ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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29-ジムチャレンジ③

 

(吹き飛ばされたとはいえ、さっきの『フレアドライブ』は当たってたはず)

 

 体のあちこちが焦げているキテルグマ。あまり表情の違いはわからないが、きっとかなりのダメージを負っているだろう。お互い次の攻防で倒れてもおかしくない。しかしユウリにそんな選択をする必要はない。なぜなら――

 

「ロトム!」

 

 厄介な「からげんき」を躱せるロトムが裏にいるから。直接対面すれば、何の電化製品にも入っていないロトムは「DDラリアット」の一撃で沈んでしまう。ウインディに威嚇され、火傷を負った今だからこそ繰り出す最高のタイミングだ。

 

「くー!!」

 

 実体のないロトムをすり抜ける拳。やはり「からげんき」を撃っていた。今更悪タイプの技、「DDラリアット」を撃ってもほとんどダメージは通らないだろう。今こそ、()()()()()()()()()だ。

 

「ルカリオ!」

 

 あえて「わるだくみ」を積まずに更にルカリオに交代する。正義の心を持ったこのルカリオは、悪タイプの技を受けることによって攻撃力を高める。キテルグマは既に腕を水平にして「DDラリアット」の体勢、今更変更は間に合わない。

 

「ルオオオオ!」

 

 吠えるルカリオ。全くといっていいほどダメージは通っていない。手持ちのポケモンの情報を知られていないのはユウリも同じだ。ルカリオはエンジンシティを抜けてから仲間になっている。手持ちの四匹、全てを知られてしまったものの、攻撃力の上がったルカリオを場に出せたことで完全にユウリが主導権を握っている。

 

「インファイト!」

「ばかぢから」

 

 ルカリオの拳とキテルグマの拳が交差――せず。キテルグマはもはや非力、とてもルカリオとは打ち合えない。一撃ごとに、一方的に、大きな体がブレ続け、もふもふを貫通して拳が突き刺さる。

 

「キテルグマ戦闘不能!」

「・・・・・・」

 

 ラッシュの最後の一撃で吹き飛ぶ。ドサ、と鈍い音とともに地面に落ちたキテルグマ。目を回して気絶している。ルカリオは防御に隙ができたものの疲れなく立っている。

 

「・・・・・・素晴らしい!あたしの目に狂いはなかった!」

 

 狂気の入り混じったようなルリミゾの笑顔にたじろぐ。今までのクールで落ち着いた印象からはかけ離れた表情、両手を仰ぐかのように持ち上げた大げさなポーズ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何やってんだアイツ・・・」

 

 観客席で戦いを見ていたノマはただただ困惑していた。折角これまでずっと落ち着いたジムリーダー像を演じていたのに、突然ジムチャレンジャー相手に本性を剥き出しにしている。昂ったのか、全身から溢れ出る野蛮さでジムチャレンジャーも硬直している。

 

「あのルカリオ、『たつじんのおび』を巻いてますね」

 

 隣のジムトレーナーが言う。確かに腰に黒帯が巻いてある。攻撃力を高めた状態のルカリオが放つインファイトは、ルリミゾの手持ち全てに効果抜群だ。「たつじんのおび」によって効果抜群の技が普通よりも上手く撃てる以上、ルリミゾの今の手持ちではかなり厳しい展開だろう。

 

「アイツの残りは確か、ペルシアンと、ケンホロウと、カビゴンだったよな?」

「ええ、カビゴンはジムチャレンジ用の個体ですが・・・」

「にゃあ」

 

 席の後ろをペルシアンが通った。

 

「「え?」」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「アンタを試すのには一工夫しないとね!あたし最高に楽しいわ!ねえ、ユウリ!」

「は、はいっ!?」

 

 突然名前を呼ばれて心臓が跳ねる。ルリミゾがこのジムチャレンジを心から楽しんでいるのが伝わる。ユウリも心の底から楽しかった。教えの上手い先生に導かれるような感覚。

 

「楽しいです!とっても!!」

「サイッコーね!」

 

 叫ぶルリミゾから繰り出されたのはピンクのぐにゃぐにゃ、メタモン・・・

 

「メタモン!?」

「そいつは『かわりもの』よ!本来の手持ちとは違うけど、ユウリなら突破できるでしょ?」

「ルオオオオオ!」

 

 あっという間にルカリオの姿を真似たメタモンが力強く咆哮する。攻撃力の上昇や防御の低下まで真似ているようだ。メタモンを相手にすることなんて当然初めて。最善策は知らない。得られる情報を最大限に探す。

 

(『DDラリアット』で受けた傷がコピーされてない、ということは――①ルカリオの万全の体力をコピーしている②体力はコピーされない――のどちらかのはず。技はコピーされるって聞いたことがある。道具は見た感じ持っていないからコピーされない。攻撃力や防御を『今』参照してコピーするなら、体力のコピー時も傷をコピーするはず・・・!それなら体力はおそらくコピーしない!なら撃ってくる技は――)

 

 予測を立てて、指示を出した。

 

「メタモン、しんそく」

「やっぱり!ルカリオ、今!」

 

 瞬間、ルカリオの目の前に現れるメタモン。しかしルカリオは右拳を溜めて、左手は上段でガードを構えている。

 

「カウンター!」

 

 反撃が炸裂した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「惚れ惚れ・・・いや、嫉妬すらしそうな程の才能ね」

 

 これほどとは。ルリミゾは興奮が一周回って落ち着いていた。おそらく初見であろう「かわりもの」メタモンへの対処。メタモンは体力をコピーできないため、完全なミラーマッチにはならない。殴り合いをすれば不利だ。だからこそルカリオの「インファイト」の大振りを避けるために「しんそく」でヒットアンドアウェイを狙った指示だったが、ユウリはこの一瞬でメタモンの特性を見抜き、「カウンター」まで指示していた。

 

「メタモン、まだいける?」

「メ・・・ルオ!」

「鳴き声まで無理して真似なくていいのよ・・・」

 

 かろうじて戦闘不能にはなっていないが、次の指示で上手くやらなければ一方的に倒されてしまうだけになる。残りの手持ちは場に出ているのを除いてあと二匹。対してユウリは三匹、しかもダメージを負っているのはウインディとルカリオだけ。

 

「倒されることが役目ってのもツラいところね。もう十分バッジを手にする実力はわかりきっているのだから、ゼンリョク出しちゃダメかしら」

 

 ユウリのトレーナーとしての成長に昂って完全に本性を晒してしまった。どうせ去る世界だ、どうにでもなれ、と取り繕うことをやめた。人気を得たからといって元の世界に帰れるわけでもないし、嫌われたからといって帰れないわけではない。これまではクイズのように、回答を迫るバトルを行ってきていたが、もう十分にユウリの実力は示された。バッジ4つ程度の力ではない。ルリミゾも楽しませてもらおう。

 

「ま、受け入れられなくても上等よ。『―――』」

 

 メタモンに指示を出した。ここからはジムバッジ取得の試練ではない。ルリミゾの戦闘欲求を満たすためだけの戦いだ。ユウリの気持ちは一切考慮していないが、きっとわかってくれると何故か確信していた。情を捨てると決めたのに。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「雰囲気が変わった」

 

 ユウリを見て、微笑むルリミゾ。しかし発される空気は張り詰めている。さっきまでは生徒を導く教師のような雰囲気だったのが、今にも襲わんとする野生の圧がある。これから始まるのは「試練」ではなく「戦闘」だとユウリは直感していた。

 

「さあ、()()()()。準備はいい?」

「・・・!はい!」

 

 答え合わせのように言葉をなぞるルリミゾ。ユウリは意味を理解して頷いた。ジムリーダーの義務を投げ捨てて、相手として認めてくれたことが何よりも嬉しい。ユウリは自分が他のトレーナーよりも卓越していることは薄々勘付いていた。わからないほど愚かでもないが、確信するほど自惚れているわけでもなかったから、普通のつもりで戦ってきた。

 

――それが今、原体験に認められて戦いが出来る。自らの天賦の才に感謝した。

 




制限つきのバトルは難しいですね。遂に職務放棄すら始めた主人公の明日はどこへ。
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