ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
辺りには、黒焦げのポケモンが2匹。
シュバルゴとニャイキングだったそれらをボールに戻して、ローズは周囲を見渡す。
――特にムゲンダイナ関連の機械に損傷はない。
あちこちに残火が燻り、いやな臭いが漂う。
「……なんとも、手厳しいね」
「昔のレベルが低かったのか、それともアンタが衰えたのか、どっちかしらね」
ローズのポケモンは、残すこと3匹。
対してルリミゾのポケモンは一切の傷なく照準をローズに合わせていた。
「命までは取らないわ。退いて。」
「随分な言い草だね。まだ勝負はついていないというのに」
降伏勧告が示すのは、甘え、もしくは暴力行為への躊躇。
そこに一縷の希望をみたローズは、大仰な姿勢で口を開く。
「これから先の未来、チャンピオン・ダンデの栄光は忘れ去られ、私たちが築いたリーグも衰退するかもしれない」
かつて、18年間王座を守り続けるという偉業を成し遂げたマスタードさえ、遥か過去の人物と化している。
相棒の死と共に緩やかに衰え、そして表舞台から消えた。
マスタードの名を聞くことはもう殆どない。
――ダンデという男は、そんな終わりを迎えるべきではない。
「ダイオウドウ!」
ローズの腕時計が光り、ダイマックスのためのエネルギーが集まっていく。
通信機を取り出し、言う。
「ムゲンダイナにエネルギーを投入。そして会場に繋いでもらえますか」
現れる鋼の巨躯、そして同時に巻き起こる鋼鉄の散弾。
『キョダイコウジン』だ。
ドータクンが1歩分前に進み出て、ルリミゾへ飛来する鋼塵をカットする。
「ッ!」
思わず舌打ちを返すルリミゾ。
このやや狭い環境下でダイマックスを行えば、どう周囲に影響があるのかわからない。ローズは恐らく、問題がないことを理解したうえでダイオウドウをキョダイマックスさせたのだろう。
エネルギープラントに深く関わっているローズだからこそ打てた一手だった。
「時間が無いのよ……!」
焦燥は、禁忌に手を伸ばさせる。
腰元深く、「使うことがないように」との無意識を反映して、ポーチの奥底に押し込められたマスターボール。ダイマックスしたダイオウドウを手早く落とし、目的を達成するためには、どうしても必要なように思えた。
モンスターボールと少し形の異なるそれを、ルリミゾは手探りで握った。
シュートスタジアムにて。
熱狂の最中、ダンデを映していた大型のスクリーンに異変が起こる。
ざ、ざ、と無理矢理何かに書き換えられるような挙動。
『無理解なチャンピオンよ。開会宣言は出来たかい?』
スクリーンに映し出されるは、
気付き始めた観客が騒めき始めて、ダンデやジムリーダー達も背後へ振り返り、モニタを見上げる。同時に、異様な速度で流れ始める暗雲。
スタジアムに集まった誰もが、異常事態を察していた。
『突然だけど……ブラックナイトを始めるよ!』
ノイズ混じりにローズの声が響く。
何かの衝突音や、金属音、そして画面端にチラつく火花。
意味の掴めない宣言に、騒めきがさらに大きくなる。
『エネルギープラントが襲われていてね……猶予はないんだ、チャンピオン』
それは、個人へ向けてのメッセージ。
見出した才能への、あまりにお節介な贈り物。
『ガラルの未来を守るために、君が英雄になるんだ。わかってくれるよね?』
――ザザ!と激しくノイズが走り、映像が閉じる。
それから、各地でポケモンがダイマックスして暴走しているという報せが届いた。
ローズの背後、黒い塊にエネルギーが注がれる。
辺りの管が妖しく光り、激しくエネルギープラントが揺れる。
「さあ、厄災の復活だ」
直後、ダイマックス現象で見られるピンク色の光が爆ぜ、耳を劈く音と共に黒塊が弾けた。
蛇のような、龍のような何かが一瞬うねり、天井を突き破って消えていく。
その姿を目で捉えることは能わず、ローズは一瞥したあと再びルリミゾへと向き直る。
「……私の役目はこれで終わった。後は英雄の到着を待つだけですね」
そう言って、瀕死になった二匹を再び繰り出す。
ニャイキングとシュバルゴだ。
傷は痛々しく、炎によるダメージからか、少し触れるだけでも身体を蹲らせて呻る。
そして、懐から取り出したのは、
刺々しく、その見た目からは生命力を復活させる効果があるとは到底予想もつかない。
しかし、鉱山と縁深いローズはソレをよく知っている。
「……」
一瞬の葛藤。
手元を見つめた後、強く握ってその感触を確かめる。
そして、決心。
「私にはガラルを守る使命がある。1000年後のガラルを守る使命が……!」
――元気の塊。
そう呼ばれるその鉱石は、瀕死に陥ったポケモンを復活させる効果を持つ。
市場に出回ることはほとんどなく、この日の為に集めた物がちょうど五つ。
「もう一度、頼みますよ」
「ニャア」
「シュバ……!」
倒れた
これで振り出し。
そして、残る元気の塊はあと三つ。
"鋼の精神"は折れない。倒れない。
「私は徹底的に抗う!この時代の流れにも、時間の流れにも……!」
もう、ローズは自分が何を言っているのかわからなかった。
論理的に導き出したはずだった答えは、いつのまにか心臓の奥から送り出されているようだった。
「チャンピオンも、ポケモンリーグもいずれ終わる!人は老い、資源は消えていくだろう」
鼓動と同じ速さで、言葉が一つずつ流れ出していく。
指示も出さずに、ただ何度も繰り返したように、演説のように語る。
「災厄を止めた英雄ならばどうだろう?ブラックナイトを鎮めた英雄・ダンデの御話は語り継がれ、1000年後も続くだろう!」
英雄は死なない。
かつて、ガラルを救った人間が今も人々に語り継がれるように。
「君も英雄の像を見たでしょう。英雄は、時代を超える!」
英雄の物語、そのエンドロールに、ローズの名前が載るなら。
いつか、ジムチャレンジで勝てなかった自分でも、その栄光に預かれるなら。
ローズには、それを実行できるだけの頭脳も、築き上げた地位もある。
「1000年後に、この愛おしい豊かなガラル地方を残す。そこにはポケモンリーグも残っていて、今と同じく人々が笑って暮らしている。そんな未来を創るのは私だ……!」
他の誰にも、ムゲンダイナは止められないだろう。
だが、ダンデなら止められる。
ローズは自首する腹積もりでいた。
きっと、強引に災厄を引き起こしたことを、大衆は許さないだろう。
今の倫理にそぐわない行為だという自覚もある。
しかし、名誉とは後から生まれるものだ。
1000年後の人間は理解してくれる。
そう夢想して、『キョダイコウジン』を指示した。
これ以上の出し惜しみは、計画の破綻を招く。
そう考えたルリミゾは、ぎゅ、と目を瞑り息を吐く。
結局、ローズにも相当な覚悟があったということ。
戦いの腕こそ衰えていたものの、下準備と意志はルリミゾに迫るものがあった。
躊躇しながら戦って倒せるほど、ガラルリーグを成功させた人間は弱くなかった。
だから、もう一度決心をする。
――例え命を奪ってでも、元の世界に帰る。
「もう、どうなっても知らないわよ」
警告はとうに発された。
伝説のポケモンが再誕しようとも、時間稼ぎに徹されようとも。
この一匹で、全てが片付いてしまうだろう。
手に持ったマスターボールから、溢れんばかりの力を感じる。
それを一度動かせば、この施設がどうなってしまうかも理解できるほどに。
ちょうど戦場の中心、空いたスペースへ向けてボールを投げ。
「⠛⠐⠳⠐⠣⠐⠡⠹」
その名を呼ぶ。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
しばらく書くことから離れていたので、リハビリしながら次話を書いています。スロースタートな新年ですが、最後に出てきた伝説のポケモンはスロースタートしません。あと5ターンくらいゆっくりな更新になりますが、よろしくお願いします。
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