これが雪ミクちゃんですか 作:天狗の仕業
ある日のことである。
宇宙人が地球に降り立った。
そしてその驚異的な力を人類に見せつけた。
このまま地球は宇宙人に支配されてしまうのだ、と人々が絶望に打ちひしがれた。
そんな時、その宇宙人は告げた。
「おい、デュエルしろよ」
そういうことになった。
◆
「なんで?(憤怒)」
訪れたコンビニが10軒目を迎えた時、俺はついにそのイライラを爆発させた。
初めの内は「ま、そういうこともあるやろ」と余裕のある態度でいられたが、二軒目、三軒目と当てが外れるにつれその余裕は無くなっていったのだ。
これは許されない。訟訴も辞さない。俺はなんのためにこの場所に足を運んだのか。どういうことだってばよ?という困惑と怒り、この感情をどこにぶつければいいのか。そんな状況に陥っていたのだ。
「どうしてなんだ…どうしてこうなっちまうんだ?」
無意識にそう呟いてしまう。
だって、そうではないか。俺が今欲しいと思っていたもの、長年お世話になった物がこの場所、コンビニエンスストアに無いと言うのなら。それは、悲しいことではないか。
だからつい呟いてしまったのだ。この悲しみは何処にいけばいいのだ。なんで人類から争いはなくならないのだ。そんな堂々巡りを続けて立ち尽くす。それが今の俺の姿だ。
コンビニエンスストアに、エロ本がない。
これは許されない(憤怒)
──うせやろ!はー、つっかえ!ほんまに使えんわ〜。やめたら、この仕事(コンビニ)?エロ本がないやん!どうしてくれんのこれ?エロ本が欲しくてコンビニに入ったの!
俺はスマホで『コンビニ エロ本 無い』と検索する。すると、今年9月から殆どのコンビニでエロ本は置かなくなったことが判明。そんなバカな。そんなことが許されていいはずがない。
確かに違和感は感じていた。巡ったコンビニが5軒目を迎えた時にはすでに「妙だな…」とコナンくんが犯人捜しをする時ばりに疑問を感じていた。今まで当然のように存在した物がないのだ。疑ってかかるべきだろう。いや、むしろ俺はこの時すでに答えを導き出していたのかもしれない。ただそれを認めたくなかっただけなのか。今となっては、分からない。
だが俺は信じていた。次のコンビニにはあるだろう、次は、次こそはと。そう信じて選んだ道を歩き続けた。このときだってそうだ。なんか知らんけどこのパックが欲しいとせびってくるロリに「一つだけだぞ」と奢ってやって、近いコンビニを検索し、そして進み続けた。その繰り返しだ。
その結果がこれではあまりにも、救われないじゃない。
大丈夫だよ遠坂、俺も、これから頑張っていくからとは言えない。むしろふざけるな、ふざけるな!バカヤロウ!!である。
コンビニで、エロ本を買うことに意味があるんじゃないか。
俺は固く拳を握る。
誰だってそうだっただろ?若い時、誰だってコンビニに入ったらバレないように、エロ本コーナーに目をむけた筈だ。興味を向けたはずだ!それのなにが悪いってんだ!それが楽しみだったんじゃねぇか!確かに倫理的には良くないのかもしれない。ガン見してるのがバレて次の日にはあだ名がキングオブエロリストになったりもした。良いことばかりじゃなかった。でも今となっては、俺に欠かせないモノなんだよ!コンビニにエロ本があって、それを手にする。それがオレなんだよ!!それの何が悪いってんだ!なんでそんな簡単なことも分からないんだよ。
いいぜ、青少年健全育成条例。お前がそんな簡単なことがわからないで、コンビニからエロ本を消したっていうのなら…まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!
傍目からバカじゃねぇの?と思われるに違いない俺。そんな俺にトテトテとロリが近づいてきた。
青い着物に白い髪留めしたロリ。コイツと会うのは訪れたコンビニと同じ10回目である。というかまたしてもこのロリ、カードパック持ってる。女なのにカードファイターとは珍しい。ふつうこのぐらいの歳の子はプリティでキュアキュアなんじゃないかと思う。まあでも、変わってるけどなかなか可愛い子だし、オジさん買っちゃうぞバリバリー。
そしてロリにカードを渡して次のコンビニに向かう俺。バカヤロウお前俺は勝つぞお前という精神である。退き際を間違えたとも言う。天文学的数字ではまだ可能性は残ってるのである。俺は運命と戦う。そして買ってみせる。
◇
そうして迎えた11軒目。その緑を基調としたコンビニの入り口に、ある少女が立ち塞がるように現れた。
白い髪に、白青の着物を着たその少女。
その姿を見て、俺は確信する。
そうか、雪ミクかあ(納得)
もうそんな時期でもあるんだな。このコンビニじゃあ毎年のことである。しかしコスプレイヤーまで用意するなんて、今年の力の入れようはハンパじゃないぜ。
一人そう感想を心の内で呟いて、コンビニに入るためゆっくりと少女の横を通りすぎる。しかし、まわりこまれてしまった。
ひょ?…もう一回チャレンジする。
しかし まわりこまれてしまった!
なんだコイツ(驚愕)
表情にはださないが中々ビクってる俺。この子なんなの怖い、と畏怖の念。
驚き固まってしまった俺に、雪ミクはカードの束を差し出しながら言った。
その言葉を要約すると、『おい、デュエルしろよ』ということみたいだ。
俺はその言葉で、少女の持ってるカードがデュエルモンスターズであると理解させられ、そうして次に、二年前に起きたある事件のことについて思いだした。
◆
「ほな、また…」
そう言って、俺とデュエルしろと告げた宇宙人は姿を消した。
宇宙人はデュエル宣言の後、三つのことを人類に約束させた。
一つ目、デュエルして勝ったら地球の支配はやめる。
二つ目、三年間の猶予を与えてやる。死ぬ気で頑張れ。
三つ目、あと絶対レギュレーションは守れよ?もし破ったり反則的なカード使ってきたら即ブッパだかんな?
その約束を聞いた人々は困惑した。そして言った。
「デュエルって?」
宇宙人は答えた。
「ああ!」
人々はさらに踏み込んで聞いた。
「遊戯王デュエルモンスターズのことでいい?」
宇宙人は頷いて言った。
「ああ!!」
人々は疑問を隠さずに言った。
「どうしてカードゲームで地球のこれからを決める必要があるんですか?(白目)」
宇宙人は満面の笑みで言った。
「だって当然だろ?決闘者なら」
そういうことになった。
◇
遊戯王デュエルモンスターズ。ただのカードゲームであったそれは、二年前のある出来事から国技レベルまで扱いが変わった。
そして変わったのは扱いだけではない。そのある出来事から、自身をデュエルモンスターズの精霊だと宣う不審者も現れるようになったのだ。
謎が謎を呼びすぎている。最近ではそれに疑問を抱かなくなってる人が多すぎてあれだけど。まあ命かかってるしね。しょうがないね。俺は雪ミク(精霊)を再度目に納めてそう思う。
そういえばあと一年で地球滅亡かーと思い出した俺は、まあそれもしょうがないことであると納得する。だって経済は変わらず回るからね。カードゲーム会社の株価はやばいらしいけど。まあ俺には関係ないことであるけども。
とりあえず俺は笑顔で勧誘してくる雪ミク(精霊)に「やめとくわ」と返答した。
だってルールもよくわからないし、残当である。昔友達に聞いてみたことあったけど、「一見複雑そうにみえて複雑だぜ!」と言われたから「あ、そっかあ」と手を引いた。別に楽しいならやってみようと思っただけだったからね。 難しいならやめとくかなと思ったのである。
雪ミクは俺が断ると思ってなかったのか笑顔のまま固まり、続けて焦りつつ「いやいや、命かかってるよ!あと期限まで一年もない!」と詰め寄ってくる。
しかし俺は努めて冷静に言う。
大丈夫大丈夫、俺じゃなくて別の人にやってもらって?
これは常識的に当然なことである。あの宇宙人事件から、今ではデュエルモンスターズ宇宙人対抗専門学校みたいのも出来たりして、そのカードゲームに詳しい人がいるのだ。その人にやって貰えばいい。
というか最近は一般人でも普通にプレイ出来るようになってる。ルールを知らない俺の方が珍しいくらいだ。
「全然大丈夫じゃない!他人事すぎ!お母さん泣くよ!?」
お前に俺の母親の何が分かるっちゅうねん、と物申したい現在。しかし俺は大人なのでそれを流し、なんとなく少女になんで俺なんすか?と聞いてみる。するとよく分からんけど親和性が〜うんぬん、気にいったから〜うんぬん理由を言ってきた。後半理由になってなくねと思ったが、俺はそれを聞き「やっぱやめとくわ」と言った。めんどくさそうだし。
愕然とした雪ミク少女は「もうハニトラしかないのか(絶望)」と言ってるけど、ウッソだろお前。ハニトラする前にハニトラすることバラすなよ頭エロ本か?と失礼なことを思ったりしたので、オブラートに「変態さんか?」と言ってみる。めっちゃキレた。怖い(自業自得)
とりあえずご縁がなかったということで、と俺は雪ミク少女に告げコンビニに入ろうとする。しかし雪ミクはまたしても俺の服の裾を掴むことでそれを食い止める。そして少女は「出来る出来る絶対出来るどうして諦めるのよそこで!」や「あ、アンタこのままダラダラリーマンになるんだ。アンタの人生それでいいんだ!」とバクマンってくる。いやもうリーマンになってるわ。というか初対面でそれも失礼じゃねえ?
しかし強調するが、俺はもう大人なのである。だから少女にこの世の真理を教えてやることにした。
「大丈夫だ。人類のこれからだって、別の人が頑張ってなんとかしてくれるから。だからお前も別の人探して、頑張ってくれ」
そういえば少女はさっきこう言った。他人事すぎる、と。
その通りである。でも、真理であるとも俺は思う。
なんだってそうなのである。今回のデュエルうんぬんに限らず、全てのことで自分でなくてもいいことはザラなのだ。
大人になるということは、自分を知るということ。そして誰かに頑張ってもらって、自分はその頑張りを見届けるしかないということである。なんだって責任は付き纏う。だったら大事なことは他の人に任せた方が安心する。
頑張れ、いい言葉である。俺は大好き。何をどう頑張れとは言わないのが特に。
そんな俺の思考を読んだのかは分からないが、雪ミク(精霊)は怒りから顔を赤くし、肩を震わせ始めた。
怖い(白目)
というかこちらを見限るようなこと(本心)を言ったら早く立ち去ってくれるかな、と思ってたが、すみません、まーだ時間かかりそうですかねぇ?(困惑)
早くエロ本探さなくちゃ(使命感)
俺は少女を目の前にスマホをいじる。もう次のコンビニを探すことにしたからだ。バカ野郎お前俺はエロ本買うぞお前!
雪ミク(氷の魔妖─雪女)はそんな俺の姿を見て、遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。めちゃくちゃ恐ろしい剣幕で、ブチギレながら叫んだ。
「頑張ってじゃねえよお前おい──オメェもガンバんだよおおおお!!!!!」
正体現したね(白目)
◇
宇宙人との決闘まで、残り一年。
最近面白い遊戯王二次小説を見たので初投稿です。
頑張って。