バイウールーとタイレーツが相打ち
これからウォーグルvsルカリオ
~あらすじおわり~
「空を飛ぶポケモンの弱さは――攻撃の単調さです」
解説のカキタが話し始める。
「棒立ちの殴り合いは当然不可能ですし、空から勢いを付けて攻撃することしかできません。ですから、特殊技で戦うファイアローや絡め手を使うエアームドが評価されるんです。以前キバナ選手にウォーグルが撃墜されていたように、上手いトレーナーとポケモン相手には対処される傾向にあります」
ウォーグルがいま身を置いているのは野生における狩りのような奇襲でもなく、一対一の平地でのバトルだ。ルカリオとサイトウは一瞬たりとも空を飛ぶウォーグルから目を離さず、迎撃のチャンスを窺っている。
「今、その変化を試されているわけですね」
「はい。サイトウ選手は、格闘タイプの使い手ゆえに飛行タイプのポケモンの対策に一番詳しいと言っても過言ではないでしょう。それを上回れるかどうか、ということです。単に飛行タイプを当てれば良いという単純な話でプロの世界は成り立っていません」
ジムリーダーが特定のタイプのポケモンしか使わないのは、イメージ戦略や規定というわけではない。
「行けッ!」
ルリミゾが叫ぶ。
――しかし、空にいるウォーグルに届いた指示はサイトウとルカリオにも筒抜けである。スゥ、と呼吸を整えて一声。それだけで指示は事足りる。
「気合パンチ」
それは。
まず成立しない技。多大な集中を要し、必ず後手に回るほどの時間、集中を重ねなければ撃てない技。その威力は「ギガインパクト」「破壊光線」と同等。反動が無い代わりに、前提が重すぎる技。
「『気合パンチ』だ!やるのか!?あのウォーグル相手に!?間に合うのか!?」
経験からその技が「気合パンチ」であると見抜いたミタラシが盛り上げる。要点を短く、大きく声を張り上げて。全ての人に伝わるように。
「彼女はポケモンと共にワイルドエリアで鍛錬をしていると聞きます。もしかしたら、もしかするかもしれませんよこれは……!」
解説としての下調べも当然カキタの仕事である。サイトウはワイルドエリアに籠ってポケモンと組み手をすることすらあるという。そんな彼女なら、ウォーグルが届くより先に「気合パンチ」の集中を完了させるよう仕上げていることも考えられる。
――コォォォォ、という音が聞こえた。風のような、空気がどこかを動く音。心当たりはただ一つ。ルカリオの口から呼気が漏れている音。高速で動くウォーグルを
「今だッ!」
ウォーグルが図ってか、図らずか、太陽と重なるその瞬間。ルリミゾが声を張り上げる。ルカリオはただ目で追っていたが故に、
そうして両者が衝突する瞬間、観客が同時に息を飲んだ。
「なッ!?」
ルカリオの渾身の一撃は――空を切った。
確かにそこにウォーグルがいた。目視したウォーグルの姿があった。真っ白になったルカリオの頭が動き始めるその前に、
「ガードじゃない、離れろッ!!」
――が、サイトウの声虚しく次の瞬間、ルカリオは気持ち悪いくらいの浮遊感と風切り音に包まれた。
「ウォーグルがルカリオを掴んだッ!どんどん空へ上がっていくーーーーッ!」
ミタラシの声が響き渡る。観客席よりも高く、高く。そうしてスタジアムを飛び越えた瞬間――ルールで規定された飛行範囲のギリギリに――落下を始める。掴まれたルカリオは抵抗を試みるが、狩られた獲物に自由はない。生物として、種としてのウォーグルの勝ちの体勢。獲物を掴み、空へと連れ去るかたち。
「『フリーフォール』だ!ガラルで見られるなんて!」
相手を拘束して空へ連れ去った後、急降下して地面へ叩きつける技だ。そう、連れ去るという行為にガードは意味をなさない。
「慌てるな!『鉄壁』から受け身だッ!受け身を取れッ!」
サイトウが必死に叫ぶ。「フリーフォール」に捕まったが最後、ルカリオでは暴れて逃れることができない。捕まっている体勢から暴れられる技をルカリオは持っていない。だから、今できることは『鉄壁』で防御を上げて備えること。そして投げられた後の受け身で少しでもダメージを軽減すること。
「あはは!引き摺り回せ!」
嗜虐心の刺激されたルリミゾが歯を出して笑う。受け身なんて取らせない。斜めに滑空したウォーグルが加速し――ルカリオを手放さない。
――ズザザザザ!と地面を抉りながら、跡を作りながら引き摺る。衝撃でルカリオの口から息が押し出される。
一直線に地面が抉れ、やっとウォーグルの動きが止まる。あまりの衝撃に観客は静まり返り、悲痛な面持ちでフィールドを見る。ルカリオを開放し、ウォーグルはルリミゾの下へと戻っていく。勝利を確信したからではない。地面に着いたルカリオから反撃の気配を察したからだ。
「ルォ……!」
全身ボロボロになりながらも、ルカリオは立ち上がる。鋭い目でウォーグルを見据えながら。
「よく耐えた……!」
サイトウが感傷的に叫ぶ。呻るルカリオと共に、もう一度。
「しぶといわね」
「クァァ」
ルリミゾとしてはフェイントを織り交ぜた今の動きで仕留めたかった。何度も通用する技ではないからだ。わしゃわしゃとウォーグルを撫でながら、次の作戦を伝える。
「いい?次はね――」
「ルカリオが『気合パンチ』を空振りしました。衝突の瞬間、ウォーグルの姿がブレたように見えましたが、何があったんでしょうか?カキタさん」
「『影分身』です。一瞬先に『影分身』を先行させたんです!」
カキタが解説する。「影分身」の条件は
「『影分身』といえば、相手の攻撃を躱すために偽物を大量に作るイメージですが、こんな使い方もあるんですね」
「技の使い方がほんとうに多彩で面白いことをしてくれますね、彼女は」
まさに「型破り」なルリミゾには普通の対策は通用しない。絡め手ができないほど攻めるか、より柔軟な発想で上回るかだ。
「しかし冷静に『鉄壁』を指示したサイトウ選手も素晴らしい判断です。上手くやられたとしても、いかに被害を抑えるかが大事ですからね」
「速い判断でしたね。あの空中で拘束された状態ながら『鉄壁』を完遂して耐えたルカリオも非常に良いプレーでした」
「先手を取ろう!『ストーンエッジ』!」
ルカリオが地面を砕き、岩を飛ばしてウォーグルへ。
「暴風」
対するウォーグルは大きく翼をはためかせ、「暴風」を放つ。命中率こそ低いもの、その風は「ストーンエッジ」を押し返し、むしろルカリオへと――
「「速いッ!!」」
カキタとミタラシが声を上げたのは同時。ストーンエッジが返った先には
「インファイト」
既にルカリオは射程の内側。鍛え上げられた打撃が炸裂する。ドドドドッ!とラッシュでウォーグルを吹き飛ばし、即座に「波動弾」までチャージして発射、追撃を狙う。
「上に回避!そこから――」
ルリミゾとて黙って見ているわけではない。回避の指示、そして反撃の糸口を掴もうと――
「スカイアッパー!」
「ッ!」
間髪入れずの追撃。息つく暇も与えない攻撃。大きく飛び上がったルカリオは右拳を上に突き出し、上へと駆け上がる流星のよう。
ルリミゾはその攻撃に、
「――やっと空に来てくれたわね」
空は。
ウォーグルが土俵。そこに翼を持たないポケモンの居場所はない。
「インファイト」
既にウォーグルは力を込めて足を振りかぶっている。ラッシュというよりは、渾身の一撃。空への愚かな侵入者を叩き落とす。高速で地面へと突き刺さるルカリオ。
効果は抜群だ。
「ルカリオ戦闘不能!」
――その審判の声と同時、ウォーグルの居た場所が青く弾けた。
「『波動弾』は必ず命中する……!ありがとう、ルカリオ……!」
ラッシュの後に追撃で放っていた波動弾。薄れゆく意識の中でルカリオがコントロールしていたのだ。悔しそうに顔を歪めていたサイトウだったが、報いた一矢に口角を上げた。
「今、ウォーグルの体勢の立て直しが異常に早くなかったですか?」
「ええと、確かにそうですね。回避のために上へ飛ぼうとしていたハズですが、即座に反撃に移りましたね」
ミタラシが疑問を呈する。あの瞬間、攻めていたのはルカリオだった。逃げに回ったウォーグルに「スカイアッパー」が突き刺さると誰もが思った瞬間だった。
「おそらく、相手が『スカイアッパー』で追撃する瞬間のために反撃手段を用意していたように思われます。回避というよりは、『スカイアッパー』を誘っていたのかもしれません。過去の試合であのルカリオは何度か『スカイアッパー』を使って撃墜していますから」
「相当研究しているということですね……」
「相手へのリスペクトを欠かさない、素晴らしい一手でしたね」
「大丈夫?まだ戦えるわよね」
「クァ」
やれるとも、なんて表情のウォーグルだが、傷は多い。どう繋ぐのかのプランを考えているところで――
「クァア!」
鳴き声に引き留められる。目には強い意志。もう一匹、持っていけると言わんばかりの気迫。
「……そうね、まだやれるわね。やってやろうじゃない。信じてるわよ」
返事はなかった。力強く羽ばたくことが何よりの返答だったから。
波動での察知には別途で長い集中を要する、ということで考えています。波動で全部わかったらバトルであまりにも最強ですから、気持ちを察知してもスピードによっては対処を考えるより先に攻撃が来たりとか、いろいろあるのかなあって思いますね。相手のトレーナーの考えを波動で読みながら相手のポケモンの動きを波動で察知したら無敵ですね。
先週の決意表明はなんだったんだってくらい遅れてしまいました。無理せず自分のペースで頑張ります。
感想・評価ありがとうございます。
いつも読んでくださり本当にありがとうございます。
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