ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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2-vsマクワ 入れ替え戦①

「ありがとう、ユクシー」

 

 名を呼び、感謝を伝える。抱いた手元で撫でれば嬉しそうにしている。ジムリーダーに相応しい素晴らしい人間だったと思う。バトルはルリミゾが実力を隠していたため拮抗していたものの、人格面では非の打ちどころがない恩人だった。

 

 カシワについて、ルリミゾはそう評価を下していた。シンオウからきた自分に住居を、そしてジムトレーナーの地位を与え、後任として指名していた。だからこそ、()()()()()()()()()()()。自分がこの地方でジムリーダーを務められないことなどわかりきっている。

 

「必ずうまくやるわ。今は眠っていて」

 

 この地方のジムリーダーは教育者であり、選手であり、模範だった。ジムの運営者であり、チャンピオンカップの挑戦者であり、大勢の観客の前で名に恥じない試合をしなければならない。社会と対立するような組織に属していた(今も属しているつもりではあるが)自分がそんな人間のフリをしていても、いずれボロがでる。名声を持ちながら裏で悪事に手を染められるような人間はごくひと握りだ。

 

 だから、短期のジムリーダーの代理である必要があった。ジムリーダーはカシワであるべきなのだ。立場を利用するために引きずり降ろすことはしたくない。そして自分の実力ならば、このジムをメジャーリーグに昇格させられるとも確信していた。目的を達成するまで、彼女の代理としての立場を利用させてもらうつもりでいた。また、恩人に自分のなす悪事を見られたくないという気持ちの表れでもあった。

 

「テレポート」

 

 万が一を警戒して、証拠を残さず即座にテレポートで家に戻った。先に帰ると伝えて、わざわざ家まで歩いて帰ったのもアリバイ作りのためだ。

 

 翌日、世間には練習中の事故や、過労によるものという噂が伝わっているようだ。

 

「明日は入れ替え戦ね」

 

 ひとりごちる。試合に使う手持ちは当然ジムトレーナーとしてのものだ。まだ完全な信頼関係は成り立っていない。とはいえ負けることはできない。メジャー昇格が果たされれば、専用のスタジアムと地位が手に入る。委員会のもつガラルのエネルギー源に近付けるはずだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 入れ替え戦当日、スタジアムは熱狂に包まれていた。マイナーリーグ2位、『悲劇の代理』ルリミゾとメジャーリーグ7位、『ハードロック クラッシャー』マクワの試合だ。

 

 マクワは就任からだんだんと順位を落とし遂に今年は降格圏内だ。一説には就任からずっと続いている、母親であるメロンとの対立が原因と囁かれているが真相は定かではない。

 

 そんな調子でも勝敗予想は当然、メジャーリーグのマクワ勝利が観客の8割だった。残りはバトルに興味のない人間や、カシワの熱狂的なファンである。「まあ、自分が観ていてもマクワ勝利を予想するだろうな」と他人事のようにルリミゾは考えていた。

 

「あたしは代理だしね」

 

 とはいえ同情の視線が多い。自分が引き起こした事態ゆえにムズ痒い思いをしながら入口からスタジアムの中心へ歩いていく。歓声が近づいてくる。ジムリーダーとしての振る舞いを意識して、心に仮面をつける。

 

「悲しい事件でしたね」

「同情は結構です。自分の心配をしたらどうですか?」

 

 優しい人間だ。しかし、丁寧な口調で挑発する。サングラス越しの目が見開かれ、すぐにキリっとしたものに切り替わる。

 

 これから生活を、名誉をかけて戦うのに同情はいらない。自分が犯人なのだから。何よりも気を遣われてゼンリョクで戦えないことが嫌だった。

 

「なるほど」

 

マクワが続ける

 

「では、さっさと終わらせましょう!」

 

ジムリーダーの マクワが 

勝負を しかけてきた! ▼

 

 ロトムカメラに向かってポーズを決め、体形とは裏腹にスタイリッシュにハイパーボールが投げられる。

 

 十中八九、バンギラスかツボツボだ。確信しながらルリミゾはモンスターボールを投げる。バンギラスが出て「すなあらし」がフィールドに吹き荒れれば、慣れないノーマルタイプのポケモンは不利な状況を強いられるし、ツボツボならば「ステルスロック」「ねばねばネット」によりこちらの後続のポケモンに圧力をかけられるからだ。

 

「ツボォオ!」

 

 出てきたのはやはりツボツボ。ほとんどの攻撃に対して強く、苦手な水や岩の攻撃もノーマルタイプのポケモン中心で固めたルリミゾには用意できない、()()()()()()()()()()()

 

「ツボツボ、ステルスロック!」

 

「チラチーノ、ロックブラスト!」

 

 チラチーノが先手で「ロックブラスト」を散弾銃のように放つ。()()()()()()()()()()。ツボツボは想定外のダメージに苦しそうに呻く。想定外なのはマクワも同じようだった。

 

「スキルリンクか」

 

「当然。今日は負けられませんから」

 

 「ステルスロック」を展開することは許したものの、ツボツボはこれ以上動こうとすれば先にチラチーノが次の攻撃で仕留めるだろう。仕事としては半分程度か。「ねばねばネット」を展開し素早さの遅い岩ポケモンのカバーまで見据えるはずだが、裏にいるノーマル/飛行ポケモンのウォーグルを警戒したのだろう。

 

「ぐふぐふ」

 

 鳴く姿が愛らしい。チラチーノはこの日の為に用意した手札だったが、ウォーグルはジム交流戦でも何度も「ばかぢから」で岩タイプのポケモンを葬ってきた。「ねばねばネット」は飛んでいるポケモンには効果がないのだ。そのためステルスロックを優先して撒いたマクワの判断は正解だったといえる。

 

「ロックブラスト!」

 

 非常に鈍足なツボツボは飛来する岩の弾丸に為す術なく倒れ伏す。対策が完全に嵌っていた。

ジャッジが旗を上げるまでもなく戦闘不能と判断したマクワは即座にツボツボをボールに戻し、労りながら次のポケモンが繰り出される。

 

「ォォオオオオオオオ!!」

 

 着地と同時、耳を劈く咆哮、砂嵐が吹き荒れる。バンギラスだ。残りのマクワの手札は、研究通りならイシヘンジン、ガメノデス、セキタンザンのはずだ。ルリミゾの残りの手持ちはウォーグル、イエッサン、バイウールー、カビゴン。チラチーノはバンギラスより身軽だから、あと1、2回はバンギラスに攻撃できると踏んでいた。

 

「ストーンエッジ!」

「タネマシンガン!」

 

 ルリミゾのチラチーノは射撃の精度がとても優れている。ロックブラストやタネマシンガンはほぼすべて命中させることができるという珍しい特性だ。砂が吹き荒れる中でもしっかりと全弾をバンギラスに命中させる。しかしバンギラスは後から動いても勝てるだけの種族の強さがある。足は遅いもののそれを補って余りある筋力、そして体の頑丈さがウリだ。草タイプの技の集中砲火を食らうも、自慢の硬さで耐え抜き岩の山をぶつける。

 

「耐えて!」

 

 砂嵐でほとんど状況が見えない中、祈るように叫ぶ。チラチーノは。

 

「チラチーノ戦闘不能!」

 

 チラチーノは「きゅう」と目を回してしまっていた。観客が明らかに悲しそうな声を上げる。見た目こそ可愛いチラチーノだが、ツボツボを無傷で葬り、バンギラスにかなりのダメージを負わせている。いい仕事っぷりだ。今の手持ちで最も親しくなれたポケモンだった。

 

「これはカレーを奮発しないとね」

 

 心なしか嬉しそうな表情でボールに収まっていくチラチーノ。これで残りは四対四。戦闘可能な状態で行うポケモンの交換と違い、戦闘不能になったポケモンの交換は少しの猶予がある。

腰に括りつけたボールを二回、トントンと叩き出番を伝える。

 

「バイウールー、よろしく!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 メエェ、と鳴きながら登場したのはやや場違いにも思える羊。しかしその角は勇猛にも天に向かって大きく伸びている。マクワは判断を迫られていた。

 

 このひつじポケモンは際立つ特性がある。それはその毛量だ。あまりに多いもふもふした毛は、バイウールーに対する直接攻撃の衝撃をほとんど和らげてしまう。マクワの選択肢は「ばかぢから」と「ストーンエッジ」だ。最初に撒いたステルスロックが多少刺さっているとはいえ、バイウールーはおそらく二度攻撃しなければ沈まないだろう。「ばかぢから」はとんでもない力を引き出して相手を殴りつけるが、その反動でとても疲労してしまう。これはバイウールーの毛のクッションを突破できないうえに、「コットンガード」を積まれてジリ貧になってしまうだろう。

 

 その一方で、「ストーンエッジ」は大きな岩を投げつけるため命中率に不安がある。外せば「ばかぢから」と違って少しのダメージも与えられない。だが、バンギラスの親しんだ岩を使った攻撃であり、しかも急所に当たりやすい。しばしの逡巡のあと、マクワは指示を出した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ストーンエッジ!」

 

 今まで使ってきた信頼、そして必ず当てる、という目でこちらを振り向いたバンギラスとの絆に応えたのだ。

 

「そう来ると信用していましたよ、マクワさん」

 

 バイウールーは動かない。ただただ毛量に埋もれ、攻撃を待つ。「コットンガード」だ。一度コットンガードを積むことができれば、物理攻撃ばかりの岩タイプに突破する手段はない。完璧な対策だった。

 

 岩の山が放たれ、次々とバイウールーを叩き潰そうと飛来する。砂嵐でただでさえ悪い視界が、衝撃で巻き上げられて更に悪くなる。

 

 

 お互い張りつめて見る視線の先、バイウールーは少しも動かずにそこにいる。

 

 ルリミゾは勝利を確信した。もはやマクワにバイウールーの突破手段はない。

 

 

 

「バイウールー戦闘不能!」

 

 

 

「……え?」

 

 場違いな静寂の中にルリミゾの間抜けな声が響く。バイウールーは毛に埋もれたまま戦闘不能になっていた。

 

急所に 当たった! ▼

 

 ふらり、と血の気が抜ける中、次のポケモンを出さなければとトレーナーとしての本能が告げる。三対四、描いていたプランが崩れる音がした。

 

 砂嵐が吹き荒れている。

 

 

 




そこそこ頑張ったつもりで書いていたんですが1100文字しか前回かけていなくて愕然としました。

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読んでくださりありがとうございました。

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