ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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6-vsノマ 格付け

 

「ここまで一方的とは・・・」

 

 ただただ圧倒的な試合展開に、リーグトレーナー達は今日集まった目的を忘れていた。スコアボードが示す数字は4-0、圧勝だった。

 

「終わったわよ!降りてきてもらえるかしら!」

 何事もなかったかのように、フィールドから声を張ってルリミゾが呼んでいる。ノマは起きたことが信じられないような面持ちでルリミゾを見ていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 初手チラチーノは読み切っていたはずだった。だからキュウコンに「おにび」だけ撃たせて即座に引いてズルズキンを繰り出した。「おにび」は避けられてしまい、「ロックブラスト」によってキュウコンはかなりの痛手を負ったが、続けて「ロックブラスト」を撃ってくることは確実だろう。ズルズキンが威嚇することによりあの舐め腐った態度のチラチーノは怯え、「ロックブラスト」はズルズキンをほとんど傷つけることなく終わりノマが有利になると。チラチーノを起点として「ビルドアップ」して5匹全員を抜けると。そう、思っていた。

 

「ウォーグル!」

 

 ノマがキュウコンを戻すと同時、チラチーノを戻したルリミゾから繰り出されたのはウォーグル。その特性は「まけんき」、相手に能力を下げられたとき、より攻撃性が高まるというもの。

 な、と声を発する間もなくウォーグルがズルズキンを「ブレイブバード」で叩き伏せていた。自分の手持ちは知られていても、この考えてきた対策方法は知られていないはずだった。

 

「パーティのポケモンたちさえ資料で持っていれば、何をしてくるか手に取るようにわかるわ。降参するなら今のうちよ」

 

 ますます小物臭い台詞を言うルリミゾ。無視して次のポケモンを出す。

 

 ひざしが つよい ▼

 

「エレザード!」

 

 はつでんポケモン、エレザード。その大きなエリマキを広げて気持ちよさそうに太陽の光を受けている。ジムリーダー代理とはいえ、この晴天の下で出てきたエレザードが乾燥肌や砂に隠れるような特性ではないことぐらい当然ルリミゾも把握しているだろう。エレザードは本来、暑い地域にいたポケモンだ。生息域が変わるにつれて乾燥に弱くなったり、砂に隠れるようになってしまったものの、いまでも一部の個体は太陽の光を利用する力が長けている。

 

「サンパワーね」

 

 ウォーグルが動く間もなく降り注ぐ電気に撃たれ戦闘不能になる。地面タイプですかされることも考えたが、他のジムリーダーと異なり本来はジムトレーナーのルリミゾにはあの5匹以外いないだろうと踏んでの10万ボルトだった。特殊に強いカビゴンであっても、この晴天下のエレザードの技を食らえばただでは済まない。引いて他のポケモンで受けたとしても、素早いエレザードに先手を取られ続く攻撃で沈められる。戦闘不能での交換が最善手だ。ルリミゾはウォーグルを労わりながらボールに戻した。

 

 代わって出てくるのはチラチーノ。速さ対決だ。どちらも打たれ弱いポケモンゆえ、一瞬の駆け引きで勝負が決まる。互いに素早く動き回り、牽制しながらスタジアムを駆ける。我慢が切れて先に動き出さないのはバトルの経験を積みトレーナーを信頼したポケモン同士だからだろう。

 

「10万ボルト」

 

 目を離さずに出した指示だったが、まばたきの一瞬でチラチーノの姿が掻き消えた。動揺するが、すぐに経験と知識から答えを導き出す。

 

「『あなをほる』だ!動きを止めるな!出た瞬間をカウンターして電気をぶち込め!」

 

 チラチーノが地面に潜っている間、猶予があるため具体的に指示を出す。ルリミゾは一切チラチーノに指示を出していないようだった。

 

 エレザードが周囲を警戒しながらフィールドを走り回り、ターンしようとしたその瞬間。真右の地面が盛り上がる。

 

「右だ!」

 

 右に10万ボルトを放つ。飛び出た影に光がはじける。チラチーノに10万ボルトが直撃。エレザードはチラチーノ以外には捉えられない。チラチーノを落とした。ノマは勝利を確信していた。

 

 しかしチラチーノは倒れず。意識を失わず。

 

 驚き硬直しているエレザードのエリマキを掴んで「スイープビンタ」を顔に叩き込む。パパパパパ、と短い手からは想像もつかない威力のビンタが繰り出される。ゆさぶられ、はたかれ、エレザードは目を回し倒れた。

 

 チラチーノは誇らしげにルリミゾの方を向いている。ナイス、とルリミゾは悪戯が成功したかのような笑みで褒めていた。

 

「何が起きた?どうしてチラチーノが耐えたんだ!?」

 

 予想外の状況にジムトレーナー達は困惑する。

 

「そうか!!」

 

「『ひかりのかべ』だ!」

 

 気付いたジムトレーナーが叫ぶ。

 

「いつだ?そんなタイミングあったか?」

「最初だ。ウォーグルに交代する前、鬼火を避けたときに貼っていたんだ。あまりにも晴天下のエレザードの火力が高いからウォーグルは落とされてしまったが、それが逆にノマの意識から壁の存在を逸らしたんだ。」

 

 ノマと同じくジムバッジを7つもつジムトレーナーが答えた。確かにあの時チラチーノは「ひかりのかべ」を貼るだけの時間があった。「ひかりのかべ」はエネルギーを放つ系統の、つまり特殊攻撃の技を防いでくれる壁を出す技だ。ポケモンを入れ替えても壁は残り、守り続けてくれる。

 

「一か月前の入れ替え戦と完成度が全然違うな・・・ここまで急に強くなるものなのか?」

 

「猛特訓したのよ!特にこいつの仕上がりは段違いよ!」

 

 聞こえていたのか、チラチーノを指し同じようなドヤ顔で語り出すルリミゾ。カウントは4対3、キュウコンはまだ動けるため、再び繰り出せばこの日差しは試合が終わるまで続くだろう。しかし万全のポケモンはあと2匹だ。

 

「ドータクン」

 

 繰り出し、「ウェザーボール」と指示を出す瞬間、憎たらしいチラチーノは光に吸い込まれ、繰り出されたのは脂肪の厚いカビゴンだった。

 

 ドム、と腹で真っ赤な光弾を受け止め、ぼりぼりと少し焼けた痕を掻くカビゴン。「ひかりのかべ」と「あついしぼう」、そして生まれ持った耐久力でもはや無傷といえるレベル。画面越しに見た入れ替え戦よりも大きな壁に感じる。とはいえ「ふゆう」している個体を警戒すれば、カビゴン側に有効打は無いはず、余裕を持ってカビゴンの突破方法を考える。それが過ちだと気付いたのは耳を疑う指示が聞こえたからだ。

 

「じしん」

 

 なんの迷いもないルリミゾの指示だった。ドータクンは宙に浮いているが、熱に強い個体と通常の個体で性質が異なる。熱に強い個体はその特殊な体の「たいねつ」金属で地面と同調して浮いており、「じしん」などの技の影響をモロに受けてしまう。一方通常の個体はまさに謎の力で「ふゆう」しており地面とは無関係にフワフワ浮いている。普通のトレーナーはキュウコンやエレザードの裏にいるコイツを見て「ふゆう」している個体だと思い地面技を撃たないはずだった。

 

「そのポケモンはワケあってよく知っててね、だいたい見極められるの」

 

 効果は抜群で、ドータクンは一撃で目を回し落下した。マーズのドータクンは「ふゆう」しておりルリミゾのドータクンは「たいねつ」仕様だった。即座に撃墜されたノマの顔色がますます悪くなる。頭の中は真っ白だ。もう彼にパフォーマンスを最大まで引き出すことは不可能だろう。試合中にメンタルを修正できるかどうかが、上位トレーナーとの彼の差だ。だからジムチャレンジを7つクリアした後の壁、キバナでポッキリ折れてしまった。

 

「キュウコン」

 

 すがるような震える声で相棒を繰り出す。残るエースに託すため、雲が差してきたこの空を再び晴天に引き戻すためだけに出されたことは誰の目にも明らかだった。スタジアムに差し込む日差しは強いが、彼の心は曇りきっていた。

 

「じしん」

「おにび」

 

 カビゴンの巨体によって引き起こされた衝撃がキュウコンに到達する直前、キュウコンがカビゴンをやけどにした。これでカビゴンの攻撃性能は大きく低下した。最後の一匹相手だがカビゴンでは落とし切るのは不可能だろう。

 

「頼む」

 

 繰り出されたのはよこしまポケモンのダーテング。「ようりょくそ」と呼ばれる特性のおかげで、この日差しの下ではとんでもない速さで行動できるポケモンだ。彼のパーティのエース格のポケモンで、何度も窮地から彼を救ってきた。

 

「ダァア!」

 

 ダーテングがまるで剣を持っているかのように舞いを舞う。「つるぎのまい」だ。ダーテング1匹でルリミゾの残り4匹を突破するにはこれしか残されていなかった。その隙を見て、ルリミゾはアタッカーとして完全停止したカビゴンを戻し、チラチーノを繰り出す。3度目の登場だがまだまだ気合を見せている。ぐふー、と鳴きこちらを見据える。

 

「ソーラーブレード!」

 

 本来なら大技「ソーラービーム」と同様に力を溜めるのに時間のかかる大技だが、この晴天下なら即座に発動できる高威力の技だ。リーフブレードと同じように、手に持つ葉っぱに力を集めたダーテングが葉を光らせ3倍ほどの緑の刃を作り出す。

 

「ダストシュート!」

 

 ルリミゾが出した指示に観客席のジムトレーナーとノマは驚愕する。

 

「な、ダストシュートだと!?」

「何かまずいんですか?」

 

 バッジ4つのトレーナーが質問する。

 

「ダストシュートはとても狙いが定まりにくい技だ。平常時ならともかく、この日差しの下とても素早いダーテングを狙えるとはとても・・・『とんぼがえり』なら接近して相打ちになる危険性がある代わりに確実に仕留められたはずだ」

 

 7つバッジのトレーナーが解説する。

 

「そうしないのはたぶん・・・」

 

 話ながら考えをめぐらす彼はなんとなくその理由に行き着いていた。

 

 すこしの距離の詰め合いのあと、バシュン、という音とともに駆け回っていたダーテングが崩れ落ちた。毒の塊が彼の進路を予知したかのように飛来したのだ。

 

 

「力の差を見せつけるためだろうな」

 

 




チラチーノ過労の回。不甲斐ない試合はできないと、手持ちのポケモンと猛特訓しました。チラチーノだけレベルで表すなら10くらい上がっています。置かれた立場と自覚によって人が成長する例ですね。
ルリミゾ本人は脳筋ポケモンなので事前の考えも無視して突き進み、結果的に力で示した感じになっています。

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