ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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19-vsポプラ メジャージムリーグ③

 対峙するイエッサンとギャロップ。三対四と数的有利こそ渡したものの、ポプラの詰めの「つのドリル」をすかしたことで形勢はルリミゾ有利に戻っている。高火力低耐久のイエッサンを無傷で着地させられたことは、ルリミゾに大きなアドバンテージをもたらした。

 

「両者睨み合っています!」

「イエッサンには『シャドーボール』があります。当たり所が悪ければギャロップは一撃で落ちますよ」

「ポプラ選手が不利に変わったと仰っていましたが、ポプラ選手はここからどう動くべきなんでしょうか?」

「ここでギャロップを落とされてしまえば、カビゴンの突破手段がなくなってしまいます。ですから、残る選択肢はひとつ。交代して――」

 

 マホイップを繰り出すことです。

 

 そうカキタが言い終わった瞬間、フィールドが揺れ、巨大な影がふたつ、降り立った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「腹を括ったかい?ちょいと楽しませてもらうよ」

 

 マホイップに交代すると同時、即座にボールに戻しダイマックスバンドから力を注ぐポプラ。両手で持ち、下からひょいと投げる。やはり他のジムリーダーのように全力投球はできないらしい。

 

「あたしは十分に楽しんでます!もっともっと見せてください!!」

 

 ただただ、玩具をねだる子供のように。戦闘への欲求は留まることを知らない。驚異的な冴えでマホイップへの交代を読み切り、イエッサンからカビゴンに交代。ダイマックスバンドから力を注ぐ。

 

「マホイップ!」

「カビゴン!」

 

「「キョダイマックス!!」」

 

 ゴウ!と風が吹き荒れる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「両者ともにダイマックスだぁあ!示し合わせたかのように交代してからのダイマックスです!」

「ポプラ選手がマホイップに交代するであろうことは先ほど示唆しましたが、まさかダイマックスまで読んでダイマックスを切るのは予想外ですよ!」

「ということは、ルリミゾ選手が上回ったのでしょうか?」

「ええ。カビゴンの『ヘビーボンバー』はダイマックスしたポケモン相手に効果がありません。しかし、ダイマックスして『ダイスチル』に変化すればダイマックスしてても大ダメージです」

 

 カキタが話している間に水を飲むミタラシ。二人とも実況席にいながら、立ち上がってキャスティングしている。試合の熱量をそのまま伝えるために辿り着いたスタイルだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「キョダイダンエン!」

「ダイスチル!」

 

 マホイップがクリームをまき散らし、カビゴンも微量ながらダメージを食らう。反撃の「ダイスチル」もマホイップを傷付けるが、揺らぐことなくその大きなケーキの頂上に座している。

 

「回復してる・・・あの技の効果ね」

 

 まき散らしたクリームがマホイップに戻り、マホイップの傷が癒えていく。カビゴンも負けじときのみを食べるが状況は膠着している。どちらも有効打がない。

 

「もう一度、『キョダイダンエン』だよ」

「キョダイサイセイ!」

 

 きのみを再生させるため「キョダイサイセイ」を指示する。そこそこのダメージがマホイップに入るが、変わらず「キョダイダンエン」で回復しつつこちらにダメージを与えてくる。ルリミゾがダイマックスをあまり好きになれない理由の一つだ。ダイマックスしたポケモン同士の殴り合いは、大迫力で死闘になることもあるが、カビゴンの性質上、耐久型のポケモンとダイマックス対決になった時に駆け引きが消滅するのだ。

 

「キョダイダンエン」

「ダイアース!」

 

 マホイップの攻撃に対して強くするため「ダイアース」で特殊防御を高める。また「キョダイダンエン」だ。三連続で同じ技。とはいえこれがポプラにできる最善手だとルリミゾも理解していたので苛立つことなく次の一手を考える。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何も状況は変わらず!双方ダイマックスを使いましたが振り出しに戻りました!」

「お互いに回復と防御力があったのでこうなってしまいましたねー。たいていの場合は巨大化したポケモンが殴り合って大迫力になるんですが、両方耐久型のポケモンの場合は地味なものになってしまいます。」

「お互いダイマックスが解除されましたが、どうなるんでしょうか」

「マホイップもカビゴンも消耗はしていますから、カビゴンより先に動けるマホイップにポプラ選手がどんな指示を出すかですね。隙を見せれば『ヘビーボンバー』が待っています。」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここまで対策したからねえ、サクっと勝たせてもらうつもりだったんだけど。一筋縄じゃあいかないね」

 

 そう言うと、またしてもマホイップをボールに戻しクチートを繰り出した。徹底的にカビゴンに当て続けるつもりだ。既にカビゴンは飛び上がっている。

 

「あたしに同じ手法は通じませんよ」

 

 散々やられたことだ。もう完全にポプラの傾向は把握した。

 

「じしん!」

「なに!?」

 

 驚きで傘を取り落とすポプラ。飛び上がっていたのは「ヘビーボンバー」をするためではなく「じしん」を直接当てるため。

 

 ズン!とフィールド全体を揺らす衝撃でポプラが地面に膝をつく。

 

「クチート戦闘不能!」

 

 見上げた先にはクチートを踏みつぶしたカビゴンがこちらを見て勝ち誇っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「決まったあああああ!カビゴンの『じしん』でクチートが倒れました!これでカウントは三対三!」

「ルリミゾ選手はもうこの試合のポプラ選手の傾向を読み切ったようですね。恐ろしい才能です」

 

 カキタはそう解説しながら、ルリミゾの勝利を予想していた。

 

「おそらくここでギャロップが出てきますから、注目すべきはカビゴンを交代するかどうかですね」

「というのは?」

「カビゴンを残すことを気にするあまり、交代したポケモンが『つのドリル』に被弾して倒されてしまえば、少し雲行きは怪しくなります。『つのドリル』を撃つ回数が増えれば増えるほど、ポプラ選手が有利になりますからね。カビゴンが倒されるのを覚悟したうえで突っ張るのか、それとも外すことを願いながら交代するのかということです」

「それはいわゆる――」

「心の戦いですね。少しでも気持ちのブレた方が負けます」

 

 ふたりのキャスターは両者とも、今までの経験から、この試合が単に1/3の確率で決まるとは思っていなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ギャロップ。やってやろうじゃないか」

 

 傘を支えにして立ち上がったポプラ。投げたボールから現れたのはやはりギャロップ。

 

「つのドリル」

「ヘビーボンバー!」

 

 散々繰り返したヘビーボンバー。カビゴンの気力は衰えることなく、再び高く飛び上がる。ルリミゾは一切カビゴンを交代する気がなかった。ここで退いてしまえば、なにか気持ちで負けてしまうような気がしたし、不思議とポプラが「つのドリル」を当てるような確信があった。

 

ボ、という音とともに巨体がギャロップと衝突した。衝撃で風が起こり、腕で顔を隠す。

 

 煙が晴れ、その姿が明瞭に見えるが、いつまで経ってもカビゴンは起き上がらない。

 

「カビゴン戦闘不能!」

 

 ワァアアアアアアア!という観客の歓声が初めてルリミゾの耳に入った。はぁー、とため息を一つ吐き、興奮しきっていた頭を冷やす。巨体の下からギャロップがボロボロになりながらも這い出てくる。

 

 勝った。

 

 強がりでも妄想でもなんでもなく、ルリミゾはこの瞬間に勝利を確信した。カビゴンの「ヘビーボンバー」がギャロップにダメージを与えたことを確認した瞬間に。空を飛ぶ厄介なトゲキッスが倒れ、「いかく」でこちらの攻撃力を下げてくるクチートも倒れた。物理攻撃に対してかなり硬いギャロップもカビゴンを倒すためにかなりの痛手を負った。ポプラのエースのマホイップは体力を半分近く削られ、ダイマックスも使い切った。

 

「ぐふー!」

 

 チラチーノを止められるポケモンはもう誰もいない。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何が・・・起こったのでしょうか。カキタさん、解説を、お願いします」

 

 絞り出すように発された声は、それなりにポケモンバトルを観戦してきたミタラシの理解が追い付いていないことを示していた。

 

「チラチーノが、ポプラ選手の残っていた三匹を連続で倒しました。しかも無傷で。・・・ありえないことです。ジムリーダー同士のバトルで、しかもメジャージムリーグですよ?」

 

 カキタの声も震えていた。当然ルリミゾの勝利は予想していた。ただそれはカビゴンが生き残った場合の話。カビゴンを守るために他のポケモンに「つのドリル」を受けさせ、チラチーノかイエッサンが倒されたとしてもギャロップを突破し、カビゴンと残った一匹でポプラの手持ちを倒し切ると予測していた。

 

「確かに残りの三匹は全て体力を削られていました。彼女のチラチーノは別格に強いです。が、技すら出させることなく全て一撃で葬り、一気に試合を終わらせるほどとは思いませんでした・・・」

「どうしてここまで綺麗にチラチーノにポプラ選手はやられてしまったのでしょうか?」

「ダイマックスを使わされたのが大きいです。ギャロップの『つのドリル』をすかしてイエッサンを繰り出し、マホイップとの交代を余儀なくされたシーン。あそこでルリミゾ選手がダイマックスを切ったのは読みではなく誘いだったんですね」

「誘い、ですか」

 

 視聴者のための質問ではなく、ただ目の前で起きた出来事を知ろうとする者の相槌だった。

 

「はい。ポプラ選手がダイマックスを切ろうが、切るまいが、カビゴンのダイマックスに対抗するためにはポプラ選手もダイマックスを切るしかありませんから」

「なるほど、だから示し合わせたようにお互い同時にダイマックスしていたんですね」

「ダイマックスしたポケモンを相手取るにはチラチーノは少し火力不足なところがあります。ダイマックスしてもチラチーノは打たれ弱いままですしね。だからチラチーノが止められないよう、状況をコントロールしていたんです。」

 

 ギャロップが『つのドリル』を撃ってくることを推理した瞬間から。そうカキタが締めくくったのを確認してから、ミタラシは気を取り直し試合の結果を繰り返し伝える。

 

「ノーマルジム、ルリミゾ選手 対 フェアリージム、ポプラ選手は2-0でルリミゾ選手の勝利です!」

 

 ガラル地方恒例の、最後の一匹で観客が歌う応援歌が流れる隙もなく、ただ一瞬で三匹が倒されて試合は終結した。これがルリミゾの快進撃の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




vsポプラ これにて決着です。
トゲキッスがバイウールーにやられるという想定外の事故のせいで、カビゴンがギャロップ以外に突破不可能になりました。もしトゲキッスが生きていればエアスラや波動弾でかなり楽に突破できていました。クチートを狙った地震もすかせましたしね。
カビゴンを突破するためにリソースを割きすぎて、チラチーノを止められなくなってしまいました。ギャロップが万全なら。クチートの威嚇があれば。また結果は変わっていたのかもしれません。

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