ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
イエッサンvsローブシンです。
カウントは3-3、互いにダイマックスはまだですね。
【まえがきおわり】
「サイトウ選手は恐らく今、悩んでいます」
カキタが言う。真剣な目つきでフィールドを見つめては、ルリミゾとサイトウ両者のポケモンのデータを眺めている。
「えぇっ、今ですか!?3-3でイエッサンが出てきただけじゃないんですか?」
今までプロの試合を観続けてきたミタラシとしても、カキタの言う意味はぼんやり理解している。しかし視聴者の為に詳しい説明を続けられるよう質問をした。フィールドはカキタが言った通り、サイトウが悩む素振りを見せている。
「ルリミゾ選手の残りはイエッサン、チラチーノ、カビゴンですね。カビゴンを出さないのは相性からでしょう。おそらく最後まで出さないと思われます。つまりですね……」
「ダイマックスするポケモンがイエッサンしかいない、と!」
カキタの言いたいことを先取りしてミタラシが言う。カキタがじと、と丸眼鏡越しに見つめる。ミタラシは笑って続きを促す。
「その通りです。チラチーノでダイマックスしてしまえば、回避中心でヒットアンドアウェイの戦法が取れませんからね。ルリミゾ選手は今まで一度もチラチーノでダイマックスしていませんし」
「では、サイトウ選手もダイマックスすればいいのでは?」
ミタラシの疑問は当然だ。実際、バトルをあまり観ない視聴者は同じことを考えている。サイトウのファンや、リーグを通して見ているコアな視聴者は理由に思い至っているが。
「――サイトウ選手はこれまでの試合、カイリキーでのダイマックスがほとんどです。それだけ彼女を信頼しているのでしょう。ですから、サイトウ選手がどう選択するか見どころなんです」
また変化を加えてくるのか、それとも今まで通りカイリキーまでダイマックスを温存するのか。
――サイトウがダイマックスをカイリキーばかりに使う理由は、信頼だけではない。ダイマックス状態としての戦闘経験、技の練度、そしてパーティ内での役割、全てから最善と判断してカイリキーをダイマックスしている。しかし、この状況でローブシンがダイマックスしなければイエッサンに突破されるのは目に見えている。
(全部言い切るには時間が足りなかったな)
カキタがそう思いフィールドを見れば、サイトウが巨大化したボールを構えていた。既にミタラシがマイクに向かって叫んでいる。話す内容を纏めないとな、と思いながらカキタは深呼吸をした。
「尊敬を込めて」
サイトウが小さく呟いた。
「全て、壊しましょう――」
ローブシンをボールに戻し、流れるような動作で武の舞を。そうして祈るように巨大化したボールを祈るように抱えて、全力で投擲した。
「ダイマックス!」
ほぼ同時、ルリミゾも動いていた。
「あたしは、後には退けない――」
静かに、覚悟を確かめるようにルリミゾが言う。イエッサンのダイマックスはサイトウに読み切られていることだろう。イエッサンをボールに戻し、笑いながら数度コツコツと叩いた。
「なんてね」
――そして、
「ウォーグルはね、勝利を望んでいたの」
悪戯が成功した子供のように。
「正面から殴り合うことが礼儀じゃないのよ」
繰り出したのは、居眠りポケモン――カビゴン。
実況席は静まり返っていた。
「ウォーグルが追い風を遺したんだぞ……?どうしてそんなプレーが思いつくんだ……!?」
情に囚われず。
勝利だけを。
歪なカタチの笑顔がハッキリと見えた。
「笑ってる……」
託された追い風を使うことなく。それすらも勝負に出ると見せかけるための餌にしてサイトウを誘っていたのだ。勝利以外の何物でも目的は達成されないと言わんばかりのプレーだった。
「……追い風、加えてタイプ相性の有利なイエッサンを後出ししたこと。ここまで来れば誰もがダイマックスを切ると思い込みます。私たちもそうですね」
「カビゴン、を――肉壁に、するつもりですか……?」
意図に気付いたミタラシが、言葉に詰まった。
「どっかの誰かに影響されたらしくてね。どんなカタチでもいいから、一番になりたいんだって。うちのコたちは」
脳裏に
「それに応えるのが、トレーナーの役目でしょ」
手を貸してもらっているのはどちらだったか。ルリミゾも、ポケモンたちも、覚えていない。
ただ、一位を狙っているだけだ。
・・・
「――いい加減……」
サイトウの額から汗が流れる。焦りからか、やけに心拍の増した身体を動かしながら。
「倒れろッ!!」
叫び声と共に、渾身の「ダイナックル」が降り注ぐ。もうダイマックスしたローブシンに時間は残されていない。
これで三度目。
「ぐおおおんっ!」
カビゴンはあちこちに傷を作り、殴打の痕が痛々しく残っている。
――しかし、倒れない。
そして返しに一撃、全身を使ってローブシンにぶつかり――
大きく地面を揺らしながら仰向けに倒れた。
「カビゴン戦闘不能……ッ!」
審判が告げる。同時にルリミゾの背から吹いていた風が止む。
「……ありがとう。『恩返し』なんて粋な技使ってくれるじゃない」
最後に撃ったのはノーマルタイプの技「恩返し」。トレーナーとの絆が強いほど、威力を増す技。巨体をボールに戻したあと、手の震えに気が付いた。
――緊張。
全身が固まるような錯覚を覚える。
「あはは、今更緊張するなんてね」
柄にもなく。繋がれたバトンをこんなカタチで運用したからには、「負けてもスッキリした」なんて口が裂けても言えない。ポケモンたちの全てをルリミゾは背負っている。
「――大丈夫。勝つわよ、イエッサン」
すっかりと焦りの表情に支配されたサイトウを見据えながら、ボールを投げる。
「ッサン!」
珍しく吠えながら。愛らしい外見には異質な闘気が溢れ出している。仲間のバトンを勝利というゴールまで運ぶために。ルリミゾの感情がビリビリと伝わっていることだろう。すっかりルーティーンと化してしまった口上を述べる。
「あたしは、後には退けない。この勝負も、これからも」
不退転の意志を。
「ダイマックス」
両手でボールを抱え、軽く
――巨大化したのは感情ポケモン、イエッサン。
サイトウは焦っていた。
(完全にダイマックスをスカされた……!)
加えて、今まで死んでいたカビゴンというカードが役目を得たこと。カウントこそ3-2でサイトウが有利なものの、実情はダイマックスを残したイエッサンとの対面だ。
「守るッ!」
ローブシンに出したのはガード技「守る」の指示。ダイマックスしたイエッサンからは「ダイサイコ」が迫る。空間を歪めながら、ローブシンを破壊せんと迫る。
「オオオオオッ!」
張った障壁ごと吹き飛んでいくローブシン。が、その結果はわかりきっていたこと。なんとかその時間で精神を立て直そうと目を閉じる。「守る」などの技でもダイマックス技は防ぎきれず、ダメージを低減する効果しかない。辺りが不思議な感じに包まれ、「サイコフィールド」が展開されていく。
「まだまだ『ダイサイコ』!」
ルリミゾの叫び声が通る。
「立て直してもう一度『守る』!」
サイトウもなりふり構っていられない。二連続の「守る」は失敗率が高いが、ダイマックスを凌ぐには他に方法がない。
――しかし、ローブシンは腕をクロスするのみで障壁が展開できない。
「失敗……ッ!」
目に見えるほど空間が大きく歪み、ローブシンの周囲をベゴ!と凹ませながら念波が到達した。
「ローブシン戦闘不能だァーーーーッ!完全にルリミゾ選手のペースです!イエッサンが止まらないッ!」
「あの大がかりな誘導の成果ですね。ダイマックスの残っていないサイトウ選手はとにかく守りに徹するしかありません」
これはルリミゾがダイマックスをスカした時点で決まっている展開だ。問題はメンタルの勝負であるトレーナーが立ち直れるかどうか。実況席のモニタから見るサイトウの目は忙しなく動き、呼吸も浅い。
「ええと、サイトウ選手に勝ち目はあるのでしょうか?」
「あのプレーから、ここまでは仕方ないと割り切るしかありません。あとは、どれだけ逆転の芽を作り、掴み取れるかです。次のポケモン――ルチャブルですね。ルチャブルが落とされるまではもう仕方がないです。ですから、カイリキーで二匹を倒すためにメンタルを回復することが必要です」
同時にカメラがサイトウへと向かう。
――ルチャブルを繰り出したものの表情は暗く、感情を隠さなくなったことが裏目に出ている。プラスにもマイナスにも振れない無心であれば、今の状況に冷静に対応出来ていただろうけれど、クリエイティブなプレーは生まれていなかっただろう。
難しいものだな、なんて思いながらミタラシは実況を続ける。
「サイトウ選手、立て直せるでしょうか!ファンの声援が響いています!」
「さあ、あと二匹よ」
「――イエエエエッ!」
イエッサンはより昂り、「ダイサイコ」が放たれる。サイコフィールドの広がっている今、「ダイサイコ」の威力は大きく上昇している。
「……『守る』!」
対するルチャブルは同様に「守る」。耐えきって少しでも傷を残せれば御の字と考えているのだろう。
「舐めんじゃないわよ!潰せッ!」
トレーナーに動揺は許されない。否、正しくは「折れることが許されない」。どれほど動揺しようとも、常に最善手でポケモンと共に戦わなければならない。
(そんなカオでポケモンが全力を出せるわけないでしょ)
以前の自分がチラついて苛立つ。ルリミゾはいつかの入れ替え戦を思い出しながら、同じ失敗をしているトレーナーを見て舌打ちをした。
――ルチャブルの「守る」虚しく、「ダイサイコ」は威力を増して全てを薙ぎ払っていく。上下左右、天と地が逆さになるほどに身体を揺さぶられる。捻じ切れるような、内側から破裂するような、外側から押し潰されるような、切り刻まれるような。
そうしてルチャブルは気を失った。
「ルチャブル、戦闘不能ッ!」
「――ッ!」
目を見開いて硬直するサイトウ。
(見てられないわね)
始めからずっと集中して、無心で臨んでいたなら。
きっとこの動揺は生まれていなかったのだろう。感情の振れ幅は、プラスだけではない。
「カイリキー、お願いしますッ!」
ボールから出すと同時、目を閉じて再度の集中を試みるサイトウ。が、ルリミゾはカイリキーの動きに目を見開いた。
「ソイッ!」
ぱしぃぃぃん!と音が響いた。カイリキーがサイトウの背中を叩いた音だ。
「ッたぁ!?」
思わずサイトウは目を開いて前に倒れそうになる。瞬きしながら状況を理解できずにいるサイトウにカイリキーが力強く鼻息ひとつ。
「フンッ!」
カイリキーが四本の腕であちこちを指さす。
――観客を。
「サイトウさーーーーん!頑張れーーーーッ!」
「逆転だーーーっ!」
「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」
――サイトウの腰に留めた4つのボール――タイレーツ、ルカリオ、ローブシン、ルチャブル――を。
――カイリキー自身を。
鍛え上げられた肉体にはあちこちに傷が。そのどの傷も、サイトウはいつの傷か思い出せる。共に進んできた相棒だ。
――そして、サイトウを。
「……ありがとう」
伝えたいことは、伝わった。心の震えは収まった。
・・・
「厄介ね」
イエッサンは時間切れでダイマックスが解けている。しかしサイコフィールドは持続しており、「マッハパンチ」が飛んでくることはない。何が厄介なのかといえば、サイトウが立ち直ったこと。エースのポケモンと覚悟を決めたトレーナー相手は手強い以外の形容ができない。
「調子付かれる前にさっさと締めるわよ」
「イエッサ!」
放つのは「サイコキネシス」。カイリキーに狙いを定めて――
カイリキーが目の前まで現れたのは同時だった。
「速いッ……!」
「サイトウ選手がどうしてカイリキーに絶対的な信頼を置いているのか。答えは簡単です――」
「強いからです」
「メンバーでいえば、ルチャブルも昔から連れています。他にもパーティからは外れましたが、サイトウ選手と長い付き合いのポケモン達はいます。カイリキーは、付き合いが長いだけじゃないんです。一番鍛え、一番期待に応えてくれるんでしょうね」
「確かにその通り、凄まじい連撃です!ラッシュ、ラッシュ、ラッシュだぁーーーっ!イエッサンも『サイコキネシス』で応戦しますが、押し返しきれず距離を詰められています!」
まさに「ノーガード」で撃ち合うイエッサンとカイリキーを見ながら、カキタが解説する。
「『爆裂パンチ』は普通ほとんどヒットしません。力をありったけ込めますからね。しかしあのカイリキー、『ノーガード』と呼ばれるような個体は例外です。超近接での殴り合いを好み、回避を捨てて殴り合いに持ち込む以外の戦い方をしないんです」
イエッサンの放つ「サイコキネシス」で揺さぶられながらも、カイリキーは膝をつかない。連撃を入れるために距離を詰め続け、グルグルとフィールドを回っている。
「おっと、イエッサンの様子がおかしいぞッ!?」
ミタラシが実況を中断して叫ぶ。突如足がふらふらと回り、目が回り、明らかに焦点が合っていない。
「『爆裂パンチ』はあまりの威力に相手が混乱してしまうんです……!本当にどうなるかわからなくなってきましたよ……!」
「あたしを見ろッ!イエッサンッ!」
ありったけの声で叫ぶルリミゾ。焦点の合わないイエッサンは、酔っぱらったかのようにフラフラしながらあちこちに「サイコキネシス」を放っている。なんとかカイリキー近くを掠めたおかげで再び距離が開いたものの、混乱を確認したカイリキーは即座に距離を詰めに走るだろう。
「イエエイ?」
指示が通じていない。
「今だッ!詰めろ!」
サイトウが叫び、カイリキーが走る。
「……!」
追い詰められたルリミゾは。
髪をかき上げ、ふぅ、と一息ついて。
記憶を探る。それも、はるか遠い故郷の記憶を。
「あたしは帰るんだ……ッ!」
――感情の昂り。
感情ポケモンであるイエッサンは両角で人の感情を察知する。
そして。
「ッサン!」
強い感情を受けたイエッサンは正気に戻っていた。ハッキリと、迫るカイリキーを見据えて「サイコキネシス」を放つ。カイリキーはすでに四腕でパンチを放つ体勢。
「進め!撃ち込め!」
サイトウはそれを後押しするのみ。
「後ろに下がりながら撃て!」
ルリミゾも放つ言葉はほとんど変わらない。共通しているのは――
「「負けるなッ!!」」
それだけだった。
そして。
「――戦闘不能ッ!戦闘不能ですッ!」
ミタラシが叫ぶ。
「
「本当に、わからなくなってきました。ここはサイトウ選手のホームです。この歓声、この熱量、この展開。何があってもおかしくないです」
実況解説である二人は、これまで逆転劇は何度も見てきた。そのどれとも遜色ない美しい展開だった。
サイトウはほっとしたような笑顔を浮かべながら、
「……!」
この切迫した戦況ゆえに、カキタはいちいち触れなかったが、サイトウが試合中にポケモンと一緒に喜び回っているのは異常事態である。
「ええと、最後のポケモンは……」
ミタラシが疑問を呈する。
「ルリミゾ選手が繰り出すのは万全のチラチーノですよね、いくら流れが来ていても消耗したカイリキーでは厳しくないですか?」
「確かにチラチーノは無傷です。しかしカイリキーの特性を思い出してください。そしてタイプ相性も」
「――ノーガード……!格闘タイプの技はチラチーノに効果抜群ですね……!チラチーノは回避し続けることができるんでしょうか?」
いくら距離を詰めて殴るのが得意とはいえ、吸い込まれるように当たるわけではない。あくまでもパンチをほとんど外さない、回避すらさせないというのが本質だ。
「あのチラチーノならもしかしたら、と思わなくもないですね……」
非常に小柄かつ、毛量が多く芯を捉えにくい身体である。
「結局アンタまで回ったわね」
「ぐふ!」
チラチーノはルリミゾの肩に乗って尻尾を巻きつけながら、戦術の方向性の話を聞いている。
見せ場は最後に、なんて意識しているつもりはなかったが、自然とエース対決の構図が出来上がっている。
「あいつは近接の撃ち合いで異常に精度が良いわ。あまり回避に集中しない方がいいかも。かわりに一切回避をしないから、攻撃は狙わなくても簡単に当たる」
「ぐふぐふ」
「それにしても……」
辺りを見渡せば、ほとんどがサイトウの応援ばかり。居心地が悪い、とは言わなくても感じるものがある。それに影響されるほどヤワではないと思っていたルリミゾだったが、影響がないとは言い切れないほどの会場の圧に気持ち悪さを感じていた。
――と、視界の端に奇妙な髪形が見えた。
「あれ、アクロマ……?」
周囲の熱狂との空気感の差から、めちゃくちゃ浮いている。髪型の奇妙さも相まって。コーチとして雇ったからには映像をチェックしていると思っていたが、まさか実際に観に来ているとは思っていなかった。
――それから、ルリミゾは自分でも何故そうしたのかわからないほど無意識に、観客席に見知った顔を探した。
「「「ルリミゾさーーーーん!」」」
キルクスの住人がひと固まりになって小さな白色を作っていた。街中で一緒に写真を撮った少女、声をかけてくるおっさん、ステーキハウスで見かける家族連れ。
「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」
――他にもちらほらと、白色のユニフォームを着たサポーターが、やけに目立って見えた。サイトウカラーであるオレンジ色の横断幕や旗、ユニフォームに混ざってぽつぽつと。
応援から、力を貰う。
「どんなツラで歓声を受けりゃいいのよ……」
ここを去りたくて、ここに立っているはずなのに。
どうしようもなく人々は暖かくて。
「……チラチーノ」
「ぐふ?」
無邪気な瞳は、ルリミゾの気持ちなんて知らずに。早く戦いたいと言わんばかりに輝いている。
「勝つわよ」
「ぐふっ!」
・・・
「『タネマシンガン』、続けて『ダストシュート』」
距離を詰めるまでは、チラチーノの土俵。次々と種や毒を飛ばしていく。が、カイリキーは四腕で次々と薙ぎ払って距離を詰めていく。距離が詰まるまでの射程有利、一手も無駄に出来ない。
「つぶらな瞳」
チラチーノの可愛らしい姿が、カイリキーの攻撃を躊躇させる。性格によっては一切の躊躇いなく攻撃してくるが、幸いこのカイリキーは優しいらしい。
「爆裂パンチッ!」
サイトウの一声で気合を入れ直して拳を振りかぶる。接近を許せば、リーチはカイリキーに分がある。人型の腕は、チラチーノの短い手足の何倍も長い。
――しかしチラチーノは、柔らかな毛に包まれたポケモンである。
「なッ!?」
拳を受け流し上の左腕に張り付く。
――バチィッ!と全身に走る痙攣に崩れ落ちた。
「スイープビンタ!」
逃さずルリミゾが叫ぶ。短い右手が光り、左手で倒れ伏すカイリキーの顔を持ち上げる。
「立ち上がれッ!動けッ!」
サイトウは声を上げるのみ。相棒を信じて、ただ動くことを待つのみ。
未だに全身を痙攣させるカイリキー、そして銃声のような破裂音が何発も響く。
パパパパパパッ!!
「終わらせろッ!動く前に!」
ルリミゾの声を聞いてチラチーノはビンタを中断、飛び上がる。
「ギガ――」
ルリミゾには確信があった。
イエッサンが繰り返しヒットさせた効果抜群の「サイコキネシス」、そして「タネマシンガン」に「ダストシュート」、「スイープビンタ」。倒れないはずがない。
チラチーノが勢いをつけ、突進する。冷え切った会場の空気を物ともせず、小さく聞こえるルリミゾの応援歌とともに。
「インパクトッ!」
だからこれでおしまいだ。
ボッ!という鈍い衝撃と共にカイリキーがフェンスまで吹き飛ぶ。広告を貼っていた壁はベコりと凹み、カイリキーが倒れ伏している。
「カイリキー戦闘不……」
審判が戦闘不能を告げようとしたとき。
指先が、ピクリと動いた。全身を痙攣させながら。
「まだだッ!!」
そして。
次に右腕が動いた。地面に掌を付け、
膝が曲がった。審判は戦闘不能を告げようとした口を開いたままフリーズしていた。
左腕が身体を支えて、その上体を完全に地面から持ち上げた。
「嘘でしょ……」
歓声は上がらなかった。誰もが今の状況を信じられず、カイリキーを見つめる以外の動作をしていなかったから。
ずっ、ずっ、と痙攣する身体を引きずりながら、右足を引きずりながら、チラチーノへと近付いていく。
「ギガインパクトの反動で動けない……!」
チラチーノは憎々しげに睨みつけるが、その身体は反動で少しも動かない。一歩、一歩と距離が詰まる。
――そうして目の前に立って、互いに敵だけを見て対峙する。
「気合パンチ」
最後の一撃は。
ドサッ、とスタジアムの中心で鈍い音が鳴った。
「カイリキー、戦闘不能……!」
――カイリキーが倒れたことによって届かなかった。
「勝ったのね……」
息つかず見守っていた反動で、呼吸を荒げながらルリミゾが呟いた。反動で動けないチラチーノをボールに戻し、フィールド中心へと歩こうとしたところで、サイトウの様子に気が付く。
サイトウはカイリキーまで駆け寄り、何かを言ってからボールに戻す。そして何かを堪えるような表情をして、中心へと歩いてきた。
「「……」」
どちらも何も言わなかった。勝ったルリミゾから何かを言い出すのは気が引けたし、サイトウは賞賛を言い出せるような心情でもなかった。
だから。
「「ありがとうございました」」
ただ、手を差し出して握手をした。試合の内容を語るには、あまりにも互いに消耗していた。
今回も読んでくださりありがとうございました。
いつもの3倍くらい長くなってしまいましたが、サイトウ戦は決着です。
これで残るジムリーダーはあと2人。頑張ります。
評価・感想いつもありがとうございます。励みになります。
人物紹介は必要ですか?
-
いる
-
いらない
-
結果閲覧用