ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
「石碑と地上絵に関して知ってることを吐きなさい」
ロベリアと並んで歩く。怯えて動けないメッソンと自分の命を守るためにも、ユウリはすぐに降伏した。後ろにポリゴンZが付いて来ている。逃げようとすればすぐに撃たれてしまうだろう。人間相手にポケモンの技を撃って宝物庫を襲撃するような組織だ。大声で助けを呼ぶこともできなかった。
「私も宝は見つけられませんでした。でも、ヒントは『最初は草、強いから弱いを二回追え』だと聞いています」
「地上絵については?」
「わ、わかりません。でも『ブラックナイト』って呼ばれる厄災が昔にあって、黒い渦がガラルを覆い、巨大なポケモンが暴れまわったと…ダイマックスに関係あるんじゃないかって…」
へぇ、良い情報持ってるじゃない、と褒められて安堵する。痛めつけられることはなさそうだ。と思ったとき。
「それは誰から聞いたの?」
「地上絵について、一般にそんな情報は流れていないわ」
しまった。ソニアが狙われる。
「じっ、自分で、考え、ました…」
がしっ、と後ろから、肩を組むようにしてユウリの首に腕が回される。すこし冷たい指がユウリの動脈に触れる。抑えられて、ドクン、ドクン、と跳ねるのが自分でも感じられる。長身の彼女の方へ、ぐいっと引き寄せられて耳元で囁かれた。
「嘘はあたしに通用しないわ。今、どういう状況かもう一度考えるチャンスをあげる」
次はないわよ、と告げられ血の気がまた引く。少しでも騙せると思った自分が甘かった。
「はやく。アンタの命はあたしの手のひらの上よ」
「……………ソニアという、マグノリア博士の孫から聞きました…」
涙が出る。命惜しさに友人を売ってしまった。無力な自分が、何より憎い。
「ダイマックス研究者のマグノリア博士とその孫のソニアね」
「はい…」
「あはは!思いがけない収穫だわ!」
よく言ったわね、と首に回されていた手が下から頬を撫でる。こんな状況なのに心が揺れる。慌てて気を取り直す。が、もう抵抗の意思もへし折られてしまっていた。
・・・
炎、と書かれた石碑の前で足が止まった。解放されるのかな、と期待してしまう。
「これが炎の石碑ね。ヒントでわかったわ。この下に宝があるはずよ!」
(いい匂いがする…)
ジャージ姿のロベリアが動くたび、お風呂上がりのいい香りがする。まさかお風呂上がりにターフタウンを襲撃しているのだろうか。緊張で大きくなった呼吸で余計にそれが知覚される。ドクン、ドクン、と高鳴る心臓の鼓動は恐怖によるものだと思いたかった。
ユウリから手を離して、石碑の下に歩いていくロベリア。ユウリの背後には変わらずポリゴンZが待機しており、ロベリアがこちらを振り向いて言う。
「わかってると思うけど、逃げようとすれば…」
コクコクと必死に頷く。どうして離れた瞬間に寂しさを覚えたのかはわからなかったが、はやく無事に解放されたいと一切の抵抗を諦めて待つばかりだ。
「あった!これね!」
ロベリアが手に持っているのは武道で見るような黒い帯、それと掌大ほどの白い宝石だ。
「『たつじんのおび』と『ノーマルジュエル』ね。ブラックナイトに関連するものではないけど、ハズレよりはマシね」
「あげるわ、次はもっと強くなってあたしを楽しませて」
そう言ってユウリに投げ渡されたのは『たつじんのおび』、効果抜群の技の威力を高めてくれるアイテムだ。
「あたしは使わないし、ジムチャレンジャーへのプレゼントよ」
誰がお前なんかに貰うか!と普段なら捨てていたのに。
ユウリは下を向いて『たつじんのおび』を見つめていた。夜風が顔を撫でる。火照っているのを自覚してますます自己嫌悪に陥る。
「警備員やリーグスタッフなら殺してたかもね」
将来有望だし見逃してあげる、と続けながらクロバットに掴まるロベリア。
「どうすれば」
声を上げてから、我に返る。犯罪者に何を聞いているんだと。ロベリアは振り返り、続く句を待っていた。
「強く、なれますか」
自分を止められなかった。自分を脅し、友人を売らせ、殺してたかもしれないとすら言った女に質問していた。早く解放してくれ、とあんなに思っていたのに。
「あはは!あたしにそれを聞くの?」
馬鹿にされるんだと思った。
「この日を胸に刻みなさい。悔しさを、無力さを糧にするの」
いつまでも、いつまでもよ。と返ってきたのは真摯な言葉。それから周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから、ロベリアはすこし白んだ夜に消えていった。
「助かった…」
その場にへたり込む。メッソンは隣で気絶していた。
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ギンガ団幹部、ロベリアことルリミゾは上機嫌だ。厄災、ブラックナイトについての情報が得られたし、ノーマルジュエルも手に入った。そして何よりも、素晴らしく才能のあるトレーナーが開花するキッカケになったかもしれないのだ。
「泣かれたら情が移っていけないわね」
覚悟を決めて戦っているトレーナー、警備、スタッフはともかく、まだまだ旅の始まり、成長途中のジムチャレンジャーを叩き潰すことは楽しくない。友人を守るために一度嘘をつき、脅されて泣きながら話すような優しい少女はいずれ伸びるだろう。
「あの表情…ふふ」
動脈を抑えた時の顔、殺してたかもね、と言った時の顔。どれも嗜虐心を刺激する。全く殺すつもりはなかったし、情報を聞き出せればそれで満足だったが、面白いものが見れた。彼女がキルクスジムに来るのが楽しみだ。もしかしたらまた会うかもしれないな、と運命めいたものすら感じていた。
「何度でも捩じ伏せてあげる」
未来で戦うことを夢想する。きっと強敵になるだろう。それこそ何度も自分たちの邪魔をしたあの少年のように。
翌日、寝不足でノマに負けそうになったのは秘密だ。
もし出会ったのがビートだったら石碑が一つ増えています。
評価・感想いつもありがとうございます。
誤字報告助かります。自分で見返しても気付かなかった誤字を指摘されると、読んでくれているんだと実感してなんだか嬉しいですね。もちろん誤字は減らすべきなんですが。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
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