ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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28-ジムチャレンジ②

 

「やったぁ!インテレオン!」

 

 クールに佇むインテレオン。臆病なくせに、こういう時だけカッコつけている。昔の、泣いては「みずでっぽう」を乱射していた姿を思い出して口元がゆるむ。ユウリは今、キルクスジムで最後に立ち塞がるジムトレーナーを倒したところ。

 

「アイツの目は本当だったんだな・・・」

「どうかしたんですか?」

 

 キツめの目をしたジムトレーナーの独り言に反応してしまったユウリ。ジムトレーナーは微笑みながら親切に答える。

 

「あぁ、いや、うちのジムリーダーが君のことを『あの子は伸びそうですね』と言っていたんだ」

「本当ですか!?」

 

 かなり柔らかい口調に翻訳されてるが、言っていた内容は同じだ。

 

「ああ。俺とその話をしたからね。次はうちのリーダーとの試合だ。回復施設を使うといい」

「はい!ありがとうございます!」

 

 ずいぶん親しいジムトレーナーらしい。案内されて出口へついていく。少しの緊張と、憧れたトレーナーと戦える嬉しさが八割だった。

 

「ジム、綺麗だな・・・」

「そうだろ?俺たちがちゃんと掃除してるからな」

 

 こちらの独り言も聞こえていたらしい。ここでの勤務に誇りをもっているようだ。

 

「ルリミゾさんは優しいですか?」

「いや、えーっとな、ああ、優しいよ、うん」

 

 少し吃りながら答えてくれた。気恥ずかしいのだろうか。きっとルリミゾさんは優しいに違いない。

 

「ジムミッションの仕掛けはどうだった?挑戦したのは君が最初だからね、感想を聞かせてくれ」

 

 調整を任されているんだ、と少し遠くを見つめながら言うジムトレーナー。なかなか苦労しているらしい。

 

「楽しかったです!」

「ああ、いやそういう感想じゃなくて、難易度の話だ」

 

 顔に熱が昇るのを感じる。慌てて難易度について考える。

 

「あっ、えっと、ちょっと簡単だったかな?いや、やっぱり普通だったかも!」

「そうか、ならこのままにしよう」

 

 キルクスジムのジムミッションは、ダウジングマシンを渡される。それを使ってノーマルタイプの無機質なデザインの床に設置された落とし穴を避けながら進むのだ。ユウリが落とし穴に落ちたのは三回ほど。濃霧が発生させられていて視界が悪く、ジムトレーナーと鉢合わせればバトルを強制される。毎年一人は上手く落とし穴とジムトレーナーをすべて避け続けるチャレンジャーがいるので、このジムトレーナーが最後に待ち構えて試すらしい。

 

「調整ってどんなことするんですか?」

「あまり詳しく言えないが、ジムトレーナーと鉢合わせしやすいように落とし穴の場所を変えたり、ジムトレーナーのポケモンを強くしたりだな」

「大変なんですね・・・」

 

 雑談しながらポケモンの回復を待つ。

 

 

・・・

 

 

 三十分と少し、回復装置が音楽を鳴らし回復が終わったことを告げる。おかげで心の準備は万端だ。ジムトレーナーに案内されてフィールドへ向かう。心臓から手の先までが知覚感覚で貫かれているような、冴えわたる緊張。程よい緊張はパフォーマンスを向上させる、なんて聞いたことがある。それなら今の自分の状態は結構いいカンジなんだろうな、とユウリは思った。

 

「まあきっと、君なら大丈夫だろう。健闘を祈るよ」

「ありがとうございます!頑張ります!」

 

 通路に着けば、案内は終わり。ここからは自分で歩いてフィールドに入場しなければならない。既に熱気が通路にまで入り込んで空気を震わせている。この先に憧れたトレーナーがいる。昂りが抑えれなくて口元が弧を描く。

 

「さあ、行こうか」

 

 腰のボールたちに語り掛ける。揺れることはないが、頷いていることは絆でわかる。一歩、一歩と踏み出すたびに暗い通路から明るいフィールドへと目が慣れていく。歓声が近づく。

 

ワァアアアアアアアア 

 

 徐々の明暗から一転、フィールドに足を踏み入れた瞬間にハッキリと聞こえる声、声、声。そして、何よりも――

 

「やっとキルクスで会えましたね」

 

 声の主、ユウリの対面で立っているのはキルクスタウンジムリーダー、ルリミゾ。

 

「バウタウンからずっと、待っていましたよ」

「待たせすぎないように一番乗りで来ましたから!」

 

 と、答えたユウリのユニフォームを見て固まるルリミゾ。エンジンシティで買ったレプリカなので、番号以外はまったく同じだ。ルリミゾの880を真似したかったが、ホップに止められた。本人にファンであることを打ち明けるのは少し勇気がいるな、なんて思いながら。

 

「ファンです。マクワさんとの入れ替え戦からずっと」

 

 これに勝ったらサインください、と伝えた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 自分のバトルで人を惹きつけることが、こんなにも嬉しいなんて。

 

――ああ、どうして自分はこの世界の住人ではないんだろう

 

 答えは出ない。だからルリミゾに出来ることは、この世界に何も未練を残さないこと。何も背負わないこと。敗北からずっと、苦しんでいる。自分が異世界から来た確かな証拠は、頭の中の記憶だけ。ポケモンたちは言葉を話さないし、相談することもできない。何が足りないのか、何が最善なのか。わからないことを、慣れない頭でひとりで考えるのは気が狂いそうだった。

 

(あたしはこのスタジアムの全員、そしてジムトレーナー、ファンも騙して元の世界に帰らなければならない。帰り道には誰もいない)

 

「あたしのでよければ、書いてあげますよ。でもまずは勝ってみせてくださいね」

 

 今までなら上手く笑えたのに、笑顔を作れない。気持ちに揺られて演技ができない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(クールでカッコいいなあ)

 

 なんて思いながら背を向けて所定の位置へ向かうユウリ。ルリミゾから離れるにつれて、インテレオンのボールが震えていたのが収まった。ユウリと同じように高揚しているのだろうか?

 

「どんなポケモンが出てくるんだろう・・・」

 

 ジムリーグとは違って、ジムチャレンジャーを試すためのポケモンたちが繰り出されるはずだが、ユウリは一番乗りのため一切情報がない。ノーマルタイプのポケモンだろうことは予測がつくので、頭の中で一番手を決めた。

 

「さあ、戦いましょう」

 

 白い息を吐きだしながら、抑揚のない声でルリミゾが言う。

 

「よろしくお願いします!」

 

ジムリーダーの ルリミゾが

勝負を しかけてきた! ▼

 

 俯いて一度、深呼吸。それからボールを捨てるように、上に向けた手のひらから投げるルリミゾ。繰り出されたのはキテルグマ、ノーマル/格闘のごうわんポケモンだ。

 

「ウインディ!」

「ガウ!」

 

 吠えて威嚇するウインディにキテルグマが怯える。ノーマルタイプは物理攻撃の得意なポケモンが多いから、一番手に選んで正解だった。ユウリのポケモンたちはあまり耐久力に優れているわけではないので、少しでも対面で有利なマッチアップを作ることが重要だ。キテルグマは、バイウールーと同じように「もふもふ」していて直接攻撃のダメージが半減されるが、炎技のダメージにとても弱い。

 

「さあ、行くよ!『おにび』!」

「じしん!」

 

 相手を火傷にする特殊技「おにび」はエンジンシティを突破した際にカブから貰った技マシン。バトルに関して全くの素人だったユウリも、前半三つの街を抜けてもう一般的なトレーナーよりも上のレベルに達している。事前に考えておいた策だ。

 

「これで耐えられるよね?ウインディ!」

「アウ!」

 

 威嚇され、さらに火傷を負ったことでキテルグマは攻撃にほとんど力が入らない。ウインディに効果抜群の「じしん」だったが、まだまだピンピンしている。

 

「ターフタウンから本当に成長しましたね」

 

 ルリミゾが小さく言ったのを聞き逃さなかったユウリだが、ターフタウンで会った記憶がない。

 

「え?ターフタウンですか?」

「えっ!?あ、んんっ、バウタウンですね、近いから間違えてしまいました。ジムチャレンジの様子を見ていましたから」

「本当ですか!?」

 

 やけに言い間違いに動揺しているルリミゾだが、ユウリは自分の戦いを見てもらっていたことの嬉しさで気付かない。

 

「ええ、きっと強くなると信じていましたよ」

 

 ルリミゾがそう言い切ると同時、キテルグマが走り出す。攻撃力も下げられ、火傷を負っているはずなのに。ユウリは不審に思いながらも、自らの優勢に乗って攻撃の指示を出す。

 

「フレアドライブ!」

 

 炎を纏ったウインディが一体となって駆ける。対するキテルグマも大きく拳を振りかぶって――

 

ボッ

 

 ユウリの真横をオレンジが吹き飛んだ。遅れて炎の熱と風で髪が揺れ、緑の帽子が落ちる。気味の悪いほど静まり返ったフィールドにルリミゾの声が響く。

 

「『からげんき』、不利な時ほど強い技です。ノーマルタイプだからといって器用貧乏なわけじゃない。殴り合いならうちのキテルグマはとても強いですよ」

 

 なんとか起き上がったウインディを撫でて戦闘続行できることを確かめる。壁にぶつかったりしていないおかげで、体勢を立て直せたようだ。

 

「想定外だね…まだいける?」

「ガウ!」

「よし!がんばろ!」

 

 ルリミゾとキテルグマを見据えてウインディと共に立ち上がる。

 

「かなりダメージが入ったと思いましたが、よく耐えましたね。搦め手を混ぜた良い戦術でしたが、あたしが見たいのはあなたの才覚。想定してた手を潰された時、どう動くのか、どう足掻くのか、見せてもらいますよ」

 

 それでこそ憧れ、それでこそ目標。今までのジムチャレンジと全く違うバトルの展開に冷や汗をかきながらも、ユウリは目の前の壁に言い表せない安堵、尊敬を感じていた。隣でウインディの炎が揺れている。空の色は白、雪がはらはらと舞い始めた。

 




忙しくて少し時間が空いてしまいました。楽しみに待ってくださっていた方がいればすみません。年末年始は少しペースが乱れるかもしれません。頭の中で話は最後まで決まっていますが、間のバトルや細かい展開は書き出していないので時間がかかります。
ちなみにルリミゾの番号は880(やばん)です。

感想・評価いつもありがとうございます。励みになります。
誤字報告助かります。ほんとに。
今回も読んでくださりありがとうございました。メリクリ。

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