ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
『ラテラルタウン 古代の芸術を中心に栄えてきた山間の町』
深夜、剣と盾らしきものと花?の素晴らしいセンスの絵の前でギンガ団の制服を着たルリミゾは呆然としていた。
「へったくそな絵ね・・・剣と盾が描かれてる以外なんにもわからないし、無駄足だったかしら」
ただスマホロトムで調べた通りの壁画がある。周囲には文字もそれらしき遺跡もない。なんだかイライラしてきた。リスクを負ってわざわざ来たのにへったくそな絵を見せられただけ。スマホロトムで見た町の紹介ではガラルの歴史に触れられるとの話だったのだが。キルクスの温泉の方がまだ歴史に触れられる。
「はかいこうせん」
壊してしまおう。ポリゴンZに指示を出せば、光を集めて絵を破壊せんと照準を定める。
誰も止める者はいない。ルリミゾの周りには警備員とリーグスタッフが五、六人倒れている。警備を強化しようと有象無象では相手にならない。この程度の人員で捕まえられると思われていること自体も不愉快だ。
・・・
五分ほど前、ラテラルタウンに到着したルリミゾは遺跡を調べるプランを練っていた。遺跡はちょうどジムから一本道になっている。建物の陰から様子を覗けば、例の如く警備員とリーグスタッフたちが点々と配置されている。なぎ倒しながら遺跡に向かうのはなんだかゲームのようで楽しそうだと思い、正面から走る。
「好きなように暴れなさい!」
手持ちの三匹を開放し、ルリミゾ自身も蹴りを叩き込んで通路を開けていく。
「ロベリアだ!俺たちの手に余る!サイトウさんを呼べ!」
サイトウが来ても面白そうだな、と思いながらも遺跡を調べることが最優先だ。素早く意識を奪う。
五分もすれば、立っているのはルリミゾだけになった。余韻に浸りながら遺跡を見れば、きったない壁画があるだけ。だから腹いせに壊す。それが今の状況だった。
・・・
光をチャージしきったポリゴンZがこちらを見る。やれ、と声を出そうとした瞬間。
「ッ!」
背後から蹴りが飛んできた。咄嗟に左腕を立ててブロックし、返しに右拳を突き出す。しかし体の外側へ向けて払われ、バランスを崩しそうになるがそのままの勢いで回転して肘打ち。攻撃の主は一歩退いて衝撃を和らげた。
「お相手いたす!これ以上あなたの好きにはさせません!」
「いいじゃない!最ッ高だわ!」
ラテラルタウンジムリーダー、サイトウだ。
右拳、左下突き、そのまま後ろ回し蹴り。熟練した技が風を切りながら迫る。上半身を反って蹴りを避け、着地を狙いローキックを放つ。ドム、と入ったものの体勢を崩さない。
「な!?」
「その程度では倒れません!」
「ぐぅッ!」
正拳突きがモロに入る。制服でなければ危なかった。よろけるも少し距離を取り、ポケモンを含めた戦闘へとシフトする。さすがはガラル空手の申し子。近接戦闘ではやはり分が悪いらしい。認めたくはないがルリミゾは冷静に判断する。後ろに控えているドータクンに指示を出す。
「ラスターカノン!」
「カイリキー!」
割り込んできたカイリキーが鋼の弾丸を腕ではじく。かなり鍛えられているな、と久しぶりの強敵に心が躍る。伝説に関する情報は何も得られなかったものの、この相手なら満足いくまで戦えそうだ。嬉しくて、嬉しくて笑いがこみ上げる。
「あはは!」
「何がおかしいのですか」
「楽しくってしょうがないのよ!収穫はなかったけど――」
良い遊び相手が来たからね!と続けて「ラスターカノン」を撃つ。が、ローブシンを出し、守りを固めるサイトウ。ローブシンは手にコンクリートを持っておらず、機動力を重視しているらしい。こちらがトレーナーを狙いうるというのは想定済みで、野外での乱戦にしっかり備えているようだ。ますます気持ちが昂る。
「爆裂パンチ!」
カイリキーがその四腕を存分に活かした連撃を放つ。ドータクンに「リフレクター」を指示して盾にする。ノーガードで戦いたがるカイリキーは双方に回避しない戦いを強制する。あまりのパンチの衝撃にドータクンは混乱してしまったが、防げたなら十分だ。ポリゴンZに反撃の指示を出す。
「サイコキネシス!」
「ガァア!」
頭をおさえふらつくカイリキー。ほぼクリティカルにヒットしたにもかかわらず、ポリゴンZの超火力でも落ちないことにルリミゾは驚きながら。しかし、あと一押しで沈むだろう。追撃の指示を――
「ルチャー!」
「なっ!?」
突然の衝撃に地面を転がる。何者かに抑えつけられて動けない。
「ルチャブル!ナイス!」
ルチャブルだ。ルリミゾの背後から「フライングプレス」で急襲してきたらしい。拘束は固く、自力で抜け出すのは不可能だ。
「クソッ、ドータクン!」
動け、と願いながら呼ぶ。思いは通じて、混乱の中でもちゃんと動いてくれたようだ。こちらに鋼の弾丸が飛来する。
――ボッ、という音の直後。
ルチャブルにヒットした「ラスターカノン」はルリミゾを巻き込み炸裂。一人と一匹が吹き飛ぶ。ルチャブルは動かなくなり、地面をバウンドしたルリミゾはよろよろと立ち上がる。
「拘束が甘いわね」
咳き込みながら強がる。全身がビリビリと痛む。いつもやっていた奇襲をまさか再現されるとは思わなかった。全く気付けなかった自分に勘の鈍りを感じる。長らく身を焦がすような戦闘の中に身を置いていなくて忘れていた。
「まさか自分を巻き込んで技を撃つなんて・・・」
「絶対に捕まれないの。のうのうと故郷で暮らしてるアンタたちと違ってね」
何を、とサイトウが言うよりも早く、クロバットが襲い掛かる。練習通りに反応したローブシンが迎撃態勢に入るが、「れいとうパンチ」はクロバットを捉えられない。予想よりも速い動きに戸惑うローブシンだったが、サイトウは状況を把握してすぐに指示を飛ばす。
「マッハパンチ!」
切り替え、より速度の出る技で撃墜を狙う。その直後にバシィ!と小気味良い音が響き、クロバットが落ちる。これで二対二。
「対策は万全ってわけね」
とはいえまだまだ余裕がある。カイリキーは一撃さえ入れられればすぐ倒せるだろうし、ローブシンは特殊攻撃に対して弱いはずだ。この距離と体力の差をどう縮めるのか。何を仕掛けてくるのかワクワクしながらサイトウと目を合わせた。
「ここまでの実力を持っていながら……」
刑事が語り掛けるように。
「どうして、悪事を働くんですか。」
何か事情が、と続けかけたサイトウが固まった。
「・・・は?」
期待外れの言葉にロベリアは。
――指示はどうした。自分を倒して捕まえるのではなかったのか。シミュレーション通りに一匹落としたことで気が緩んだのか。
「目の前に犯罪者がいるでしょ・・・今にも壁画を壊そうとしていた犯罪者が・・・!」
全身にみなぎっていた熱が冷めていく。
「止めるために全力でかかってきなさいよ・・・!」
まるで冷や水をぶっかけられたような。
「何上から目線で戦いの最中に質問してるのよ・・・!」
この戦いを楽しんでいたのは自分だけだったのか、と裏切られた気分だった。技の応酬、互いの誇りを賭けた戦い、命の奪い合い。それが今ではないのか。呑気に質疑応答する時間などではないはずだ。
血沸き肉躍る戦いができると、そう思っていたルリミゾの心が急速に冷える。
そして、すぐさま怒りに変わり沸騰する。
「黙って戦ってりゃよかったのに!」
ムカつくなああああああ!とロベリアが叫べばドータクンとポリゴンZが光る。
「カイリキー!ローブシン!」
サイトウの下へ戻り守るように立つ二匹。だが関係ない。
「消えろ!!はかいこうせん!!」
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倒れたクロバットを「げんきのかけら」で回復させ、痛む身体に鞭打って「そらをとぶ」でキルクスへと帰る。ガラルの西にあるラテラルタウンからなら、どの方角に飛んでも足がつくことはないだろう。
「ありがとうクロバット。今日は大変だったわね」
「待て!まだ私は、」
振り返ればあまりの圧にサイトウは言葉を失う。傍らにはローブシンとカイリキーが倒れている。
「逆に聞いてあげる。這いつくばって今何をしているの?何が目的?」
「・・・っ!」
クロバットの後ろ足を掴む。強打した胸と腕が痛いむ。ジムトレーナー達に隠すのは骨が折れそうだ、なんて思いながら。もうすでに骨は折れているかもしれないが。
・・・
「もしも他の応援が到着していたら危なかったわ」
空でひとりごちる。「はかいこうせん」はあまりの威力に撃った後しばらく反動で動けなくなる技だ。もし他のトレーナーが隠れていたりすれば今頃ルリミゾは捕まっていただろう。二匹に耐えられていても同じだ。怒りに身を任せた判断だった。
「反省ね」
すべてのトレーナーが狂気に身を委ねて戦ってくれるわけではない。優れた人格者であるジムリーダーがスタジアムの外で、初めて対峙する悪人の相手に集中できるはずがない。特にサイトウはまだ若く、野外戦闘の経験もほとんどないだろう。
「こんなに全身痛めたのに手ぶらかあ・・・」
それにしても、今回は何の収穫もなかった。残っている何かありそうな場所は8番道路と、南のド田舎にあるまどろみの森ぐらいだろう。ジムチャレンジを中止させないためにも、しばらく伝説について裏で動くのはやめよう、と考える。表で「ギンガ団の襲撃場所を調べたいんです!」という言い訳もできた。とんでもないマッチポンプだ。
ガラルの夜はまだ明けない。
vsサイトウです。初めての野外戦闘、少し有利に運べたせいでサイトウの気が緩んでしまい、ルリミゾが勝手にキレます。ルリミゾ視点なのでサイトウが悪いことしたみたいに見えますが、ジムリーダーとしてまっとうな対応です。むしろ野蛮人のルリミゾの頭がおかしいだけです。
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今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
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