ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

13 / 69
13-忘れられない日

 

「石碑と地上絵に関して知ってることを吐きなさい」

 

 ロベリアと並んで歩く。怯えて動けないメッソンと自分の命を守るためにも、ユウリはすぐに降伏した。後ろにポリゴンZが付いて来ている。逃げようとすればすぐに撃たれてしまうだろう。人間相手にポケモンの技を撃って宝物庫を襲撃するような組織だ。大声で助けを呼ぶこともできなかった。

 

「私も宝は見つけられませんでした。でも、ヒントは『最初は草、強いから弱いを二回追え』だと聞いています」

「地上絵については?」

「わ、わかりません。でも『ブラックナイト』って呼ばれる厄災が昔にあって、黒い渦がガラルを覆い、巨大なポケモンが暴れまわったと…ダイマックスに関係あるんじゃないかって…」

 

 へぇ、良い情報持ってるじゃない、と褒められて安堵する。痛めつけられることはなさそうだ。と思ったとき。

 

「それは誰から聞いたの?」

 

「地上絵について、一般にそんな情報は流れていないわ」

 

 しまった。ソニアが狙われる。

 

「じっ、自分で、考え、ました…」

 

 がしっ、と後ろから、肩を組むようにしてユウリの首に腕が回される。すこし冷たい指がユウリの動脈に触れる。抑えられて、ドクン、ドクン、と跳ねるのが自分でも感じられる。長身の彼女の方へ、ぐいっと引き寄せられて耳元で囁かれた。

 

「嘘はあたしに通用しないわ。今、どういう状況かもう一度考えるチャンスをあげる」

 

 次はないわよ、と告げられ血の気がまた引く。少しでも騙せると思った自分が甘かった。

 

「はやく。アンタの命はあたしの手のひらの上よ」

 

「……………ソニアという、マグノリア博士の孫から聞きました…」

 

 涙が出る。命惜しさに友人を売ってしまった。無力な自分が、何より憎い。

 

「ダイマックス研究者のマグノリア博士とその孫のソニアね」

「はい…」

「あはは!思いがけない収穫だわ!」

 

 よく言ったわね、と首に回されていた手が下から頬を撫でる。こんな状況なのに心が揺れる。慌てて気を取り直す。が、もう抵抗の意思もへし折られてしまっていた。

 

・・・

 

 炎、と書かれた石碑の前で足が止まった。解放されるのかな、と期待してしまう。

 

「これが炎の石碑ね。ヒントでわかったわ。この下に宝があるはずよ!」

 (いい匂いがする…)

 

 ジャージ姿のロベリアが動くたび、お風呂上がりのいい香りがする。まさかお風呂上がりにターフタウンを襲撃しているのだろうか。緊張で大きくなった呼吸で余計にそれが知覚される。ドクン、ドクン、と高鳴る心臓の鼓動は恐怖によるものだと思いたかった。

 

 ユウリから手を離して、石碑の下に歩いていくロベリア。ユウリの背後には変わらずポリゴンZが待機しており、ロベリアがこちらを振り向いて言う。

 

「わかってると思うけど、逃げようとすれば…」

 

 コクコクと必死に頷く。どうして離れた瞬間に寂しさを覚えたのかはわからなかったが、はやく無事に解放されたいと一切の抵抗を諦めて待つばかりだ。

 

「あった!これね!」

 

 ロベリアが手に持っているのは武道で見るような黒い帯、それと掌大ほどの白い宝石だ。

 

「『たつじんのおび』と『ノーマルジュエル』ね。ブラックナイトに関連するものではないけど、ハズレよりはマシね」

「あげるわ、次はもっと強くなってあたしを楽しませて」

 

 そう言ってユウリに投げ渡されたのは『たつじんのおび』、効果抜群の技の威力を高めてくれるアイテムだ。

 

「あたしは使わないし、ジムチャレンジャーへのプレゼントよ」

 

 誰がお前なんかに貰うか!と普段なら捨てていたのに。

 

 ユウリは下を向いて『たつじんのおび』を見つめていた。夜風が顔を撫でる。火照っているのを自覚してますます自己嫌悪に陥る。

 

「警備員やリーグスタッフなら殺してたかもね」

 

 将来有望だし見逃してあげる、と続けながらクロバットに掴まるロベリア。

 

「どうすれば」

 

 声を上げてから、我に返る。犯罪者に何を聞いているんだと。ロベリアは振り返り、続く句を待っていた。

 

「強く、なれますか」

 

 自分を止められなかった。自分を脅し、友人を売らせ、殺してたかもしれないとすら言った女に質問していた。早く解放してくれ、とあんなに思っていたのに。

 

「あはは!あたしにそれを聞くの?」

 

 馬鹿にされるんだと思った。

 

「この日を胸に刻みなさい。悔しさを、無力さを糧にするの」

 

 いつまでも、いつまでもよ。と返ってきたのは真摯な言葉。それから周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから、ロベリアはすこし白んだ夜に消えていった。

 

「助かった…」

 

 その場にへたり込む。メッソンは隣で気絶していた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ギンガ団幹部、ロベリアことルリミゾは上機嫌だ。厄災、ブラックナイトについての情報が得られたし、ノーマルジュエルも手に入った。そして何よりも、素晴らしく才能のあるトレーナーが開花するキッカケになったかもしれないのだ。

 

「泣かれたら情が移っていけないわね」

 

 覚悟を決めて戦っているトレーナー、警備、スタッフはともかく、まだまだ旅の始まり、成長途中のジムチャレンジャーを叩き潰すことは楽しくない。友人を守るために一度嘘をつき、脅されて泣きながら話すような優しい少女はいずれ伸びるだろう。

 

「あの表情…ふふ」

 

 動脈を抑えた時の顔、殺してたかもね、と言った時の顔。どれも嗜虐心を刺激する。全く殺すつもりはなかったし、情報を聞き出せればそれで満足だったが、面白いものが見れた。彼女がキルクスジムに来るのが楽しみだ。もしかしたらまた会うかもしれないな、と運命めいたものすら感じていた。

 

「何度でも捩じ伏せてあげる」

 

 未来で戦うことを夢想する。きっと強敵になるだろう。それこそ何度も自分たちの邪魔をしたあの少年のように。

 

 翌日、寝不足でノマに負けそうになったのは秘密だ。

 




もし出会ったのがビートだったら石碑が一つ増えています。

評価・感想いつもありがとうございます。
誤字報告助かります。自分で見返しても気付かなかった誤字を指摘されると、読んでくれているんだと実感してなんだか嬉しいですね。もちろん誤字は減らすべきなんですが。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。

人物紹介は必要ですか?

  • いる
  • いらない
  • 結果閲覧用
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。