ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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【まえがき】
I'm back

お待たせいたしました。アクロマ戦の続きです。
前回はレアコイル相手にチラチーノが攪乱して、クロバットに交代したところまでです。


【まえがき終わり】


38-vs■■■■ 感性vs理性②

 

(暗闇に紛れて……)

 

 完全に闇に紛れて消えたクロバット。アクロマの眼鏡越しの視界ではもう捉えられないので、攻撃が来る前に対応の策を打たねばならない。

 

「フラッシュ――」

 

 レアコイルが集中し、辺りを照らそうとすると同時、目の前にクロバットが現れた。レアコイルを馬鹿にしたような表情で、軽く額に蹴りを入れて再び闇に消えていく。

 

「挑発……!」

 

 先ほど見せた「放電」を警戒して、迂闊に接近してくることはないだろうと踏んでいたアクロマだったが、ロベリアは攻めっ気しかないらしい。

 

 クロバットが消えて暫く、攻撃が来ない。時折かすかに羽音らしき音や、草の揺れる音が聞こえるが、ヒトであるアクロマの耳にはそれが本当にクロバットの立てた音なのか、風の音なのかわからない。

 

(居座るべきか……)

 

 タイプ相性からして、レアコイルが有利なのは明らかだ。チラチーノに攪乱されたとはいえ、まだまだ戦える体力。加えて「光の壁」まで貼ってある。

 

(――いや、『すりぬけ』を考慮すべきですね)

 

 物理技や特殊技の威力を大きく軽減してくれる「リフレクター」や「光の壁」だが、それらをすり抜けるように攻撃してくる個体が存在する。クロバットにも稀にそういう個体がいる。ことごとくアクロマの予想を外してくる相手がわざわざ繰り出したクロバットだ。何かあることを警戒して退くことを決めた。

 

「退きましょうか」

 

 アクロマがボールを使って戻すのではなく、わざわざ指示を出したということは「ボルトチェンジ」の合図だ。即座にレアコイルがパチリと電気を弾かせて、その反動でボールへと戻っていく。暗闇に溶けたクロバットを捕捉できずとも、安全に交代することはできる――

 

――はずだった。

 

「あはは!掌の上ね!」

 

 ボールへと戻っていく道中、カットするように横切る影、瞬間、ゴッと鈍い音がしてレアコイルは三度目の落下を迎えた。二度目までの落下と違うのは、レアコイルが気絶してもう動かないということ。

 

「『追い討ち』!逃すわけないじゃない!」

 

 得意技よ、と闇の向こうで笑っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(相手が見えないと、みんな自然と引け腰になるわね)

 

 生物としての本能が、暗闇を恐れる。ロベリアは、アクロマの思考を追えていたわけではない。ただ、暗闇に紛れたクロバットを前にした相手がどういう傾向なのかを知っていただけだ。アクロマのような知性あるトレーナーであっても、人である以上その傾向から逃れることはできない。

 

「見えない相手には後手に回るしかない。それならもっと有利で状況を打破できるポケモンに逃げたくなるのは当然よね?」

 

 クロバットはただ追い討ちだけを狙っていた。先手を打つ権利は常にクロバットにあった。だからこそ、じっくりと焦らせて相手の精神を揺さぶる。そうして交代へと逃げの手を打つ相手に高威力の「追い討ち」を決めるのが得意の流れだ。

 

「おいで」

 

「バァット!」

 

「よくやったわね」

 

 クロバットを腕にとめてやる。「はねやすめ」とまではいかないが、軽く労わる程度にご褒美だ。

 

「次はたぶん……厳しいから、上手くやりましょ」

 

「バット!」

 

 ズゥン、と地面が揺れる。少し横に平べったい大きな影。戦闘不能のレアコイルを戻したアクロマが繰り出したのは――

 

「――メタグロス」

 

 やはり従えていた。オーベム、レアコイルとくれば、この男の性質からして従えているポケモンは簡単に想像できる。ポリゴンやギギギアルなんかも従えていそうだ。逆にルリミゾは従えているポケモンが意外だとよく言われる。オコリザルを連れていないのが意外だそうだ。許せない。

 

「隙を見て交代するわよ」

 

 頷いて腕から飛び立ったクロバットがすぐに見えなくなって、メタグロスの鈍く月光を反射する大きな身体だけが戦場に残っている。

 

「――」

 

 アクロマが何か指示を出して、巨体が低い音を立てて動く。その見た目の割りに、メタグロスは磁力で浮遊することもできるポケモンである。その太い腕から繰り出される重い一撃と、耐久力、そして高い知能。

 

「何より厄介なのは……」

 

 エスパータイプ。感知に優れていることだ。奇襲は自慢の硬い体で耐えられ、念力で位置を特定される。だから指示したのは「蜻蛉返り」。バトルで戦うにはあまりにも分が悪い相手だ。

 

ボッ

 

 そこまで思考したところで、クロバットが攻撃したにしてはあまりにも低い打撃音が鳴った。遅れてアクロマが技を読み上げた。

 

「コメットパンチ」

 

 軽い体に重い一撃の突き刺さる音。彗星のような一振り。背後から迫るクロバットを振り向いて撃ち抜いていた。メタグロスの両目が妖しく光っている。

 

「『ミラクルアイ』…!よく使うわねそんな技…!」

 

 エスパーの能力で相手の位置を特定する技だ。クロバットの位置をわかった上で誘っていたのだろう。しかしクロバットも自分の判断で咄嗟に羽ばたいて、「霧払い」することによって衝撃を和らげている。

 

「でも目的は遂行できたわ」

 

「『リフレクター』を剥がしましたね…咄嗟に『霧払い』を出すとは」

 

 吹き飛んだクロバットがボールへ戻ってくる。戦闘不能でも「蜻蛉返り」でもない。持たせていた道具の「脱出ボタン」だ。攻撃を受けたポケモンを強制的にボールに戻してくれる。

 

 繰り出すのはロベリアのエース、ポリゴンZだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「素晴らしいですね」

 

 アクロマはクロバットのパーティへの献身に感心していた。「コメットパンチ」がヒットする直前、あのクロバットならもっと勢いを殺すことも、もしかすると回避すら出来たはずだった。「ミラクルアイ」はあくまでも位置を把握できるだけで、「ロックオン」のように必中となるわけではない。それにも関わらず、「霧払い」に切り替えて()()()()()()()()()。全てはパーティとロベリアの勝利のため。

 

 クロバットという種族は、非常に打たれ弱い。これは見た目からも分かることだが、理由は他にもある。クロバットの牙の中は吸血のために空洞になっており、非常に脆いのだ。そんな危険をクロバット自身理解していながら、「霧払い」を放ったのだ。

 

 向こうからロベリアの声とともに現れたのはポリゴンZ。

 

「ポリゴンZ!あんたもポリゴン連れてそうね!どうなの?」

 

「……ええ、今は連れていませんがね」

 

 この地方には連れてきていないが、ポリゴン2をアクロマは従えている。ポリゴン2とポリゴンZ、どちらの姿がポリゴンの潜在能力を引き出せているのか。アクロマも答えを出せていない問いである。

 

 閑話休題。メタグロスは先ほどの「コメットパンチ」で攻撃が上がらなかったものの、クロバットに大ダメージを与えただけでも十分な成果だ。メタグロス対ポリゴンZは後出しされたとはいえ、そこまで不利な対面ではない。

 

 しかし、ポリゴンZは特殊技を使うのにもかかわらず、わざわざ「霧払い」して「リフレクター」を早めに剥がしたということは、相打ち覚悟や早期の交代で物理攻撃のポケモンを出すことを想定しているに違いない。炎タイプの技を耐えるために持たせている「オッカの実」の出番はなさそうだ。

 

「アームハンマー」

 

 腕で飛び、磁力で浮かび上がったメタグロスがポリゴンZに接近する。その二つの前腕を大きく振りかぶり、そして振り降ろすと同時――

 

ゴシャア!!

 

 大きく土埃を上げながら崩れた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「『イカサマ』!強い力はそのまま自分に返るのよ!」

 

 受ければ一撃でやられてしまうであろう「アームハンマー」の大振りを利用して、メタグロスをひっくり返した。効果は抜群。このためにクロバットは「リフレクター」を剥がしたのだ。

 

 しかし。

 

 鋼のボディには土の汚れしか見えない。地面を揺らすほどの衝撃、そして効果は抜群だったにもかかわらず。かなり響いてはいるだろうが、あれほど硬いメタグロスは見たことがない。上手く嵌めて倒したレアコイルも同じように鍛えられていたのだろうか。

 

「……どんな鍛え方してんのよ」

 

「言ったでしょう?潜在能力を引き出すと」

 

 育成の方法はロベリアにわからないが、普通のメタグロスよりも硬く、重いように感じる。かといって動きが遅いわけではない。やはり優秀な人間らしい。協力を得られれば、ルリミゾの手持ちの調整にも役立つだろう。益々力が入る。

 

「シャドーボール」

 

 距離を取って数発、影の弾を撃つポリゴンZ。メタグロスはその太い腕であちこちへ弾く。まるで弱点のタイプなど関係ないように全てを。

 

「硬すぎじゃない……?」

 

 メタグロスが再び距離を詰めんと迫り、繰り出したのは「思念の頭突き」。思念の力を頭に集めて攻撃する技だ。初見殺しの「イカサマ」がもう一度通用するとも思えないので、正面から撃ち合う。

 

「悪の波動!」

 

 効果抜群の悪タイプの技である。加えて、相手を怯ませることもある。エスパータイプの技と撃ち合えば、ポリゴンZ側が有利なのは明らかだ――

 

 が、波動を突き抜けた頭突きがポリゴンZを吹き飛ばした。当のメタグロスは当然とばかりに構えている。

 

「押し切れるラインをずらされるだけでこんなに面倒なんてね」

 

 またしても感覚とズレた重量、硬さで押し切られた。ポリゴンZは首を傾げながらくるくると飛んでいる。勢いは「悪の波動」で抑えられたものの、突破された衝撃が大きい。生半可な攻撃は通用しないようだ。何度も撃ち合っていては、撃たれ弱いポリゴンZが不利である。メタグロスにダメージは通っているであろうものの、あと数発撃たねば倒れないだろう。

 

「アレ、やるわよ」

 

 ピピッと、電子音のような返事があった。

 

 今までの攻撃は全て、サブウェポンだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 強いな、とアクロマは思った。バトルをすればある程度相手のポケモンの強さがわかる。バトルは専門ではないにせよ、ポケモンの潜在能力を引き出すという研究上無縁ではない。

 

 アクロマの手持ちのポケモンは出来る限り力を引き出したポケモンたちだ。戦術では毎日研鑽しているトレーナーに及ばないものの、ポケモンたちの能力は劣っていない。いや、むしろ単に戦闘を繰り返しているだけのトレーナーたちよりもその能力を発揮しているだろう。

 

「来ますね」

 

 ロベリアが照らされている。雲間から出た月の光と、ポリゴンZの出す光に。生半可な攻撃は通用しないと悟ったのだろう、「破壊光線」の体勢だ。

 

「守る」

 

 止めに行くにはメタグロスの足は遅いので、耐えて返しで叩き潰すことを狙う。「破壊光線」はノーマルタイプの技である。鋼/エスパータイプであるメタグロスに効果は今ひとつだ。反動は大きく、メタグロスが耐え切ってしまえばポリゴンZを確実に落とせる。

 

――極大の光線が放たれた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「消し飛べ!」

 

 標的である鋼の巨体へと指をさして。同時に光線が放たれる。

 

 起きた風で髪や服が靡く。

 

 メタグロスはその四脚をしっかりと地面に突き立て、衝撃に備える。グッ!という音が聞こえて来そうなほど力強く。正面には「守る」を。本来タイプ相性で半減される技であるが、あれほど全力で守るのはロベリアへのリスペクトだろう。

 

 最も強く光り輝いた次の瞬間には、光線がメタグロスの眼前まで到達していた。ド!と接触時にそれだけ音がして、ガリガリと「守る」を削る音に変わった。周囲は明るく照らされて、メタグロスの踏ん張りで土が舞い上がる。

 

 地面をズズズ、と跡を残して下がりながらもメタグロスの体勢は変わらない。正面に「守る」を出しながら四足で踏ん張りを。そして数秒、破壊光線の威力がほんの僅かに弱まった。

 

 これなら耐え切れる、とアクロマが次の指示を出そうと口を開いた瞬間。メタグロスが「守る」を解いて反撃に移ろうとした瞬間。

 

 その一瞬、声が響き渡った。

 

「まだまだいけるでしょ!」

 

 呼応するようにポリゴンが強く光る。

 

「もっと強く!もっと!」

 

 ポリゴンZに括りつけた宝石が輝く。光が太くなる。

 

「な……!」

 

 光をメガネに反射している奥で、その怜悧な表情が崩れた。ロベリアは笑った。

 

 アクロマの冷静そうな目を見開かせた。それが爽快で、ロベリアは大きく口を開けて笑う。ターフタウンで手に入れた「ノーマルジュエル」だ。一度に限り、ノーマルタイプの技の威力を大きく向上させる。今まで「シャドーボール」や「悪の波動」で戦っていたのはこれを温存するため。中途半端な攻撃では有効打になり得ないと判断しての使用である。予定外ではあるが、突破できないよりはマシだ。

 

 ジュッ!と焼けるような音がして、メタグロスの「守る」が消し飛んだ。そして同時にメタグロスも光に呑まれた。巨体は地面から捲れ上がり、吹き飛んだ。

 

 倒れて動かない姿から戦闘不能を判断して、アクロマがボールに戻す。それを見たポリゴンZが狂ったように高速で回転して、その喜びを表現している。電子音が踊り、手と尾は止まることを知らず忙しなく動き回っている。

 

「ギンガ団のエース、舐めてんじゃないわよ」

 

「低く見ていたわけではありませんがね」

 

 やや不服そうに、リスペクトは十分だったと主張するアクロマ。ロベリアとて刃を交えれてそれを理解している。決め台詞が言いたかっただけなのだ。

 

「そんくらいわかってるわよ」

 

 まだ上下左右に乱れて動くポリゴンZを抱きしめて頭を撫でた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 5番道路、ターフタウンとバウタウンの間。ワイルドエリアの上に架けられた橋の上で男が目を見開いた。欄干に手を置いて、身を乗り出すようにしてワイルドエリアを凝視する。

 

「あの光は……」

 

 西の方、おそらく「逆鱗の湖」辺りだろうか。深夜にもかかわらず大きな音と光があった。あれほどの出力、並みのポケモンではない。野生のポケモンに襲われたトレーナーが指示したものにせよ、野生のポケモンのものにせよ、いずれにせよ確認しに行かずにはいられない。男はどんな立場でもそうする人間であり、また男の立場からしてそうしなければならないからだ。

 

「俺じゃ時間がかかってしまうな」

 

 男は方向音痴である。だからいつも相棒に任せている。普段は並走していたが、今日は特に急ぎのため「そらをとぶ」で連れて行ってもらう。

 

「リザードン!」

 

「ばぎゅあ!!」

 

 炎が橋を照らした。その背中に乗れば、炎と体温で力強い生命を感じる。男は相棒の調子が絶好調であることを触れて感じながら、光のあった方へとリザードンが羽ばたいた。

 

 




一ヶ月開くまえに更新できてよかったです。しばらく忙しいですが、折り合いをつけてこれからも更新を続けていくつもりです。
いつも評価・感想ありがとうございます。続けられたのは皆さまのお陰です。
読んでくださりありがとうございました。

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