ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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【あらすじ】
メジャージムリーグを一周終えたルリミゾ。
ジムチャレンジ、ファイナルトーナメントの日に向けて気持ちを整理する日々。
目指すは当日のエネルギープラント襲撃。
その準備の息抜きに、キルクスの散歩へ。
出かけた先で出会ったのは……。


62-キルクスの母

 

 あてもなく、キルクスの町を歩く。

 

 薄灰色だった空は、すっかり陽をなくして黒に変わっている。

 雪がゆっくりと降り始めていた。街頭の灯りを一瞬一瞬遮りながら、止まることなく降り続く。

 その景色だけでも呆けて見惚れていられそうなほど、やさしく、ゆっくりと。

 

 夕暮れを丁度過ぎたこんな時間に外に出たのは、気分転換のため。効きすぎた暖房に頭がぼうっとして、エネルギープラントの地図が頭に入らなかった。

 

 家の中にはチラチーノが残っている。

 「付いてくる?」と聞いたものの、ぷい、と顔をそむけて拒否されてしまった。

 換気のために窓を少しだけ開けて家を出た。賢い子だから、寒くなる前に閉めるだろう。

 

 この先、私がいなくてもやっていける。

 

 住み慣れたと思っていた町は、去る時が近付くにつれて変わって見えた。

 普段は意識しない一軒一軒の店が、急に魅力的に思えてくるような。お土産屋さんを覗いてみたくなったり、柄にもなくブティックに足が吸い込まれたり。

 結局何も買わなかったけれど、誰かと訪れることを想像して楽しくなったり。

 目に付く看板のそれぞれが、まるで新しく訪れた土地のように意識される。

 

 息をゆっくり吐き出すと、少し湿気た白色が流れていく。

 シンオウを思い出させるような雪と寒さが、じわりと身に染みる。不思議と不快感は無かった。よく知っている気候だからだ。

 それでも立ち並ぶのは、異国の建物たち。

 歴史ある町ゆえに、その成り立ちから今に至るまで、異国の土地であることを嫌というほど意識させられる。

 地震がないため、家が長持ちするらしい。とくにキルクスの家々は、改装を重ねて築200年を超える家もある、なんて聞く。

 

 そんなことはもう、どうでもいいんだけど。

 

――もう帰ろう。

 

 センチメンタルを振り切るように、雪に残る足跡が増えていく。今滑って転んだら滑稽だな、なんて浮かんだことも、すぐ後方に消えていった。

 歩きなれた道を、何も考えずに歩く。

 目に入っていた看板も目につかなくなって、日常の風景に戻っていく。

 

 辺りを歩く人もまばらに、見覚えのある白いファーが目に入った。

 気にも留めないつもりだった視線が、一瞬そちらに向く。

 

「あら」

 

 目が合った。

 

 それが誰なのかを認識して、目を遣ったことを少しだけ後悔した。

 雪の町に似合わないような、大きな笑顔で今にもこちらに話しかけようとしていたからだ。

 

 長くなりそうだな、と思った。

 


 

「あんた!ルリミゾじゃないの!」

 

 白い、ふわふわなファー。淡い色をした柔らかい生地のコートは、少しふくよかな体型を意識させないほど馴染んでいる。

 街灯に暖かく照らされて、夜の黒によく映える生地。同じ職業とは思えないくらい上品に見えた。

 元々ボディラインを隠そうともしない人だったけれど、バトルのユニフォームとはまた違った印象を感じた。

 

「……こんばんは、メロンさん」

 

 精一杯の、愛想笑い。

 関わりたくないのを婉曲に伝えるには、最も適していると思った。

 

 思ったんだけど。

 

「時間あるかい?少し、話をしようじゃないか」

 

 手を取って、無理矢理歩かされる。

 少しの散歩のつもりだったから、今ろくな格好じゃないのに。

 キルクスの冷たい空気に反して、メロンさんの手はとても暖かかった。

 


 

 それから、色々な話をしたのを覚えている。

 この町のこと、バトルのこと、美味しいお店のこと……。

 

 そしてなにより、この町のジムリーダーのこと。

 

「この町のジムリーダー争いをするのは、息子か、あたしだと思ってた。偉いもんさ、うちの息子より若いのによくやるよ」

 

 一秒、嫌味かと勘繰る。

 でも、メロンさんの表情は朗らかで、本当に褒めてくれているようだった。

 少し、反応に困る。

 

 曖昧に笑ってから、当たり障りのない返しをしようと思った。

 

「ありがとうございます。二人の戦いに恥じないように――」

 

「そんな教科書通りの答えは聞きたかないよ」

 

 優しい声色で、遮られた。

 

 機嫌を損ねたのかと思って、思わず表情を伺う。

 飲み干されたドリンクの氷が、溶け落ちてカランと鳴る。

 空気が一瞬、張り詰めたように感じる。

 

 恐る恐る目を向ければ――

 

 メロンさんは、揶揄うように微笑んでいた。

 

「あたしが知りたいのは、この町のジムリーダーとして楽しくやってるかどうかさ」

 

 そう前置きして、目をゆっくりと合わせて。

 頬杖をついて、じっと見て。

 

「どうだい?ジムリーダーは。楽しかったかい?」

 

 そんな問いを投げかけられた。

 

 浮かぶのは、マクワを倒してからの日々。

 何かを背負うことの重責や、騙していることの罪悪感。そして敗北の苦しみ。

 辛かったことがいくつも思い出される。

 

 それでも。

 

 それでも、バトルを通じて得たファンや、善き友の姿が浮かぶ。

 ジムトレーナー、実力者揃いのジムリーダーに、あの歓声。何より、瞼に焼き付くようなあのスポットライト。

 

 答えは決まっていた。

 

 恥知らずに、厚顔で笑う。

 

「楽しかったです……!」

 

 メロンさんは何も言わず、穏やかに笑っていた。

 

 私はちくりと痛む胸の奥に蓋をして、ジムリーダーとしての最後の会話をした。

 




【あとがき】
随分時間が空いてしまいました。
5話ほど続きが書けていますが、納得がいく形にならないので、一度繋ぎの回を投稿させていただきました。
次の話はブラックナイト当日です。
原作の展開を思い出しながら、再構成の難しさに筆が折れそうになっています。
もうそろそろ一年ということで、自分でも驚いています。
最近は更新が滞っているものの、これほどまで長く続けられたのはみなさんのおかげです。
暖かい感想、評価等々、いつも励まされています。
本当にありがとうございます。
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