「ルリミゾさん、お時間です!」
「はい」
ドアがノックされる。短く答えてから、ポケモンたちをボールに戻してフィールドへ向かう。いよいよルリナとの対決だ。存分にバウタウンを観光できたから、今日は快勝してレストラン「防波堤」で気持ち良く食事がしたい。
「毎度アウェイは気にならないけど少し気まずいわね」
勝ってしまうから。そう自信満々にボールに語り掛ければ、カタカタと揺れて同意している。と、思う。たぶん。ソニアとルリナは親友だとスマホロトムのチャットで聞いていた。この試合に勝ったからといってソニアとの関係が悪化することはないはずだが、少しだけ気にかかる。
「ピンクババアのお陰で珍しい特性まで予習済みよ」
相手の手持ちは把握した。エースのカジリガメを温存しながら戦うスタイルだろう。
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スタジアムの中心に立てば、気持ちがただ戦うことだけに集中される。ルリミゾとルリナの試合は、「ルリルリ対決」とくだらない見出しで報道されていた。モデルとしても活動するルリナと、じわじわと人気を上げつつあるルリミゾ。観戦のチケットは即座に売り切れたという。
(ババアの時より熱気が凄いわね・・・)
観客席を見渡せば、様々な顔が――
「ユウリ!?」
目が合って思わず声に出してしまった。向こうもこちらを見たまま固まっている。すぐに気を取り直してスタジアムの中心へと歩く。エンジンシティへ向かったと思っていたが、どうやら観戦のために残っていたらしい。
「先週の試合、ビデオで見たわ。ポプラさんも、あなたも凄かった」
「ありがとうございます」
「でも、負けるつもりはないわ。私と自慢のパートナーが全て流しきってあげる!」
「うちのポケモンたちはなかなかしぶといですよ」
お互い意気込んでから、所定の位置につく。モデル歩きのルリナを見て真似しようかと思ったが、クネクネした変な動きになりそうだったので普通に歩く。
ボールを握った拳を前に突き出し、その柔軟な身体を活かして右脚を天高く振り上げてからボールを投げるルリナ。
ジムリーダーの ルリナが
勝負を しかけてきた! ▼
ルリミゾも負けじと脚を振り上げる・・・ことはせずいつも通り投げる。もしかしたら独特の投げ方を考案しなければならないかもしれない。
「チラチーノ!」
最初を任せるのはルリミゾのエース、チラチーノ。ルリナの手持ちのドヒドイデ以外のポケモンに対して「タネマシンガン」と「ロックブラスト」で弱点を突くことができる。
「タネマシンガン!」
やるべきことはタネマシンガン一択だ。
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「ルリミゾ選手、やはりチラチーノから出してきましたね」
「カキタさんが先ほど解説した通りですね。ルリナ選手が出したのは・・・おおっ!?」
ミタラシが驚いて実況が中断された一瞬。ルリナはポケモンをボールに戻し、ダイマックスバンドから力を注いだ。
「カジリガメ!」
「スタジアムを海に変えましょう!キョダイマックスなさい!」
大きくなったボールを抱え、一瞬祈るように目を閉じた後、振り回して投げる。
「いきなりダイマックスだあああああ!まさかの展開です!」
「チラチーノがダイマックスしても柔らかいことを理解して取った策ですね。これは素晴らしい・・・!」
解説が話している最中にも巨大化するカジリガメ。開幕からとんでもない試合展開に観客のボルテージは絶頂だ。
ワァァアアアア!!
実況解説のマイクに音が入り込むほどの声援。
「ここまで聞こえてくるほどの声量ですよカキタさん!これはどういう選択なのでしょうか?」
「カジリガメは草タイプの技に非ッ常に弱いですから、普通は動く間もなく『タネマシンガン』でやられてしまいます。しかしダイマックスすればなんとか一発は耐えることができます。そうすればルリミゾ選手のチラチーノを一発で落とすことができますし、
「あの技、ですか」
ええ、あの技です。とカキタが返事すると同時、マイクがルリナの指示を拾う。
「キョダイガンジン!」
巨大な岩がフィールドに向かって倒れこむ。あまりの攻撃範囲にチラチーノの逃げ場はない。それと同時、「タネマシンガン」が着弾し体のあちこちに傷を負うカジリガメ。
ズゥウウウン
倒れた岩が辺りに砕けて飛び散り、「ステルスロック」のようにルリミゾの近くを侵す。
「チラチーノ戦闘不能!」
「ダイマックスしていなければ倒されてた・・・よく耐えたわカジリガメ!」
もうほとんど瀕死のカジリガメだが、まだ戦闘不能にはなっていない。満身創痍ながらもまだ立っている。
「一撃でチラチーノ戦闘不能!初手ダイマックスという戦法が完全に突き刺さっています!」
「これです。『キョダイガンジン』は相手の場に『ステルスロック』と同じように岩を残すんです。交代をすればするほど、ルリミゾ選手のポケモンは傷ついていきますよ」
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ルリミゾの予想を上回る一手。これだからポケモンバトルはやめられない。次のポケモンを出すまでに与えられた30秒を使ってフルに思考する。
(初手ダイマックスでチラチーノを落とされたものの、こっちにはダイマックス権が残ってる。カジリガメはもう瀕死だし、おそらくドヒドイデ辺りでこっちのダイマックスを耐え抜く算段ね。その後は毒とステルスロックでじわじわと削る。なるほど、モデルのくせにやらしいスタイルに切り替えてくるじゃない)
今までのシーズンでは、雨を降らせるペリッパーなどで場を整えたあと、どっしりとキョダイマックスしたカジリガメが一掃するという戦い方だったが、どうやら新しい戦術に手を出したようだ。交代戦を挑んできたルリナだが、ルリミゾはポプラという交代戦の鬼と戦った。どう対応すればいいのか把握している。
「イエッサン!」
尖った岩が食い込む。が、カジリガメの動き出しよりも先にイエッサンが技を出して倒せるだろう。
「サイコキネシス!」
念力の波動がカジリガメを内側から揺さぶり、巨体が爆発し倒れる。おそらく相手のカジリガメが使おうとした技は「ダイストリーム」だろう。雨を降らせるほどの水量で攻撃する技だが、イエッサンのスピードで遠距離から先に倒すことができた。
「カジリガメ戦闘不能!」
ひと安心だが、相手のプランはここからのはず。恐らく出てくるのは――
「オニシズクモ!お願い!」
やはりオニシズクモ。特殊に対して耐性のあるオニシズクモは、水/虫タイプだからイエッサンに対して強い。物理で攻撃できて飛行タイプのウォーグルならば有利だ。イエッサンをボールに戻し――
「今日はアンタが活躍する日よ!ダイマックス!」
ダイマックスした。
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「こちらも二匹目でダイマックスだぁ!試合展開がとんでもなく速い!」
「ルリナ選手が指示したのは『ねばねばネット』でしょう。ウォーグルへの交代を読んでの指示でしたが、それをさらに読んでいたルリミゾ選手がダイマックスを切りました」
「オニシズクモは特殊に対して強いんでしたよね?そのままイエッサンで戦って大丈夫なんですか?」
視聴者に代わって疑問を提供するミタラシ。ポケモンバトルに深く関わる人間でありながら、バトルをしない一般人の目線に立てることが人気の秘訣だ。
「ここで重要なのは、イエッサンを止められるポケモンがオニシズクモ以外にいるかどうか、ということです」
「カジリガメは倒されましたから、残りはドヒドイデ、グソクムシャ、ペリッパー・・・」
ミタラシは提出されていたルリナのポケモンリストを読み上げる。なるほど、グソクムシャ以外誰もイエッサンを止められない。
「グソクムシャ以外止められませんね!?」
「そうなんです。手持ちの四体で交代しながら戦うのではなく、イエッサン一匹で全員ぶち抜いてやろうということだと思います」
「交代しながらの戦いを想定していたルリナ選手からすれば、これは意表を突かれた形になったと」
「ええ。場には『ステルスロック』が撒かれています。わざわざルリナ選手が作り上げた土俵に乗ってやるものか、という意志を感じますね」
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周囲に「ねばねばネット」が撒かれるが、ダメージはなく、交代しない限りポケモンに絡まることはない。交代したポケモンに絡みつき、動きを阻害してくる技だ。予想通りね、とルリミゾは笑う。ウォーグルに「かみなり」を命中させたポプラもこんな気持ちだったのだろうと思いながら。
「ダイサイコ!」
イエッサンの得意技「サイコキネシス」が変化した「ダイサイコ」でオニシズクモを攻撃する。辺りに不思議な感じが広がる。サイコフィールドという状態だ。オニシズクモを沈めるのには至らなかったものの、これで裏にいるグソクムシャが動けなくなった。サイコフィールド下では、相手の不意を突くような技が察知されてしまう。不意を突こうとする思念が何故か相手にも伝わるフィールドなのだ。「アクアジェット」「ふいうち」「であいがしら」という強力な先制技をもつグソクムシャも、このフィールドでは無力だ。
「もう一度、『ダイサイコ』!」
しかもサイコフィールドでは、エスパータイプの技の威力がかなり上がる。オニシズクモは耐えられず倒れた。
「オニシズクモ戦闘不能!」
ワァァアアアア!!
観客たちの声援が聞こえる。
キルクスで待つと言った以上、ユウリに恥ずかしい姿は見せられない。
vsルリナ。ルリルリ対決ですね。
主人公の名前で後悔したのは今日が初めてです。似たような名前で読みにくいかもしれませんが許してください。
評価・感想いつもありがとうございます。
誤字報告助かります。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
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