オニシズクモが倒されたが、グソクムシャで「であいがしら」を撃てばカバーできる。そう考えたところで、ルリナは自分の致命的な見逃しに気が付いた。
「サイコフィールド・・・!」
先制技が、撃てない。
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「おぉっと?ルリナ選手次のポケモンをなかなか出しません!迷っているのでしょうか!?」
「いや、ここはグソクムシャを出せばイエッサンに有利を取れるはずですよ・・・いや、待ってください――そうか!サイコフィールドか!」
一人で納得しているカキタに解説を促すミタラシ。
「先ほどイエッサンが撃った『ダイサイコ』でサイコフィールドと呼ばれる状態になりましたね、それがどうしたんですか?」
「サイコフィールド下では、相手の不意を突いて攻撃することができないんです。ボールから飛び出てそのまま奇襲するグソクムシャの得意技『であいがしら』や『ふいうち』『アクアジェット』といったすべての技が相手に気付かれてしまうフィールドなんです。グソクムシャは本来非常に足の遅いポケモンです。相手の不意を突くことで相手より速く行動しているように見えているだけなんです」
「と、いうことはグソクムシャでは今のイエッサンを止められないと・・・?」
「そうなります。これは非常にまずいですよ。サイコフィールドの下ではエスパー技の威力が上がります。あと一回はダイマックスした状態でイエッサンは技を撃てるでしょうから、誰で受けるかですね。おそらくは――」
ドヒドイデ。そう言うと同時に30秒ギリギリ、ルリナはドヒドイデを繰り出した。
「ドヒドイデを繰り出したあ!これはどういう選択になるんでしょうか?」
「ドヒドイデには『トーチカ』という『まもる』と同じ効果を持つ技があります。他の追加効果は今は置いておいて、ダメージを低減して時間を稼ぐことができます」
「そうすればダイマックスが解けますねぇ!」
ドヒドイデが足を下ろし、本体を守る。イエッサンが念力で揺さぶり、ドヒドイデが吹き飛ばされるがまだ耐えている。
「やはり『トーチカ』ですね」
「スタジアムを揺るがす『ダイサイコ』のとんでもない衝撃!しかしドヒドイデ耐えています!」
即座にドヒドイデをボールに戻し、交代先のポケモンを繰り出すルリナ。イエッサンのダイマックスは解け、ルリミゾの横で目を閉じている。
「そしてルリナ選手・・・交代です!交代しました!繰り出されたのはペリッパー!」
「あのドヒドイデ、『さいせいりょく』を持っていますね。またしても珍しい特性です。どうやら今シーズンはどのジムリーダーも変化が見られそうですよ」
「『さいせいりょく』というのは?」
「一度ボールに戻って裏に引いた時、傷が癒えやすい個体のことを指します。おそらく『ダイサイコ』で負った傷は今頃ほとんど回復しているでしょう」
徹底した時間稼ぎ。今までの優雅なイメージ、モデルとしてのイメージからはかけ離れた泥臭い戦い方にカキタは驚いていた。
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ペリッパーが雨を呼び、ルリナの気持ちを語るかのように雨が降る。
「ハイドロポンプ!」
今シーズンこそは上位に。モデル業を兼ねながらのジムリーダーだからといって下位で甘んじていいハズがない。相手を交代戦に誘い込み、自分の有利な土俵で戦う新戦術。上手くチラチーノを倒すことができたために浮かれていた。暗い気持ちを切り払うように、雨天下で威力を増したハイドロポンプが放たれる。
ドパァン!
当たった衝撃で水が舞う。
しかし、フィールドで倒れているのはバイウールー。
「バイウールー戦闘不能!」
「な!?交代をしていたの・・・!」
足元の 不思議感が 消え去った! ▼
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「バイウールーで受けました!戦闘不能です!」
「次にはふつうカビゴンを出すでしょうが、交代戦になるとルリナ選手の作った土俵ですよ。ここで交代して出てくるであろうドヒドイデにもう一度イエッサンを当てるのが狙いでしょうか」
そう解説したところで繰り出されるカビゴン。しかし即座に戻し、イエッサンを繰り出すルリミゾ。ドヒドイデに交代されることを読んでの交代だ。
が、ルリナが繰り出したのはグソクムシャ。
「グソクムシャをイエッサンに当てたぞルリナ選手!これは読み勝ったといえるのではないでしょうか!?」
「ええ。足元のサイコフィールドも先ほど消えました。『であいがしら』が突き刺さりますよ。とんでもない威力ですから、この状況、まず間違いなく一匹は持っていかれますよ」
イエッサンか、カビゴンか、ウォーグル。大きく試合が動こうとしていた。
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「・・・よし!」
試合のペースを再び取り戻し、サイコフィールドの切れ目にちょうどグソクムシャを当てることができた。既にボールから飛び出したグソクムシャは凄まじい勢いで突撃している。「であいがしら」だ。カビゴンはグソクムシャに対して一切有効打がない。ウォーグルは「ステルスロック」が突き刺さり、「であいがしら」を耐えられないだろう。
「ウォーグル!ごめんね」
クッションとしてルリミゾが出したのはウォーグル。「ステルスロック」によりダメージを受け、「であいがしら」でフィールドの端まで吹き飛ばされる。
「ウォーグル戦闘不能!」
勝った。
ルリナがそう思った瞬間、ドサ、という音が聞こえ、そのあとすぐに耳を疑う審判の声が聞こえた。
「グソクムシャ戦闘不能!」
フィールドの向こうで、ルリミゾが笑っていた。
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「何が起きたんだ!?グソクムシャ戦闘不能だああああ!」
何が起きたんですか、カキタさん、と聞こうとするミタラシだったが、リプレイを再生し血眼で見つめるカキタを見て時間稼ぎを決意した。
「ウォーグルが『であいがしら』で何もすることなく倒れたはずです!なのに!どうして今!グソクムシャが倒れたんでしょうか!?」
カキタさん!と振れば、信じられないといった表情のカキタが口を開く。
「『みらいよち』だ!こんなことがあっていいのか!?」
「『みらいよち』ですか!?」
「ルリナ選手がドヒドイデをペリッパーと交代した時に、イエッサンが何もしていなかったのが気になっていたんです!『めいそう』を積んでいたのかと思いましたが、それならバイウールーと交代したのはおかしいですよね」
「ええ、ということはあの瞬間に」
「はい。『みらいよち』を撃っていたんです。グソクムシャを今、このタイミングに繰り出させることを狙って」
開いた口がふさがらない。画面の向こうの視聴者も、このキャスターたちと同じ表情をしているだろう。
「どこから狙っていたのでしょうか・・・?」
「私にはもはやわかりません。ただわかるのは、今までずっと不動だった一位は、もしかしたら交代するかもしれないということです」
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「ドヒドイデ戦闘不能!」
ワァアアアアアアアアア
歓声がやまない。たったワンプレー。「みらいよち」ひとつで試合を逆転してみせた新人に観客の興奮は最高潮だ。フィールドの中心に歩み寄り、握手をして会話を交わす。
「ありがとうございました」
「私の想定以上だったわ。次戦った時はもっと洗練してリベンジしてあげる」
「ええ。また戦いましょう」
ユウリがいた客席を見れば、呆然としていた。もしかしてルリナのファンだったのだろうか。それなら申し訳ないことをしたな、と思いながらスタジアムを後にした。
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あれが、ジムリーダー。いずれ越えなければいけない壁。あれが彼女のゼンリョク。雲の上とすら感じられるバトルにユウリはただ呆然としていた。
「あんな戦いをしてみたい・・・!」
すぐに席を立ち、エンジンシティへ向かうための準備をする。追いつくためにはさらに努力しなければいけない。
今回は慣れない戦術で自滅したルリナです。
各ジムリーダーとのバトルは2周あります。そういうことです。
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今回も読んでくださりありがとうございました。
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