ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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36-野蛮 meets 天才

 

 試合の翌日、自室のソファ。カーテンの隙間から差し込む光がやけに眩しくて目を覚ました。時刻は昼過ぎ、ムンナを形どった時計が可愛らしく時間を刻んでいる。ファンミーティングで貰った。生活にまで入り込んだこの世界の人間関係に、少しだけぼーっと時計を見つめていた。

 

「しんど……」

 

 喉から声のようなざらざらした振動が流れ出た。原因は叫びすぎだろう。カブに乗せられて熱くなってほとんど叫んで指示を出していたから。

 

 起きて人間としての生活をする気力もなし。ぐでっとそのままもう一度背中から倒れて、ソファの上でまた横になる。どうせ一日中休みだから、何度寝ようと変わらないことだ。

 

・・・

 

「ぐふ!」

 

 頭上の声で目を覚ませば、チイラの実を持ったチラチーノ。どうやら半分くれるらしい。無邪気な目でこちらに差しだしていた。

 

「ふふ」

 

 まるまるひとつではなく、半分だけ。それがチラチーノらしくて笑う。食べれば甘辛さが口の中に広がって、起き抜けの口には少し刺激が強かった。それでもなんだか暖かくて、普段よりも美味しく感じた。

 

「ありがとね」

「ぐふ」

 

 チラチーノは、当然、と言わんばかりに胸を張る。頭を撫でて、スマホロトムを取って起き上がる。

 

「ニュースはなさそうね」

 

 謎の高速で移動するポケモンが見つかっただとか、ワイルドエリアの天気だとか、ありふれたニュースばかり。新種のポケモンと思われたものは、見間違いがほとんどだ。テッカニンやアギルダーを目で追えなくてそう言っているだけだろう。

 

 伝説に関して何も情報は得られず、ソニアの研究が進むことを期待する日々。長い目で見ればナックルシティジムを狙うのは安全で確実な方法だが、目に見えて何かをするわけでもなく、リーグ戦だけしているのはもどかしい。短気さが限界を迎えようとしていた。

 

「うずうずしてきた……」

 

 戦って何かを得ること。単純明快で分かりやすい方法だから大好きだ。ジムリーグで勝っても目的のモノが得られるのは数か月後なので、実感として不満足だった。相手を蹂躙し、強さの実感を得ながら戦利品を獲る。野生的で最も自分の気質に合った方法だとルリミゾ自身思っている。

 

「でも今は我慢……」

 

 帰るために最善を。燃え上りそうになるほど知恵熱を出している頭で衝動をなんとか押し留めていた。

 

「発散するしかないわね」

 

 気分転換してワイルドエリアへ。時刻は十二時、既に真っ暗だ。夜のワイルドエリアは昼に比べて危険ではあるが、ある程度強ければ対処可能だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ウォーグルに運んでもらって降り立ったのは逆鱗の湖。崖と湖に挟まれたこの場所で、時空の歪みに落ちたルリミゾは初めて目を覚ました。円状に並ぶ八つの岩の中心に倒れていたのだ。何か手掛かりを探すために、定期的に訪れている。

 

「あれは……人?」

 

 先客がいたらしい。逆鱗の湖の陸部分へと入れるということは、そこそこ強力なトレーナーだ。この辺りに生息するポケモンは強く、並みのトレーナーでは足を踏み入れることすらできない。ポケモンを進化させる不思議な石や、イーブイの進化系のポケモンたち、それに強力なポケモンとのバトルを狙っているのだろう。

 

「研究者っぽいわね」

 

 人影が顕わになっていくにつれて、見えてくる正体。長い白衣を着た、妙な髪形の男性。こちらに気付いたようで、操作していたパッドから目を離して不審そうにルリミゾを見つめている。不審なのはお前の髪型だ、とは言わずにジムリーダーらしく行動する。

 

「こんな時間にここで歩いていて大丈夫なの?」

 

 ポケモンも出さずにひとりで何かを調べている。もしも後ろから野生のポケモンに襲われでもすればひとたまりもないだろう。

 

「ええ、私はこう見えてそこそこ腕が立ちますから。オーベム!」

 

 ポン、と光と共に現れたのは、ガラルでは珍しいオーベム。かなり鍛えられているのが一目でわかる。ここらのポケモンでは太刀打ちできないだろう。どうやら強さについては杞憂だったようだ。

 

「その実力なら大丈夫ね。研究者なの?」

 

 とはいえ、不審なことに変わりはない。もしも何かを企んでいるのであれば、ジムリーダーとして振舞っている以上、見過ごすことはできない。

 

「そうです!私は『ポケモンの力は何によって引き出されるのか』について研究しています!このガラル地方にはダイマックスという現象があると聞きまして、いてもたってもいられず調べに来たのです!」

 

 やけにハイテンションで、大きな声で語り出す。ソニアといい、研究者は自分のテーマのことは熱く語ってしまう習性があるのだろうか。

 

「あなたは――ポケモンの力は何によって引き出されると思いますか!!」

 

 突然の質問に、すこし引きながらも答える。人柄を知るためには会話を続けなければいけない。

 

「……人と組むことよ」

 

「それは――信頼関係、つまり絆と?」

 

「……ええ、そうよ」

 

 実際、人間との信頼関係によって力を引き出せるとルリミゾは考えている。しかしギンガ団にいた科学者のように、好かれてもいないのに無理矢理従わせ、力を引き出している人間がいるのも確かだった。そのことが頭をよぎって、すこし返事が遅れた。

 

「私もそう思っています」

 

 男も同様の答え。けれども男の目はそう告げていない。調べ足りない、と。

 

「しかし、まだ試していない方法はいくらでもある!」

 

 よく見れば手に握っているのは「ねがいぼし」。ポケモンをダイマックスさせるエネルギーを持った隕石だ。怪しい科学者に対して良い印象のないルリミゾにとって、この何をしているかわからない変な髪形を放置しておくわけにはいかない。まともな人間か確かめるまで、ワイルドエリアで好きにさせたくはなかった。

 

「――それは、無理矢理力を引き出すのも含まれているのかしら?」

 

 核心に迫る。この男の目は、それをやりかねないと直感が告げている。力を引き出すためにポケモンと関わっていくならば、トレーナーという関係が普通の選択だ。にもかかわらず、わざわざ科学者という道を選んだということは。つまり。

 

「そうです!」

 

 まるで当然のように。

 

「私にとって、力を引き出す方法は何でもいい!」

 

――この男は危険だ。今ここで拘束して、警察に引き渡さなければいけない。

 

「機械で無理矢理引き出しても」

 

 男は続ける。

 

「トレーナーとの絆の力で引き出しても」

 

 まるで子供が夢を語るように。

 

「果てには、ポケモン自体を改造したとしても!」

 

 無邪気に、純粋に。知りたくて仕方がないと言わんばかりに。

 

「ダイマックスはどう作用するのか!ポケモンとダイマックスの関係とは!調べないわけにはいかないでしょう!」

 

「野生のポケモンがダイマックスすれば、力を制御できず暴れ回るわ。その『ねがいぼし』を使って何をしようとしていたのかしら。ねえ?」

 

「おや、お気付きでしたか。あなたは強いようですが、離れていた方がいいですよ。これからダイマックスさせるのですから!」

 

 ガラルの外から来たとあって、ルリミゾのことを知らないらしい。実力行使で止めるまでだ。

 

「それはジムリーダーとして見過ごせないわ。拘束して警察に引き渡させてもらうわよ」

 

「おっと、強そうだとは思っていましたがジムリーダーとは。私も運がありませんね」

 

 どの口がジムリーダーを名乗るのか。自嘲しながらも互いに腰のボールに手をかけたその時。

 

 邪な考えが浮かんだ。周りには誰もいない。

 

「待って?」

 

 

「アンタ、科学者なら異世界に移動する方法に心当たりは?」

 

 

 

 

 この狂人を上手く捕まえれば帰還が早まるかもしれない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……ほう!そんなことが!」

 

「あたしが狂っていないなら、本当よ」

 

 重要な部分をぼかしながら、この純粋な科学者の興味を引くように。

 

「赤い鎖、ですか。そのアカギというボスはなかなか秀でた才をお持ちのようですね」

 

「……まあね」

 

 他人事、それもどうでもいいボスの話だったが、今となってはなんだか懐かしくて、誇らしく感じた。

 

「シンオウ地方でその状況を再現するためには、人手や設備が必要不可欠でしょう。かなり時間がかかってしまいますね。他の方法で私に心当たりがあるのは、ウルトラホールです」

 

「ウルトラホール?」

 

「異世界へと繋がる穴のことです。詳しく調べたことはありませんが、そこから未知のポケモンが現れたりしているとか。そして記憶喪失の人間がそこから降ってきたり……」

 

 まさに求めていたもの。

 

「それ!それよ!どうやって開くのよ!」

 

「それは調べないとわかりませんが……私はポケモンの強さを引き出すことを調べてますからねえ……」

 

「――なら、あたしが力を引き出して見せるわ。機械によってだとか、そういう手段で力を引き出されたポケモンも全て打ち倒してあげる。だから協力しなさい」

 

 ここでこの科学者を逃す手はない。

 

「ガラル地方には無敗のチャンピオンがいますね。ダンデ、でしたか。彼はポケモンとの絆を説いているトレーナーですが、私の研究への協力はしてくれないでしょう。あなたは協力してくれたとして、どれくらい強いのでしょうか」

 

 目に見えた挑発。もっともルリミゾが燃える瞬間だ。

 

「あはは!言ってくれるわね。戦えばわかるんじゃない?二度とその口開けないようにしてあげる」

 

「ほう!では早速バトルしましょう!私はある知り合いから組織への参加を勧誘されています。そこでは研究ができる!人員も、設備も揃っています」

 

「……確かにあたしは何も提供できないわね」

 

 そう言われてしまえば詰まる。しかし!と大声で続ける男。

 

「私はその知り合いがキライ!です。嫌いですが、私よりも強いのです。ポケモンを無理矢理従え、その力を引き出しています。少なくとも私を倒せなければ、絆でポケモンの力を引き出せるとは言えませんよね?」

 

「望むところよ。ボコボコにして何が何でも従わせてやる」

 

 単純明快な条件だ。ルールを決めてから離れて準備をする。6vs6、道具アリ。双方準備を終えてから、互いに向かい合う。

 

「直結しててイイじゃない!発散させてもらうわよ!」

 

「さあ、見せてください!あなたとポケモンたちの力を!」

 

 野蛮と天才が衝突する。

 

 




ルリミゾは野生的な勘があるので、この男の才に気付いています。こういう人を見抜ける目のおかげでかろうじて人間生活を送れていたところがありますね。
はたして誰なんでしょうか。この男は。
登場に悩み、なかなか時間がかかってしまいました。帰るためには運用する頭がいりますから、そこは勉強ではなく他人の手を借りるしかありませんしね。

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