ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
フェローチェと出会ってから、ルリミゾは自宅で自分を省みる時間が増えた。迷子で暴れている姿があまりにも痛ましいものだったから。
ラテラルタウンで暴れた日、宝物庫を荒らした日。ストレスで荒れていた自分はどんな姿だっただろう。故郷へ帰れない痛みは少しも消えていないけれど、余裕が生まれたのは最近だ。
「いっそ迫害してくれれば、どんなに楽だったか」
力で以って捻じ伏せるだけで済んだなら。
しかし現実は暖かく、優しい人ばかり。有り余る暴力性を振るうには、良心が芽生えてしまっていた。直接応援を受け、人と触れ合い、街を背負うトレーナーになったからこその葛藤だった。
誰でもない、犯罪組織の団員だった頃はいとも簡単に人を傷つけられたのに、今では葛藤が生じるほどに。
「ここで骨を埋めるのも悪くない……なんてね」
口に出した途端、不安が膨れて胸の内を満たしていく。
「そんなわけ、ないじゃない……」
――ポン!とボールからポケモンが飛び出る音。振り返れば、新入りの白色がベランダに出ようとしていた。フェローチェの姿を外に晒すわけにはいかないから、ルリミゾが慌てて止める。
「ちょちょちょ、やめなさいって」
抵抗もなく、カーテンを開いてぼんやりとするばかり。何かと思って見上げれば、丸い、丸い月が出ていた。はらはらと降る雪が美しく、フェローチェも魅入られている様子。真っ黒な夜空は、月と雪だけを目立たせていた。薄らぼんやりと明るい街の光が、暖かく、しかし邪魔することなく灯っている。
――綺麗。
月は、どこから見上げても夜を照らしている。シンオウからでも、ガラルからでも、同じ月が見える。しかし、いつかルリミゾの見た月はここにはない。それが急に心を打って、息が上がる。
「ッ……」
マットを置き無理矢理土足とスリッパの境界を作った玄関は、使う度にここが異国の地ということを実感させる。ガラルには家で靴を脱ぐ文化がないからだ。コンコン、とつま先で地面を叩いて靴を履けば、ドアを開いてキルクススタジアムへと向かう。しんしんと雪は降り、シンオウを思い出させる。加速したセンチメンタルを振り払って、一歩一歩滑らないように歩く。道中にはユキハミ。
「また道に飛び出して……危ないわよ」
「ふんわ!」
抱えて道の外へ動かしても、懲りずに道へ戻ろうとする。
「あーもう!どこがいいの?連れて行ってあげる」
「ふわ!」
うにうにと腕の中で動くユキハミを抱えて、示す方向へと連れていく。
「ふんわ!ふんわ!」
そして止まったのはゴミ箱の上。
「ここでいいの……?降りられるの……?」
「ふ!」
嬉しそうな様子を見ればそれ以上口出しできなかった。隣の手すりを伝って降りることはできるだろう。そう信じてまた歩き出す。ふと自宅のベランダを見れば、モデルさながらの艶美な姿が物憂げに空を見ていた。フェローチェだ。手すりに体重をかけ、頬杖をつく姿は道行く人を虜にしてしまいそうなほど絵になっていた。
「何してんのよもう……」
フェローチェがベランダに出ていた。
「ってフェローチェ!?」
開いた口が塞がらない。
「ウォーグル!ちょっと飛んで!」
慌ててウォーグルを繰り出し、ベランダまで飛んでいく。幸い辺りに人はおらず。
「戻って!」
ボールに戻し、部屋の中へとベランダから侵入する。
「家の中にいるのよ!?」
再びボールから出して、自分より高いフェローチェを見上げながらお説教を。わかっているのかわかっていないのか、無表情のまま。
「……」
気を取り直して出発しようとしたルリミゾが、急に何かに引っ張られて転げそうになる。
――無言でフェローチェが服を掴んでいた。
「「……」」
二人の間に微妙な空気が流れる。
「……かぶりん」
「……あーもう可愛いわね!」
折れたのはルリミゾ。
「いいわ!一緒に行くわよ!その代わりボールから出ないこと。いいわね?」
「……」
無表情の沈黙。
「どっちなのよーーーーーー!!」
ルリミゾの叫びが虚しく木霊した。
スタジアムの前には既に人が集まり始めていた。他の会場と違うのは、全員が厚着をしているということ。こそこそと、マスクで顔を隠しながらルリミゾは裏口へと向かう。騒がしさが遠ざかるにつれて、ジム内のドタバタが聞こえてくる。
「慣れたものね」
今日は6度目のリーグ戦。控室近くではリーグスタッフとジムトレーナーが慌しく動いていた。ルリミゾの姿を確認するなり、ノマが近付いてくる。
「ヤローさんはもう到着してる。ポケモン達の調子は大丈夫か?」
「ん、大丈夫よ。引き際は弁えてたから。ありがと」
フェローチェの一件はジムトレーナー達にも伝わっていた。なにせポケモンの休養とリーグ委員会への報告でジムを空けていたのだから。
「しかし、お前とメロンさんで手に負えないとはとんでもない怪物だな……。俺らは口止めされてるし、専門の組織が動くんだろうな」
「強くたって同じ生物よ」
「それはそうだけどな……」
含みをもった言い方に気圧されたのか、ノマはそれ以上続けなかった。ルリミゾはカタカタと震えるボールを抑えるのに必死で口数が少なかったのだが。
控室で暇つぶしにヤローの記事を手に取れば、数ページにも渡る長文のインタビューが載っていた。
『"ファイティングファーマー"、ヤローは実力者だ。相性の悪いカブ戦を落としがちなものの、常に中堅以上に食い込んでいる。勝負を楽しみながら、粘り腰でしぶとく耐えるスタイルの彼は特に地元で人気だ。ルリナやキバナといった拠点のある街以外からのファンが多いトレーナーと違い、ターフタウンからの熱狂的な支持に支えられている。』
「自分自身がライバル、ね……」
そう語る彼のインタビュー記事は、農業でかいた汗が眩しく笑顔で光っている。心優しいことで有名で、ジムチャレンジャーを試すことができない、という理由で1番目のジムを任されているほど。甘さじゃないの、とルリミゾは思っているが。自分自身への厳しさが、あの優しそうな顔と不釣り合いな肉体を生み出しているのだろう。そしてその厳しさは、他人への優しさとして裏返っている。
「まだまだ学ぶことは多いわね」
他人と関わるためには、自分自身を省みなければならない。
ルリミゾは、どんなジムリーダーだろう。街の人にどう映っているのだろう。ヤローのように地元に愛されているだろうか。ルリナのように幅広く人気だろうか。キバナのように確固たる実力とカリスマがあるだろうか。
「今度サイトウに座禅を教えてもらおうかな」
――コンコン、とノックの音。
「はい、どうぞ」
「時間だ。先にスタンバイしておくんだろ?」
がちゃりとドアを開いたのはノマ。似合わないスタッフの服に身を包み、笑いながら。
「ん、ありがと」
「やけに素直じゃねえか。変なもんでも食べたか?」
「試合が終わったら覚えてなさいよ」
二人で笑いながら、通路へと向かった。
自分を省みる。大切ですよね。フェローチェを出した意図は、自分と似た物を見て自分を省みる機会を作りたかったからです。
次は優しさの化身、ヤロー戦です。頑張ります。
いつも読んでくださりありがとうございます。
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