進撃のほむら   作:homu-raizm

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第1話をお読みいただきありがとうございます。お気に入り登録及び感想も大変ありがとうございます。

第2話です。
このほむほむは特殊な訓練を受けています。


第2話 Breaking allow

 仮の寝床に定めた木の上から飛び出し、丘を街に向けて全力で走る。上るときはピクニック気分でちんたら歩いたこともあってか小一時間ほど掛かった道のりも、魔力で強化した状態の脚力でならば下りということも相まって三分も掛からない。

 やがて街が近づくにつれてその凄まじい混乱っぷりもはっきりと確認でき、それを見る限り街の人たちは巨人が破壊した壁の反対側へ向かって逃げているのがわかる。であるならば人の波に逆らって道を走るのは労力の無駄遣いと判断、すぐさま近くの家の屋根へと飛び上がり、未だ噴煙収まらぬ爆心地へと突っ走る。

 

「っ!? 姿が……急がないと」

 

 屋根から屋根へと飛び移り、着地の際に足元を確認。外した視線を元に戻してみれば、あの馬鹿でかい壁から覗いていた顔が周囲に吹き荒れる粉塵と噴煙によって隠れようとしていた。まさかあの巨大な姿を見失うことは無いだろうが、最初は首から上がはっきりと見えていたはずの顔が煙に隠れる瞬間は目の辺りにまで落ちていたのが気に掛かる。あんな巨体で素早く撤退できるとも思えないが、そもそもあんな巨大な生命体がいること事態が信じられないことなのだから、その信じられない生命体がどんな動きをしようが出来ようが、驚きこそすれありえないなんて決め付けるのは良くないだろう。

 素早く盾からアサルトライフルを引っ張り出し、マガジンがフルであることを確認。セーフティを外しつつ目標に向かってひた走る、幸いにして民家は結構密集している上に道幅も狭く、また変に高低差も少ないためにいちいち遠回りをしたりする必要は無い。

 

「……ふぅん?」

 

 果たして、街についてから目的地まで残り半分ほどか、大分収まってきた噴煙の向こうから姿を見せたのはあの馬鹿でかい巨人ではなく――といっても、私よりは大分、少なくとも下は三倍から上は十倍近くはあるだろうか――恐らくは、使い魔。気持ち悪い笑みを浮かべながらふらふらと周囲を彷徨っている姿がざっと見ても数十体。

 

「へぇ、どうせならより本戦に近い形で、っていうことかしらね」

 

 ワルプルギスの夜を語る上で、その大量の使い魔という要素は外せない。本体の馬鹿げた攻撃力に目が行きがちだが、周囲を守る凄まじい数の使い魔は個々はたいしたことなくとも、その圧倒的な物量でこちらの力を確実に削いでいくのだから。なれば、この巨人を模した使い魔達をいかに裁きつつ本体である大巨人へと攻撃を通すのか、それが重要になってくるだろう。

 屋根と屋根の間、本来なら街路として飛び越えるべき場所に突如現れた巨大な顔、使い魔との視線が絡み合う。

 

「ふっ!」

 

 にやり、と使い魔が笑ったような、そんな錯覚を覚えた瞬間、今までの緩慢な動きからは想像もできないほどに素早い打撃が私を屋根ごと叩き潰さんと襲い掛かる。大きく振りかぶられた右手がその大きさそのままに、一瞬前まで私の居た場所を屋根ごと削り取っていく。

 

「甘いわね」

 

 けれど、いかに威力が高かろうが当たらなければ意味は無い、あんなに大きく振りかぶれば次の攻撃を読むことなどさやかにだって出来るだろう。振るわれた腕の外側をくぐるように跳び抜けた私は空中で身を捻り、間抜け面を晒す使い間の側面めがけて銃弾を叩き込む。

 超至近距離から放たれた銃弾は自身の体が空を飛んでようが狙いを外すことなどありえない、マズルフラッシュと共に吐き出された弾丸が巨人の顔面、その横から喰らい付き、抉るを通り越して吹き飛ばしていく。吹っ飛んだ肉片や血飛沫が街を汚すのを横目に見ながら体の流れるに任せて後頭部へと銃弾の着弾地点がずれていく。

 

「次」

 

 これだけの銃弾を叩きこまれたその頭部はスプラッタ映画さながらの様相を示している。普段の魔女の使い魔とはまた違った感じではあるが、さすがに動きが止まったのを確認する。大きさこそワルプルギスの使い魔すら凌駕しているが、どうやら戦闘力はたいしたこと無いようだ。確かに張り手の一撃で建物を破壊した攻撃力は脅威かもしれないが、それがなんだ。

 頭が半分消し飛んだ巨人から一切の興味を排除し、さらに街の奥へと速度を上げる。今度は左右から同時に二体、抱えたライフルをすぐさま収納すると両手にサブマシンガンを構える。

 

「邪魔よ」

 

 左右から迫る目標に向かって弾幕を張る。片手で撃つためにブレブレではあるが、数発でも当たれば足止めには十分、この近距離で撃った分の半数も当たればいいのだから、パラベラム弾が巨人の顔を外して街を穿ったところでどうということはない。撃ち始めてすぐに左の巨人の片目を、そして右の巨人が腕を振り上げた直後に両目を潰すことに成功する。叫びを上げて目を押さえる二体を置き去りにさらに私は加速する。

 その後も襲い掛かる使い魔の巨人をいなし、さばき、時には撒いて、木の上を飛び出してから約八分、街に突入してから五分で目的地であった壁の粉砕地点へとたどり着く。その頃には噴煙も大分落ち着きを見せていて、近くなったためにさらに見上げる必要が出た壁の上にも、近くなったことから向こうが見えるようになった壁の穴の先にも、目標であった超大型巨人の姿は無かった。

 

「ちっ……まだよ」

 

 どんどんと周囲の使い魔が増えてきて、いちいち立ち止まって考え事をする暇も無い。思わず爆弾を使ってもろとも吹き飛ばしたい衝動に駆られるも、それを抑えて壁を駆け上る。穴から出て確認することも考えたが、見えないところから踏み潰されては敵わない。仮に穴からは見えない壁の向こうに隠れたのだとしても、壁に上ってしまえばその姿を捉えることは可能だろう。幸いにして周囲には既に人の姿は全く無い、魔力強化を全開にして壁を登る姿を見られることもないだろう。

 ヒールが壁を穿つ音を連続で響かせ、最後の一歩で飛び上がって空中で一回転しながら壁の上に着地する。すぐさま攻勢に出れるようアサルトライフルを構えつつ慎重に立ち上がり、周囲そして壁の外を確認するも、あの超大型巨人の姿はどこにもない。

 近くにいる未だ消えぬ使い魔達のせいで気配も探れないこの状況、取り逃がしたかと落胆しつつ一縷の望みをかけてソウルジェムによるサーチを行うも、やっぱり魔女らしい反応もあの大巨人の反応らしいものもなかった。

 

「ソウルジェムの反応もない、か。まあ一般人もあの姿を見ていたようだし、ほぼ確実に魔女ではないでしょうけど、だとすると探すのが面倒ね……」

 

 壁の向こうは内側と打って変わってだだっ広い草原が地平線の向こうまで広がっていた。もちろんそのところどころに巨人の姿も見えるが、どうも多くの巨人がこの壁の穴を目指してこちらに歩いてきているようだ。

 

「……まあ、どうでもいいか」

 

 これが壁に穴があく前に気付けていれば外の連中を殲滅する意味も多少はあっただろうが、ちらりと内側を振り返るともう相当数の巨人が壁の内側に侵入しているのが容易に確認できる、そんな状況でこれ以上の進入を阻んだところで意味はないだろう。

 それよりも重要なのは消えた大型巨人の行方なのだが、どうも現状は手詰まりに近い。もう一度出現するまでここで待つというのも手だが、現れる保証も無いのにこんな何にも無い壁の上で待ち続けるのはさすがに無理だ。

 

「……確か壁は三枚、さすがに視認は無理だけど、街の人が逃げていった先はきっとまだ破壊されていない壁の向こう」

 

 まだ破壊されていない壁の傍で待つか、それも悪くないかもしれな――いや待て、落ち着け私。この壁よりもでかいあの巨人が奥の壁を破壊しようと思うなら、どうしたってこの壁を乗り越えるなり破壊するなりする必要があるではないか。であるならば、今回は小さな穴を開けて中に使い魔を送り込み、内部を言い方は悪いが掃除して安全を確保した上で確実に壁を破壊して中に入るという可能性が高い。

 

「けど、問題はそれが明日か明後日か一週間後か一ヵ月後か、全く読めない点」

 

 さっきも一度考えたが、ここで先の見えない持久戦を行いたくは無い。それに、恐らくこのシガンシナは完全に無人になってしまう、だとするなら、情報収集の観点からもまだ知らない二枚目の壁の傍にいたほうがいいだろう、きっとこのシガンシナと同様に街は壁と隣りあわせなのだろうから。

 ちらり、と壁の下を見ると、どうやって察知しているのか、巨人がこちらを見ながら壁を引っかいている。これ以上ここで時間を徒に消費しようものならきっともっと多くの巨人がここに集ってしまう、それはさすがに面倒くさい。行動の指針は立てた、とりあえずは住人が避難して行った方に向かえば何がしかの進展はあるだろう。

 

「はっ!」

 

 鋭く息を吐き、さっきとは逆に壁を駆け下りる。地に足が着かない浮遊感が全身を包み、下で今か今かと待ち構えている間抜け面の集団へと身を投げて――

 

「お見通しよ」

 

 ――まるで魚のように飛び上がってきたその顔面に口を回避して着地、嘲りの視線を投げかけ、その直後に巨人の顔を足場に大きく跳躍する。それでも私を逃さないとばかりに巨人の手が伸び上がってくるが、盾から引っ張り出したショットガンでわざわざ近づいてきてくれる間抜けな標的を全て吹き飛ばしていく。

 巨人の掌を吹き飛ばしつつ、ショットガンの反動を使って空中を舞う。ひらりひらりと攻撃をかわし、近くの屋根へと着地、ついでの駄賃とばかりに手榴弾を取り出して――今しがた吹っ飛ばしたはずの巨人の手から先が既に再生しつつあるのを捉える。

 

「たいした再生能力……ああ、そうか、擬似的な無限湧きの演出かしら。さすがにワルプルギスと同レベルの数を出すことは不可能でしょうし」

 

 瞬間的な数は少なくても、倒せない、あるいは非常に倒しにくいとあれば長期的に見て対ワルプルギス戦により近い状況を再現できるということか、なんとも至れり尽くせりな話ではないか。

 爆薬系は補給に不安もある、今の推論が正しいならば無意味に数を減らす必要もないか。運が良かったわね、と呟いて巨人に背を向け走り出した。

 

「……あれ、さっき頭吹っ飛ばした奴じゃない。再生している? 随分とタフなのね」

 

 まだ全身をRPGなどで吹き飛ばしていないからなんともいえないけれど、どうやらかなり高い不死性を持っているという先ほどの推測は間違いないようだ。だが、あそこまで銃弾を撃ちこんでも死なないとなると、逆に今度は私自身に倒す手立てが限られてきてしまいかねない。

 だがまあ、その検証はそのうちでもいいだろう。今はとりあえずここを抜け出すことが先決だ。

 

「しっかし……数が多いわね。誰か戦ってる人はいないのかしら」

 

 巨人に追い立てられてから百年もの時が経っているのだとするならば、それ相応の対応策ぐらい考えてあってもよさそうなものなのに、そんな気配がまるで無い。向こうの壁にあった大砲なんかが――まあ、大砲の性能を知らないからなんともだけれど、あの不死性を突破し切れなかった飾りなのかも――そうなのかもしれないけれど、百年経ってあの大砲が限界だとするならばそれ以前の人類は一体どうやって巨人と戦ったのだろうか。

 

「全く相手にならないから壁に逃げた? ありえるけど……何か引っかかるわね」

 

 襲い掛かってくる手合いをひらりひらりと避けながら街の中心部を抜けて向こうを目指すべく進路を取る。この程度の攻撃ならば考え事をしていたってかわせるから何の問題もないのだが、そのせいで生じた思考が私に違和感を伝えてくる。どうやら事態は思ったよりも複雑なのかも、と私がさらに思考を進めようとしたところで、巨人の襲撃があってから初めて人間の声を耳にした。

 

「――!!」

「――――!!」

 

 何を言っているのかまでは聞き取れないが、そこまで遠い距離でもない。何か有益な話でも聞けるかと進路をそちらに変更し、屋根を蹴っ飛ばして声の聞こえたほうへと跳ぶ。そこで目に飛び込んできた光景は――

 

「っ!」

 

 ――思わず時間を停めてしまった。まだ何も知らないこの状況でいきなり切り札を切ってしまったことに若干の後悔を覚えるも、幾らなんでもこんな光景を見過ごすほどには腐っていない。薄ら気味の悪い笑みを浮かべた巨人の手の中に握られた男の子、そしてその子の名前だろうか、を叫びつつも大人に引きずられるように逃げる女の子。

 巨人の口は大きく開き、男の子を握った手はその距離一メートルも無い、まさに絶体絶命。男の子を助けるのは確定なのだが、高速で回る思考がその手段をはじき出す。

 一、グレネードで巨人の顔を吹っ飛ばす。駄目だ、男の子との距離が近すぎる。

 二、銃弾で巨人の腕を吹っ飛ばす。駄目だ、何発撃てば捻じ切れるのかが分からない以上、捻じ切れなかったら男の子は喰われる。

 三、スタングレネードで巨人の目と耳を潰す。駄目だ、そもそも効くのか分からない。

 次々とはじき出されては却下される選択肢に臍を噛みつつ、銃器だけでどうこうするのは難しいと判断した私が選んだ手段、それは――

 

「合わせ技、しかないわね」

 

 ――何度言っても聞かない効かないさやかを凹ますためだけにヤクザ事務所から拳銃を盗むついでに頂戴した日本刀とそれを振るう剣術、なぜか杏子とさやかをまとめてあしらうぐらいには使えるようになったそれならば、銃弾で削っておけば男の子を握る巨人の手首を叩っ斬ることだって可能だろう。もっとも、他人の目にあまり重火器を晒したくないというのも理由としては大きいのだが、時間停止を解除した瞬間に私が持っている武器が刀ならば刀だけを使って切断したと誤解させるには十分すぎる。

 まずはアサルトライフルを三点バースト、吐き出された弾丸がごくごく着弾ギリギリのところで停止するのを確認し、ライフルを盾へと収める。そして盾を振って飛び出してきた日本刀を左手で掴み、腰溜めに構えつつ右手を柄に添えて屋根を弾丸のごとく飛び出す。巨人と男の子が接触している以上、斬る際には時間停止を解かねばならない、そのタイミングは刹那、だが、そんな瞬間は今まで数え切れないぐらいに超えて来た、決して外しはしない。

 

「はぁあああ!!」

 

 気合一閃、予想していたよりも中々に硬く、けれども銃弾に抉り取られて細くなったために強度の足らなかった巨人の手首を寸分の狂い無く刎ね飛ばす。

 

「!?」

「な、なんだぁ!?」

 

 斬られた巨人と助けられた男の子、両者が完全に混乱しているその瞬間、私はもう一度だけ時間を停める。このまま斬り飛ばした手首ごと男の子を連れて離脱したとて、相手の腕はもう一本あるのだし、未だ握り締められたままの巨人の手を外した上で男の子を抱えてとやっていては逃げ切れるとも思えない。時間停止を使えば簡単だろうが、男の子や下で呆然としている二人相手にいちいち説明するのも面倒だしさすがにそこまで魔法を無駄打ちしたくはない、だからこそのこの一瞬。

 

「しっ……!」

 

 居合いを振りぬいた勢いそのままに全身を強く捻る。鞘を盾に収めて両手持ちに、パワーが溜まりきったところで宙に停止する手首を足場に移動の軌跡を変える。飛び上がった先は顔のまん前、その瞬間に停止を解く。

 

「てぇやあ!!」

 

 渾身の横薙ぎは狙い通り巨人の両目を斬り裂いた。巨人の絶叫と共に飛び散った返り血が目に入らぬよう細めながらも、確かな感触を得たことに満足する。これで暫くは時間を稼げるだろう。

 

「え……あ、お、おわああ!?」

 

 その光景に呆然としていたか、男の子が重力に引かれて巨人の手と共に叫びを上げつつ落下する――よりも早く巨人の顔を蹴って地面に駆け下りた私が墜落の直前に巨人の掌をこじ開けて残骸を蹴り飛ばし、着地と同時に男の子を間一髪拾い上げる。

 

「……大丈夫?」

「え、あ、えっと、は、はい」

 

 これが、抱えられた手の中から呆然とした表情ながらもしっかりと視線を向けてくる男の子――これから幾度と無く道が交差することになるエレン・イェーガー――との、出会いだった。




1話のあとがきでも言いましたが、さやかちゃんのことは別に嫌いじゃないデスヨ。
むしろ大好きデスヨ。



誤字のご指摘ありがとうございました。2話の投稿と同時に修正してあります。
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