ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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47-ビューティフル

 

 予感があった。何かと出会う予感。

 

――そして。

 

 rrrrrrrr!

 

 人の耳に届くよう、少し不愉快に作られた着信音が鳴る。

 

「ッ!?」

 

「ぐふっ!?」

 

 オフにして自宅でチラチーノと戯れていたルリミゾの肩が跳ねた。チラチーノは驚き、音の発信源を探してキョロキョロとしている。スマホが電話で鳴ることなど今までなかったからだ。チラチーノを宥めて、スマホを取って画面を確認すれば。

 

「リーグから!?」

 

 表示されるのはリーグ委員会の文字。直接お叱りを受けるようなことをした覚えはない。恐る恐る応答を押し、耳を近付ける。変な汗が噴き出て、妙に緊張する。

 

「ルリミゾです」

 

「リーグ委員会のオリーヴです。オフの日にすみません。緊急の要件なので手短に。今から動けますか?」

 

 声色から緊急性を察して、ルリミゾの目つきが変わる。ジムリーダーが直接呼ばれるということは、何か実力の必要な事態であるということ。平穏を表していた部屋の静けさが、むしろ緊張を孕んだ嫌な静けさに変わった。

 

「はい」

 

「ありがとうございます。キルクスの入り江でポケモンが暴れています。メロンさんに向かっていただいたのですが、増援が必要とのことです。すぐに準備して、捕獲をお願いします。やむを得ない場合は……」

 

「大丈夫です。行ってきます」

 

 続く言葉を遮って、通話切断を押す。メロンはマイナーリーグ落ちしているのが信じられないほど実力のあるベテランであり、キルクスの住人である。試合の近いルリミゾを動かすことなく解決しようとしたらしいが、予想以上に暴れているポケモンが強いらしい。

 

「ん、戻って」

 

 ボールにチラチーノを戻して支度を始めた。

 


 

「ダメじゃないか機嫌を損ねちゃあ。彼女は我が強いんだから」

 

 隣で会話を聞いていたローズが口を出す。一方的に切られた通話に、画面を暫く眺めていたオリーヴが顔を向ける。

 

「しかし……」

 

「冗談だよ。暴れているポケモンに罪はないと考える人は少なくないからね。彼女もその一人だったんだろう」

 

 イッシュにはそこそこの規模で、ポケモンの解放を謳う集団があるとも聞く。人間とポケモンの生活の衝突は珍しい話でもない。ローズは地下プラントにある"モノ"を思い出しながら、閉じた目を開いた。

 


 

「こちらです!」

 

 入り江へ向かう道で待機していたリーグスタッフに案内されて奥へと向かうルリミゾ。一般人が通らないよう2、3人のスタッフが既に立っている。相変わらず空は白く、気分を滅入らせる。少し駆け足で、現状を聞きながらボールに手をかける。

 

「暴れているポケモンは?」

 

「わかりません」

 

 わかりません。つまり、何もわからないということ。ルリミゾの頭が一瞬フリーズして、思わず大きな声で聞き返す。

 

「わからない!?どういうことよ」

 

 複雑な表情で言うリーグスタッフから面倒事の予感がしながら。

 

「速すぎて視認できないんです!破壊力とスピードが高くて近付くこともできません。今はメロンさんがなんとか留めています……」

 

「あー……、ありがとう。もうここまでで十分よ」

 

 手にはウォーグルのボール。事態の深刻さを理解したからには、最速で向かうほかない。リーグスタッフはそれを確認すると、再び一般人の通行止めへと戻っていく。ウォーグルの脚へ掴まり、ひやりとした風を感じながら空へと。

 

「飛ばすわよ」

 

「クァア」

 

・・・

 

「あれね」

 

 近付くにつれ、(あられ)がだんだん強さを増していく。ラプラスと、白いふくよかなシルエット。隣にはバリコオルが守るように立っている。ガラル特有の白いヒヒダルマが首と目を頻繁に動かし何かを探して。キツくなっていく霰に瞬きをしたその瞬間――

 

「なッ!?」

 

 ヒヒダルマが吹き飛んだ。

 

 着地しようと高度を下げながら、チラチーノとバイウールーを繰り出して。

 

「相手は超高速!慣れてないだろうけどあたしを守りながら!ウォーグルはそのまま索敵!」

 

 先に着地しているバイウールーの横に降り立ち辺りを見回せば、一瞬何かの姿がブレて――

 

「メェエ!」

 

 衝撃。2度バウンドして吹き飛んでいくバイウールー。即座にその場から距離を取り、カビゴンを繰り出す。一度に指揮できるキャパシティを超えているが、守りに徹する分の指示は必要ない。

 

「メロンさん!」

 

「ルリミゾだね!?助かったよ!」

 

「相手は何!?速すぎるわよ!」

 

 到着したことをメロンに伝えて、現状の共有を図る。ドスドスと必死に走るカビゴンを連れながら、メロンのもとへ。

 

「わからないんだよ!あたしも初めて見るポケモンさ!もうコオリッポとヒヒダルマがやられたよ」

 

 メロンが倒れたヒヒダルマをボールに戻す。影は心なしか更に速くなり、一瞬たりともその姿を捉えることができない。霰によって多少の動きにくさ、ダメージを与えられていても、大きな影響は出ないだろう。

 

「これは……」

 

 あまりにも速すぎる。復帰してルリミゾの下に合流したバイウールーはかなりダメージを負っている。相手の攻撃力が異常に高いか、格闘タイプの技を貰ったかのどちらかだ。

 

(ドータクンとポリゴンZが出せたら戦いやすいのに……)

 

 当然、ルリミゾとメロンの手持ちは野外戦闘に慣れているわけでも向いているわけでもない。ルリミゾ一人であったなら、と思わずにはいられない状況だった。スタジアムと違って戦場の広さに際限はなく、相手が逃げないとも限らない。そうなれば大きな失態になる。

 

「バリコオル、『リフレクター』」

 

「助かるわ」

 

 メロンの指示でバリコオルがルリミゾの周りに障壁を展開する。恐らく相手は近接主体のポケモンだと判断したからだ。

 

「あたしのポケモンはかなり消耗してる。悪いけどサポートに徹させてもらうよ」

 

「ええ。あなたの支援なら心強いわ」

 

 長時間戦っていたのだろう。メロンの息は上がり、顔色も悪い。

 

「ッ!?」

 

――と、殺気を感じて二人同時に振り返る。

 

かぶりん

 

 聞いたことのない鳴き声。

 

 見たことのない姿。

 

 白い、どこまでも白い身体は細長く、モデルの女性を思わせるような艶美さ。長く伸びた二つの触手は垂れて揺れており、後頭部から髪の毛のように広がる半透明と。そして何より――

 

「傷だらけじゃないか……」

 

 ルリミゾが到着するまでに一撃も与えられなかったのだろう。既に傷を負っていたことにメロンが驚いている。

 

 そしてルリミゾは。

 

「アンタも同じなの……?」

 

 目が合って。互いにこの世界の住人でないと理解した。

 

――そのポケモンも、何かを感じてただルリミゾを見つめていた。

 

 何も、そのポケモンについて知らないのに。何も、そのポケモンと言葉を交わしていないのに。自分と同じであるという確信。その瞬間、周りには誰もおらず、二人きりであるかのように錯覚するほど。

 

 不安、混乱、孤独。渦巻く感情がありありと。一人と一匹、ただ見つめ合う。

 

 まるで今のルリミゾそのものだった。不安で周りと戦う姿まで。

 

「凍える風!」

 

 メロンが叫ぶ。冷たさと氷で素早さを下げるため、ラプラスが風を起こす。同時、傷だらけのポケモンの姿が消える。

 

「ラプラスッ!」

 

 ばっ、と振り返ったメロンよりも速く。

 

 ラプラスの首へと蹴りが叩き込まれる。ボ、という音が霰の中くぐもって聞こえて。

 

「嘘だろ……?」

 

 一撃。たった一撃で、ラプラスがゆっくりと力を失い、倒れていく。

 

 そしてまた爆発的な加速――

 

「危ないッ!」

 

 同時、咄嗟にバリコオルがメロンとポケモンの間に割って入る。咄嗟に展開されたリフレクターを叩き割り、メロンを巻き込んで吹き飛んでいく。倒れて動かないバリコオルとメロンを横目に、蹴った姿勢からゆっくりとポケモンがルリミゾの方へと向く。無感情な瞳が、しかしその奥に混沌とした感情を携えて見つめる。

 

「帰りたいの……?」

 

りん

 

 ボロボロの身体で、どこかから逃げて来たのだろう。そう思うと、ただただ胸が痛かった。一人放り出された異世界で、味方もなく追われて、追われて、果てにまた追われて。入り江で発見されたということは、流れ着いたのかもしれない。

 

「そりゃ、暴れるわよね」

 

 ゆっくりと、そのポケモンがルリミゾの方へと歩く。ルリミゾより少し高い背丈は威圧感を与えても、ルリミゾは少しも臆さない。ただ、微笑みながら待っているだけ。

 

 

 

 

 

――そして、触れ合うような距離。ルリミゾが少し見上げるかたちになって。

 

 ルリミゾはそのポケモンを抱きしめた。

 

「大丈夫、大丈夫よ」

 

かぶりん……」

 

 とん、とん、と背中を軽くあやすように。

 

 すると倒れるように、ルリミゾに体重が掛かる。見た目通り、吹くと飛んでしまいそうな身体から力が抜けていく。

 

「……気を失ったのね」

 

 安心したのか、それとも限界だったのか。手に持っていたボールを当てれば、抵抗なく三度揺れて捕獲が完了した。ボールを小さくしてポケットに隠した後、偽装の方法に考えを巡らせる。

 

「海に飛び込まれた……のがベストね」

 

 ルリミゾの評価は下がるかもしれないが、メロン共々倒されたとなれば相手の強さに箔が付いているだろう。あとはルリミゾが手持ちのポケモンと一緒に傷を負ってリーグスタッフを呼びに行くだけだ。もしも素直に捕獲したことをリーグに報告すれば、取り上げられることは目に見えている。研究対象として、このポケモンはどんな仕打ちを受けるのか。ただでさえ人を傷付けた野生のポケモンであり、希少な異世界からのポケモンだ。

 

「ちょっと戦うわよ!」

 

 ポケモンたちのため息が聞こえた気がした。

 


 

 リーグでは。

 

「本当ですか……!?わかりました。対策はこちらで考えておきます。ええ。それでは」

 

「どうだった?」

 

 電話で知らされた予想外の事態に、オリーヴは深刻な面持ちでローズに報告する。

 

「逃げられたと……。メロンは3匹瀕死、ルリミゾは2匹瀕死のようです。傷を負わせたものの、海へ飛び込まれたと」

 

 ジムリーダー二人を相手にして逃げ果せるほどの強さ。手持ちの半分を戦闘不能にするほどの。

 

「スタッフのポケモンたちに臭いで追跡させたようですが、やはり海近くで途切れていたようです」

 

「ウルトラビースト、だったか。その線を疑うしかないね。国際警察に連絡しよう」

 

 ガラルだけで解決できる事態ではない。ローズは面倒事に眉を顰めながら、国際警察へ連絡する文章を考えた。

 

 実際は一人が解決したのだが。

 


 

「……それで、捕まえてきたと」

 

 来い、とだけ書かれたメッセージで呼び出されたアクロマは呆れ果てていた。

 

「この子、ほんっとにキレイね!」

 

 と言いながらウルトラビーストの全身をペタペタ触っているルリミゾが原因で。当のウルトラビーストはただ無表情で突っ立っているのみ。ルリミゾに何の反応も返さない。

 

「何を食べるのか、どういう環境が良いのか、何ができるのか、わかんないのよね」

 

「そんなことだと思いましたよ……」

 

 アクロマはウルトラビーストと心を通わせたルリミゾにドン引きしながらも、その生態について説明していく。

 

「その種族はUB02:BEAUTYと呼ばれています。世界で2例目のウルトラビースト、ということですね」

 

 UB(ウルトラビースト)とは、異世界から来たポケモンの総称。国際警察はコードネームで呼び、一般人へその存在が知れることを避けようとしている。

 

「じゃあ名前ないの?」

 

ふぇろーちぇ

 

 ウルトラビーストが無表情に呟く。

 

「フェローチェだって。可愛いじゃない」

 

 平時よりも数倍増しで雑なルリミゾの様子に、アクロマはひとつの疑いを持つ。

 

(まさか洗脳されてませんよね……?)

 

 フェローチェはあらゆる生物を魅了するフェロモンを出すと聞く。それに当てられたルリミゾが魅了されていてもおかしくはない。捕獲された例のないポケモンであり、研究は一切進んでいない。

 

(よく警戒心もなく……)

 

 見た物、感じた物が全て。その野蛮さがかえってフェローチェを安心させて、捕獲に至ったのかと思うと何も言えないアクロマだった。うりうり、と触手を触るルリミゾをぺし、と叩くフェローチェの様子を見れば、洗脳とは思えない。それでも触ろうとするルリミゾに「やめてあげなさい」と注意しながら。

 

「能力は元に戻っているようですね」

 

「どういうこと?」

 

「ウルトラホールにある莫大なエネルギーを、通る時に溜めることがあるんです。戦った時、異常に速かったり力強かったりしませんでしたか?」

 

「そういうことだったのね。滅茶苦茶速くて強かったわよ!」

 

 こちらの世界に、力を溜めてやってくる。そして見慣れない土地のストレスで暴れる。これがウルトラビーストが第一級の危険生物と指定され国際警察に追われる理由だろう。

 

「元の世界に帰すつもりですか?」

 

 この少女ならそのつもりだろう。わかりきった問いだったが、アクロマはあえて問うた。

 

「当然よ。あたしも、この子も帰りたいの。まあ、保護したのはあのままだと野垂れ死ぬか、研究所行きだったからね。仕方なくよ。仕方なく」

 

 ルリミゾの目が泳いでいる。自分と同じ境遇に同情せずにはいられなかったと目が語っていた。

 


 

「別に他のポケモンと同じ食事でいいって。本当に普通のポケモンなのね」

 

 姿かたちが違って、異世界から来ただけで。

 

 アクロマと別れた後、家にてフェローチェに絡むルリミゾ。フェローチェの反応は薄く、「かぶりん」と時々鳴くだけ。あとはルリミゾにされるがままになっている。

 

「一緒に、戦ってほしいの。帰るために」

 

 真剣な目つきで、フェローチェを見つめながら。右手を差し出し、握手のようにして待つ。

 

りん

 

 フェローチェは首を傾げながら、左手でルリミゾの右手の手の甲を握った。

 

「「……」」

 

 きょとんとしているフェローチェと、目をぱちくりさせるルリミゾ。

 

「伝わってる……?」

 

かぶりん

 

「ま、まあよろしくね」

 

 仲間が一匹増えた。たぶんそういう日だった。

 

 




メロンが弱いわけではなく、今からメジャーに参加しても上位に食い込むくらいに強いと考えています。前シーズンから入れ替え戦にかけてひどい不調だっただけで。国際警察の様子や図鑑の説明を見ると、オーラ込みならこれぐらいできてもおかしくないのかなと。あとかなり瀕死だったので火事場の馬鹿力です。
いつも読んでくださりありがとうございます。
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