エンジンスタジアムに叫び声が突き抜ける。
「あたしは!もう後には退けない!」
カビゴンをボールに戻してダイマックスバンドから力を。ボールが震える。ルリミゾと同じように昂っている。
「……!」
ボールを両手で抱え、投げようと目線を上げれば視界に映る人、人、人。そのどれもがルリミゾを期待、羨望、熱狂の眼差しで見つめている。声を上げながら、手を振りながら。
「関係ない……!あたしには関係ない……!」
すべてを振り払うかのように。
「キョダイマックス!」
巨大化したカビゴンへと指示を飛ばす。先にダイマックスの切れるマルヤクデを叩き潰せれば大きく形勢がルリミゾに傾く。このまま殴り合いがベストだ。
「キョダイサイセイ!」
「ダイワーム!」
お互いのダイマックス技が交差する。歓声、そして遅れて訪れる衝撃、エンジンシティが揺れていた。
「毎度のこと地味ね。ま、長期戦は得意でしょ?」
「ォォォオオオオ!」
いつもより野太い返事が返ってくる。指示を出すまでもない。再び両者の力と力がぶつかり合った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おおっと!また殴り合いです!両者一歩も退きません!」
「ルリミゾ選手のカビゴンは非常に硬いですから、毎度ダイマックスで決着が付くことは本当にありませんね」
カビゴンで相手のダイマックスをやり過ごすのは恒例の戦術だ。この点はダイマックスを嫌うネズと似ていて、ダイマックス無しのバトルが得意だからこそだろう、とカキタは推測していた。ジムリーダーは基本的にダイマックスを前提に戦略を立てるが、ルリミゾはどうにも相手のダイマックスをいなすためだけにダイマックスを切っている節がある。
「シンオウ出身のトレーナーとのことですから、ダイマックスをお互い切った後の戦略の深さは目を見張るものがありますねー」
「ええ、本当に一年目とは思えない強さです」
マルヤクデのキョダイマックスが先に解けた。キョダイマックスが続いているカビゴンに対して、カブはどう動くのか。
「ここでマルヤクデが元に戻りました!改めて凄い体格差ですねぇ!」
「ええ。しかしカブ選手も先にダイマックスを切ったということは、この状況も想定していたはずです。動きに注目ですね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(このまま殴り合えば『キョダイサイセイ』でマルヤクデが倒れるはず。何か仕掛けてくるにしても続けるしかないわね)
マルヤクデが這いながら接近、カビゴンの腹を登っていく。虫ポケモン特有の動きに、本能的な気持ち悪さがある。
(ちょっとキモい……)
「むしくい!」
先手を取ったマルヤクデがカビゴンに噛みつき――
「ちぃっ!そういうことね!」
行動の意味を理解して舌打ち。フィラの実を奪い取られた。マルヤクデは傷を癒し、ふんす、と鼻息ひとつ。「むしくい」は攻撃ついでに相手のきのみを奪い取って食べる技。奪われてしまうため当然「リサイクル」も叶わない。完全にカビゴン対策だ。
「キョダイサイセイ!」
返しで技を放つも、きのみによる回復で計算がズレた。戦闘不能には至らない。これでカビゴンのダイマックスはタイムリミットだ。
体力の回復を織り交ぜた長期戦。とすれば次に狙ってくるのは「きゅうけつ」だろう。近付けない立ち回りへとシフトする必要がある。
「じしん!」
即座に切り替え、距離を取ることを狙う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「対応が速い!すぐに『じしん』で近付かせません!」
「カブ選手、まさかの『むしくい』でしたがルリミゾ選手本当に冷静ですねー」
跳躍して揺れを避けながらカビゴンへと「とびかかる」マルヤクデ。だが、ルリミゾの指示かそれともカビゴンの自己判断か、接近した瞬間に「かみくだく」をモロに食らってしまった。力なく崩れ落ちるマルヤクデ。
「まるで未来が見えていたかのような『かみくだく』!マルヤクデ戦闘不能です!」
「今の一瞬、攻防がありました。カブ選手は回復を狙って『きゅうけつ』を撃ちたかったはずです。それを読んだルリミゾ選手が『じしん』で拒否しました。が、当然そこを想定したカブ選手は『とびかかり』に切り替えたんです」
「しかしそれすらも読んでの『かみくだく』ですか」
ええ、とカキタ。もはや常に期待の上をいくルリミゾに慣れつつある二人だ。
「カブ選手が次に繰り出したのは……コータスです!空が青く、更に日差しが強くなっていきます!日照りのコータスでしょう!」
「パーティを支える土台のポケモンですね。晴れにしたということは始まりますね、今シーズンのカブ選手のエースによる逆転劇が」
日差しが強い。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「来た」
今期のカブの新戦術。カウントは現在五対三でルリミゾ有利。しかしバイウールーはかなりの傷を負っているし、カビゴンもおそらくあと一撃で倒れてしまう。
「相性的に、これでもイーブンくらいかしらね」
カブの新エースとルリミゾの手持ちは圧倒的に相性が悪い。場を整えられてしまえば五タテすらありえる。
「ソーラービーム!」
カビゴンが動くより前に、一瞬でエネルギーを集めきった緑の閃光が貫いた。この日差しの下では「ソーラービーム」のチャージに時間を要しない。髪をかき上げ、頭の中でプランを立てる。
「ふー……」
深呼吸して、一投。繰り出したのはウォーグル。「きりばらい」で「ステルスロック」の展開を拒否できる上、後続に対しても強いからだ。
「ブレイブバード!」
正面からの殴り合い、動きの遅いコータスという的へ加速しながら突撃するウォーグル。コータス側は反撃狙いでただ待つのみ――
ドカン!
瞬間、静まり返る客席、ルリミゾ、そして。
「ウォーグル、コータス戦闘不能!」
「嘘でしょ……?『だいばくはつ』なんて……!」
自らのエネルギーを集め、自爆する技。またしても危険な技。戦闘不能となる代わりに、その威力は至近距離で食らえばほぼ確実に戦闘不能になってしまうほど。しかしやはり自爆技、好んで使う人間はいない。ましてや公式戦で。
「これは僕がコータスと決めたことなんだ。今年は何かが起きる。みんなそれを肌でヒリヒリと感じているはずだ。僕も、君も、他のジムリーダーたちも。だから全力で勝ちに行く」
ありがとう、とコータスをボールに戻すカブ。そして試合開始時のように両手を高くで合わせ、全力投球。現れたのは。
「燃えろおおおおおお!!」
「バシャアアアアアアアアアアアモ!」
ホウエン地方御三家が一匹。バシャーモ。
日差しが 強い ▼
荒れていたころのスタイルも含めて、全てを上手く取り入れて成長するのも強さだと思います。信頼の上での自己犠牲もそれもまたチームだと思っています。
格闘で素早い、まさに天敵のポケモンですね。ホウエン地方出身のカブですから、昔は一緒に旅したりしたのかな、って思ったりします。老練な武闘家バシャーモですね。独自設定です。
評価・感想励みになります。いつも本当にありがとうございます。自分がやりたくてやっているわけですが、人から反応を貰うことがこんなに嬉しいとは知りませんでした。
誤字報告助かります。
読んでくださりありがとうございました。
人物紹介は必要ですか?
-
いる
-
いらない
-
結果閲覧用