとかあるからだ。

 心苦しいがあげてはならない。

 …

 ……

 ………

 い、一匹だけじゃ俺も腹がふくれんからな、もう一匹獲ってくるか…

 …ほいッ!

 あ、あーどうしよう勢い余って魚があらぬ方向にー(棒)

 まあ、別に?ちっちゃいやつだからあんなんじゃ俺の腹はふくれないしー(棒)

 さて、もう一匹獲るかー(棒)

 …ちらと子猫の方を見ると、一生懸命に魚を頬張っている。

 …一回きりだからな。

 そう思っていた、思っていたんだけどなぁ…

 

 

 

 

 いいか、獲物を見つけたらチャンスが来るまでひたすら待て。

 一撃で仕留めるんだ。

 

「にゃー!」

 

 なぜか子猫に野良としての生き方を教えていた。

 野生で生き残るにはとにかく強くなくてはならない。

 こんな子猫が生き残るには…生き方を知らなければいけないのだ。

 数えて八度目の魚獲りだがなかなかうまくいかない。

 まだ力が足りないのか、思い切りというものが足りない。 

 …これはいよいよ、本格的にこいつを育成しなくてはいけない。

 一回面倒を見た以上、責任は取らなくてはならない。

 

 ちょっと待ってろ、今からいろいろと準備してくるから。

 ここから動くなよ。

 

「にゃ」

 

 よし、いい子だ。

 さて、ちょっくら行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二課仮設司令室

 

「司令、ピー助さんからこんなものを受け取ったんですが…」

 

「なになに…特訓…シテキマス…ガイガン…」

 

「これを僕に渡したあとそそくさと行ってしまって…翼さんが知ったらどうなるか…」

 

「うむ…だがまあ、翼にとってもピー助離れするいい機会だ。それに…」

 

「それに?」

 

「怪獣がどんな特訓をしてくるのか楽しみじゃないか」

 

「というか、文字を書けたんですね」

 

「ああ…このことは翼には内密にな。あと緒川、例の件だが…」

 

 

 

 

 

 

 さて、緒川さんに木の板で作った手紙は渡したし大丈夫だろう。

 あいつはちゃんと留守番してるかな…

 って!大人の野良猫数匹に襲われてる!

 

 なにしてんだてめら!

 猫の一匹に両足キックを不意打ちで食らわせる。

 こいつ…ちゃんと魚取ったのか…

 それを横取りしようなんて、そういうのは俺は嫌いだ。

 

「てめえ!なにしやがる!」

 

 うっせー!弱いものいじめすんじゃねえ!

 子供を大人がよってたかって…

 恥ずかしくねえのか!

 

「野良の世界は弱肉強食…弱いのが悪いんだよッ!!!」

 

 猫が一斉に飛びかかってくる。

 しかし…

 レーザー光線砲ッ!

 目の前の地面に撃って土煙をあげる。

 

「姿が…見えねえ!?」

 

 あとは一匹ずつ土煙に紛れながら…

 一つ。

 

「にゃ!」

 

 二つ。

 

「ぎゃ!」

 

 三つ。

 

「ワン!」

 

 よし、これで全員か…てか、最後のワンって鳴いたぞワンって。

 お前どう見たって猫だろ。

 

「猫の世界もキャラ立ちは必要だニャ…」

 

 おい、キャラ戻ってるぞ。

 

「あ、ヤッベ…」

 

 なんなんだよこいつら…

 

「お前こそなにもんだ…ここらの奴じゃないな…それにその身なり…えーと、そのー…なんだお前は!」

 

 もう最後の方投げやりだぞお前。

 まあ分かるけど、逆の立場だったらガイガンが現れたら何事かと思うもん。

 しかしまあ聞かれたからには答えてしんぜよう。

 

 通りすがりのガイガンだ、覚えておけ!

 

「ガイガン…だと…おい、ガイガンってなんだ?」

 

「さあ…」

  

「知らないワン」

 

 …猫に自己紹介したのがダメだった。

 そうだよね、分かるわけないよね。

 

「とにかく!野良の世界は弱肉強食!邪魔すんじゃねぇ!」

 

 弱肉強食…まあ、それが普通だ。

 それじゃそこらの獣となんも変わらねえ。

 お前らは野良として三流だ。

 

「なに…!」

 

 いいか、一流の野良は弱いやつから飯をぶん取ったりしねえ。

 ましてや、子猫が頑張って獲ったもんだ。

 大人として恥ずかしくないのか。

 

「うぐっ…」

 

 いいか!一流の野良は気高く飢えなければならないッ!

 誇りまで失っては野良猫以下の獣畜生よ!

 

「「「あ、兄貴!」」」

 

 よし!そうと決まればお前ら!今から魚獲りだ!

 自分の分は自分で獲りやがれ!

 

「「「応ッ!」」」

 

 なんか熱に浮かされて説教なんてしてしまった。

 別に野良経験は…5000年前に敵から隠れてる時くらいなもんなのに…

 ジョニィ・ジョースターの名言を引用なんてしたのが間違いだったのだ…

 しかし、この時はその事にまったく気づかずに魚獲りに熱中したのである…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二課仮設本部 食堂

 

「ピー助ぇ…ピー助ぇ…」

 

 風鳴翼はラムネを飲み干して、机にドンッと勢いよく置いたあとおいおい泣きだした。

 

「翼さん飲み過ぎですって…もう五本目ですよ」

 

 そう言いながらビンを回収する立花響。

 憧れの人のこんな姿を見せられて内心ドン引きである。

 しかし彼女は知らない。今後、ピー助関連で泣く風鳴翼の面倒を見るのが自分だということを。

 

「うるしゃい!たちばにゃだってこひゃなたがいなくなったらこうにゃるくしぇに!」

 

 ソフトドリンクのくせに酔っぱらう防人。

 彼女が成人を迎えたらどうなるのか不安しかない。

 

「私と未来はそんな関係じゃないですよ!それにピー助君は特訓に出たってだけですぐ帰ってきますから…」

 

「そんにゃ…わたしにいわにゃいで…せっかくぴいすけのいってることわかるようになったのに…」

 

 ああ面倒くさいと内心で思う。

 しかし直感が囁くのだ、ここで放っておくほうが後々面倒になると。

 だからこうして憧れの歌姫、そして戦士の先輩である風鳴翼を介抱するのだ。

 

「師匠が言ってました…男には愛する女を守るために敢えてなにも言わずに旅立つことがあると…」

 

 正直、言われた時は何を言っているか全然分からなかった。

 しかし、今なら分かる。

 師匠、この言葉は翼さんを言いくるめるための言葉だったんですね。

 

「あいしゅるおんにゃ…?わたしが、ぴいすけの?」

 

「はい!二人は最高のパートナーです!ベストマッチです!」

 

「ほんとかたちばにゃ!?」

 

「はい!翼さん!ピー助君!ベストマッチ!です!」

 

 こうして、なにやら怪しい方向に進んでいく二人。

 もう立花響もヤケになっていた。

 どうにでもなれ!

 

 

 

 

 

 

数日後

雪音クリス宅

 

 日曜だと言うのに妙な時間に起きてしまった雪音クリスは朝食は簡単にトーストと牛乳で済まし、テレビをつけた。

 チャンネルを回してもあまり興味惹かれる番組はやっていない。

 しょうがない、ニュースでも見るかとチャンネルを合わせると骨董品強盗のニュース。

 しかしその次のニュースは雪音クリスでも興味惹かれる内容だった。

 なんと普通の川にペンギンと思われる生物がいたという衝撃映像がSNSに投稿されたという。

 川で遊んでいたという投稿者が水面にカメラを向けるとそこには…

 

「すげえ…これガチでペンギンだろ…」 

 

 彼女はこういうのを信じる質である。

 戦火で両親を失い、これまで思春期を殺してきたと言っても過言ではない彼女は純粋に信じた。

 

『えー映像から推測しますと、そうですね大体40cmないくらい。フンボルトペンギンなんかが大体こんな大きさです。身近なもので言うと2Lのペットボトルくらいの大きさですね』

 

 テレビで専門家だという初老の男がそう語る。

 なるほどフンボルトペンギン…

 2Lのペットボトルくらいか…

 2Lのペットボトルくらいの大きさ?

 なんか、身近にそれくらいの大きさの生き物がいた気が…

 ピー助だ。

 ピー助がこれくらいの大きさだ。

 そしてピー助はいま特訓だとかで長期外出中。

 

「あれ、これってピー助…」

 

 うん、ペンギンよりそっちの方が可能性が高い。

 うわぁ、あいつ撮られちまってるよ…

 この映像が今の状態のあいつが見たら飛び出すに違いない。

 …なんとかしてこの映像をあいつに見せないようにしなければ。

 そうじゃないと、いろいろヤバイ。

 いろいろヤバイ。

 いろいろヤバイのだ。

 もしかしたら風鳴翼活動停止とかなるかもしれない。

 それくらい、今のあいつはヤバイのだ。

 とにかくヤバイという単語が脳を支配しはじめた頃、通信端末が震えた。

 おっさんからだ。

 今日はオフのはずだが…

 

『クリス君、朝早くにすまない。実は急な仕事が入ってな…本来なら調査班だけで済ませられることなんだが聖遺物に関係するということが判明したので装者達にも参加してもらいたい』

 

「いいぜ、どうせ暇なんだ。仕事の一つくらいあった方がいい」

 

『そうか、それでは1300に仮設本部まで来てくれ。以上だ』

 

 そうして通話は終わった。

 リディアン音楽院への転入が決まってはいるが校舎があんなんなのでしばらく休校。

 体が鈍ってきたから、ちょうどいい。

 さて、そうと決まれば準備でもしますか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 子猫と三匹の猫(タマ・ミケ・クロ)が俺の舎弟になってから数日…

 俺のグループは勢力を伸ばしていた。

 勢力を伸ばしていた。

 勢力が伸びていたのである。

 いや、別に討ち入りだなんだとかはしていない。

 気がついたら周りに野良猫が増えている。

 野良猫どころじゃない。

 野良犬もいるし野良カミツキガメもいる。

 おい外来種。

 

「別にあたしゃ悪くないわよ。捨てた奴が悪いのさ」

 

 そうだった。

 あんたも被害者、いや被害ガメだ。

 

 

 さて、ここまでの勢力拡大をしたのには理由がある。

 ピー助が掲げた「気高く飢えなければならない」という言葉に従い、タマ・ミケ・クロの三匹は行動し他の野良猫、野良犬達に布教していったのだ。

 その言葉に感銘を受けた野良達は一斉にピー助の舎弟へとなったのである。

 ちなみにピー助本人はこのことをまったく知らない。

 

 それからもピー助のグループは勢力を拡げた。

 「気高く飢えなければならない」の言葉を胸に生きる野良達はまるで厳しく訓練された軍隊のように規律を重んじ、人間に対する迷惑行為を行わなくなった結果可愛がられるようになり、今では町のマスコット的存在となっていたのである。

 

 

 

 

 

 

 諸君!人間に可愛い姿を見せるということは人間に媚びへつらうことと忌み嫌うかもしれない!

 しかし!媚びへつらうのは我々ではない!人間の方である!

 いいか!人間は可愛いものに弱い!可愛さで釣れば人間など意図も容易く落とすことが出来る!

 我々の武器は爪でも牙でもない!可愛さである!

 可愛いは正義!

 

「「「「「可愛いは正義!」」」」」

 

 そうだ!

 諸君らのように気高い精神と可愛さがあればこの先も豊かで素晴らしい生活が約束されている!

 それでは諸君らのますますの健闘を祈る!以上!

 

「ガイガン総帥万歳!」

 

「ガイガン総帥万歳!」

 

「ガイガン総帥万歳!」

 

 

 

 

 

 …ねぇ、いつの間にかシャアみたいになってんだけどなにあれ。

 

「にゃー」

 

 ノリノリで演説してたって?

 いや、なんか熱に浮かされて…

 それよりあの演説はなんの意味があるの?戦意高揚?

 なにと戦うつもり?

 

「いくらガイガン総帥の元で纏まっても所詮は野良だワン。生活の保証なんてまったくないんだコン。だからみんな強いリーダーを望んでいるんダナモ」

 

 クロさん語尾全然安定してないんだけど大丈夫?

 キャラぶれっぶれなんだけど、というか最後の語尾ってタヌ…

 

「総帥大変だ!関東野良犬会のやつが伝えたいことがあるって…すごいぼろぼろなんだ!」

 

 なに?

 すぐ行く。

 お前達はありったけのドッグフードをかき集めてこい。

 そうだな…ふらわーに行けば肉を分けてくれるかもしれない。

 ジョンの奴が足が早い。

 ふらわーまで急いでくれと伝えてくれ。

 

「了解した!」

 

 さて、関東野良犬会の犬がぼろぼろで…

 一体なにがあったというんだ。

 

 

 

 

 関東野良犬会はこの辺りでは武闘派で名前が通っている野良達の集まりだ。

 全員が全員、凶暴。

 まさに獣と言っても過言ではなく、入会には厳しい試練を越えなければならないと聞く。

 そんな武闘派集団がボロボロになるなんて…

 

「…はぁはぁ、人間の奴等が急に俺達を捕まえようとしてきたんだ…それだけならいつものことだが…今日の奴等は容赦がなかった…かなり乱暴な奴等でここが俺達の土地だと言っていた…このことをあんた達に伝えろと俺はボスに伝えられて…」

 

 分かった…ここまでありがとう。

 今、肉とドッグフードを用意させている、ゆっくり休んでくれ…

 これは…どうにも保健所ってわけでもなさそうだ。

 土地の話をするなんて…

 これはまさか…ヤのつく人達が…

 

「総帥!大変だ!変な人間がデカイ車をたくさん連れてやって来やがった!」

 

 なに!?

 

「や、奴等だ…奴等が来たんだ!」

 

 まさか…こんなすぐに!

 くそ、とにかくみんなを逃がすんだ!

 

「総帥はどうするニャ!?」

 

 俺は…奴等と戦う。

 

「そんな!無茶だ総帥!」

 

「相手は人間だよ!勝てっこない!」

 

 そんな道理…私の無理で抉じ開けるッ!

 堪忍袋の緒が切れた!

 全員、第5マンホールから脱出するんだ!

 

「そんな…総帥…総帥ぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

 道路に並ぶ大量のブルドーザー。

 それを背に、スーツの男達を指示する男がいた。

 

「あとはここの野良共片せば、ここも晴れてワシらハダカデバネズミ組のもんだな」

 

「そうでござんす」

 

 このらっきょうのような輪郭に出っ歯の男がハダカデバネズミ組の若頭「波打加出葉男」

 最近は骨董品を集めるのが趣味の38歳。

 ネーミングセンス?

 ポッとでキャラだから大丈夫大丈夫。

 再登場の予定ないし。

 

「兄貴、野良猫共の姿がまったく見えません!」

 

「なにぃ?草の根わけて…いや、草の根掘ってでも探せや。土地も大事だが、あの猫共も大事な商品になるんやから」

 

 こいつらはノイズによる被害を受けた土地を買い占め、ノイズ災害により増えた野良ペット達を集め商品としているのだ。

 

 そんなこと、この男が許すわけがなかった。

 

「アニキ、なんだか急に霧が出てきましたね…」

 

「霧ぃ?そんなん関係ないだろさっさと仕事せんか…」

 

「ぎゃー!!!」

 

「どうした!なにがあった!」

 

「いやぁぁぁぁ!!!」

 

「あげゃああああ!!!」

 

「それはらめぇぇぇ!!!」

 

 相次ぐ部下達の悲鳴。

 最初に悲鳴のあった所へ向かうとそこにはパーマの愛称で呼ばれていた男が全裸にひんむかれ、ストレートパーマにされていた。

 

「一体なにが起こっとるんや…野良共がこんなこと出来るわけが…」

 

「アニキ…これはあかんですぜ…他の奴等も見てきましたけど、ひどい有り様で…」

 

「な、殺られてたのか!?」

 

「いえ…アイデンティティーというアイデンティティーが失われていました…」

 

 なんてこった…

 グラサン、ケツアゴ、童貞…

 お前達のことは忘れんで…

 

「アニキ…きっとこれまで売ってきた動物達の生霊が復讐しに来たんですよ…!」

 

「バカ言え!生霊なんてくだらない!必ずこんなことしでかした犯人がいるはずや…」

 

 一体誰がこの波打加出葉男にケンカ売っとるんや…

 いや、待てよ。

 

「おい、細目。お前、いまケンカ売ってるやつが出たらケガ覚悟で、なんでもいいから捕まえろ。いいな?」

 

「そ、そんなぁ!無理言わんでくださいよぉ!」

 

「いいからやれ。安心せい…こいつ、命までは取っとらん」

 

 霧が少しずつ晴れてきた…

 いま、ジャリっと音が後ろからなったな…

 突然、霧の中から何かが飛び出してきた!?

 

「ッ!今や細目!」

 

「は、はいぃ!!!」

 

 細目が覆い被さるように犯人を捕まえた。

 どれどれ、顔でも拝んでやるか…

 

「って、なんだこのヘンテコ。こんなんにやられてたんか」

 

 細目に羽交い締めにされている…ペンギンのような生き物は抜け出そうとジタバタ動くが細目はかつてボディビルダーとして名を馳せ、その筋肉は未だ現役。

 脱け出せるはずがない。

 

「さて、どう落とし前つけてもらおうか…どっかの金持ちにでも高値で売りさばいてしまおうか。日本はペットの大量消費国言うてな、珍しければ買うって言い出す輩がぎょうさんおるんや」

 

 しかし、その前に少しならこのヘンテコペンギンをボコるぐらいいいだろう…

 そう思い指を鳴らした瞬間、季節外れの桜が舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤバイ…人を傷つけるわけにはいかない…

 こんな奴等一発ぶん殴ってやりたくなるが、ここで俺が危害を加えては折角あいつらの信頼向上したというのにその信頼を失わせてしまう。

 どうすれば…

 …桜?

 この季節に?

 もう夏が来るというのに…

 霧の中に鬼の面を被った、着物に、腰に日本刀を差した人がいる…

 

「一つ、人の世の生き血をすすり…」

 

 この、口上は…

 

「二つ、不埒な悪行三昧…」

 

 まさかあの名作時代劇の…

 

「三つ、醜い浮き世の鬼を退治てくれよう!」

 

 桃太郎ざむr…

 

「防人侍ッ!」

 

 失礼しました。

 なんだよ防人侍って…

 よくよく聞いたらあの声、翼ちゃんやんけ…

 しかも霧でよく見えなかったけど、上をはだけさせて胸をさらしで隠して…

 なんていうか、極道の女?

 

「お、おい細目!あの女をやれ!」

 

「へへっ…女なんて余裕で…ひでぶっ!?」

 

 は、速い…

 居合いだ…

 飛天御剣流並に速い。

 てか、気づいたら俺、翼ちゃ…防人侍の手の中に…

 

「安心しろ、峰打ちだ…」

 

 いや、峰打ちでも相当だと思うよ?

 あの速さで鉄の塊がぶつかってくるんだから。

 

「ひ、ひえぇ!化け物だぁ!」

 

 あ!

 アニキとか言われてた奴が逃げた!

 

「安心しろピー助。ここにいるのは私だけではない」

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく走って、車のあるところまで戻ってきた。

 途中、セーラー服姿の女子高生がいたが気にせず走った。

 

「はぁ…はぁ…ここまで逃げ切れば…」

 

「逃げ切れば、なんだって?」

 

 話しかけてきたのは、先程通りすぎて行ったセーラー服の女子高生。

 …なんでこんな時間に、こんな場所にセーラー服の女子高生が?

 いや、よく見るとセーラー服には似合わない。

 一周回って似合う物がその手に握られていた。

 機関銃。

 

「お前、悪い奴なんだろ?だからさ…こいつでッ!」

 

「ひッ…」

 

 セーラー服姿の女子高生がトリガーを引く。

 そして撃ち出される大量の鉛弾。

 それで車を蜂の巣にして爆破し、ブルドーザーまで蜂の巣にしていった。

 

「なんで…セーラー服の女子高生が機関銃ぶっ放しててるんや…」

 

 セーラー服と機関銃。

 一見、関係無さそうなものだが…

 この二つ、ベストマッチなのだ…

 そして、すべてのブルドーザーが破壊され…

 

「快、感…って、これやんなきゃいけねえのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 高垣ボイスの快、感…を聞くことなく、出葉男は逃げていた。

 とにかく逃げるのだ。

 これは、悪い夢なのだから…

 

「ホワチャアッ!」

 

「おわっ!?」

 

 目の前に流星が墜落した。

 流星の正体はまた女子高生と思われるガキ。

 …なぜか黄色に黒のラインが入ったトラックスーツを着ているが…

 

「観念してください!あなたはもう包囲されています!」

 

 四方を見ると黒服にサングラスの男達、そして、リアルセーラー服と機関銃と謎の防人侍。

 

「ハダカデバネズミ組の波打加出葉男だな。お前に聞きたいことがある。着いてきてもらおうか」

 

 そして現れる、筋骨隆々の赤い男。

 もはや、万事休す…

 なにも反抗する手段のない男は、考えるのをやめた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 あの男が所属する組が行った骨董品強盗。

 実は聖遺物だったとかなんとかで二課が動いたようだった。

 別に俺のピンチに駆けつけたとかそういうわけじゃなかった。

 翼ちゃんはいろいろ察知していたらしいけど…

 ニュータイプかよ…

 さて、こうして俺は再び翼ちゃんに抱かれている。

 変な意味ではない。

 本当に抱かれて、持ち運ばれている。

 この抱き方は確か…あすなろ抱き?

 そんな名前だった気がする。

 密着してくるあまり柔らかさを感じない胸板を背中に感じながら、これはしばらく離してくれそうにないなと思った。  

 …あいつらは逃げ延びたかな。

 ちゃんと生きてればいいけど…

 

『こちらの川になんと野良猫や野良犬などが集団で生活している珍しい光景が…』

 

 ニュースの女子アナがいる場所…

 どうやらあいつらは元気そうだ。

 今度、翼ちゃんの目を掻い潜って顔を出そう。

 せめて、生きてるってことだけでも伝えておかないとな。

 しかし、この外出もまたトラブルに見舞われてしまうことをピー助はまだ知らないのである…

 

次回 謎の外人美女とピー助がデート!?




オマケ 防人侍とセーラー服とブルース・リー

翼「ピー助の身に危機が迫っている…」

クリス「そんなの気のせいだって…」

翼「ピー助のピンチに駆けつける…そんなヒーローのようなことしたらピー助からの好感度が爆上がり!?こうしてはいられない!一張羅で行かなければ…」

クリス「あっおい…あいつ最近ガチでやべぇな…って、なんだよこの服」

響「さっき師匠が、今回のターゲットから怪しまれないようにこれ着ろって言ってたよ」

クリス「なんでセーラー服なんだよ!深夜にセーラー服の女子高生がいたら普通怪しまれるだろ!?」

響「…クリスちゃんはいいよね。セーラー服って可愛くて…私なんてブルース・リーだよ…トラックスーツだよ…黒と黄色だよ、警戒色だよ…」

クリス「なんか…ゴメン…」

あけましておめでとうございます!

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