ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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66- ⠛⠐⠳⠐⠣⠐⠡⠹

 

「――!」

 

 空を駆けるダンデとリザードンが、目的地の方角へ、ばっと顔を向ける。

 

 ブラックナイトとは異なる、何かしらの脅威が現れたことを肌で感じ取っていた。

 圧倒的な力が、空気を歪めていると錯覚するほどに。

 

 雷が落ちただとか、爆発が起きただとか、そういう明らかな異変はなかった。

 ただ、空気が変わった。

 何かが地に降り立ったことを直感していた。

 

 変わらず暗雲は立ち込め、各地で赤い光と共にポケモンが巨大化している。

 横目にそれらを見ながら、被害をジムリーダー達が抑えてくれることを信じ、一直線にナックルスタジアムへ向かう。

 

「急ごう……!」

 

「ばぎゅあ」

 


 

 もはや、意志のぶつかり合いは終わっていた。

 各々の想いを乗せたポケモン達の勝負ではなく。

 

 ルリミゾがこの手札を切った時点で、残された道はひとつしかなく。

 それはガラルとの決定的な別れを告げるものだった。

 

 蹂躙。

 

 それが、ルリミゾの選んだ手段だった。

 

「『アームハンマー』」

 

 驚愕するローズの顔を横目に指示を出せば、巨人が動き始める。

 両手で一つの巨大な拳を作り、大きく頭上に振りかぶって。

 

「やれ」

 

バゴン!

 

 キョダイマックスしたダイオウドウの身体が、弾けた。

 

 立っていた地面は凹み、あちこちに罅が走る。ムゲンダイナが空けた穴からパラパラと破片が零れ落ち、重低音が継続して鳴る。いとも簡単に命すら砕いてしまえそうな程の一撃。

 

 その一撃は、ローズの意志を砕くのに十分すぎる衝撃だった。

 

 即座にダイマックスは解除され、元の大きさに戻ったダイオウドウは倒れて動かない。

 

「ダイマックスなしで、この破壊力だと……!」

 

 神話は語る。

 「その者、大陸を動かすほどの怪力を持つ」と。

 

 その力が、振るわれようとしていた。

 

「『ヒートスタンプ』」

 

 燃え上がるように熱された足が、ニャイキングを踏みつける。

 ボ、という音と共にその姿が足裏へと消えていく。

 

 再びレジギガスが足を上げたとき、もうそこには何者も立っていなかった。

 ニャイキングは二度目の大火傷、そして瀕死。ぴくりとも動かず、凹んだ地面の中心で倒れたままに。

 

 助けようと入ったシュバルゴを片手で薙ぎ払い、壁に叩きつけ、『握り潰す』を放った。

 何度バトルしても砕けない程に頑丈だった殻は砕け、本体がぼとり、と地面に落ちる。チョボマキから引き継いだ頑丈な殻から出た本体は、成長したカブルモのような姿で。

 ずるずると這って動くのを、ローズが咄嗟にボールへ戻す。

 

「ッ……!」

 

 ルリミゾの脳が警鐘を鳴らす。

 一撃で砕く度に、何かが擦り減っているような気がした。

 過剰なまでの力の暴力に、バトルで得られたような高揚感も、充足感も得られなかった。

 当然、これはポケモンバトルという競技ではなく、ルリミゾもローズもポケモントレーナーとして立っているのではなかった。もっと原始的な方法で、何かを賭けて戦っていた。

 だから、勝利で得るものは、主張を通す権利。

 より強い者が、好きなように動ける。それだけのこと。

 

 もう、後戻りが出来ない場所まで来てしまっていた。

 

「全部潰して!」

 

 ピピピ、と電子音のような、鳴き声のような、どちらとも判別がつかない音が巨人から聞こえた。

 

 脚に向かって伸びてくる、ナットレイのツタの鞭を掴んで手繰り寄せ、本体を片手で掴む。110㎏のナットレイを、軽々と片手で。

 そして大きく振りかぶり、『馬鹿力(ばかぢから)』で地面に叩きつける。

 ぴし、と鋼の身体に罅が入り、ナットレイの意識が刈り取られる。

 

 ギギギアルを無造作に拳で払い、その回転を止め。両手でぐしゃり、と『握り潰す』。バラバラになってもう動かないそれを、ローズが下がらせた。

 

「なんと……」

 

 残ったのは、倒れ伏す数匹の鋼ポケモン達。

 瀕死まで至る傷を負い、立ちあがることはない。

 ごう、と広い空間に響く空調の音だけが木霊していた。

 

 もう、ローズから戦意は感じられなかった。

 膝から崩れ落ち、呆然と手に持った元気の塊を取り落としていた。

 

「これで、おしまい」

 

 逃げるようにレジギガスをボールに戻し、ルリミゾは背を向けた。

 


 

 

 

 

 

 ぱり、とローズの手から零れた「元気の塊」が割れる。

 そして、バラバラになった破片は都合よく転がっていく。塊は欠片となって、まるで何かに導かれるように。

 戦いで歪み、凹んで、傾いた広場で、誰も予想だにしない方向へ。

 

 

 

 

 

 


 

 ローズは呆然と、敗北に頭が真っ白になっていた。

 しかし、ぱりん、と結晶の割れる鋭い音に意識を向ければ、まるで意志を持っているかのように転がる「元気の欠片」が見えた。

 

 打つ手は無くなり、用意した回復手段は、圧倒的な力の前に無意味になっている。

 それなのに、諦めの悪い、いつも空回りばかりする相棒のもとへ「元気の欠片」が転がっていく。

 ラテラルタウンで、褒められたいがためにビートと壁画のレプリカを砕いてしまうような、そんな考えなしの相棒。

 

 欠片が転がった先には、倒れ伏したダイオウドウがいた。

 

「待ってくれ」

 

 もう、動いてはいけない。

 伝説からの一撃は、他のポケモンの攻撃とは一線を画している。その状態から復活したとしても、すぐさま戦闘できるような状態にはならないだろう。

 

「ダメだ」

 

 きっと、彼女は再び立ち上がってしまう。

 いつかの夜に、語った夢の話を、きっと彼女は覚えている。ジムチャレンジから何十年もずっと共にいた相棒だからこそ、戦うだろう。

 零れるように発されるローズの制止も振り切って。

 

 倒れたダイオウドウの眼前まで転がった「元気の欠片」が光り。

 

 静かに、ダイオウドウは立ち上がった。

 

 パオオオオオン、と咆哮と共に巨体が駆ける。なけなしの体力を振り絞って。

 「元気の欠片」による回復は万全ではなく、これ以上、瀕死の身体を無理に動かせば――。

 

「死んで、しまう」

 

 ルリミゾに攻撃が向けられる。

 ただ、ルリミゾは咄嗟に振り返り、驚愕の表情で固まっていた。

 

 反応したのは、ルリミゾの従えるポリゴンZ。

 ダイオウドウの巨体から放たれる攻撃を防ぐため、主に仇なす敵を倒すため。

 無感情に、光線が放たれた。

 

――殺してしまう。

 

 ルリミゾは、スローモーションで動く光景の中で、頭でそれを理解していた。

 しかし、もう制止はきかない。そして、殺すか殺されるかの状況であることも確かだった。

 

 どこか、諦めにも似た感情でそれを眺めていた。

 対立した時点で、いつかはこうなることは明らかで。

 手を血で汚すことになっても、成し遂げなければ、費やした時間、重ねた努力、得た協力に報いることができない。

 

(ごめんなさい)

 

 せめて、自らの背負う罪に向き合おうと、放たれた光線を見た。

 

――それと同時、視界の端から光線に割り込む、小さな、小さな影が見えた。

 

 よく、知っている姿だった。

 ぴかり、とその小さな身体で『光の壁』を貼って、光線が天井へと逸れていく。

 ポリゴンZの攻撃を、上手く受け流し逸らすほどの技量。

 正面から見るのは初めてで、いつもその小さな背中を頼って戦っていたのを覚えている。

 

 天井に空いた穴から、瓦礫が落ちる。

 同時に、雷の鳴る赤黒い空から光が差し込む。

 清潔に手入れされた毛並みはつやつやと光って、ぼんやりと暗いエネルギープラントでもその白い姿はよく見えた。

 

「ぐふ」

 

 チラチーノ。

 ジムリーダーとして従えてきた相棒が、そこにいた。

 

「ポケモンまで置き去りにして、何してんだよ」

 

 よく、知っている声だった。

 ジムトレーナーのノマが、そこに立っていた。

 キュウコンとダーテングに並び立って、鋭い視線を向けていた。

 

 振り切って屋上へ逃げようとしても、ルリミゾの足はぴくりとも動かせなかった。築いた繋がりが、心に、足に、絡みつく。

 別れはすませたはずだったのに、どうしても、動くことができなかった。

 

「……さぁ、アンタには関係ない話でしょ」

 

 辛うじて口から出たのは、そんな言葉だけだった。

 




たいへんお待たせしました。
最近は不定期更新になりましたが、いつも読んでくださりありがとうございます。
ぽつぽつと増えるお気に入りや、頂いた感想でモチベーションをもらっています。
前回の感想を返せていなくてすみません。ゆっくり返していきます。
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