ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
ラテラルスタジアムの中心、大歓声のなか佇むルリミゾ。入念にストレッチした身体は内側からの熱で暖かい。観客の熱狂で地面が、身体が震えるのを感じながら腕を組んでいる。以前なら一つ一つの動作に気を付けていたけれど、素顔を晒した今更気にすることはない。
「来たわね」
裸足でゆっくりとフィールドへ入場するのは本日の対戦相手、サイトウ。緩慢な一歩一歩は、しかし闘争へと向けて濃厚な闘気を放っている。ルリミゾが無意識に腕組みを解いていたことに気付いたのは、サイトウが目の前に立ってから。
(目つきが変わってる)
以前、ロベリアに敗北して以来鍛え直したのだろう。何かを乗り越えたような目に、落ち着いた佇まい。それを示すように今期のサイトウはネズに勝利している。
「不思議と、あなたの試合を観ていると熱くなってしまいます」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「心を平静にして戦う、とは言いません。熱くなっても、あなたから勝ちを貰います」
心が揺れないよう戦おうとしていたあの日とは違う言葉。思わずルリミゾも笑って返した。
「光栄ね。お互い楽しみましょう」
「お手合わせ、よろしくお願いします」
ガラル空手流の挨拶、掌に拳を押し付けて一礼。ルリミゾは特に礼の仕方なんて決めていなかったので、そのまま踵を返して所定位置へと歩いた。尊敬と礼儀は戦いの中で示せばいいと思っているからだ。
「一番手、よろしく頼むわね」
すぅ、と息を深く吸い込んで、ゆっくりと吐く。審判の合図を待ってから、手に持ったボールを投げた。
「試合開始ィ!」
スタジアム柄か、やけに声を張って気合の入った開始の合図だった。
「バイウールー」
「タイレーツ、行きましょう」
拳を突き出して、演舞のように滑らかに投擲されたボールからはタイレーツ。
「
全身で「伸し掛かり」、麻痺を狙う。これまでの試合では毎度積極的に「コットンガード」を積んできたが、ここでの攻勢は新しい変化だ。
――しかしサイトウの表情に一切の変化はない。
「背水の陣」
タイレーツがV字に広がり、ゆるり、と舞う。それに合わせてサイトウも拳と足を動かし、一分の隙も無い舞いを舞う。タイレーツから力強いオーラが放たれ、
「メェエ!」
バイウールーがその身体で押しつぶそうと迫り来る頃には、舞いが完了していた。ぐぐぐ、ともふもふが伸し掛かる中、タイレーツは必死に押し返して抵抗する。攻撃の為に近付くということは、逆に相手の射程に入るということ。ぶわっ、と何かを全身で感じ取ったルリミゾは思わず叫ぶ。肌が粟立ち、心臓がギュッと締め付けられる。
「ッ!『コットンガード』!」
一瞬サイトウから漏れ出た殺気。咄嗟に攻撃技が来ることを直感して守りの指示を出す。バイウールーの体勢、素早さからして回避は間に合わないと判断して「コットンガード」。完全に遂行することは叶わずとも、ある程度衝撃を和らげることはできると判断している。サイトウの一声で五匹からなるタイレーツは一斉に拳を溜める。その短い手足からは考えられないほど力強く、時間をかけて。
(攻撃技じゃない……!)
予想に反して来ない攻撃に「コットンガード」が完遂される。殺気はブラフで、タイレーツが繰り出したのはおそらく積み技。ルリミゾは面食らって、思わず「はぁ!?」と叫んだ。それを見て
(あの構えは『ビルドアップ』や『剣の舞』じゃないし、『背水の陣』はもう使ってる。『鉄壁』にしては攻撃的な構えが過ぎる……)
思考を可能な限り高速で巡らせる。思い当たる積み技が候補からどんどん外れていく。「コットンガード」を許しても、突破できるような積み技。
「『気合い溜め』……!」
それは、会心の一撃を狙う技。集中力を極限まで高め、技の一撃一撃の質を高めようとする試み。実戦で使うにはあまりにも不確実で、並外れた集中を要することから誰も使っていない技。様々な技の候補を探るルリミゾだからこそ正体を見破れた。
――そして、今度こそ攻撃だと真に確信する殺気。
「『
指示が間に合ったのは幸運だった。叫ぶより先、溜めた拳がまさに解放されんとしているのを殺気で直感したから。回避は元より不可能。
「インファイト」
拳の荒波が来る。凪のような静かなサイトウの声に反して、6×2の拳の暴力がバイウールーを打つ。増え溢れるもふもふを貫通して、ひとつひとつの拳が音を立てて打ち込まれていく。
――
あらゆる能力変化を無に帰すほどの衝撃に、バイウールーはぐらり、と揺らぐ。
「メ……」
――されど倒れず。
「ワイルドボルト!」
飛びかけた意識を手繰り寄せて、ボロボロの身体で放つ渾身の雷。短い手足で殴っていたタイレーツに直撃して距離が開く。サイトウは即座にバイウールーを刈り取る指示。立て直す暇を与えず、このまま押し切るためである。「堪える」でなんとか耐えたとはいえ、バイウールーは一撃を受ける体力も残っていない。
「岩砕き」
接近すれば「ワイルドボルト」による時間稼ぎがある。だから、岩を砕いた破片で攻撃するための「岩砕き」。
――しかし指示に反してタイレーツは動かない。
「この子はあんまり器用じゃない。でも、何度もやれば麻痺だって狙えるのよ」
「麻痺……!」
最初の「伸し掛かり」で既に麻痺しかけていたのだ。至近距離で「ワイルドボルト」を浴びたことによって今、麻痺の症状が現れた。バイウールーがよろよろと走り出す。タイレーツは何度も立ち上がり動こうと試みるが、がくがくと転んでしまっている。
「起死回生」
まさにこの状況を現わす技だな、なんて思いながらルリミゾはその技の名前を口にした。自分の体力が少ないほど、大きな威力を出せる技。
「行けえええええッ!」
バゴ!と生物同士が、ましてやバイウールーがぶつかったとは思えない音が鳴って同時に二匹が崩れ落ちる。
「両者戦闘不能ッ!」
クセのある審判が判断を下す。同時に歓声が起こり、スタジアム全体が揺れる。
「……ふぅ」
タイレーツに一方的に積みを許してしまったにもかかわらず、相打ちまで持っていけたことは大きい。「背水の陣」から「気合溜め」まで積んだタイレーツが生き残れば後続にどれだけ負担が掛ったか想像したくもない。
「鍛え直した甲斐があったわね、お疲れ」
「楽しみながら、正確な判断を下すのは難しいですね。次は上手くやりましょう」
お互いポケモンを労わりながらボールに戻していく。「伸し掛かり」や「ワイルドボルト」を連打することで相手を麻痺させるのは、アクロマから提案された新しいスタイルだ。「電磁波」をバイウールーという種族は覚えるが、あまりルリミゾのバイウールーは得意ではなかった。「コットンガード」以外の戦術がなければ、今回のように積み技や挑発で簡単に潰されてしまう。アクロマを育成面のコーチとしたのは正解だったといえる。
「すぅ……」
目を閉じて、再度集中を図るサイトウ。流れに乗ることと、調子に乗ることは違う。凪いだ状態で戦えば、不調好調問わず実力を発揮できる。その一方、流れに乗って戦えば、好調そのまま押し切ることもできる。使い分けが大切だな、と自戒して心を静めた。
「ルカリオ、行こう」
全力投球。繰り出されたのはルリミゾのパーティにとっての天敵。唯一まともに組み合えるのは――
「思う存分空を駆けなさい」
ウォーグル。しかしルリミゾはこの場面でルカリオが出てくることを想定していたわけではなく、ウォーグルで数的有利を獲りに行くことだけを考えていた。
「――バトル開始ッ!」
声が響き渡った。
薄明の翼、観ました。ああいう補完は本当に嬉しいですね。
今回も読んでくださり本当にありがとうございます。毎度感謝です。
感想・評価いつもありがとうございます。励みになります。
少し短いので、もし余裕が出来たら続きをペースはやめて投稿出来たらな、と思います。言うだけならタダですし、決意のために書いておきます。
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