「ダイスチル!」
金属がギガイアスに襲い掛かる。対するギガイアスも「ダイナックル」で応戦するがカビゴンの方がダメージを与えた状態だ。ルリミゾは気を抜かずに次の展開を考える。
(あと1回でダイマックスが切れる。そのタイミングでおそらくカビゴンはきのみを食べて回復する。そうなれば『ダイスチル』で防御を二段階、次に『ダイナックル』を撃てば攻撃を一段階上げた状態でカビゴンを残すことができる…!)
お互いダメージはほとんど無いが、ダイマックスが先に切れるだけギガイアスが不利だ。
「ダイスチル!」
「ダイナックル!」
再び拳と金属が交差する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ギガイアスのダイマックスが解けた!カビゴンはきのみで回復します!」
「ここからキバナ選手がどう返すかですね。いきなりこれほど追い込まれているのは初めてかもしれません」
カキタはルリミゾの思考を追って解説を試みる。
「ただ、気になるのはカビゴンの攻撃力の低さです。どんな工夫で補うのか見ものですね」
ルリミゾなら「れいとうパンチ」を覚えさせていそうだな、と思うカキタ。実際にその通り、ルリミゾは「れいとうパンチ」を今日のために準備していた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ダイナックル!」
まだダイマックスしたままのカビゴンの拳でギガイアスが沈む。時間切れでダイマックスが解除されたが、カビゴンは攻撃力を高め、次のポケモンに備える。
「少し硬いが頼む!ジャラランガ!」
「来たわね」
格闘/ドラゴンタイプの新戦力。格闘タイプの技でカビゴンを仕留めに来ていることは明白だ。
(ウォーグルに交代したいけど、高火力高耐久相手に交代戦は無益ね・・・『インファイト』ならカウンターで『れいとうパンチ』を叩き込んで殴り合えるはず。外れるリスク的に『きあいだま』は・・・)
ルリミゾの思考を遮るようにキバナの指示が響く。
「きあいだま!」
ドム、という音と衝撃、ルリミゾは巨体が吹き飛んできたのを躱す。
「カビゴン戦闘不能!」
(この局面で迷うことなく『きあいだま』を・・・!しかも命中させてくるなんて・・・)
普通「きあいだま」は技の出し方と弾速の都合上、命中率が低い。もしも外せばカビゴンの「あくび」でルリミゾがほとんど勝利に近付いていただろう。今、このタイミングで撃ってなおかつ一撃で仕留める実力。
「無敗のチャンピオンがいると強さの基準が狂うからダメね」
ありがとう、とカビゴンに一声掛けてからボールに戻し、既にうずうずと震えるボールに手をかける。準備は万端らしい。
「さあ、一気に畳みましょう。今回のために覚えた『アレ』やるわよ!」
「ぐふぐふ」
先にエースを繰り出したのはルリミゾ。チラチーノは準備万端だ。身構えるジャラランガとキバナ、試合の大きな転換点が訪れようとしていた。
「さあ、『じゃれつく』!」
「ぐふ!」
飛び出すチラチーノだが、キバナは動じず指示を出す。
(何人のトレーナーが俺サマのジャラランガ相手に『じゃれつく』を撃ってきたと思ってんだ)
「ばくおんぱ!」
ゴォ!
辺りの砂を吹き飛ばすほどの衝撃、振動、音。ドラゴン使いだからこそ可能な弱点への対策。「じゃれつく」に苦しめられたからこその対策方法だ。
「近付けない!」
「ぐふ!?」
音系の技が得意なジャラランガだからこそできる戦い方だった。「じゃれつく」ためには近付かなければいけないが、「ばくおんぱ」を撃たれる限り近付けない。
(ここまでの威力だなんて想定外よ!チラチーノじゃ近付けない・・・!)
「ロックブラスト!」
なんとか遠距離から攻撃を狙うが、頑丈で分厚い鱗に阻まれ思うようにダメージが通らない。ルリミゾたちに今できることはひとつ。
「ひかりのかべ!」
が、ジムリーダー1位は隙を見逃さない。
「今だ!『ソウルビート』!」
しまった、とルリミゾが思うよりも先、咆哮と共に鱗を震わせ、力を漲らせるジャラランガ。特殊を含めた攻防、素早さのすべてを上昇させるジャラランガの専用技だ。
(まずいまずいまずいまずい!)
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「チラチーノ、まさかの『じゃれつく』ですが流石ドラゴン使い、対策を用意していました!ジャラランガが吠えます!」
「これは『ソウルビート』ですねぇ!1位らしい真正面から相手を叩き潰す戦法です。よくあのチラチーノ相手に発動させましたよ!」
ジャラランガの専用技「ソウルビート」は自らを激しく震わせ能力を上げる代償に、体力を大きく消耗してしまう。隙も大きいため発動させる機会はそうない。
「これ、ルリミゾ選手にジャラランガを止める手段はあるのでしょうか?」
「正直これは・・・厳しいかもしれません」
連勝が止まるかもしれませんね、というカキタ。そして観客席から実況席へと伝わるどよめきで視線をフィールドに戻した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(『ひかりのかべ』は貼れたけど、『じゃれつく』をとにかく当てないと残りのポケモンではジャラランガが止まらない・・・!)
「落ち着いて相手の攻撃を待つわよ」
「ぐふー・・・!」
ルリミゾの声が届く距離へ戻り攻撃に備えるチラチーノ。ジャラランガは既にこちらへ走り出しており攻撃態勢だ。
(『インファイト』?それとも『スケイルノイズ』?命中率の低い『きあいだま』はチラチーノ相手に撃たないはず・・・)
ルリミゾが思考した一瞬の間。急加速したジャラランガはチラチーノの目の前にいた。
(そんな!?速すぎる!)
「じゃれ――」
「遅い」
パリィン
チラチーノが吹き飛び、「ひかりのかべ」が割れた。
「『かわらわり』・・・!」
バウンドして動かなくなったチラチーノを戻し、30秒をギリギリまで使って打開策を考える。
(バイウールーは特殊攻撃相手に出せない!能力が上昇したジャラランガ相手にイエッサンで撃ち合いはしたくない・・・!)
「ウォーグル・・・!お願い!」
空に舞い上がるゆうもうポケモン。ルリミゾの窮地を何度も救ってきた。ネズの時のリベンジだ。相手は再び音波の技が得意なポケモン。ルリミゾとの連携が試される。
「さあ、相手は違うけどリベンジよ」
「クァアア!!」
頼もしいな、と思いながら指示したのは「ブレイブバード」。技の反動でダメージを負うものの、今のジャラランガを一撃で落とせる可能性があるのはこの技しかない。
「飛べ!高く!高く!」
ただひたすらに叫ぶ。それ以外の指示を知らないかのようにひたすら。残された逆転の手はこれしか残っていない。
「迎撃だ」
それだけ言って、ジャラランガと共に空を見つめるキバナ。砂嵐は未だに吹き荒れている。
――まるで一秒にも、十秒にも、一分にも、十分にも感じられるような極限の集中のなか、一言も発さずに空を見るキバナとルリミゾ。
「やれ!」
風を切る。砂嵐の合間、わずかに見えたジャラランガ目掛けて突撃する。すべてはルリミゾを信じて。
(噂ではネズが撃ち落したらしいが・・・俺サマにもできるはずだ)
「まだだ・・・」
待ち構えるキバナとジャラランガ。
「クァア・・・!」
近付く。スタジアムが、観客が、壁の広告が、ジャラランガが。
「スケイルノイズ!」
あまりの爆音にスタジアムの観客が耳を塞ぐ。遅れた者は砂嵐の音も歓声も一時的に聞こえなくなるほど。
ルリミゾは呆然としていた。情報を得るために視覚、聴覚ともに全開で機能させていたから。今、何も聞こえない。
そして何よりも――
「ウォーグル戦闘不能!」
相棒が墜ちた。
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