ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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51-vsヤロー メジャージムリーグ⑱

 

――ドム!

 

 音は、それだけだった。観客が静まり返るほどに勢いよく落とされた林檎の衝撃は、その規模に反して小さな小さな音しか起こさなかった。なぜなら、

 

「ふふ」

 

 巨体の腹にめり込んでいたから。ルリミゾに動揺は一切なく、ニヤつきながら腕を組んで様子を見守っている。

 

「グオオオッ!」

 

 グググ、とカビゴンの腹に突き刺さる林檎。勢いは殺せず、未だにカビゴンを潰さんと迫り続けている。相応の負担、ダメージを負いながらも――

 

 ボッ!と一直線。

 

「カウンター」

 

「なッ!?避けろッ!」

 

 既に反射された弾丸はアップリューの正面。

 

 捻って芯をズラすが――高速で撃ち返された林檎は、アップリュー自身の首を絞める。

 

「返したァーーーーッ!?ルリミゾまさかの『カウンター』で撃ち返したーーーッ!」

 

「素晴らしいッ!」

 

 アップリューの小さな身体は耐久力に優れているというわけではない。カビゴンを一撃で落とすことは格闘タイプ以外にほぼ不可能な一方、アップリューは効果抜群の技や高威力の技ですぐに落とされてしまう。それを活かした「カウンター」。カビゴンの機動力のなさを相手の攻撃で補う、ハイリスクハイリターンな仕掛け。

 

「まだいけるかい?」

 

 ヤローが心配そうに問う。怪我に繋がりそうならばすぐ退かせるのがヤローの信条だ。バトルで後遺症を残したくないのだ。ポケモンに恨まれようとも、絶対に無理をさせない。アップリューがほぼ戦闘不能寸前であることを察しながら、様子によっては自主的に戦闘不能宣言を出そうと考えていた。

 

「リュー……!」

 

 鼻息荒く、致命的なダメージを受けながらもアップリューは羽ばたく。闘志は消えず、必死に小さな身体を動かして次の技に備えている。

 

「……よし!『Gの(ちから)』もう一回だ」

 

 ヤローの計算では、カビゴンは二度の『Gの(ちから)』に耐えられない。カウンターできずに力尽きるという予測だ。まさか「Gの(ちから)」を「カウンター」で返されるなど予想もしていなかったが、なんとか反応したアップリューは一撃で倒れるのを免れた。ヤローはその大きな手で小さなアップリューの頭を撫でながら、戦いへと送り出した。

 


 

 きらり、と空に一点の光。

 

「グオッ!」

 

 目視すると同時、カビゴンの巨体が傾いていく。

 

「「ッ!?」」

 

 突然の奇行に実況席の二人は声が詰まる。"戦闘不能"という四文字が頭を過るが、どう見ても自分から倒れていく様子だった。

 

「ころがる」

 

――正体は「ころがる」。

 

 重い身体で動くことは叶わずとも、転がっていくことはできる。ごろ、ごろ、ごろごろ、と勢いを増していくカビゴンだった球体。

 

「速いッ!林檎が落ちるより先にアップリューへと突撃していく!」

 

「しかしアップリューも距離を取ろうとして……いや、重力があるのか!アップリューも遅い!逃げられないぞ!?」

 

 高速で接近する球体がわずかに跳ねて、現れたのは拳を振りかぶったカビゴン。その拳に氷を纏いながら。

 

「冷凍パンチ」

 

 ドラゴン/草タイプであるアップリューには、

 

「効果抜群、でしょ?」

 

――ズドン!

 

「アップリュー戦闘不能!」

 

 カウントは5-3。歓声が止まない。アップリューに駆け寄りボールに戻すヤロー。観客席ではウェーブが起こり、忙しなく旗が振られ、声援が送られている。

 

 その中で。

 

 開かれて澄んだルリミゾの目だけが、静かに在った。

 


 

「落とした!カビゴンでアップリューを落としました!エース対決はカビゴンに軍配が上がりました!」

 

 興奮気味にミタラシが実況するが、カキタは違和感に眉を顰めていた。

 

「静かじゃないですか?ルリミゾ選手」

 

「……!確かにそうですね。いつもならポケモンとはしゃいで喜んでいるんですが」

 

 カメラが映すのは、淡々とカビゴンに話しかけるルリミゾ。カビゴンは少し困惑したような表情でそれを聞いている。

 

「凄い集中力ですね……」

 


 

(不思議……劣勢だったのにどんどん頭が冴えてくる)

 

 当のルリミゾ本人は、感覚の冴えに表情がついていっていないだけだった。

 

 心境の変化――余裕が生まれたからだろう。「カウンター」、そして「ころがる」からの「冷凍パンチ」はヤローの為に用意した策というよりは、機転を利かせた対処だった。

 

「――ってカンジね、気を抜かないでいきましょ」

 

 そして作戦を伝え終わってから、カビゴンが心配そうに見つめていることに気が付いた。無心で頭に流れる情報を垂れ流していたため、アップリューを倒した後に喜ぶこともせず、いきなり次の話をし始めたからだろう。いつもなら褒めて、腹をぶにぶにしたりしてコミュニケーションを取っていたのだが。

 

「ん、ナイスファイトよ」

 

「ご、ごん……」

 

「ほら力抜いて!うりうり~!」

 

 つま先立ちで手を伸ばして見上げ、カビゴンの顔をつまんで伸ばす。ぐに~っと伸びる顔に思わず半笑いになりながら。

 

「作戦はオッケー?」

 

「ごん!」

 

「よし!行きなさい!」

 

 カビゴンを送り出したあと、ルリミゾは自身のパフォーマンスの変化に目を向けた。

 

「――見える」

 

 すべてが。すべてが透き通って見えていた。目を見開いて、右手で髪をくしゃり。視界をクリアに、網膜に焼き付けるように光を取り入れる。

 

「――聞こえる」

 

 衣摺れ、歓声、息遣い、風。

 

 観客ひとりひとりの顔が認識できそうなほど、目が冴えている。歓声のひとつひとつが聞き分けられそうなほど、耳が澄んでいる。頭の中では、ヤローの残り3匹にそれぞれどう対処するのか、あらゆる状況の想定を組み立てている。

 

「負ける気がしないわね」

 

 物が上から下に落ちるように。日が昇り沈むように。月が満ち欠けるように。

 

 自らの勝ちが当然と思えるほどに調子が良かった。

 


 

「絶好調ですね」

 

 モニタ越しに試合の様子を見ていたアクロマは、そう零した。

 

 ポケモンバトルは、心の勝負である。心と心の勝負ではなく、己の心の調整との勝負である。練習試合で大胆にプレーできたとしても、本番で竦んでしまえば意味がない。上位層とのバトルともなれば、当然初見の状況は多く、それぞれに対処するために一歩踏み込んで判断する必要がある。

 

「フェローチェと出会ったからですかね」

 

 カメラが映した、腰に提げたボールを見つめながら。

 

 ルリミゾ自身は全く意識していないだろうが、既に実力はネズやキバナと渡り合えるほどに成長しているとアクロマは踏んでいた。タイプ相性的に不利な相手ながら、調子の良かったサイトウやカブを下した時点で普通は自分の調子に気付くはずなのだが。

 


 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 ルンパッパが倒れていく。ダイマックスした巨体が霧散して、元のサイズの丸っこい姿をとって、倒れていく。

 

「ルンパッパ戦闘不能!」

 

「3-0、大差をつけて勝利したのはルリミゾ選手だーーーッ!」

 

「奇策から始まりましたが、振り返ってみれば実力で捻じ伏せた展開でした。入れ替え戦上がりでここまで成長するスピード、とんでもないです」

 

 これでルリミゾは5勝1敗。4勝2敗のネズを抜いて、6勝0敗のキバナの下についている。

 

「サイトウ選手や、今はマイナーにいるオニオン選手はデビュー時あまり成績が振るいませんでしたよね。この勢いを維持できるかどうか、二週目に期待ですね」

 

 残り一試合、各ジムリーダーが試合を行えば総当たりの一週目が終わる。そのあとジムチャレンジ杯を間に挟んでから、メジャージムリーグの二周目が行われる。

 

「ジムチャレンジ杯でも期待できそうですね。もしかしたら、チャンピオンとの戦いが見られるかもしれません」

 

「そうですねぇ。ジムチャレンジといえば、恒例のジムチャレンジャー特集がこの後に控えています。どうぞチャンネルはそのままでお待ちください!」

 

 7~8人の、現在トップを走るジムチャレンジャーたちの特集。ジムチャレンジ杯へ向けて、彼らのバックグラウンドの紹介は欠かせない。ミタラシがそう締めくくりながら、画面がコマーシャルへと切り替わった。

 


 

「大差、ねえ……」

 

 控室へ戻ってモニタを見れば、先ほどの試合がそう解説されていた。彼らとて試合の内容が決して一方的ではなかったことを、少しでも何かが違えばヤローの勝利に傾いていたことを理解していただろう。ただ、誇張表現であっても「大差」「捻じ伏せた」と表現されるのはルリミゾにとってモヤッとするものだった。

 

「ナットレイが突破できていなかったら……。アップリューにカビゴンが落とされていたら……。キリがないわね」

 

 ヤローのパーティは草統一ゆえに、毎試合で少数のポケモンに大きな負担がかかる。カブを相手にするならルンパッパ、ネズを相手にするならエルフーン、と重要な核が存在する。それゆえ、その重要なポケモンを落とせるか落とせないかで大きく試合展開が異なるのだ。ルリミゾは上手く奇策でナットレイを落とせたものの、ポプラやルリナ、サイトウは苦戦を強いられていた。

 

「まあ、それでも上手くいったのは成長ね」

 


 

「勝ちやがりましたか……」

 

「強いですね……。次の試合、頑張ってください」

 

 ネズさん、とパンクファッションのジムトレーナーが言う。薄暗い、ジムとも呼べないようなその土地で、その主、ネズは静かに笑った。

 

「迷いは晴れた……というよりは棚に上げているだけですね」

 

 練習試合以来のあの少女。悩みは解消できていないらしいが、それがパフォーマンスに影響しないほどにプロとして成熟しつつある様子。いずれにせよ、ネズとのバトルで一切支障がないようで戦うのが楽しみだった。

 

「何を抱えてやがるのか、知ったことじゃないですが……」

 

 放って置けないのも確かだった。

 

 その優しい気質が、彼女の抱えている苦しみを増やしているとも知らずに。

 




苦渋のカットです。余裕があればまたヤローのバトルを描けたらと思います。
いつも読んでくださりありがとうございます。
一週目、ついに残りはネズ戦となりました。ジムチャレンジも大詰めですね。
頑張ります。

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