ちゃんとこっちも書かないと…
「…雪音、私は重いのだろうか」
「ぶほっ!?い、いきなりなに言い出して…」
休憩室、缶ジュースを飲んでいた雪音は吹き出した。
なにもそんな吹き出すようなことを言った覚えはないが。
「私は自分の愛をピー助に押し付けていただけなんじゃないだろうか…」
「あ、愛って…」
顔を赤らめる雪音。
さっきから妙な反応ばかりする。
「私とピー助は相思相愛だと思っていたが、一方通行の愛だったのかもしれない」
「そ、相思相愛…」
「ああ、私のピー助への愛は真実の愛だと思っていたが…それがピー助の枷になっていたのなら、それは愛とは呼べないだろう…どうした雪音?俯いて…体調でも悪いのか?」
肩を震わせ、顔が赤い…
もしかしたら熱でもあるのかもしれない。
額に手を当て熱がないか確認しようとすると雪音は勢いよく立ち上がり、捲し立てた。
「あ~!!!さっきから愛だとか相思相愛だとか真実の愛だとか!!!こっちが聞いてて恥ずかしくなるようなことを恥ずかしげもなく言いやがって!!!背中が痒くてしょうがないったらありゃしない!」
まるで火山が噴火したようだと思った。
もしくは沸騰したやかん。
「しょうがないだろう。好きなんだから」
「もう喋らないでくれ頼むから…」
背中をポリポリと掻く雪音。
好きなものは好きだと胸を張って言うことのなにが恥ずかしいというのか。そもそも雪音が恥ずかしがってどうする?雪音は聞いていただけだろう。
一体何故?と謎を追及しようとすると、警報が鳴り響いた。
「!? アルカノイズッ!」
すぐに雪音と共に休憩室を出て司令室へと向かう。
ピー助は外に出ているが…恐らく、ノイズの気配に気付いて向かっているはずだから大丈夫だろう。
そしてアルカノイズ、自動人形達の狙いは立花と見て間違いない。
司令室に着くとモニターには立花と小日向がアルカノイズとエルフナインの言っていた未だ姿を見せていない自動人形…ミカ、だったか。
赤い髪…いや、それよりも目を引くのはその手だろう。
異形の手。
人の体など容易く握り潰してしまえそうなほどの巨大さと、鋭さ。
戦闘特化というだけのことはあるか…
それよりも、ピー助はまだ来ていないのか?
「!? ピー助君も襲撃を受けているようです!」
「なっ!?」
モニターに映るのは空中で銀色のロボットと戦うピー助。
奴はイギリスでも、そしてこの間もピー助を執拗に狙った相手。
何か、ピー助と因縁でもあるのだろうか?
一抹の不安を抱いて、私は戦闘の様子を見守った。
そして…
「なんだ…何が起こっていやがんだよあれは…」
その光景に、私は我を失っていた。
ピー助が、ピー助が…
「どこへ行く!翼ッ!!!」
「離してください叔父様!ピー助が!ピー助がぁ!!!」
腕をがっしりと掴まれ、離してくれない。
早く、早く行かなければいけないのに…
「落ち着けって!取り乱すのも分かるけど!焦ってもどうにもなんねえだろ!」
「雪音…くっ!」
拳を強く握りしめた。
こんな時、なにも出来ない私自身が歯痒くて、悔しくて堪らなかった…
それに追い討ちをかけるように、立花まで自動人形の前に敗北して…
私は、あることを決意した。
それは雪音も同じようでエルフナインに詰め寄った。
「あたしらならやれる!だから、プロジェクトイグナイトを進めてくれ!」
「強化型シンフォギアの完成を!」
そうだ、私に出来ることは戦うことだけ。
ピー助のためにも、皆のためにも…
私は…剣でなくてはいけない。
ああ…くそ、俺はどうなってしまったんだろう…
体が動かない。
ビシッ、ビシッとひび割れるかのような痛覚ばかりが体を包む。
くそ、ダメなのに。
こんなことじゃダメなのに。
帰って、翼ちゃんに謝らないといけないのに…
動け、動いてくれよ…
動けよ!!!
そして、それに応えるようにガイガンに備えられたシステムが作動する。
───再生
───再構成
───再誕
調査部が研究チームの人員を引き連れてガイガンの回収を始めようとしていた。
銀色のヤマアラシのようになってしまったガイガンをまず調査する。
「生命反応は?」
「ありません」
「まさか…本当に銀の塊になってしまったというのか…?」
研究員達はこの結果からガイガンの回収を予定通り行うことに決め、トラックに載せるためにロープをかけようとして…それは起こった。
突如、塊が蠢くと首のようなものが伸び、その口を開いた。
それを契機に次々と塊から同じように銀色の竜の頭とでも言うべき部位が発生。
さながらその姿は日本人に馴染みある神話の怪物、八岐大蛇のよう。
「こ、こちら回収班!ガイガンが!ガイガンが動き出しました!」
研究員が本部へ無線を入れる。
これで本部には伝わった…それじゃあ、あとはどうする?こいつをどうすればいいんだ?と研究員は思考に囚われ体が動かない。
「離れてください。危険です」
「あ…は、はい!!!」
調査部のエージェントの一人が研究員の前に立ち声をかける。
我に帰った研究員はすぐさまこの場から離れ、エージェントはスーツの内ポケットからサバイバルナイフを取り出し構える。
「念のため、だが…これ以上は暴れてくれるなよ」
ガイガンは今のところ首を何本も生やし、それらが動くだけで今のところ特に被害は出ていない。
危害を加えるつもりはないのかもしれない、とエージェントは予想する。
だが、このままにしておくわけにもいかないと打開策を考える。
すると再び、ガイガンに変化が生じる。
銀色の体が波打ち、徐々に変化する。
あれだけ生やしていた首の何本かが縮小、もしくは再び体に同化し残った六本の首がそれぞれ移動、変形を始める。
そして、そのシルエットが徐々に形作られる。
二本の首は足となり、地面を踏みしめ。
二本の首は腕となり、凶刃が煌めく。
一本は尻尾となり、鞭のようでもあり刃のようである。
そして、残った一本が頭部を形成する。
「変態、というやつか…」
この様子を見たエージェントはそう呟いた。
変態。
おたまじゃくしがカエルになるように、成長によってその姿形を変えることを言う。
そして、ガイガンは新たな体の形成を完了した。
全身が銀色。
体からは金属で出来た水晶のようなものがあちこちから突き出している。
かつては生体を機械で補ったような姿をしていたが、今のガイガンは機械に生身の部分が少々残っているばかり。
最早、サイボーグというよりロボットである。
「本部、聞こえるか。ガイガンだが…そうか、了解した」
「班長、どうします?」
「今、飼い主がこちらに向かっているということだ。私達は下手に手を出さない方がいい。幸いにも、向こうは動く気配がないからな。下手に刺激でもして暴れられたら困る」
班長と呼ばれた男の言う通りガイガンは静止している。
まるで動く様子が見えない。
男は念のため封鎖区域を広げるよう部下に指示し、飼い主の到着を待った。
待つこと20分…
緒川さんの運転する車から降りてすぐに封鎖を知らせるテープを越える。
「ピー助は!?ピー助の今の状況は!?」
私達を待っていた調査部の人に聞くとこちらですと案内され、途中、今の状況を説明された。
「今は活動を停止しています。飼い主の君を見たらなにか反応があるかもしれないが…」
そして、私はそれを見た…
あれが、ピー助…?
「ピー助…なのか?」
銀色の、冷たい鋼の竜…
それが、今のピー助。
いや、あれはピー助だ。
ピー助なんだ。
「翼さん!近づくのは…」
緒川さんの声が聞こえるが関係ない。
だって、ピー助だから。
ピー助は危なくなんてない。
ピー助に歩み寄って、少し見上げて語りかける。
2メートルくらいだから顔を見ようとするとしょうがない。
「ピー助?私が分かる?」
返事はない。
まるで石像のように動かない。
しかし、少し間を置いてだがピー助は反応した。
バイザーを赤く発光させて、私を見下ろすとピー助は頭を傾げ…
鎌を振り上げた。
「翼さんッ!!!」
なんで、どうして、ピー助…
「ピー助ッ!!!」
叫んだ。
人生で一番叫んだと思う。
真っ直ぐと、ピー助を見つめて。
するとピー助は振り上げた右腕を下ろし、自分の手を見ている。
…正気に、戻ったみたい。
だから、私はいつものようにピー助と接するのだ。
「さあ、帰りましょう。ピー助」
オマケ
ピー助「遅れましたが結婚おめでとうございます千鶴さん。あ、こちらお祝いの品です」
千鶴「ああ…ありがとう。にしても油セットとは…」
ピー助「千鶴さんもマリアさんも料理するんでいいかなぁって。ところで千鶴さん」
千鶴「なんだ?」
ピー助「なんか本編にあなたっぽい人がいる気がするんですけど、気のせいですかね?ここは俺が主役の作品ですよ。千鶴さんあなた他で主役までやってこっちにまで侵食とかマジやめてもらえます?」(器が小さい)
千鶴「…作者に聞け」
スターシステムです(苦しい言い訳)