『ナックルシティ 中世の城壁を活かした歴史ある街』
人通りのなくなった深夜、看板を読む。周囲をクロバットが静かに飛び回り警戒している。ルリミゾはこの日、ギンガ団の制服に身を包みナックルシティに来ていた。狙いは宝物庫。ガラルに昔訪れたという厄災についての情報と、保存されている宝が目的だ。宝物庫と名前が付いているんだから、ポケモンに関係するレアなアイテムもあるだろう、と特に深く考えることなく走る。
ローズ委員長とチャンピオンは海の向こう、イッシュ地方のポケモンリーグを視察に行っている。ニュース記事を見た日の夜の決行だ。
歴史ある城を改築してできたスタジアムを中心に街が広がっているナックルシティは、8つ目のジムということもありかなり栄えている。ポケモンセンターは3軒あり、電車も通っている。街の西、いまは真っ暗なポケモンセンターの隣に宝物庫はある。トレーナーとポケモンのためにポケモンセンターは24時間営業だが、この街ほど大きく何軒もある場合は時間帯をずらしてそれぞれ営業している。
宝物庫周りは需要があまりないので深夜は休業中だ。普段、宝物庫は許可を得た人物しか入ることができない。表向きに訪れることもできるが、記録が残るし、突然訪問するのは不自然だ。撮影は禁止されているし何より面白そうなものも盗めない。
「上から」
並走するドータクンに指示を出し、手を借りて壁を駆け上がる。入り口には警備員とガマゲロゲが立っており、さらに見せつけるように監視カメラが設置されていた。どうせバレて戦闘になるとしても上から入ったほうが楽なのは明白だ。
「でんじは」
着地の寸前、ボールからポリゴンZを出し周囲のカメラを停止させる。久しぶりの潜入だったが、三匹とも全く衰えていない。すぐに不審に思った警備員がここに来るだろうから、鍵の掛かった扉を「ラスターカノン」で破って侵入、辺りに警報が鳴り響く。この瞬間がたまらないな、と思えば口元がニヤついてしまう。
「フラッシュ!」
ガラルでは誰も知らない技だったが、シンオウ地方では日常の技だ。ポリゴンZに照らされた部屋の中には四枚のタペストリー。厄災の伝説に関わるものらしい。
「これは・・・」
「いたぞ!何をしてる!」
読もうとした瞬間、ライトを手に持った警備員とリーグスタッフが合わせて三人、階段を駆け上がってくる。
「ゆっくり読もうとしてる観光客の邪魔しないでくれる?」
一人はルンパッパを連れており既に戦闘態勢だが、残りは対峙してから腰のボールに手をかけている。
「遅い」
背後からクロバットが意識を刈り取る。もう一人はドータクンの「ラスターカノン」で吹き飛ばされ、ぐっ、という呻き声と共に下に落ちていった。これで一対一。ポケモンを出させることなく二人消せたのは幸運だった。出されても簡単に潰せていただろうけど、と考えながら。
「死んだかもね?彼。仕事だっていうのにチャンピオンのおかげで平和ボケしてるわ」
対面のリーグスタッフに語りかける。クロバット奇襲の瞬間、ルンパッパはルリミゾの足元に「くさむすび」を放ち、なおかつトレーナーを守るように動いていた。リーグスタッフはその間に追加でヌオーを繰り出し態勢を整えている。
場慣れした動きだ。足元の草を人間離れした脚力で引きちぎりながらルリミゾはそう思った。水ポケモンが多いのはもしもの火事の消火のためだろう。
「そのセリフはチャンピオンが居るときに襲撃してから言うんだな」
リーグスタッフがそう返すと同時、ヌオーの「あまごい」によって雨が降り、ルンパッパがその陽気な姿からは想像もつかないほどの速さで迫る。ルンパッパは雨天時に動きが速くなるポケモンだ。すいすいと水の中を泳ぐかのように距離が縮まる。
来る。そう身構えたルリミゾの予想を裏切るようにルンパッパが奇妙なダンスを始めた。
「『フラフラダンス』だ」
「くっ」
やられた。平衡感覚が失われ、ぐにゃりと頭が右にもたれる。バランスを保とうと右足に力を入れれば後ろに倒れそうになってしまう。「フラフラダンス」はその奇妙な踊りで見たもの全員を混乱させる。攻撃を見切らんとルンパッパを見つめていたルリミゾは完全に策に嵌められた。が、視界の端から緑の光線がヌオーを吹き飛ばす。
「そう簡単にはいかないか」
ポリゴンZの「ソーラービーム」だ。こういった複数体のポケモンで戦う遭遇戦では、ポケモンも状況に応じて自らの判断で動く。雨天下のソーラービームは本来の威力を発揮できないが、ヌオーに対して効果は抜群だ。リーグスタッフを狙った攻撃だったが身を呈して守ったようだ。倒れたままピクりとも動かない。
下からガマゲロゲが飛び上がってくる。どうやら見回りに一匹出していたらしい。
「あいつは無事か?」
ゲコ、と頷くガマゲロゲ。落下した警備員を受け止めて救ったようだ。ヌオーをボールに戻しこちらに向き合う。
状況は変わらず三対二。クロバットが闇に紛れ静かに首を狙う。ドータクンは混乱しているもののじきに立ち直るだろう、傍で護衛をさせている。ポリゴンZは健在だ。
「とっ捕まえられたらいくらでもカレー作ってやるよ」
数的不利にもかかわらず、リーグスタッフは慌てることなくポケモン達に指示を出す。おそらく8つのバッジを所持している実力者だ。ザアザアという雨の音で何を指示したのかは聞き取れなかった。
が、どうでもいい。捻じ伏せるだけだ。
「はかいこうせん」
特性により雨天下で加速したルンパッパとガマゲロゲが重なる一瞬の隙。
リーグスタッフが反応する間もなく、その真横をルンパッパとガマゲロゲが消し飛んだ。ボチャン、と少し離れた堀に落ちた音が二回聞こえた。衝撃でスタッフ支給品のサングラスが吹き飛び、それを認識した後に初めて気付く凄まじい風に体勢を崩すリーグスタッフ。
ポリゴンZの恐ろしさはその火力だ。ポリゴンZは技に自らを最適化して最大の威力を引き出す。「はかいこうせん」においてポリゴンZの右に出るものはいない。
「クソッ、化物かよ」
「ま、そこそこ有能だったけどあたしを止めるのは無理ね!あたしはギンガ団幹部のロベリア!」
覚えておきなさい、と守るものがいなくなったリーグスタッフの意識をクロバットが刈り取る。つい高揚してギンガ団での名まで名乗ってしまった。そこそこ有能なトレーナーを一方的に叩きのめすのはまたバトルとは違う爽快感があった。普段のバトルであればポケモン達を褒め、撫でたり抱きしめたりしているところだが、襲撃中にその余裕はない。再びポリゴンZに「フラッシュ」をしてもらいタペストリーを読む。
「ふむふむ、厄災と英雄ね・・・」
後で確認するために写真も撮る。厄災に剣と盾で二人の若者が立ち向かったのだという。「ねがいぼし」の描かれたタペストリーもあるから、厄災と無関係ではないのだろう。もしかすると厄災とはダイマックスしたポケモンなのかもしれない。ダイマックスでこの地方を滅ぼしかねない程の力を秘めたポケモン。見えた希望に心が少し軽くなる。
「それほどの力があれば時空を歪めて元の世界へ帰ることも…」
想定よりも警備たちに時間を取られてしまった。他の宝物を探す時間はないだろう。有象無象が何人集まろうが止められることはないが、撤退を見られるのは困る。クロバットでキルクスタウンに帰るからだ。逃げる方向は知られたくない。一旦街の南のワイルドエリアに抜けてから隠れて「そらをとぶ」でキルクスに帰るルートに決めた。
ドタドタと階段を駆け上る音が聞こえてきた。追加の警備員やリーグスタッフだろう。階段真横の柱に隠れ、奇襲の準備をする。
「宝物庫の扉が!」
破られた扉が目に入り、状況を叫ぶリーグスタッフ。だが敵はそこにはいない。階段を登りきる直前に真横から蹴りを叩き込めば、声すら出せず後ろの数名を巻き込み階段を落ちていく。突然の出来事に立ち竦む残りをポリゴンZとドータクンが一掃すれば、階段には倒れ伏す弱者しかいない。
「あはは!」
マーズやジュピターと異なり、戦闘がメインのルリミゾは機能性重視の制服だ。ベレー帽を被り、髪は後ろでまとめ、口元には黒いマスク。胸にはギンガ団の象徴、黄色のGが書いてある。制服共通の胸から下に広がる白色は隠密の為にすべて黒色で統一してもらっている。
背後にドータクンとポリゴンZを従え、倒れたリーグスタッフや警備員を踏みつけながら階段を歩いて下りた。久しぶりの蹂躙に心が躍る。ただ純粋な力で破壊し、屈服させるのはギンガ団に入ってから知った喜びだ。正々堂々バトルで相手と高め合うことも大好きだったが、力で有象無象を蹴散らすことも大好きだった。
くるくると踊り、監視カメラに姿を映しながら夜の闇に消えていく。
すーぐ楽しくなって暴れます。
カメラに映らないように侵入しておきながら、見せつけるように踊って帰るのは書き間違いではありません。
ストレスにより衝動と欲求が強いです。力があるからこそ余計にですね。バトルで消化できていましたが、故郷を想えば想うほどストレスが溜まります。
制服はBW2のプラズマ団に近いですね。
評価・感想いつもありがとうございます。励みになります。
誤字報告ありがとうございます。何かを書くのはこれが初めてだったので、マイページをいじっていて発見しました。遅くなってごめんなさい。
やーーーーっとギンガ団らしい活動ができました。とはいえギンガ団が他の組織と違う点はTVCM普通にやってたり色々開発してたりと裏で手を回したり頭の部分だと思うんですが、彼女には…
次は開会式です。
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