ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
バゴ!と上層で鈍い音が弾けて、思わずローズはエレベーターを見遣る。
明らかに人が乗ったのではない、破壊音が連続する。
金属の何かが落下してひしゃげる音がする。
「まさか……」
エレベーターのドアが膨れる。
内側から何度も、殴りつけられたように鈍い音が響き、それに合わせて変形していく。
ホラー映画のワンシーンのように。あるいは、閉じ込められた怪物がドアを破って追って来るシーンのような。
バゴン!
吹き飛んだドアが壁に突き刺さり、非現実のような挙動をする。
「社員だけで取り押さえられると思った?舐められたものね」
ドータクンと共に、ふわりと着地した少女。
軍服のような装備に、ベレー帽からこぼれる水色の髪。
そしてその声は、ひどく聞き覚えのあるものだった。
ファイナルトーナメントに不在で、ジムトレーナー達が探し回っている渦中の人物。
師を襲った突然の意識不明に、代理として出場し、駆け上がった超新星。
「ルリミゾ、でしたか。まさか君だったとは」
「ボイスチェンジャーがなかったら簡単にバレるのね。ああ、そういえば髪も隠してないし当然か」
(どうしたものか……)
まさかの侵入者の正体に、思考が飛びかけて。
「カシワ君に拾ってもらったのも計画のうちかな?」
時間稼ぎのために、会話を繋ごうとする。
脳を最大限に回転させて、ボールに手を掛けて。
「……さあ、どうかしら」
――何故ルリミゾが今、こんなことを。
頭を横切るのは、全く読めない少女の動機。
それでもこの危機的状況を脱するために、口を動かし続ける。
(上のトレーナーが降りてくるまで時間稼ぎをすべきか)
とにかく、会話を長引かせることだけを考えようと試みていた。
「これは一杯食わされた。ジムリーダーを隠れ蓑にしてたワケだ」
乗ってくれ、と願いながら、努めて冷静に飄々と話す。
「そう。カシワさんを眠らせたのもあたし。今までの襲撃も、全部ね」
「なら、目的はコレですね」
親指で指すのは、背後の黒い球体。
脈動しながら、目覚める刻を待っている。
浮かぶ疑問は、なぜジムリーダー代理に過ぎないルリミゾが知っているのか。
社員から流れたのか、それとも何か他の方法で知られたのか。
「どこからバレたのかな?キバナ君さえ知らないハズなんだが……」
「サイコキネシス」
返答は、念動力の一撃だった。
時間稼ぎが見え透いていたのだろう。
躊躇なく放たれたそれは、一直線にローズへ向かう。
「シュバルゴ」
投げることなく、手元のボールから槍兵が現れる。
槍のような腕を交差させてガード。
衝撃で後退しながらも念力を振り切り、槍を向けて闘志を顕わにする。
「手荒い返答だねぇ。これでも昔はそこそこ戦えたんですが……」
「へぇ。どうだっていいわよそんなこと」
返事の代わりに攻撃を返すような開戦からは、あまりにも不自然な間。
まるで意識を逸らすかのような――
――同時、後方にわずかな風切り音。
(背後にクロバットか!)
「ナットレイッ!」
ボールが開くと同時、『パワーウィップ』を振り回して牽制する。
姿こそ見えなかったものの、クロバットは攻撃を中断したようだった。
薄暗い天井付近を、わずかに影が揺らぐ。
「流石にバレバレだったわね。まぁ、背中に気を付けて?」
ルリミゾはマスクの下で笑っているのだろう。目を細めていた。
(なるほど、これは……)
三体を場に出さざるを得ない。
トレーナーが狙われる戦いは、ワイルドエリア外ではそう起こらない。
まして人がポケモンを従えてトレーナーを狙う戦いなど、滅多に経験する機会がない。
経験豊かなポケモンバトルから、無理矢理ルリミゾの土俵である野外戦闘へと上げられるのだ。
(増援が来るまでの時間稼ぎに徹する。とはいえ守りだけではポリゴンZに削りきられてしまうね)
三匹目に選んだのは。
「ニャイキング」
本来は、採掘現場をより活気付けるために従えていたポケモンだ。
メジャーであるシングルバトルでは活かせない特性だが、この三体が入り混じる戦闘では大いにその力を発揮するだろう。
小判がキラリと光り、歯をぎらつかせて鳴く。
それが、再びの開戦の合図だった。
(なんでコイツがここにいんのよ……!)
ルリミゾにとって、待ち受けていたローズは予想外だった。
「ローズが開会式でひとつ演説をする」と、ジムリーダーへ事前に伝えられた段取りではそう説明されていた。
今、ちょうど開会式が終わったくらいの時間だ。
事前に計画がバレていたことに思考が巡るが、それにしては薄かった上階の守りを根拠にそれを否定。
軽く蹴散らしてエレベーターを突き抜けたが、まさか目的地にローズがいるとは思いもせず。
警備のトレーナーがいたとして、精々8バッジを集めた程度の人間だと踏んでいた。
彼が従えているポケモン達を一目見れば、ジムリーダーでもかなり上位に相当するような練度であることが容易に分かる。
(あの子を出すべきか……いや、万が一クリティカルに攻撃を貰うと脆いから危険ね)
ここまで来た以上、出し惜しみはできない。
手札を切るタイミングを伺いながら、まず
ローズの手持ちについて、ルリミゾが知っていることはほとんどない。鋼タイプ使いであり、ダイオウドウが相棒だということ程度しか知らなかった。
だから、初撃に全力を費やした。
「ニャイキングから狙え」
応答するように、ポリゴンZが動く。
ピピ、と電子音が鳴り、集められるエネルギーは
狂ったような挙動から放たれるそれは、熱をもってニャイキングに迫る。
「『ドリルライナー』ッ!」
即座にカバーに入るシュバルゴ。
地面の力を纏った槍が交差されて、炎のエネルギーを受け止める。
「シュバ……!」
「『目覚めるパワー』か。手厳しいね」
「ご名答。調整には苦労したわ。でもそれも、今日で終わり」
ジュウ、と音を立てて食い込む炎にシュバルゴが表情を歪める。
それでもエネルギーの勢いは止まらない。
これからの快進撃を表すかのように、炎が全てを覆った。
いつも読んでくださりありがとうございます。
ストックを修正しながら、リアルに追われる日々ですが続けられそうです。
みなさんのおかげです。
毎度感想、評価、お気に入り、誤字報告等ありがとうございます。
読んでくださっているみなさんのおかげで1年も続けられました。