ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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33-vsカブ メジャージムリーグ⑨

 

 晴天のエンジンスタジアム、カブへの応援が鳴りやまない。もうアウェイでの試合は慣れたものだな、なんて思いながら通路を歩く。と、なんと通路出口、フィールド手前にいたのはカブ。

 

「集中するのに少しルーティーンがあってね」

 

 ルリミゾが疑問を呈する前に声をかけられた。どうやら雰囲気から疑問に思っていたのが伝わっていたようだ。普通、ホームのジムリーダーは先にフィールドで待機する。まさかまだ通路で立っているとは思ってもみなかった。

 

「ふぅ……」

 

 カブが右手を胸に当て、目を閉じる。試合前に必ず行っているらしい。少しの呼吸のあと、首に巻いたタオルを両手で掴み、小走りでフィールドに駆けていく。各トレーナーがボールの投げ方を固定するのと同じように、試合前にする行動を固定することでパフォーマンスを引き出しやすくする、と聞いたことがある。

 

「あたしは昔っから行き当たりばったりね」

 

 懐かしみながら、フィールドへと歩く。既に中心に着いたカブが待っている。

 

・・・

 

「君ほどのトレーナーに持論を語るつもりはないよ。僕の努力を示すだけだ」

「そうね、戦えばすべてわかるわ」

 

 互いに集中が高まっている。ならば会話を続ける理由は無し。お互いに所定の位置へ向かい、ボールを構える。後ろを向くときに、小走りのカブの姿が視界の隅に映った。

 

「なんで常に小走りなのよ……」

 

 位置に着いたカブが右手を胸において一瞬、目を閉じて――カッと開く。完全に試合へと意識が切り替わっていくのが伝わる。

 

ジムリーダーの カブが

勝負を しかけてきた! ▼

 

 ボールを持ち、両手を天高く振りかぶってから全力投球、そして一歩下がって中腰。カブの独特なスタイルだ。

 

「ウインディ!」

 

 初手はウインディ。カブは前シーズンと大きく戦い方の変わったトレーナーの一人だ。以前までならコータスを先頭に繰り出し、天候を「日差しが強い」状態にして戦っていた。しかし、今シーズンはコータスを中盤に繰り出している。理由は()()()()()()()()()()()()()

 

「バイウールー!」

「メェエ!」

 

 読み通り。絶好の展開に歯の裏を舌でなぞる。バイウールーに攻撃力は必要ない。新戦術を披露する時だ。

 

「コットンガード!」

 

 毛に埋もれていく。「もふもふ」は炎タイプの技に弱くなる、とはいえ直接攻撃の威力はやはり半減する。ウインディの「フレアドライブ」も抜群に効くが、ダメージ半減だから痛手にはならない。そして「コットンガード」を積んだのなら尚更。

 

「耐えろ!」

 

 ゴォ、と炎がはじけて打撃の鈍い音がする、しかしほとんどの衝撃を毛で吸収し、跳ねて転がるバイウールーにダメージはほとんどない。

 

()()()()()()!」

 

 バイウールーがボールに戻っていく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「バイウールーを引きました!何を繰り出すのでしょう!」

「これは……厄介なプレーですね」

 

 ルリミゾの「コットンガード」からの「バトンタッチ」を見たカキタが呟く。

 

「今のはただの交代ではありません。『バトンタッチ』という技で防御力の上昇を後続に引き継いだんです」

「と、いうことはカビゴンに交代ですかね!?」

「いえ、威嚇された攻撃力の低下も引き継ぐので――」

 

 イエッサン、と答えた瞬間、答え合わせのようにルリミゾはイエッサンを繰り出した。

 

「これで柔らかいイエッサンでも殴り合いができますよ」

「これにはどういった意味があるんでしょうか?」

「イエッサンはカブ選手のパーティに対して役割を失いがちでした。硬いポケモンや、特殊技を使うポケモンに対して強いのがイエッサンだったんですが、カブ選手のポケモンはほとんどが物理・高火力です。しかし『コットンガード』を貰えたのなら話は別です。これで舞台に上がることができました」

 

 なるほど、と相槌を打とうとしたミタラシだったが、状況の変化に即座にマイクを握る。イエッサンの着地を狙ってウインディが走る。「フレアドライブ」だ。

 

「カブ選手、冷静に崩しにかかります!『フレアドライブ』だぁっ!」

 

 吹き飛ぶイエッサンだが、ただそれだけ。吹き飛んだだけ。ダメージがほとんど入っていない。

 

「『コットンガード』にしてもおかしいぞ……?ダメージが少なすぎる」

「ええと、見間違いでは?」

「いや、明らかにおかしい!」

 

 原因を探すカキタになんとか状況を掴もうとするミタラシ。例の如くまたリプレイを再生している。なんとか場を繋ぐのがミタラシの役目だ。

 

「今の『フレアドライブ』ですが、何かイエッサンが仕掛けてダメージを低減したようです!詳細をお待ちください!」

「あるとすれば接触の一瞬……何が……」

 

 そうか!と気付いたカキタだったが、試合は進行中。次の行動がもう始まっている。

 

「明らかに攻撃の勢いが落ちていますウインディ!イエッサンにされた何かが効いている!『サイコキネシス』を突破できません!どんどん削られていきます」

 

 念波を越えられず、炎を纏ったまま距離が縮まらない。まるで威嚇されたかのような――

 

「『パワースワップ』だ!実戦で使われるなんて!」

「なんですかその技は!?」

 

 イエッサンが行った「何か」、その正体は「パワースワップ」。相手と自分の攻撃面の能力変化を入れ替える。つまり、威嚇されたバイウールーから引き継いだ攻撃力の低下を、そのままウインディに押し付けたのだ。ウインディが威嚇された時のように力が入っていないのはそのせいだと、カキタが解説した。続けて、

 

「『フレアドライブ』がヒットする寸前、『パワースワップ』で攻撃力を下げたんです!とんでもない発想だ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あのキャスター陣ならわかるかしら」

 

 何をされているのかわからない状態。一番実戦で苦しい事態だ。ルリミゾはカブの心中を想像しながら次を考える。

 

(ウインディはもう機能停止、次に出てくるのはおそらくマルヤクデね)

 

 仕掛けている側のルリミゾには余裕がある。策を見破られたとしても、もう抜け出す術はない。カブとしてはウインディを切って、次のプランを考えていることだろう。

 

「まだだ!燃え上れウインディ!()()()()()!」

「アオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「なっ!?」

 

 予想外。「もえつきる」はあまりの反動に炎が扱えなくなる技だ。超高威力・超リスクの大技で、使用するにはポケモンの強い意志と、トレーナーとの信頼が不可欠。一時的とはいえ生物としての機能を失うほどの負担、それを自ら捨て身で行うことは並大抵のことではない。カブはそういった無理をするトレーナーではないと読んでいたルリミゾは完全に意表を突かれた。

 

「押し返せ!『サイコキネシス』!」

 

 しかし、もう今まで通りのルリミゾではない。揺れない。心を落ち着かせて不測の事態で動揺しないように。あの暗い自室での自問自答、その成果がバトルにも表れていた。

 

 感情を察知したイエッサンがその最大のパフォーマンスで技を放つ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ウインディ戦闘不能!戦闘不能です!イエッサンには届かなかったァ!」

「しかし、意外ですね」

「というのは?」

「カブ選手は勝ちに拘るトレーナーですが、あまりポケモンに無理をさせるイメージはありませんでした。マイナー落ちしていた際はあらゆる手段を使っていましたが、現チャンピオンとのあの名試合から『もえつきる』のような技は使っていないはずです」

 

 それほどまでにあの少女が強敵なのか、と長年リーグを見てきた二人は冷や汗をかいた。

 

 カブが次に繰り出したのはマルヤクデ。エンジンシティジムの代名詞だ。

 

「早くも切り札の投入です!タイプ相性からでしょうか?」

「その通りです。虫/炎タイプのマルヤクデはイエッサンに非常に相性が良いんです」

 

 解説が終わると同時、歓声が響いた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「マルヤクデ!燃え盛れ!キョダイマックスで姿も変えろ!」

 

 渾身の叫び、それと共にボールに戻っていくマルヤクデ。首に巻いたタオルがバサバサと揺れる。歓声が更に大きくなる。一瞬、カブの目に炎が灯ったような錯覚さえ覚えた。

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

 大きくなったボールを片手で投げるカブ。

 

「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」

 

 スタジアムのあちこちから観客が叫ぶ応援歌、それに混ざってかすかに、しかし確かに聞こえるルリミゾへの応援。だがどちらもルリミゾには関係ない。関係ないのだから。

 

「あたしには関係ない!」

 

 叫びながらイエッサンを戻しカビゴンを繰り出す。マルヤクデが出た時点でダイマックスするのは読めていた。マルヤクデの鳴き声が響く。

 

「ふぁふぁばぁぁ!」

 

 キョダイマックスして、まるで龍のように長い胴体、体のあちこちで燃え盛る炎。カビゴンは厚い脂肪を持っているため、炎タイプの技に対しては耐性がある。しかしダイマックスしていない今、虫タイプの「ダイワーム」を食らってしまえばただではすまない。

 

「耐えなさい!カビゴン!」

 

 ただ叫ぶのみ。バトルにおいて相手の攻撃を受ける瞬間、その瞬間だけはトレーナーに出来ることは何もない。ただポケモンを信じて、耐えてくれと願うのみだ。だからルリミゾはこの瞬間がバトルで一番嫌いだった。

 

「ダイワーム!」

 

 虫の形をとったエネルギーが飛来する。それとマルヤクデの巨大な身体を振り回した鞭のような攻撃が。

 

ドォ!

 

 比喩でなくまさにスタジアムを揺らす衝撃――

 

「よくやったわ!全然いけるじゃない!」

 

 しかしカビゴンは中心で立っていた。上手く腹で衝撃を吸収したのだろう、まだ余裕がある。ダイマックスしても戦えそうだ。

 




カブ戦です。この先の展開を先に書いてしまい、間であるこのカブ戦を描くのに苦戦しました。

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