ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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41-ガラル地方で考え中

 

「……取っていただけると嬉しいんですが」

 

 チラチーノが顔に張り付いたアクロマが言う。あまりにもその光景が面白くて、ルリミゾはスマホロトムで写真を3枚ほど撮ってからチラチーノを引きはがした。アクロマは特に気にしていない様子だったが、ルリミゾはとにかく笑って、笑って、倒れこんで「捧腹絶倒」という言葉を文字通り体現していた。

 

「……そろそろ話を進めましょうか」

 

「――ええ、そうね。……ふふっ」

 

 まだ少し思い出して笑うルリミゾを無視してアクロマは続ける。ホワイトボードの横に講師のように立つアクロマ、そしてそれを座って聴くルリミゾ。

 

「まず、ポケモンの能力を引き出すうえで最も知っていなければならないことは、種族、才能、鍛え方です」

 

 そう、二人が集まったのはルリミゾの手持ちのポケモンの強化のため。自身の手持ちのポケモンに関しては一通り生態や特徴、性格などを把握しているルリミゾだが、最善の鍛え方、となると専門外である。能力開発を専門としているアクロマと知り合った以上、使えるものは使おう、という精神に基づいてのものだ。

 

「種族――これは種としての限界のことです。トリトドンがどんな個体でもゆっくりとしか動けないように、ポケモンには生まれた種族によって鍛えられる限界があります。これは(わたくし)が説明しなくても理解されていますね」

 

「そうね」

 

 どんなポケモンも生まれた種族からは逃れられない。ヒトが二足で歩き、言葉を話すように、ポケモンもまた各々の性質と結びついている。極稀に例外はあれど、ルリミゾの手持ちには関係のない話だった。

 

「次に才能、トレーナーも同じです。あなたも今まで才能の壁にぶつかるトレーナーを多く見てきたでしょう」

 

「手を出してからじゃないとわからないのが本当に質が悪いわね。道中で自らの才能の限界に気付くことほど残酷なことはないわ」

 

 そう語るルリミゾ自身、生まれ持った才能に生かされてきた自覚があるため複雑な表情をしている。とはいえ、トレーナーに才能が求められるといっても、手持ちのポケモン6匹は才能を求められるのだろうか。深く考えたことのない問いであったが、アクロマが話題にすることでルリミゾは初めて疑問に思った。その様子をみてアクロマは続ける。

 

「"意外にも"理解力があるようですね。ポケモンにもバトルの才能があれば良いに越したことはありませんが、しかし、バトルで重要なのはどういう種族で、何に長けているかではないでしょうか。それぞれのポケモンが役割を背負って、パーティを組むわけですから」

 

 今一瞬、ものすごく失礼なことを言われた気がしたが、ルリミゾは顔にチラチーノを貼り付けた様子を思い出して耐えた。

 

「……そうね、深く考えたことはなかったけど、その通りね。挙げるならカブのコータスや、ルリナのペリッパーね」

 

「ええ。もちろん彼らとて、同種族の他の個体よりは戦闘が得意なはずですが、一匹だけで二匹のポケモンを倒すなんてことはまずないはずです。もし彼らに戦いの才能がないとしても、あまり変わらないはずです」

 

 話していくにつれて、ルリミゾはひとつのことに気が付いた。

 

「じゃあ、鍛え方と運用が大事ってこと?」

 

「そうです。(わたくし)の研究テーマは――」

 

「「ポケモンの力は、何によって引き出されるのか」」

 

 散々聞いてきたルリミゾが被せるように言う。ふ、とアクロマが笑った。

 

「才能がないので力を引き出せません、なんていうのはおかしな話です。普遍的に力を引き出すことが可能なものを探していますから」

 

「じゃあなんで才能の話をするのよ」

 

 前振りが長い。さっさと要点を聞きたいルリミゾだったが、アクロマの目はそれを許そうとはしておらず、ルリミゾの眉間に皺が寄る。飛びつけ、とチラチーノに指示を出そうとしたところで、アクロマが口を開いた。少し額に汗が流れているのは気のせいではないだろう。

 

「全く才能が必要ない、というわけではないんです。技の覚えの早さ、習熟、そして実戦における直感。そういった部分において才能は大きく関わってきます」

 

「エースを張れるようなポケモンたちは、薄々気付いてたけど才能が突出してたりするわけね。習熟と覚えの早さっていうのは?この子みたいにコツを掴むのがはやいってこと?」

 

 まさに今、ルリミゾの膝元でうつらうつらしているチラチーノがその例だ。チラチーノという種族が覚えられる技をほとんど覚え、かなりの練度で使いこなす。才能と言わずして何になろうか。

 

「はい。技を覚えさせれば覚えさせるほど、各技を出す頻度は減り、習熟しにくくなります。ですから、駆け出しトレーナーには『まずは技を4つに絞れ』と教えるわけなんです。才能があれば多くの技を高い質で繰り出し、様々な状況に対処することができますが、器用貧乏になってしまえば本来の役割すら果たせなくなってしまいますからね。」

 

「なるほどね。この子は覚えが早いから色々教えていたけど、そういうことだったのね」

 

 技マシンを使ったり、ビデオを見せるだけですぐに技の感覚を掴むのは流石のルリミゾも違和感を覚えていた。

 

「育成の効率を上げるためにも、才能を見極め、どこまでの範囲の技に手を出すのか、取捨選択が必要になります。時間は無駄にできませんからね」

 

 なかなかまともなコーチングに関心するルリミゾ。本来ならばルリミゾが頭に入れているべき事柄だったが、無理矢理のし上がって自分の才能だけで暴れていた彼女には難しい話である。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 時間は過ぎて、話題は「力を発揮する状況とは?」ということ。

 

「鍛えても、それを発揮し、開花させるような場が必要です。バトル、コンテスト、野生でのサバイバルでもいいですね。家の中なんて安全な場所で突然ポケモンが力に満ち溢れるわけがないですからね」

 

 もうルリミゾは相槌をしなかった。半分、眠くなって瞼が降りかけていたのもあったが、アクロマが言葉にする前にそういったことは既に昔から五感で直感していた。

 

「その場において、鍛えた以上にポケモンの能力を引き出すもの――絆、恐怖、あるいは個としてのプライド――何が最も良いのかはまだわかっていませんが、どれもある程度結果を残しています。表には信頼関係によって力を引き出すトレーナーしかいませんが、裏にはいくらでもポケモンの命を脅かしたり、恐怖を与えることによって力を引き出すトレーナーがいます。野生にも、いくつもの修羅場を乗り越えた主のようなポケモンがいますからね」

 

 思い当たるのは、ギンガ団のあの胡散臭い科学者――ポリゴンに過剰な改造を加えたり、他にもポケモンに手を加えていたと聞いている――のこと。確かにポケモンたちは改造や調整によって強くなったけれど、無垢なポケモンの意志を無視してヒトが手を加えるのはルリミゾにとって気分良いものではなかった。ルリミゾと協力しているこの目の前の男はきっと自分の知識欲がために躊躇せずに行うだろうけど、と自らの立場の曖昧さを自嘲した。この男は倫理や情熱を解していながらも、それ以上に知識欲が狂っている人間だ。絆の力を信じていながら、理性はそれと反対に徹底的に何が正しいのかを知ろうとしている。倫理を知っていながら、理性的に淡々とそれを踏み越えて知りに行く男だ。

 

「あなたは信頼関係による後押しが最も良いと考えているようですから、その方法を採りましょう。ポケモンたちも実際にあなたを信頼しているようですしね」

 

 アクロマの、おそらく無意識であろう言葉選びからしてルリミゾの推理は当たっていたとみえる。常人であれば信頼関係以外の選択肢など浮かばない。わざわざ「その方法を採りましょう」なんて口から出ないのだ。

 

「では本題です。脅されたとて、普段戦わないポケモンが力を発揮できるはずもありません。それは信頼においても、野生においても同じです。ですから、やはり日常的に鍛えている必要があります。その方法をこれから話し合うわけですね」

 

「やぁーーーーっとね!」

 

 んぐぐ、と伸びをすれば固まっていた身体がパキパキとなって心地が良い。膝の上でチラチーノはすうすうと寝息を立てている。

 

(わたくし)が考える方法はですね……」

 

 態度が一転、身を乗り出したルリミゾを見てアクロマは半ば呆れた顔をした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アクロマが提示した方法論がホワイトボードに書かれていく。

 

①種族・性格・才能をもとに役割分担を明確にする

②役割分担・勝利プランに基づいて鍛える

③実戦で確認

④欠陥、未熟な部分の洗い出し

⑤②へ戻る

 

 この方法論自体は一般的にも有名なものらしいが、それすら知らなかったことを伝えれば奇抜な髪の毛が跳ねるほど驚いていた。

 

「この程度ならば、ジムトレーナーやそこらの少し詳しいトレーナーなら提供できる情報です」

 

「じゃあアンタにしかできない情報提供は?」

 

 間髪入れずに聞き返すルリミゾに少したじろぎながらも、アクロマはドヤ顔で語った。

 

「先ほど才能は目に見えないと仰りましたね。しかし!このアクロママシーンを使えば!なんと!ポケモンの才能を数値としてジャッジすることができるのです!」

 

「!!!」

 

 いまいちアクロマの能力が具体的にわからなかったルリミゾとしては顎が外れるほどの衝撃だった。そしてアクロマもそのリアクションに引っ張られたのか、まるで通販番組かのように自分のアピールを始める。

 

「そして当然!(わたくし)はポケモンの種族それぞれの能力の引き出し方も調べられます!」

 

「やるじゃない!!!!!」

 

 耳を貫通して脳を震わせるような大声にアクロマは一瞬意識を失った。

 

「それぞれの子の性格はあたしがよーく知ってるわ。あとは実戦の傾向からして、得意な戦い方、つまり役割分担もわかるわ。アンタには才能と、鍛え方を任せる。そしてこの――ホワイトボードに書いてくれた――サイクルを回せばもっと強くなれそうね」

 

 とにかく実戦ばかりしていたルリミゾからすれば、劇的な変化だ。ポケモン達も驚くに違いない。

 

「今まで、やはり実戦ばかり試していたんですね……」

 

「……そうよ」

 

 呆れたような声のアクロマだが、ルリミゾとてバトルを生業とし始めたのはつい最近である。ポケモンのエサだって基本は好みに応じて与えていたし、実戦以外の鍛え方などもってのほかである。一般的にポケモンそれぞれの独自のトレーニング方法なんて知られていないし、そういった鍛え方をするのはどこかに所属して施設を与えられたトレーナーだけである。ルリミゾもその一人ではあるのだが。

 

「ジムトレーナーはどうしていたんですか」

 

「あいつらは施設を使って色々してたみたいだけど、あたしに一回も勝てないし基礎から鍛え直してるもんだと思ってたわ」

 

「……そうですか」

 

 これ以上深くは聞かない、いや聞きたくないらしい。

 

「太りやすい木の実――ザロクやネコブ――他にも色々ありますが、そういうのは与えてませんよね?」

 

「ええ。流石にそのあたりは知っているわ。でも一般的に知られている通りに食べ物を与えてるのよね。そこも何か変えるべきなの?」

 

「そうですね。まずはチラチーノのメニューから考えましょうか。あ、その前にアクロママシーンで才能を見てみましょうか」

 

 いよいよプロ――ポケモンバトルだけて食っていく人間――らしくなってきた生活に、自然と口角が上がった。

 




アクロマはコーチやアドバイザーのような立ち位置のつもりです。彼ならジャッジ機能ぐらいは作れるでしょうし、鍛え方も理解しているはず、だと思いたいです。
私が抱いたアクロマのイメージは、「善人寄りの人間だけどそれ以上に真理が知りたい人間」というイメージです。ポケモンを無理矢理従えているであろうゲーチスがあれほど強く、また伝説のポケモンを機械で無理矢理動かして世界が滅ぶことから、絆以外の要素を科学者として確かめられずにはいられないんでしょうかね。
いつも感想・評価ありがとうございます。ほんとうに励みになります。
今回も読んでくださりありがとうございました。

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