予想外の事態にも関わらず、積み重ねたトレーナーとしての経験がルリミゾをかろうじて動かしていた。
「イエッサン」
相手がダイマックスを切っていない以上、こちらも切るわけにはいかない。ウォーグルは飛んでいるポケモンのため、ステルスロックによりかなりの痛手を負う。温存しておきたいポケモンだった。「ばかぢから」を使ってバンギラスを倒すことができても、疲れ果ててしまい残りのポケモンに対して圧力が無くなってしまう。一撃で沈めることができなければ岩の攻撃を食らい一撃で沈められてしまうだろう。もっと最悪なのは、一撃で沈められなかった後に「ロックカット」を積まれて加速した岩ポケモンに手が付けられなくなることだった。
「今しないといけないことは……」
少なくとも最後に控えているであろうセキタンザンまでにダイマックスを切らず、なんとかカビゴン以外の残りの2匹で相手の3匹を倒さねばならなかった。「キョダイフンセキ」によるダメージを考えても、フィラの実による回復と「キョダイサイセイ」によって体力を保てるだろう。こちらには「じしん」という有効打があるため、なんとかカビゴンとセキタンザンのキョダイマックス一騎打ちに持ち込みたい。
この試合はこれからの道程を考えれば、はじめの一歩もいいところだ。なにか自分の道を邪魔しようとする天の意志のようなものを感じながらも、次の一手を考えなければならない。
とにかく思考を巡らせてメンタルを回復する。体を傷つけて戦うポケモン達のためにも、狼狽えているわけにはいかなかった。
「マジカルシャイン」
「ストーンエッジ!」
通常の状態ならバンギラスを倒し切っていたであろう威力も、砂嵐によって高まった耐久力に阻まれる。ギリギリ踏ん張ったバンギラスはまたしても「ストーンエッジ」を命中させる。
サングラスの向こうの目は、ただこちらを見ていた。
驚異的な集中力だった。ここまで全ての「ストーンエッジ」が命中し、ひとつは急所に当たっている。メジャーリーグのジムリーダーの意地だ。イエッサンは特殊攻撃に対しての耐久はあるが、物理に対しては紙切れ同然だ。一撃で倒れ伏してしまう。
「ごめんね」
もしかすれば、「マジカルシャイン」で落とせていたかもしれなかった。イエッサンのパフォーマンスに影響が出たとすれば、自分の指示の頼りなさだろう。動揺のなかなんとか立て直した程度で信頼し合ったプレーが繰り出せるはずもなかったのだ。
「あ~~~もう!」
無理矢理大きく声を出し、チャンピオンを真似て頬を叩く。覚悟は決まった。こんな調子ではジムリーダーの代理は務まらない。本来の手持ちと違うポケモン達とはいえ、これから長い付き合いになるのだ。しっかりしなければ。
「ウォーグル」
「クァアアアア!」
ステルスロックに傷つきながらも、雄大に鳴き、しっかりと羽ばたいて、こちらを振り向いてうなずく。ゆうもうポケモンは、こんなにも頼もしい。
砂嵐は晴れ、太陽の光がスタジアムに差し込んでいた。
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有利な展開に安堵せず、覚悟を決めた相手にマクワは展開を考える。恐らくバンギラスは「ばかぢから」を使わなくとも倒されてしまうだろう。その後、イシヘンジンとガメノデスでウォーグルを倒し、どれだけカビゴンを削れるかにこの勝負の行方はかかっている。出した指示は「ストーンエッジ」だがウォーグルに先制されバンギラスは力尽きる。
「バンギラス戦闘不能!」
大活躍してくれたバンギラスに礼を言いながら、イシヘンジンを繰り出す。物理攻撃に非常に硬いことで有名なコイツなら、ばかぢからを1回耐えてくれると踏んだからだ。
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繰り出されたのはイシヘンジン。可愛い顔だが、メジャーリーグへの壁として立ち塞がる。ここが勝負所だった。
「ビルドアップ!」
「ストーンエッジ!」
ルリミゾが指示した技「ビルドアップ」は自身の攻撃力と物理防御を高める技だ。もちろん隙だらけだが、次に撃つ「ばかぢから」でイシヘンジンを一撃で落とすための技だ。そして何よりもウォーグルの耐久力を「ストーンエッジ」で一撃で落とされるかどうかのラインに持っていくことができる。
イシヘンジンが岩を浮かせ、羽ばたくウォーグルに向けて放つ。「ビルドアップ」したウォーグルはトレーナーの判断を信じ、避けようとせず防御の姿勢を取る。
「ばかぢから!!!」
ウォーグルが耐えるかどうかなんて考えていない、信じ切った指示だった。応えるようにウォーグルが渾身の一撃を放つ。
「イシヘンジン、戦闘不能!」
ジャッジが旗を上げた。
「よおおおおおし!」
犯した罪も、これから為そうとしている計画も忘れて、ただただバトルに没頭していた。純粋な少女の笑み。
「ガメノデス!頼んだ!」
これでカウントは2対2、このマッチアップを制した側がダイマックス対決に有利を運ぶことができる。ルリミゾが指示したのは当然「ばかぢから」で、マクワは「アクアブレイク」を指示した。
ドォォオン、と観客の声をかき消すほどの衝撃が地面を揺らす。
ぶつかり合う2匹だったが、「ビルドアップ」により上がった攻撃力の分、ウォーグルは普段と同じだけの力でもう一度「ばかぢから」を撃つことができた。それにより両者お互いに攻撃を食らい、ともにダウン。
「ガメノデス、ウォーグル、戦闘不能!」
両者、キョダイマックスの最後の一匹を残すだけとなった。
ドラマチックな展開に、観客の熱狂は加速する。応援歌が聴こえてくる。
「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」
「あたしは! もう後には退けない!」
「まだよ! まだ 崩れさって 砂とは なっていない! 戦う!」
「カビゴン!」
「セキタンザン!」
「「キョダイマックス!!」」
ズ……ズ……ズン、と空気が震え、互いの切り札が姿を変え巨大化していく。スタジアムを互いのポケモンの体が占める。
カビゴンは体を支えきれず仰向けに倒れ、腹には木や植物が生える。
セキタンザンは・・・そのまま立っている。
「カビゴン、ダイアース!」
「セキタンザン、キョダイフンセキ!」
カビゴンの「じしん」が変化した「ダイアース」がセキタンザンに突き刺さる。元よりカビゴンの「じしん」は強烈だったがキョダイマックスによりさらに強力なものとなっている。
返す刀の「キョダイフンセキ」はセキタンザンから発射される噴石でこちらのポケモンがジリジリと削られるというもの。いくらカビゴンといえど、負うダメージは相当なものだ。脂肪の厚いカビゴンがフィラの実を食べる。これでルリミゾもキョダイマックスワザが使えるようになった。
「キョダイサイセイ!」
「ダイバーン!」
食べたきのみを再び生み出す「キョダイサイセイ」はどういう理屈かわからないが、カビゴンに再びフィラの実をもたらす。モシャモシャと腹の木から取ったきのみを頬張るカビゴン。セキタンザンから放たれる「ダイバーン」の熱量は、安全の為にスタジアム端に移動したルリミゾすら焦がさんとする勢いだ。
相変わらず降り続ける噴石によってカビゴンが傷を負うが、美味しそうにフィラの実を食べて回復している。
次の攻防で決着が付くであろうことは、2人2匹、そして観客の全員が理解していた。
「ダイアース!」
「ダイバーン!」
ただただ技名を叫ぶ。
「「「ワァァアアアア!!」」」
観客の声援もピークに達する。
とんでもない熱と砂埃で思わず顔を腕で隠す。とてもではないが耐えられない。
ズン……という音と、スタジアム全員の静寂。
砂埃が晴れた先に立っていたのはカビゴンだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「昇格おめでとうございます。おみごとでした」
「ありがとうございます」
スタジアムの中心へ歩み戻り、握手を交わす。勝者と敗者、昇格と降格が決定した今、戦いを讃える言葉以外は何もこの場に相応しくない。噂通りなら、マクワはこの後インタビュアーを無視して控室に籠るのだろう。
ルリミゾは勝者として、メジャーリーグへと昇格した。ジムリーダー代理としてやらねばならないことも増えるだろう。自分以外のジムトレーナーを増やさねばならないし、来シーズンのジムチャレンジでは挑戦者たちを導かねばならない。ジムリーダーをこなしながら裏で悪事の計画を練るのはあまりにも大変だ。まさか自分以外にジムリーダー以外の裏の顔がある人間などいないだろうな、と思いながらスタジアムを後にした。
メジャーに昇格しましたが、次のシーズン、ユウリやマリィ、ホップ、ビートといった主人公にとって最悪の世代がジムチャレンジに来ます。勝手に退路を断つ系ガールの運命はいかに。
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