ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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63-決行

 

「盛り上がってるかぁー!?」

 

 マイクに声を乗せて叫ぶのは、ガラル無敵のチャンピオン、ダンデ。

 ローズ不在にて、開幕の挨拶まで担当することになったことを露ほども感じさせないマイクパフォーマンスで観客を盛り上げていく。

 

 空はこれ以上ないほどの晴天。芝は青々しく、風に揺れる。フィールドを囲むように、観客席は少しの隙間もなく埋め尽くされていた。

 

 ちら、とダンデが背後を見れば、今にも射殺さんばかりの視線。

 

 熱狂の観客席と対照的に、フィールドは殺伐とした冷たい空気で満ちている。

 ダンデの背後に並ぶのは、6()()()()()()()()()と、ジムチャレンジを突破したユウリ。プライベートでは仲の良い彼らも、一言も発さずに張り詰めた空気が流れる。ユウリはやや緊張した面持ちで、不在のジムリーダーの姿を横目で探していた。

 スポンサーだらけの赤いマントに、闘気が突き刺さる。王者らしく飾られたマントには、現代的にスポンサーのロゴが連なっている。有名企業のロゴの数々が、隙間もなく詰め込まれていた。

 王者は少しも意に介すことなく、司会を続ける。

 

「ワケあって、ローズ委員長は不在だ。だから俺が代わりに開幕の挨拶をさせてもらう!」

 

 再びワッと大きくなる熱狂を、手で制す。

 一瞬の拍手や歓声がすぐに収まり、満員の観客が全て耳を傾ける。

 それほどに、絶対王者のカリスマは凄まじいものだった。

 

「改めて名乗ろう……俺はチャンピオンのダンデ!」

 

 "チャンピオン"という名乗りに対して、背後の闘気がより鋭くなる。

 誰もがその座を、首を狙っていた。

 

「長い演説は不要だな!」

 

 自然体で、それが許されるのも彼が王者だから。全ての人間が彼を認めているから。

 

「ガラルのトレーナーをより高みに連れていくために!何より俺のために!」

 

 ()()()()()。そんな表現を使えるのも、この男唯一人。

 殺気にすら迫るほどの視線が、キバナ、そしてネズから発せられる。

 

「最強のチャレンジャーを決めてくれ!」

 

「――今ここに宣言する」

 

 期待が膨らむ。嵐の前に、一瞬の静寂が訪れる。

 

「ファイナルトーナメント 開催だ!」

 

 歓声が爆発した。

 


 

 プルルル!とノマのスマホが鳴る。

 着信は、ジムトレーナーの同僚から。

 

『自宅もダメだ、誰もいない……!』

 

「わかった、ありがとう」

 

 宿泊するはずだったシュートシティのホテルにも連絡は無し。

 最悪の可能性がチラつきながらも、心当たりのある場所を虱潰しに探していく。

 普段と変わらないはずの灰色の空が、心なしか暗く感じる。

 

 ジムに残されていたのは、ポケモンたちのボール。

 ジムチャレンジ杯ファイナルトーナメント当日、ルリミゾは忽然と姿を消していた。

 

「なんでだよ……!どこ行ったんだよ……!」

 

 雪の中、立ち止まる。

 心当たりもなければ、消えるそぶりもなかった。

 軽率にボールを置いていくような警戒心のない人間ではないだけに、自ら行方を眩ませたのだろうとジムトレーナー達は推測していた。

 

「何か、手掛かりを……」

 

 行き詰った捜索に頭を抱えていると――

 

――ポン!

 

 鞄の中が光り、現れ出たのはチラチーノ。

 

「ぐふ……!」

 

「チラチーノ!何か知らないのか!?」

 

 首を横に振る。

 つぶらな瞳には、付き従っていたトレーナーへの心配と、不安が見え隠れしていた。

 

 何も知らされていないのだろう。

 

 ポケモンは聡い。

 今が異常事態であることも、そしてルリミゾが意図的に置いていったことも理解しているだろう。

 

 共生関係を育んでいた相手に突然見捨てられた心情を考えて、ノマは自分が今どんな表情をしているのかわからなくなった。

 

「ポケモンにも知らせないで何してんだ……!」

 

 苛立ちが募る。

 

「そうだッ、ウォーグル!」

 

「クァア!」

 

「空からルリミゾを探してくれ!頼む!」

 

 ばさ、とひと羽ばたきで空へ飛びあがっていく。

 

「みんな、手分けして探すぞ!」

 

 バイウールー、イエッサン、カビゴンを繰り出して各々散っていく。

 

「見つけたら力づくでもいいからジムに連れて来てくれ……!」

 

 藁にも縋る思いで言う。

 

 誰でも、何でもいい。見つけてくれと。

 


 

 古く厳めしい城の中にある、現代的な内装。

 ナックルスタジアムと呼ばれるそこは、ジムトレーナーも出払い、マクロコスモス社員だけが残っていた。

 エレベーターの前には見張りが一人立ち、ジムの業務を代行する人間が数人。

 

 一人残らず、社員として、この日、この場所を任された人間たちだった。

 

 伝えられた命令は、ただ「通すな」と、それだけ。

 地下で行われていることの詳細を知っているのは、数名。

 当然、反感や疑問を持つ者はいる。

 しかし、ガラルの大企業のトップに逆らえるような人間はいなかった。

 

 そんな場所に、場違いな来訪者がひとり。

 

「こんにちは。開けてくれる?」

 

 ドータクン、ポリゴンZを引き連れた少女が言う。

 

 戦闘服に身を纏い、背中にはギンガの頭文字であるGが光る。顔をマスクで隠し、ベレー帽からは水色の髪がこぼれる。

 

「どちら様で……?」

 

 エレベーターを守るマクロコスモス社員は、ボールに手を掛けながら返す。

 

 明らかに不審な人物たちを前に、無線で連絡を取ろうとした瞬間――。

 

「誰だっていいでしょ?通せって言ってんの」

 

 男の身体が浮き上がる。絞め付けられるように頭痛が走る。

 

 ドータクンが超能力を行使したのだ。

 

「ぐッ……ぁ……!」

 

 ただごとではない様子に、辺りのスタッフが慌しく動きはじめる。どこかへ走って逃げる者、物陰に隠れる者、無線で何かを話す者。各々、身を守るための行動を取っているようだった。

 

 かくん、と男が白目を剥いたのを確認してから、少女はドータクンに指示を出して男を地面へと解放した。

 

「エレベーターを止めろ!地下に通すな!」

 

 ヴン、とエレベーター前のランプが消える。ボタンの光も消え、乗り物としてのエレベーターが完全に停止する。

 

 バトルで成功した人間が、有能さを見込まれマクロコスモスへ就職することは少なくない。

 だから、この場に集まった社員の中にも戦える者が数人。

 そして、警備員と。

 

「戦える人間は戦えッ!拘束するぞ!」

 

「有象無象が……無駄なのよ!」

 

 そうして、エネルギープラントへの襲撃が始まった。

 


 

 報せはローズにも届く。

 

「上でギンガ団が……?」

 

 辺りは願い星から抽出されるエネルギーで満たされた管で光る。

 怪しく点滅する機械とパイプ、そして薄暗い雰囲気が、まるでローズを悪役のように見せていた。

 

 ローズは会場の様子を伺いながら、ブラックナイトを起こす時を待っていた。

 これから、未来のために正しい行いをする。

 そして現れる英雄の礎になるために待っているのだ。

 

 大衆に理解されるとは思っていない。

 

 今まで築き上げてきたリーグの発展も、マクロコスモスの名声も、全てを台無しにするような凶行だ。

 しかし、悪人として裁かれることに、ローズは何の未練もない。

 

 すべては、無理解な彼と時代の波のせいだ。

 

 大きな波が、もうすぐそこまで来ている。

 

 ネズとポプラの引退。

 ルリミゾやサイトウ、オニオンといった若いジムリーダーの登場。

 ダンデの世代を彷彿とさせるような、怪物揃いのジムチャンジャ―世代。

 

 決勝戦は、時代の変化を示す頂点となるだろう。

 

 ローズの見立てでは、ユウリは今、かつてのダンデのように勢い付いている。

 ダンデがチャンピオンを破ったときの、あの感覚。それに酷似している。

 

 おそらく決勝戦は、ユウリ対ダンデ。そしてその勝敗は――。

 

「まァ、決勝戦まで待つつもりだったんですがね」

 

 決勝に抜けるのがユウリなら、どちらが勝つかわからない。

 もしキバナが抜ければ、ブラックナイトを延期してもよいだろう。その他ジムリーダーでも同様だ。

 

 だから、ローズは観戦しながら決勝を待つつもりでいた。

 

「君、この計画に関わっている、戦える社員を全て集めてくれるかい?」

 

「承知しました……!」

 

「私はここで待ちます。上層階で、マクロコスモス内だけで拘束できるようにしましょう」

 

 公的機関に準備が露見するのは避けたかった。

 優秀な社員と、ローズが動けば拘束ができると考えていた。

 能わずとも、ブラックナイトを起こすのが早くなるだけだ。

 

 ギンガ団がもしここまで突破してきたとしても、ローズが直接対峙するつもりですらあった。

 

 ある種、天が与えた試練の様に感じていた。

 時代のうねりに逆らうローズを、試しているかのように。

 




いつも読んでくださりありがとうございます。
高いモチベーションに反して見切り発車による困難で更新が遅れていました。
評価、お気に入り、誤字報告、感想、いつも助かります。
初めての小説ですから、ルリミゾの物語に決着が付けられるよう頑張ります。
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