ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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5-ジム運営

 

 各スタジアムに所属するジムトレーナーは2種類存在する。

 

 一つは、委員会傘下のジムトレーナー。これは委員会にその実力を認められ、ジムチャレンジャーをテストするのに相応しい人物として雇われている者達だ。ジムリーダーと手合わせし調整を手伝ったり、スタジアムで主催するイベントのスタッフをしたりする。基本的に人手の足りていないスタジアムを対象に派遣されるので、ジム所属というよりはリーグスタッフに近い。

 

 もう一つは、ジムリーダーの弟子ともいえるジムトレーナーだ。実力を見出したジムリーダーが指名し、本人が同意すればジムトレーナーとして迎えられる。後継であったり、大会の出場権、ジムチャレンジの推薦状を得られる。だから当然、ジムリーダーが降格すればスタジアムとは関係がなくなる。ルリミゾは後者のリーグトレーナーだった。

 

 ノーマルジムに所属していたのはルリミゾのみなので、キルクススタジアムには委員会からジムトレーナーが派遣される。今日は昇格から一ヶ月。そのリーグトレーナー達との顔合わせ日だ。

 

「うううぅぅぅ」

 

 ルリミゾはスタジアムのジムリーダー室で頭を抱えていた。机の上で呑気にチラチーノが動き回り尻尾がくすぐったい。

 

 裏で動くためにはジムトレーナーの心を掌握しなければならない。カシワの元にいた経験から、ジムトレーナーはジムリーダーと頻繁に顔を合わせるため、ジムトレーナーに悪事を隠し通すのはよほど上手くやらねば不可能だとルリミゾは感じていた。そのためギンガ団のように盲信させる、とまではいかなくともこちらの言葉を信用する程度には信頼されなければいけないのだ。バトル以外に頭を使ってこなかったツケをこんな別世界で払わされるハメになるとは。

 

 頭の中の悪の組織のカリスマ、アカギはどんな風に演説していたのか、どうやって部下の心を掴んだのか必死に思い出す。何の興味もなく、幼馴染に熱心に勧誘されて入っただけなのであの岩のシワのような顔と逆立つ銀髪ぐらいしか思い出せない。演説中に寝ていたことで他の下っ端にバトルを申し込まれることもあったし、入団したての頃に間違えてタカギ様、と呼んだ時には生きた心地がしなかった。

 

 アカギの真似をしようと必死に脳内でシミュレーションする。

 

「私はこの不完全な世界が憎い…!」

「世界とは完璧であらねばならない!心のない世界を!」

 

 胡散臭くなってしまった。脳内のギンガ団はブーイング喝采だ。これでは委員会にチクられておしまいだ。いっそ今から弟子を取るのも考えたが、ノーマルタイプのジムはトレーナーからの人気が少ない。ましてやルリミゾはジムリーダー代理、肩書きからして弟子を取るには不適だ。

 

 スタジアムへの集合は13時と伝えてある。人数は6人。ジムバッジは多い者で7個、少ない者で4個だ。キルクススタジアムは4番目のジムであるから、最低でもバッジ4つ以上のトレーナーしか派遣されない。うー、うー、と唸っている間に時計の針は12時と半分を指していた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 委員会所属のリーグトレーナー、ノマはひどく不機嫌だった。自分が派遣されたのがくそ寒いキルクスタウンだったのもあるが、何よりジムリーダー代理の小娘のところだったからだ。

 

 ジムバッジ7つの自分はジムチャレンジを突破できなかったとはいえ、委員会所属ジムトレーナーのなかでは有能な方であると自負していた。それがマイナークラスから昇格したてのジムに配属された。それなりにジムトレーナーとしての強さに誇りを持っていた彼にとって、この配属は屈辱的だった。

 

 12時45分、余裕を持ってジムのドアを開く。フロントには既に当の小娘ルリミゾが青い毛先を揺らしながら笑顔で立っていた。

 

「ようこそキルクススタジアムへ。ジムリーダー代理のルリミゾです。ジムトレーナーのノマさんね?」

 

 予想外の先制攻撃にたじろぐものの、初対面で礼節を欠くわけにはいかない。

 

「あ、あぁ。初めまして。ノマだ。よろしく」

 

 よろしく、と彼女は手を差し出してくる。不機嫌を隠しにこやかに握り返す。所詮は自分と同じジムトレーナー、初見殺しとガチガチの対策でマクワさんに勝ったのだろう、と手に力こそ入らなかったものの今の立場の違いに苛立ちが漏れそうになる。

 

・・・

 

 舐められてるな、とルリミゾは察知した。人同士の駆け引きにはまったく疎い彼女ではあったが、野生的な勘でノマから漏れ出る態度、不快感に気が付いていた。

 

 会話で心を掴むのは無理だと、キッパリ諦めがついた。

 

 こめかみが歪む。

 

 頭に血が昇る。

 

 ダメ人間なのは自覚があったが、バトルにおいて下に見られるのは何よりも許せなかった。相手側に目に見えて非礼な態度は一切ないが、彼女の行動原理は彼女が感じたものが全てだ。

 

「あたしとバトルしましょう。もしあなたが勝てば委員会にリーグトレーナーの異動を申し出てあげる。不満なんでしょう?」

 

 もちろん委員会へのコネなどひとつもないが、自分が勝つことに疑いのない全身バトル人間の提案だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 集められたジムトレーナー達は、わけのわからないまま始まった試合を見せられていた。今日は顔合わせでジムの方針を話してもらう日だったはず。どうやらプライドの高いノマがルリミゾを怒らせたらしかったが、ノマが目立って暴れているのは珍しかった。

 

 委員会所属のジムトレーナーはジムリーダーと委員会の評価が全てである。ここで健気に頑張っていると世間から評判の少女と揉めれば不利なのはノマのはずだが、聞けば先にキレたのはルリミゾだという。聞いていた礼儀正しく真面目だという評判とはかなり違う。実は癇癪があるのだろうか。これから一年間やっていくジムリーダーに不安を覚える。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 まさかの内心を見抜かれ、申し込まれたバトルにドン引きしながらも応じたノマは、フィールドへと移動した。

 

「他のジムトレーナーにもフィールドに来るように伝えたわ。見せしめってところね。あたしが一番強いってのを見せてあげる!」

 

 ブチィ、とキレて怒りに身を焼くルリミゾはジムリーダー代理の仮面も忘れて言いたい放題だ。

 

「公式戦じゃないからダイマックスはナシね!」

 

 目の前だが、声が大きい。完全にお怒りだった。

 

「ああ」

 

観客席に目をやれば、他のジムトレーナーが5名、不安そうな表情でフィールドを見ていた。彼らにしてみれば、初顔合わせで突然、怒るジムリーダー代理とジムトレーナーの試合を見せられることになったのだ。前情報と全く異なるルリミゾの豹変っぷりにただただ困惑するばかりである。

 

「優秀な上司を持てて幸せだぜ!俺は!」

 

 吹っ切れたのだろう、皮肉を吐き捨てながらノマが繰り出したのはきつねポケモン、キュウコン。世にも珍しい事にこのキュウコンは通常と異なり、天候を晴れにする不思議な力を持っている。

 

「頼むぜ!」

 

 そう叫べば振り返らずただ前を見て頷く。彼が初めてゲットしたポケモンであり、ナックルシティジムまで連れて行ってくれた相棒でもあった。先発で天気を晴れにし、手持ちのポケモンが有利な舞台を作り、自分の土俵に相手を引きずりこむ。キバナは同様に天候パーティの使い手だったためまったく歯が立たなかったものの、手合わせした8バッジ所持のジムチャレンジャーを何人も打ち倒してきた。

 

「眩しいわね。日照りの力を持つキュウコンね」

 

 曇りがちなキルクスの空が青く澄んでいく。照り付ける太陽がまぶしい。水タイプの技は威力が半減され、ソーラービームなどの大技が予備動作無しで即座に撃てるようになる。足が速くなるポケモンもいれば、パワーの上がるポケモンもいる。手持ちは恩恵を得られるポケモン達ばかりだ。 

 

 カブさんのジムがよかったな、と思う。それは望み過ぎにしても、平々凡々なノーマルタイプも嫌いだし、寒いのも嫌いだし、自分と同じジムトレーナーでありながらジムリーダー代理であるぽっと出の少女に使われるのが気に食わなかった。ジムトレーナーは手持ちのポケモンのタイプと関係なくジムに配属される。ジムチャレンジの際にチャレンジャーに立ち塞がり繰り出すポケモンは貸し出されて仕事をするポケモン達だからだ。

 

 このジムだけは嫌だった。ここで他のジムトレーナーの前で恥をかかせ、他のジムへと手配させた方が、黙って下につくよりマシだろう。委員会の印象は悪くなるだろうが、ノマにとってはここで働くことの方が耐えられないことだった。そもそも不満な態度は表面には出ていなかったハズだ。全てはこちらの心を読んだかのように突然キレてきたあの少女が発端だ。思い上がりを叩き潰してやる。

 

「捻り潰してあげる!」

 

 同じような言葉を少し離れたところから叫ぶルリミゾ。あの脳筋女と同じ思考だったことに嫌気が差す。

 

 彼女の代名詞が日差しの向こうでぐふっ、と鳴いた。

 

 

 

 

 




舐められてると感じたら、すべてを忘れて小物悪役ムーブに入るガール。
頑張ってチラチーノを代名詞にしようとしていますが、中身はポリゴンZです。
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