ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

64 / 69
64-鋼の精神

 

 バゴ!と上層で鈍い音が弾けて、思わずローズはエレベーターを見遣る。

 

 明らかに人が乗ったのではない、破壊音が連続する。

 

 金属の何かが落下してひしゃげる音がする。

 

「まさか……」

 

 エレベーターのドアが膨れる。

 内側から何度も、殴りつけられたように鈍い音が響き、それに合わせて変形していく。

 ホラー映画のワンシーンのように。あるいは、閉じ込められた怪物がドアを破って追って来るシーンのような。

 

バゴン!

 

 吹き飛んだドアが壁に突き刺さり、非現実のような挙動をする。

 

「社員だけで取り押さえられると思った?舐められたものね」

 

 ドータクンと共に、ふわりと着地した少女。

 軍服のような装備に、ベレー帽からこぼれる水色の髪。

 そしてその声は、ひどく聞き覚えのあるものだった。

 

 ファイナルトーナメントに不在で、ジムトレーナー達が探し回っている渦中の人物。

 師を襲った突然の意識不明に、代理として出場し、駆け上がった超新星。

 

「ルリミゾ、でしたか。まさか君だったとは」

 

「ボイスチェンジャーがなかったら簡単にバレるのね。ああ、そういえば髪も隠してないし当然か」

 

(どうしたものか……)

 

 まさかの侵入者の正体に、思考が飛びかけて。

 

「カシワ君に拾ってもらったのも計画のうちかな?」

 

 時間稼ぎのために、会話を繋ごうとする。

 脳を最大限に回転させて、ボールに手を掛けて。

 

「……さあ、どうかしら」

 

――何故ルリミゾが今、こんなことを。

 

 頭を横切るのは、全く読めない少女の動機。

 それでもこの危機的状況を脱するために、口を動かし続ける。

 

(上のトレーナーが降りてくるまで時間稼ぎをすべきか)

 

 とにかく、会話を長引かせることだけを考えようと試みていた。

 

「これは一杯食わされた。ジムリーダーを隠れ蓑にしてたワケだ」

 

 乗ってくれ、と願いながら、努めて冷静に飄々と話す。

 

「そう。カシワさんを眠らせたのもあたし。今までの襲撃も、全部ね」

 

「なら、目的はコレですね」

 

 親指で指すのは、背後の黒い球体。

 脈動しながら、目覚める刻を待っている。

 

 浮かぶ疑問は、なぜジムリーダー代理に過ぎないルリミゾが知っているのか。

 社員から流れたのか、それとも何か他の方法で知られたのか。

 

「どこからバレたのかな?キバナ君さえ知らないハズなんだが……」

 

「サイコキネシス」

 

 返答は、念動力の一撃だった。

 時間稼ぎが見え透いていたのだろう。

 躊躇なく放たれたそれは、一直線にローズへ向かう。 

 

「シュバルゴ」

 

 投げることなく、手元のボールから槍兵が現れる。

 槍のような腕を交差させてガード。

 衝撃で後退しながらも念力を振り切り、槍を向けて闘志を顕わにする。

 

「手荒い返答だねぇ。これでも昔はそこそこ戦えたんですが……」

 

「へぇ。どうだっていいわよそんなこと」

 

 返事の代わりに攻撃を返すような開戦からは、あまりにも不自然な間。

 まるで意識を逸らすかのような――

 

――同時、後方にわずかな風切り音。

 

(背後にクロバットか!)

 

「ナットレイッ!」

 

 ボールが開くと同時、『パワーウィップ』を振り回して牽制する。

 姿こそ見えなかったものの、クロバットは攻撃を中断したようだった。

 薄暗い天井付近を、わずかに影が揺らぐ。

 

「流石にバレバレだったわね。まぁ、背中に気を付けて?」

 

 ルリミゾはマスクの下で笑っているのだろう。目を細めていた。

 

(なるほど、これは……)

 

 三体を場に出さざるを得ない。

 トレーナーが狙われる戦いは、ワイルドエリア外ではそう起こらない。

 まして人がポケモンを従えてトレーナーを狙う戦いなど、滅多に経験する機会がない。

 経験豊かなポケモンバトルから、無理矢理ルリミゾの土俵である野外戦闘へと上げられるのだ。

 

(増援が来るまでの時間稼ぎに徹する。とはいえ守りだけではポリゴンZに削りきられてしまうね)

 

 三匹目に選んだのは。

 

「ニャイキング」

 

 本来は、採掘現場をより活気付けるために従えていたポケモンだ。

 メジャーであるシングルバトルでは活かせない特性だが、この三体が入り混じる戦闘では大いにその力を発揮するだろう。

 

 小判がキラリと光り、歯をぎらつかせて鳴く。

 

 それが、再びの開戦の合図だった。

 


 

(なんでコイツがここにいんのよ……!)

 

 ルリミゾにとって、待ち受けていたローズは予想外だった。

 「ローズが開会式でひとつ演説をする」と、ジムリーダーへ事前に伝えられた段取りではそう説明されていた。

 

 今、ちょうど開会式が終わったくらいの時間だ。

 事前に計画がバレていたことに思考が巡るが、それにしては薄かった上階の守りを根拠にそれを否定。

 軽く蹴散らしてエレベーターを突き抜けたが、まさか目的地にローズがいるとは思いもせず。

 

 警備のトレーナーがいたとして、精々8バッジを集めた程度の人間だと踏んでいた。

 彼が従えているポケモン達を一目見れば、ジムリーダーでもかなり上位に相当するような練度であることが容易に分かる。

 

(あの子を出すべきか……いや、万が一クリティカルに攻撃を貰うと脆いから危険ね)

 

 ここまで来た以上、出し惜しみはできない。

 手札を切るタイミングを伺いながら、まず()()()()()()()()()

 ローズの手持ちについて、ルリミゾが知っていることはほとんどない。鋼タイプ使いであり、ダイオウドウが相棒だということ程度しか知らなかった。

 

 だから、初撃に全力を費やした。

 

「ニャイキングから狙え」

 

 応答するように、ポリゴンZが動く。

 ピピ、と電子音が鳴り、集められるエネルギーは()()()()()()()()

 狂ったような挙動から放たれるそれは、熱をもってニャイキングに迫る。

 

「『ドリルライナー』ッ!」

 

 即座にカバーに入るシュバルゴ。

 地面の力を纏った槍が交差されて、炎のエネルギーを受け止める。

 

「シュバ……!」

 

「『目覚めるパワー』か。手厳しいね」

 

「ご名答。調整には苦労したわ。でもそれも、今日で終わり」

 

 ジュウ、と音を立てて食い込む炎にシュバルゴが表情を歪める。

 それでもエネルギーの勢いは止まらない。

 

 これからの快進撃を表すかのように、炎が全てを覆った。

 

 




いつも読んでくださりありがとうございます。
ストックを修正しながら、リアルに追われる日々ですが続けられそうです。
みなさんのおかげです。
毎度感想、評価、お気に入り、誤字報告等ありがとうございます。
読んでくださっているみなさんのおかげで1年も続けられました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。