クウガの警察並に頼もしい!
歌が響く。
瓦礫と火の海に、一人佇む…私の妹。
誰か、妹を助けて!
叫んでも、大人達は難しい言葉を並べるばかりで私の言葉なんて聞き入れてくれない。
こうなったら私が助けるしかない!
妹のいる場所まで、炎を避け瓦礫の山を登り…
妹の名を呼ぶ。
振り向いた、妹は血の涙を流して──。
そこから先はあまりよく覚えていない。
瓦礫から私を庇ったマムと共に救助されてからの記憶しかない。
それが私の
「ただいまピー助」
家に帰ると電気がついていない…
おかしい、いつもならピー助が勝手につけているというのに…
「ピー助、いないの?」
呼びかけても返事がない…
最近は素直に家で留守番をしていたというのに、また勝手に外出をしているのだろうか?
そうだとしたら…
いや、待て。
何か聞こえる…
テレビはついているらしい…
まさか…侵入者が…
ピー助も侵入者に捕らえられているかもしれない…
今行くぞ!ピー助!
「ピー助!無事、か…」
私は目の前の光景に目を疑った。
テレビに流れるのは流星の如く現れた歌姫「マリア・カデンツァヴナ・イヴ」のライブ映像。
そして、テレビの前にはマリアLOVEと書かれたハチマキを巻いて、鉤爪にサイリウムを巻き付けたピー助の姿がそこにはあった。
「ピー助」
私の声に反応したピー助はギギギ…と音が鳴りそうな固い動きで振り向いた。
「ピー助…とりあえず、そこに正座しなさい」
大人しく正座して、翼ちゃんと向かい合う。
まさか…見つかってしまうなんて…
「ピー助…ピー助どうして…私じゃなくてマリアなの!私のDVDなんて見たことないのに!私のライブグッズだって持ってないのに!どうして…どうして…」
しょうがないんだ翼ちゃん…
だって…ファンになっちゃったんだからしょうがないだろう!
まさかあの時、街を案内したのがこんな世界の歌姫だったなんて…
それにおでこにキッスまでされて…
好きにならないほうがおかしいだるぉぉぉ!
「ピー助の浮気者ぉ!!!」
泣きながら寝室に入る翼ちゃん。
勢いよくドアが閉められ、ドアの音が静かな部屋に木霊した。
和室でちゃぶ台挟んで向かい合う風鳴翼と風鳴弦十郎。
二人の間には、なにやら重い空気が漂っていた。
「…それで俺のところに相談しに来たというわけか翼」
「…はい、叔父様」
風鳴翼が珍しく休日の風鳴弦十郎の屋敷の門を叩いたのは必然だった。
こんな話を出来るほど風鳴翼は家族との仲が良好なわけではない。
周りの大人というとマネージャーの緒川さんか二課の方達、そして上司でもあり、叔父でもある風鳴弦十郎。
緒川さんは任務があるため本日不在、二課の方達も仕事中、本日休みだという叔父である風鳴弦十郎のところに来るのは当然のことなのだ。
「お前達は夫婦か」
まず、話を聞いた弦十郎の口から出たのはそんな言葉だった。
「翼、お前はピー助をマリアに取られたと思ってるんだろう?」
「はい…だって、私のライブのDVDとかグッズとかは持ってないのにマリアのはしっかり持っているんですよ。こんなの裏切りとしか言いようがありません!」
そう、これは裏切りだ。
今まで長い時間を共に過ごしてきたというのに、あんなポッと出の…つい2ヶ月前にデビューした小娘(翼より歳上)なんかに…
あぁマリアを思い出したらなんと憎たらしいことか。
あの髪型も含めまさに泥棒猫という表現がピッタリだ。
「確かにお前の言うことも分かるが…お前達は飼い主とペットの関係だろう。別に浮気もなにも無いんじゃないか?」
「違います!私とピー助はもう飼い主とペットなんて関係じゃありませんッ!共に戦い、何度も死線をくぐり抜けてきた相棒です!故にこれは裏切りなんですッ!私というものがいながらあんな…淫乱ピンクの年増に…!」
淫乱ピンクってお前…と内心思った弦十郎。
まさか、堅物で古風な姪からそんな単語が出てくるなんて思ってもみなかったからだ。
「別に好きなアイドルが出来たくらいで浮気とは…」
「いいえ!これは完璧な浮気ですッ!」
浮気の基準ッ!
それは人によって様々!
恋人がいるのに異性と二人きりで遊ぶのは浮気という者もいれば、遊びの関係なら一線を越えてもOKという者もいる。
風鳴翼は…前者に相当する価値観の持ち主だった。
今時珍しい古風で堅物、最近バラエティ番組にも進出し、その天然さを炸裂させる風鳴翼が遊びの関係などというチャラチャラしたものを許せるはずがなかった。
ましてや、件のマリア・カデンツァヴナ・イヴは自分と同じ歌の世界に身を置く存在。
同じ歌手として対抗意識はあったが、ピー助の件で対抗意識どころか如何にして奴を始末するかなど考え始める始末である。
このままでは風鳴翼が活動停止どころか逮捕、起訴。
殺害理由は痴情のもつれ…などという週刊誌が泣いて喜びそうなネタを提供することになってしまう。
それだけは避けたいと風鳴弦十郎は姪の悩みに真剣に答えることにした。
「翼…愛にも種類があるというのは理解しているか?」
「ええ…まあ」
「だからきっとピー助の持つお前への愛とマリアへの愛というのは種類も…大きさも違うと思うのだ」
「種類も…大きさも…だけど、私よりマリアへの愛の方が特別だとしたら…」
珍しく弱腰になっている姪の姿に年相応らしさを感じたことに嬉しさとめんどくささを感じる弦十郎。
これが…若さか…
若人を導くのは大人の務めだ。
「何を弱気になっている翼!お前のピー助への愛はポッと出の女に負けるほど小さいのか!」
「そんなことありませんッ!私のピー助への愛は誰にも負けませんッ!」
「よし、その意気だ!急激に熱せられたものほど冷めやすいものだ。そのうち飽きるだろう」
「そうですね!私、自信が出てきました!」
なんとかなった…と内心ホッとする弦十郎。
これで最悪の未来は回避したはずだ。
よし、あとはゆっくり休日を謳歌しよ──
「けど、ピー助は元々奏が世話をしてて…奏にはよく懐いて…私の家にはじめて行った時もすぐに逃げ出して…」
この瞬間、風鳴弦十郎の久しぶりの休日は潰えた。
鉄板少女(?)マリア!
マリア「これを…ひっくり返すのよ…」
切歌「慎重に…慎重にデスよ…」
調「ジー…」
マリア(ペンギンさんの動きを思い出しなさい…あの美しい形を保ったまま…)
マリア「ここッ!」
べちゃっ(さっきまでお好み焼きだったものが辺り一面に転がる)
お好み焼き(生まれ変わったら、もっと上手な人にひっくり返してもらうんだ…)
切歌「そんな…こんなのあんまりデスッ!」
調「私達の夕飯が…」
マリア「やっぱり私ではダメなの…こうなったら、あのペンギンさんに…」
切歌・調「ペンギンさん?」
マリア「いえ、なんでもないわ…(絶対に物にして見せるッ!お好み焼きを…ペンギンさん(の技)をッ!)」