ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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30-ジムチャレンジ④

 

 ユウリの額に汗が流れる。眉に感じる水滴を手で拭って、視界に支障がないように。目の前の相手が今から全力で倒しにくることは理解している。

 

「メタモン、行け!」

 

 ルカリオの姿を真似たメタモンが走り来る。何を指示したのか思考を巡らせる。「インファイト」を指示していたならば、撃ち合いで絶対に勝てる。メタモンはほぼ瀕死、対してルカリオは全快の半分ほど。だから「インファイト」ではなく削るための「しんそく」が考えられる。しかし先ほど「カウンター」を見せたから迂闊には撃てないはず。ここから切り替えて逆転を狙ってくるとすれば、何か()()()()の一手が・・・

 

(そうか、『きしかいせい』・・・!)

 

 瀕死に近ければ近いほど、威力の出る大技「きしかいせい」だ。ユウリはルカリオに使わせたことがなかったが、進化した時に図鑑で確認したことがある。当たればルカリオは一撃でやられてしまうが、凌いでしまえばもう相手は虫の息だ。

 

「まもる!」

 

 だからガード。腕をクロスさせ、衝撃に備えるルカリオ。メタモンは右の大振り、拳が光ってすさまじいエネルギーを感じる。やはり「きしかいせい」。「まもる」越しでもダメージを受けたとしても、そこまで痛手にはならないはずだ。そう思っていた。

 

――次の瞬間、エネルギーを霧散させ、ルカリオの背後で裏拳の姿勢を取っているメタモンを見るまでは。

 

「フェイント!?」

 

 背中からの衝撃に仰け反りながら吹き飛ばされるルカリオ。

 

「大丈夫!?」

「ルオオ!」

 

 フェイントの指示。それが意味するのは、こちらの思考が完全に読まれていたということ。ルカリオは体勢を立て直しているが、体力の差を縮められてしまった。メタモンにこれほど圧を感じるのは、人生において今日が最初で最後だろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「経験の差、っていうとなんだかあたしが年寄りみたいで嫌ね」

「メタ!」

 

 ルカリオが「きしかいせい」を使えることを、ユウリは導き出すと確信していた。だから「フェイント」に切り替えて正解だった。まだ追いついたわけではないが、体力の差はほとんど僅差だ。

 

「色んな手が思い浮かぶから、いざ対人になると大変よね」

 

 混乱している様子のユウリを眺める。頭の中にあらゆる可能性が思い浮かんで、相手を観察する余裕がないようだ。才能があるがゆえに、対人で相手の動きを知ることができていない。ルリミゾの癖や傾向を把握できていればこの勝負はとっくにルリミゾが負けていたはずだった。

 

「がんせきふうじ」

 

 フィールドの地面を叩きつけ、岩石を吹き飛ばすメタモン。距離を詰めての殴り合いは絶対に避けたいので、絡め手で攻める。

 

「砕いて!」

 

 後手に回ったユウリはルカリオが被弾しないよう指示をするが、ルカリオは飛んできた岩石を砕くのに手間取っている。

 

「さあ、今よ」

「メタァ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「消えた・・・!?」

 

 メタモンが「がんせきふうじ」を放った直後、姿を消した。辺りに散らばる人ほどの岩石と、立てられた砂埃。淀みなく、テンポを見出さないように次の指示を出さねばならない。ルカリオは疑うことなく真っ直ぐにユウリの方を見ている。応えなければ。

 

「『あなをほる』だよ!下から来る!」

「ルオ!」

 

 地面に気を配りながら駆けるルカリオ。「あなをほる」への対処はただ走り抜けること。直下から食らえば大ダメージは免れないので、返しの攻撃を狙うために走って距離を取る。

 

「どこだ・・・」

 

 少しも動かない地面に不安になる。ルカリオのカバーができるよう最大限、土の盛り上がりを探す。地面に目を向けて、少しのヒントも見逃さないように。

 

「時間稼ぎ・・・?にしても理由がないし・・・」

 

 と、不意に、観客の声が大きくなって思わず顔を上げる。

 

「メタアァァ!」

 

そこには大きく飛び上がったメタモンの姿が――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「『とびひざげり』か!」

 

 ノマが納得したように叫ぶ。歓声は最大、スタジアムが揺れる。観客の興奮でノマの声がかき消されるほど。

 

「『がんせきふうじ』で目眩ましをして、その岩の裏に隠れていたのか」

 

 ジムチャレンジャーのあの才能なら、すぐに「あなをほる」が思い浮かんだであろうことは容易に予想できる。そこで上からの奇襲。地面を注視していたユウリとルカリオは完全に意表を突かれたことだろう。相手の実力を見極めたうえで、その裏をかくのはルリミゾの十八番。ノマが「ひかりのかべ」でやられたのも同じ手法だ。

 

「本当に・・・」

 

 奇策が上手いトレーナーだな、と思うノマ。何を考えているのかわからない。同格や、それ以上のトレーナーには策が破られることがあるものの、格下にはハマることが多い。

 

「ルカリオ戦闘不能!」

 

 ジャッジの声が歓声の中でかすかに聞こえた。背中に「とびひざげり」がクリーンヒットしてルカリオはダウン。正面からの殴り合いを徹底して避ける、メタモンを活かした戦法が完全に刺さっている。

 

「誰を出すんでしょうかね、僕の予想だと――」

 

――インテレオン、そう隣のジムトレーナーが言うと同時、細長い影が繰り出された。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うーん、綺麗にハマると気持ちいいわね」

 

 愉快そうに笑うルリミゾ。ユウリが目指すべきだったのは「がんせきふうじ」の迎撃ではなくメタモンとの真っ向からの殴り合い。相手が何をしてくるかわからない状況、というのは基本的に避けるべき状況だ。本来ユウリが優勢で主導権を握れていたのに、ルリミゾのプレッシャーで後手に回っていたのが大きな原因だろう。

 

「試練じゃないけど、良い学びにはなったかしらね」

「メ!」

 

 わかっているのか、わかっていないのか、相槌を打つメタモン。上手く作戦を実行してくれたので頭を撫でる。他のポケモンに変身するということは、全く違う身体を得るということ。その上で一度も使ったことのないような技を使ってオリジナルの相手と戦わなければならない。バトルにおけるメタモンの使用率が低いのは、そういう戦いの才能を要求されるからだ。

 

「あと三匹、こっちもあと三匹だからイーブンよ。さあ、楽しい戦いにしましょう」

「メタメタ!」

 

 もはや鳴き声を真似る余裕はないらしい。あと少し、頑張ってもらおう。ルリミゾの隣から岩に向かって駆けるメタモン。次のポケモンが来る前に姿を隠す。

 

「インテレオン!」

 

 苦々しい表情をしながらも、楽しそうなユウリが繰り出したのはインテレオン。ルカリオをコピーしたメタモンのスピードを上回り、遠距離から被害なく抑えるつもりなのだろう。

 

「ねらいうち!」

「そう甘くはないわよ『はどうだん』!」

 

 接近しても引きながら遠距離で撃たれるなら、撃ち合いをするまで。繰り出されたばかりで平地に着地したインテレオンと異なり、メタモンは既に「がんせきふうじ」で積みあがった岩々に隠れている。メタモンは今、生き物の波動を察知するルカリオをコピーしているため、インテレオンの場所がわかる。一方インテレオンは岩ごと貫通するように狙いを定める、もしくはメタモンが姿を現したところを後手に回って撃たなければならない。一瞬の逡巡のあと、おおよその位置をユウリが叫ぶ。

 

「右の岩、大きいやつの左側!」

「連射しなさい!回避は任せるわ!」

 

 インテレオンが指先から細く鋭い水を噴射、岩は砕け、メタモンの頬を掠める。が、既に発射の体勢に入っているメタモンの集中は途切れず、バレーボール大の弾を放つ。続けて纏った波動から二発、三発と身を翻しながら連射。

 

(避けさせる方向がわからない・・・!とにかく指示を出さないと!)

「右!それから――」

 

ボッ!

 

 吹き飛ぶインテレオン。指示が遅かった。ポケモンに任せるべきだっただろう、とルリミゾはユウリの未熟さを見抜く。一流のトレーナーは指示とポケモンの自己判断のバランスを熟知している。回避の得意なポケモンや、狙いを付けるのが上手なポケモンにはあえてポケモン任せで大まかな指示を出すときもある。例えば、チラチーノは自分で判断することができるからルリミゾはフォローに回る。大局を見据えた複雑な動きや、相手の奇策への対応をルリミゾが行い、回避や狙いをつけるのはチラチーノ自身が決めるのだ。

 

(ポケモンだって相手の攻撃は見えてるし、避けるべき方向はなんとなくわかってる。最善を選んであげるのがトレーナーの仕事ね)

 

 左に避けようと思っていた時に、「右に避けろ」と指示されれば一瞬の戸惑いが生じるし、指示を待っている時に指示が来なければ動きは止まる。あまりにも息が合わなければ、野生のポケモンが本能のままに戦う方が強かったりする。もちろんユウリはその程度のレベルではないが、今の被弾は息の合わなさに由来するとルリミゾは確信していた。ポケモンを信じていないわけでもないし、ポケモンがユウリを信じていないわけでもない。ただ、どこからどこまで指示を出すのかが掴み切れていない。

 

「メタモン、『いわくだき』!」

 

 意図を汲んだメタモンが岩を飛び散らせるように砕き、インテレオンの視界を狭める。これでまた隠れて「はどうだん」が撃てる。そう思ったルリミゾだったが、その瞬間、インテレオンがボールに戻っていく。ユウリがボールに戻したようだ。ルリミゾはすぐに行動の意味を理解して、小さく、小さく、呟いた。

 

「そうやってすぐ修正できる才能が羨ましいつってんのよ」

 

 この岩だらけの舞台を作り出し、活用しているのは当然ルリミゾ。なので、何をされたら一番ルリミゾが苦しいかも理解していた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「私がすべきことは、この状況を変えること。迷ったり悩んだりは今すべきじゃないね」

 

 相棒をボールに戻してダイマックス。ダイマックスバンドが光るのを見て観客がさらに歓声を上げる。ユウリへの応援がほとんど、それも当然でこの試合はジムチャレンジだから。マイクで拾われた会話を聞いても、まさかルリミゾが勝負しているなんてわかった観客は少ない。ジムチャレンジは立ち塞がるジムリーダーを倒すのが目的であって勝負とは言いにくいのが普通だ。少し本気でメタモンに指示を出しただけで、この追い上げ。ほぼ無傷でキテルグマを倒したにもかかわらず、もう数的有利は追いつかれ、ダイマックスを切らされている。

 

「いつか、自分の力でこれくらいの歓声を浴びたいね」

 

 手に持ったボールが震える。光る。そして巨大化、両手でなんとか投げる。ルリミゾの土俵を壊して、ユウリが戦えるフィールドへと戻さねばならない。ルリミゾの手のひらの上では絶対に勝てない。ポケモンたちは同じくらいの強さのはず。ならばユウリの得意な土俵に持ち込むしかない。今までジムチャレンジでやってきたあの戦法へ――

 

「全部吹き飛ばして!『ダイジェット』!」

 

 迷いも、あの邪魔な岩も、メタモンも、すべて。

 

 




あけましておめでとうございます。
お酒ばかり飲んでいて、その時に限って筆が乗りますね。
今年もルリミゾ共々よろしくお願いします。

評価・感想いつも励みになります。ありがとうございます。
誤字報告助かります。
読んでくださりありがとうございました。

※追記
格下に強いってなんやねん、ということで少し編集しました。

人物紹介は必要ですか?

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