ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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20-バウタウンでお食事

 

『バウタウン 市場やレストランに多くの人が集まる港町』

 

「潮風の匂いね!海鮮料理食べるわよ~!」

 

 明後日のルリナとのリーグ戦にそなえて、ルリミゾはバウタウンに来ていた。町の雰囲気、気温にポケモンたちを慣れさせるという目的もあったが、何より観光目当てである。ルリナの試合はジムチャレンジ序盤であることも合わさって、今月はほとんど組まれていない。組まれた試合はルリミゾやサイトウなど若手の下位組だ。

 

「わかっていてもムカつくわね」

 

 多くのジムチャレンジャーを捌くのはとても大変なので、リーグ委員会のこの試合組みには何一つ異論のないルリミゾだが、形式上でも下位相当と判断されて試合を組まれているのが何より気に食わない。リーグ委員会に一泡吹かせてやる、と意気込んでいた。

 

「ノマに聞いた話じゃ『防波堤』ってレストランが美味しいらしいけど・・・」

 

 時間はもう夕飯時。朝からジムトレーナーたちと手合わせしたルリミゾは、終わった後そのままアーマーガアタクシーでバウタウンを訪れていた。疲れている時に揺られるのは好かないが、美味しい料理が待っているのなら話は別だ。

 

 バウタウンは港町で、駅もあるため、市場やレストランも多くなかなかに発展している。明日は市場を見に行こうと決めているので、目当てのレストラン「防波堤」を探して歩くルリミゾ。ポケモンセンターの近くらしいのでそう遠くはないはずだが・・・

 

「委員長~!」

「どいてくれ!よく見えねえ!」

「一緒にいるのはジムチャレンジャーか!?」

 

 ・・・なんだか人だかりができている。看板には「シーフードレストラン 防波堤」という文字とともにシェフの顔が描かれているので間違いないだろう。有名人の貸し切りだろうと、絶対にここで食べると決めていたルリミゾはチラチーノを出し武力行使の準備をする。

 

「あたしは誰にも邪魔できない。誰がいようとここで食べるわよ」

「ぐふぐふ!」

 

・・・

 

 中に入れば一組の客以外は誰もおらず、やはり貸し切りらしい。あたしは負けない、と強気で店員に案内させようと話しかけたが、

 

「お客様!現在ローズ委員長がお忍びで来られていまして・・・!」

 

 他のお客様の入店はお断りしております、と言い切られる前に声が掛かった。

 

「おや?君はキルクスのジムリーダー、ルリミゾ君じゃないか?」

「ルリミゾさん!?」

 

 ローズがこちらに気付いたらしい。同席していたのはまさかのユウリだ。隣にはマグノリア博士の孫もいる。名前は確か・・・ソニアだっただろう。

 

「丁度いい!君もこちらへ座るといい!」

「しかし委員長、」

「いいんだよ。折角の機会じゃないか」

 

 秘書が軽く制すが、構わずローズは席に着くように言う。この瞬間にルリミゾは、リーグ委員会の試合組みも悪いもんじゃないな、と思った。

 

 ありがとうございます、とローズにお礼を言いながら席に着く。

 

「初めまして、キルクスタウンでジムリーダーを務めているルリミゾと申します」

「ジ、ジムチャレンジャーのユウリです!」

「ソニアです。歴史の研究をしています」

 

 ソニア君はマグノリア博士の孫なんだよ、とローズが補足すると嬉し恥ずかしそうにしている。ユウリはどうやら緊張しているようだ。もしかしてロベリアだとバレたか?と疑うがそういった敵意ある緊張ではなさそうだ。

 

「ユウリ君は今日ジムバッジを獲得してね。そのお祝いに(わたくし)が招待したんだ。ええと、何の話をしていたかな」

「私のおばあちゃんの話ですね」

「ああ、そうだったね!マグノリア博士がダイマックスバンドを開発してくれたおかげで、ジムでダイマックスを使った戦いができていますからね!」

「でも、まだわからないことが多くて、不安だと言っていました・・・」

「不安。それはよくないね・・・私にできることが何か――そうだ!ナックルシティの宝物庫に足を運ぶといい!私が許可を出しておきます」

 

 宝物庫、という言葉にドキっとするルリミゾ。宝物庫についてニュースで聞いたことのあるユウリが会話に参加する。

 

「あのギンガ団に襲撃された宝物庫ですか?今はキバナさんが警備を厳重にしたって聞きました」

「ええ。彼はナックルシティを守ることに使命を感じていましたから。襲撃されたときはとても自分を責めていましたよ」

「自撮りばかり上げている印象がありますが、しっかりした人ですよね」

 

 ノマから聞いていたキバナの話でなんとか会話についていく。料理に夢中で話に参加するのを忘れかけていた。

 

「歴史にダイマックスの秘密を紐解く鍵があると私はにらんでいてね。宝物庫の資料が研究の手掛かりになることを願うよ」

「わかりました。ローズ委員長。見学の手配しておきます」

「ありがとう、オリーヴくん」

「・・・ですがそろそろお時間です」

「えー、本当かい?」

 

 まだユウリくんもルリミゾくんも話を聞けていないのに、と惜しがりながらも立ち上がるローズ。

 

「それではみなさん、御機嫌よう!」

 

 席を立ち、オリーヴに急かされながら去っていく。ユウリとソニア、そしてルリミゾ。初対面ながら残されてとても気まずい。

 

「・・・嵐のような人だったね」

「彼はワンマンで成功しているらしいですね。エネルギー事業にも手を出していますし、リーグ運営も彼が基礎を作ったとか」

 

 ルリミゾは必死にかき集めて頭に詰め込んだ知識を並べる。毎晩火事になりそうなほど頭から熱を出して覚えた成果を見せるときだ。

 

「それにしても、マグノリア博士のお孫さんとは・・・歴史について研究をされているんですね」

「うん、英雄やブラックナイトについて調べてるんだ」

「ブラックナイト・・・ですか?」

 

 知らないふりをして答える。偶然接触できたチャンス、何か引き出せないかと奮闘する。

 

「大昔、黒い渦がガラル地方を覆い、巨大なポケモンが暴れ回ったらしいの。それがブラックナイトって呼ばれているの。まだまだわからないことだらけだけどね」

「そうなんですか!なんだかカッコイイですね」

 

 ターフタウンでユウリから聞き出した以上のことはあまり得られなかった。ジムリーダーという立場を利用して連絡先を入手しようと、会話を続ける。

 

「あたしも歴史について知っておきたいので、スマホロトムの連絡先を教えてもらってもいいですか?ギンガ団から町を守るためにも、やつらの襲撃先を予測したいんです」

「あいつら、宝物庫やターフタウンの石碑を狙ってたもんね。なにか分かったことがあれば連絡するね」

「ありがとうございます!」

「お互い研究とジムリーダー、頑張ろうね!」

 

 はい!と笑顔で会話を終える。ずいぶんソニアとだけ話しこんでしまったが、ユウリはどうしているだろう、と顔を見ればこちらのスマホロトムをじっと見つめていた。

 

「ユウリさんも、連絡先交換しますか?」

「えっ!?いいんですか?」

「ええ。以前襲われたこともありますし、緊急時に掛けてくれれば助けに行きます」

 

 ジムミッションのヒントはあげませんよ、と冗談めかして言えば嬉しそうにしていた。

 

「ふつう、ジムチャレンジャーとジムリーダーが過度に関わるのはよくないですから、内緒ですよ」

「・・・!」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向いてしまった。まじめな子なのだろうか。だとすれば申し訳ないことをしたな、と思いながらも演技を続ける。

 

「キルクススタジアムで待ってますよ、絶対に来てくださいね」

 

 これでもう素晴らしいジムリーダーを演じることができただろう。ユウリはブンブンと首を縦に振りますますガチガチになっている。やはりあまりジムリーダーとの会話になれていないのだろう。そう理解して席を立つ。

 

「では、あたしはそろそろ宿に戻ります。また機会があればお話ししましょう」

「またね~!」

「ぜっ、絶対に会いに行きます!」

 

 やや大きめの声で宣言される。もう歩き始めていたとはいえ十分に聞こえる声量だ。店中に響いていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ファンだったんでしょ?話せてよかったね」

「緊張して全然喋れなかった・・・」

「またジムで会えるよ!このあとルリナと会う約束があるから、ちょっと会って来るね」

 

 ルリミゾが去ったあと、レストラン「防波堤」に残された二人も立ち上がり店を後にする。

 

「わかった!またね!」

「またね!」

 

 ユウリは三つ目のジムバッジを取るためにガラル第二鉱山を抜けてエンジンシティへと向かう予定だったのだが、()()()()()()()もう少しだけこの町に留まることにしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「人脈は広がったけど、あんまり味わえなかったわね・・・」

「ぐふー」

 

 ローズが退席してから、会話するのにゼンリョクだったため、どんな味だったのか覚えていない。

 

「明後日、帰る前にもう一度食べてから帰るしかないわね」

「ぐふぐふ!」

 

 肩のチラチーノと話しながら夜道を歩く。明日は市場の観光と試合に向けた調整だ。

 

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