ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
「大きく、大きく飛べ!」
ルリミゾは気持ちを表すように叫び続ける。そうすれば、何か振り切れるような気がした。
ウォーグルは閉じられた天井ギリギリまで上昇していく。
「『ブロッキング』にビビんなくていいわ!好きなように戦いなさい!」
選んだのは、ポケモンに判断を委ねた近接戦闘。
高速で接近と離脱を繰り返し刺し合う戦いにおいては、ルリミゾの指示によるウォーグルの迷いが致命傷になり得る。相手のプランを見抜き、狙いを共有することがこのマッチアップでのルリミゾの仕事だ。
(『ブロッキング』で崩されたとしても、ウォーグルなら攻めっ気が増すからそこまで損じゃないわね)
「ブロッキング」は「守る」と同系統の防御技。大きな違いは相手の防御を崩すことができる点だ。それがウォーグルの「負けん気」のトリガーを引く。「ブロッキング」を介した攻防を重ねるにつれてウォーグルの攻撃力は研ぎ澄まされ、一方で防御が甘くなっていく。
「防御が下がるってったって……ねぇ?」
攻撃が当たれば、困るというだけのこと。
「全部避ければ関係ないもの」
全幅の信頼を添えて。
タチフサグマを指さし、攻撃開始の指示を出した。
(少し考える必要がありますね)
ネズにとって厄介なのは、タチフサグマが「ブロッキング」を撃てば、ウォーグルは「負けん気」で攻撃性が上がるということ。スカタンクがもうほとんど使い物にならない以上、カウントは実質4-5でネズが不利だ。いくらウォーグルの防御を下げられたとしても、タチフサグマを突破されてしまった場合のリスクが大きい。攻撃性の極めて高くなった状態のウォーグルを場に残してしまうからだ。
「でも、まァ……」
攻撃が当たれば、困るというだけのこと。
「全部避ければ関係ないですね」
ネズの最も長い相棒であるタチフサグマが負けるわけがない。上手く攻撃をいなし、防御を崩し、甲高い唸り声を聞かせてくれるだろう。
飛行タイプのポケモンだけが持つ有利――空中に位置取れるという有利――は限定的なものである。空中で様子見を続けてしまえば、飛行タイプに対処できるポケモンへの交代の隙を与えてしまう。
故に、ウォーグルは攻め続ける必要がある。
「手を緩めなけりゃ何やってもいいわよ!危ないときだけ指示出すわ!」
「クァア!」
ルリミゾの叫びに負けじと、ネズもマイクをキンと鳴らしながら叫ぶ。
「掴まれないようになッ!防御よりも受け流しだァ!」
「ぎゃおお!」
ネズが警戒するのは、車さえ持ち上げるほどのウォーグルの力。アーマーガアタクシーが主流となる前は、ウォーグルが運び屋をしていたことすらあるほど。個体による血の気の多さ、仕事の荒さに問題があり、その座をアーマーガアに奪われた話は有名である。
しかし、タチフサグマ側も無策ではない。
「ちょっと痺れるぜェ~!『
いつもの癖を出しながらも、歌うように叫ぶコールに観客は沸き立つ。
「やっぱり覚えさせてたわね……!」
ネズの悪癖。
それは昂って技を叫んでしまうこと。しかしそれが欠点とはならないほどに、ポケモンの動きが洗練されている。そしてまた、繰り出される技がわかってもどうしようもないほどにバトルは高速である。
(『
ゴオ!とルリミゾの耳から鼓膜までを風が貫いて音を立てる。
正体はウォーグルが起こした「暴風」。スカタンクを吹き飛ばすほどの風を発生させられるウォーグルならば、タチフサグマの体勢を崩すほどの風を起こすことも可能である。後ろに立っているルリミゾはほとんど影響がないものの、ネズの髪は揺れ暴れ、スタンドを掴んで顔を顰めている。
「クァ!」
起こした風に乗ってウォーグルが距離を詰める。
「姿勢を低く、地面を掴め!」
タチフサグマはその本能から、最適解を実行していた。
四足で移動していた頃のように手を地につけ、風の影響を最小限に。左手を突き立て、右手を後ろに強く引き技の構えを。バチバチと音を立てて雷が右手に集まっていく。
その体勢を見て、はじめてルリミゾに焦りが生まれた。
(――まずい!体勢が崩せてない撃ち合いならリーチで負けるッ!)
ウォーグルが繰り出すであろう技は「インファイト」。武器として使うのはその強靭な脚だ。上空から高速で攻撃するという性質上、普段であれば近距離の撃ち合いで問題ない。しかし、タチフサグマにはまるでネズのような長い腕がある。
先に攻撃を当てられてしまえば、加速した勢いが殺される上に、そのままウォーグルに返ってくる。
タチフサグマは体勢鋭く、研ぎ澄まされた集中でウォーグルの動きを見ている。迫り来る両脚を見ている。そこから放たれる「インファイト」が届くよりも速く「
(手を変えるしかない!)
・・・
――ルリミゾが出した答えは。
「
「!」
咄嗟。
タチフサグマの目の前で勢い付けられたウォーグルの脚がカクンと引き。
叫ばれた技名にハッとしたタチフサグマが視線を上げれば。
突き出し始めていた雷の右拳よりも先に。予測していた攻撃の瞬間よりも先に。
バゴン!
鋼の如く硬化された頭突きが命中した。
「――ッ!」
ぐらり、とまるで人間のようにタチフサグマがふらつく。右手の雷は霧散して。
星が、白い明滅が視界に現れて意識が一瞬吹き飛ぶ。「アイアンヘッド」という技の強さだ。
頭への強い衝撃で、まれに相手の意識を飛ばしてしまうほどの技。
タチフサグマは
「タチフサグマッ!」
「ぎゃおッ!?」
ネズのシャウトで我に返るも、既にウォーグルは離脱して空中に戻っている。
「ナイス!最高よ!」
「くぁ」
一瞥。すぐにルリミゾから目を離し、再び正面を向いて飛んでいく。
「そのまま攻勢!交代の隙を作らないように!」
「……」
流れを指示したルリミゾに対して、劣勢のネズは何も言わずに見守っている。不気味ですらある沈黙に、ルリミゾはとにかく思考を巡らせる。何を狙っているのか明らかにするために。
(特に指示するまでもないってコト?タチフサグマが自分で修正すると思ってるのかしら)
ウォーグルは既に急降下して攻撃に転じていた。タチフサグマは腕をクロスさせ、大きく息を吸い込みながら。
「崩されてもいいけど追撃のケア!」
「――!」
すう!と音が聞こえるほどの予備動作。
――大音量でのシャウト、そして腕をクロスさせての防御姿勢。それが「ブロッキング」というタチフサグマ固有の防御技の正体である。
ルリミゾも、ウォーグルも「ブロッキング」を疑わなかった。ノーマル/悪タイプであるタチフサグマには「インファイト」が抜群に、それこそただの弱点では済まないほど効果抜群に効く。
ウォーグルが「インファイト」を撃てば「ブロッキング」で対処する。そうすればウォーグルは柔らかく、鋭くなっていく。そこからはどちらが一撃を入れるかの対決だ。そう、相互了解で撃ち合うと確信していたのだ。
ただ、見逃していたことは。
――ネズには、アンコールがないということ。
「俺たちに再演はない!みんなも叫んでくれッ!」
ルリミゾが知る由もないが、ネズは引退を覚悟してこの場所に立っている。
いまやその言葉は、不退転の決意を示しているのだ。次のない、ジムリーダーとしてのバトルなのだ。
「――『
「オオオオオオオッ!!」
地面が揺れる。建物が揺れる。身体が揺れる。
金網が騒ぎ立てるように揺れ、観客が危なげに波打つ。
鼓膜どころか身体全体をビリビリと震わせるほどの声量。攻撃を妨げるどころではない、破壊を伴った咆哮。
身代わりすらも貫通し、どこに隠れようとも破壊を与えるその咆哮は、ウォーグルの全身を揺さぶりダメージを与え続けていた。
「ウォーグルッ!!」
想定していなかった攻勢に、ウォーグルの体勢が大きく崩れる。羽ばたきが不安定になり、ふらふらと揺れる。あらゆる音は消え、プツンとそれきり。目は霞み、勘のみで滞空を成立させていた。
「前!避けろ!」
主の声も聞こえず。
タチフサグマが空中で姿勢を崩したウォーグルへと大きく飛び上がり、右拳に大きな雷を携えて。
準備は万端。ウォーグルのダメージを確認した瞬間に、叫びながら右手に雷を集めていた。
バツン!
殴打の衝撃とは思えないような、落雷そのものの音が落ちた。
・・・
「ギャオオオオッ!!」
タチフサグマが黒焦げた中心で咆哮を上げる。
「ウォーグル戦闘不能!」
そのジャッジと同時、エール団から「ハイパーボイス」と大差ないほどの大きな大きな歓声が沸き起こった。
――それは、ガラル全土を貫いた雷だった。
普段は配信されることのない、スパイクタウンでの試合。「ダイマックスがない」というマイナスイメージを抱いて、なんとなく視聴していた人々を突き刺した。
「……」
マクロコスモスの副社長・兼社長秘書は、窓から見える飛行船のスクリーンに映ったそれを一瞥して再び業務に戻った。
街行く人は立ち止まり、口を開いてスクリーンを見ている。普段の放送と違う、ネオンに照らされた暗いフィールドと元のサイズのポケモンたちが映っていた。けれども、じっと、ダイマックスでもないその戦いのワンシーンを見守っていた。
彼らには、不意に立ち止まって見たそのシーンが山場なのかどうかわからなかった。
ただ、ダイマックスしているわけでもない、暗いフィールドで行われているそのバトルから目が離せなかった。
忙しく、更新が滞ってしまいました。前回の内容を忘れてしまうほど期間が開いてしまうとよくないですね。気を付けます。
いつも読んでくださり本当にありがとうございます。
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