ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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68-努力の果てに

 

ギンガ団幹部(ジムリーダー) の ルリミゾ(ロベリア)

勝負を しかけてきた! ▼

 

「ッ……!」

 

 ノマの思考が巡る。

 

 眼前の得体の知れない生物、そのタイプは何なのか。

 そもそもタイプという枠組みが当てはまるのか。

 おそらく名前はフェローチェ――ルリミゾがそう呟いていた――なんて思考が混乱して、ノマは完全にフリーズしてしまっていた。

 

(今まで見てきた生物とは何か違う……!)

 

 規格外のスピード、攻撃力、そして無機質ながら生物として完成された美の肢体。

 初見で凡夫が相対するには、あまりにも異質な存在だった。

 だから、才能溢れるチラチーノが先に動いたのも当然のことだった。

 

「ふッ!」

 

 即座にフェローチェに向かって放った『じゃれつく』。

 いままで一度も手合わせしたことはなくとも、ルリミゾとノマの会話、そして天性の戦闘勘で弱点を見抜いていた。

 

かぶりん

 

 しかし、フェローチェは、するりと這い回るように回避してゆく。

 

(じゃれつく!? てことはフェアリーが弱点なんだな!?)

 

 格闘タイプか悪タイプ。

 研鑽に励んできたトレーナーであるノマは、チラチーノの行動を切っ掛けにして、思考の健やかさを取り戻していた。フェアリータイプが効果抜群のタイプは三つ。悪、格闘、ドラゴンである。見た目・性質からしてドラゴンタイプはありえない。いまひとつ絞り切れないまでも、ぼんやりと考えられる可能性を虱潰しに脳内で浮かべた。

 格闘タイプであれば、より人に近い姿だ。悪タイプであれば、黒っぽい獣に寄る傾向がある。

 つまりは、どちらか単タイプではなく、複合タイプ。

 

(複合だとすればもう一方は……虫、岩、エスパー、地面、毒、草、電気、ノーマルあたりだろうな)

 

(ゴーストや鋼じゃねえのは明らかだ。水棲生物が陸上でこんなに強いハズもない……)

 

「ッダーテング!狙われてるぞ!」

 

 恐ろしい速度での『とびかかる』がダーテングに迫る。

 生理的嫌悪感を掻き立てる、おぞましい動き。かさかさと動く姿に、ノマは全身が粟立つのを感じた。

 

「ダァッ!」

 

 しかし、ダーテングもまた猛者。

 この晴れのエネルギーが満ちた場において、唯一フェローチェと競り合う速度を持った生物である。

 寸前まで引き付けて、リーフブレードでの反撃。

 

 しかし、()()()()()()()()だ。

 

(草タイプが効いていない……!虫、毒、草のどれかだ!)

 

 虫タイプの技を使ったということは、それに相反する草タイプの可能性は薄れる。毒タイプなら、最初から毒を用いた戦いをしているはず。

 

「虫/格闘、あるいは、虫/悪……」

 

 ちらりとルリミゾを一瞥。しかし、ルリミゾは俯いて、髪に目が隠されたままだった。

 

「ご主人サマが使い物にならなくても賢いヤツじゃねえか!」

 

 チラチーノは、飛行タイプの技を使えない。だからこそ、唯一この場で飛行タイプの技を使える可能性のあるダーテングをわざわざ狙ったのだろう。定石からいえば、いずれ日照りの消滅によって動きの遅くなるダーテングから仕留めに行く理由はない。

 

「……うるさい」

 

「聞こえねえなあ!黙ってジム出て行きやがって。もっとハッキリ言えよ!」

 

「……うるさいって言ってんのよ!『破壊光線』!」

 

 精神的動揺。

 誰よりもその弱さを知っているはずのルリミゾが、叫びながら、隈の濃くなった顔を晒す。

 

 叫びに応えるように、電子音が鳴り響き、光と共に空間が軋む。

 

「チラチーノ!ドータクン!『光の壁』!」

 

 ふたたびの二枚体制。

 明確な拒絶を以って放たれたその光線を『光の壁』が受け止めて消滅させてゆく。隙を見て飛び込んで来ようとするフェローチェを牽制しながら、ダーテングは位置取りを変えて立ち回る。

 

 しかし、相対するはUB:BeautyとポリゴンZ。特殊攻撃と物理攻撃に特化した相手に、いつまでも防戦一方では削られていくばかりである。ノマは3対3のバトル経験などなく、ましてや相手は通常のバトルでさえ敵わないルリミゾ。だから、ノマは()()()()()()()()()()()()()

 

 ベルトの両サイドにぶら下げたボールから、()()()()()()()()()()()

 

「イエッサン!エレザード!ズルズキン!」

 

 ノマは、トレーナー込みの戦いを放棄した。

 

(バイウールーは圧力不足、カビゴンは出したらここが崩落しちまう……。アイツのドータクンが動かないのが妙だが――!)

 

 そこまで思考したところで、ノマはルリミゾが戦術面において、数段上で思考していることに気が付いた。

 ノマのドータクンが『トリックルーム』を使った瞬間、フェローチェの素早さに頼り切ったこの盤面はひっくり返る。そこで、即座にルリミゾのドータクンが『トリックルーム』を返してリセットするために待機させていたのだ。だから、お互いに動かすことのできない駒となっているのだ。

 

「フェローチェは俺とダーテング、チラチーノで倒す!だからズルズキン、エレザード、イエッサンであっちを抑えてくれ……!」

 

 土俵を降り、ポケモンに半分を委ねた。

 数的有利による強引な選択の押し付け。乱戦と化した戦場において、ルリミゾはフェローチェとポリゴンZの両方を指示し続けなければならない。

 この戦い方が通れば、ノマは二匹のポケモンの指示に集中するのみで、3vs1の数的有利な戦場は気に掛ける必要がなくなる。

 

 そうしてボールを投げたとき。

 

「総出で邪魔しようってこと……?そんなの通すわけないでしょ」

 

 苛立ちを隠そうともせず、ルリミゾが呟く。

 

「フェローチェ、蹂躙しろ!」

 


 

 ポケモンは、環境によってその姿かたちを変える。雪景色に紛れるためや、砂漠に紛れるため。あるいは溶岩地帯の熱さに耐えるためや、海水温の変化や日光の量に適応するため。

 

 わからないのは、フェローチェというポケモンがここまでの速さを獲得しなければならなかった理由――。

 

 音すら置き去りにするような速度で動く必要が、なぜあったのか。

 

 ウルトラビーストの生態は謎に包まれている。

 


 

 (まばた)きの一瞬だった。

 

 ボールから飛び出た瞬間のエレザードの首に蹴りが突き刺さり、一撃で瀕死に追い込み――続いてイエッサンに向かって回し蹴りが放たれていた。

 ノマがその攻防を認識したのは、ダーテングが扇子を交差させてイエッサンを庇った瞬間だった。

 

「エレザードッ!」

 

「倒れたポケモンの心配してる場合?」

 

 きら、とポリゴンZが光線を放って、チラチーノが即座に前で『光の壁』を展開する。何度目か繰り返された攻防である。

 

「くッ……」

 

 ズルズキンの威嚇すら意に介さず、再びフェローチェが加速し始める。

 しかし、意外なほどノマの思考はクリアに澄んでいっていた。

 

(ああ、きっと、今日、この日のために俺たちのバトルはあったんだな)

 

 才能への迷いや、勝負の世界に身を投げることの躊躇い、挫折の苦い思い出、それらすべてがゆっくりと脳内を駆け巡った。

 どれも、乗り越えて今のノマがいる。

 

 やるべきことはひとつ。

 今のルリミゾなら、きっと乗ってくるだろう。

 

「ポリゴンZを落とせ、ズルズキン!イエッサンとチラチーノはその援護だ!」

 

「はァ?」

 

 不思議なほど澄んだ気持ちで、ノマは一世一代の大勝負に出た。

 つまりは、フェローチェとの一対一宣言。

 

「ダーテング!()()をやるぞ!」

 

「ダァッ!」

 

 天候「日照り」の下でのみ効果を発揮する特性『葉緑素』。ダーテングの全身が活性化されて恐るべき速度を手に入れている今、しかし、ノマのダーテングは()()()()()()()()()()

 

「いい加減、鬱陶しいのよ……!」

 

 動きを止めた以上、フェローチェにとってダーテングは脅威でなくなった。ポリゴンZに迫り来るズルズキンへと標的を変えればルリミゾの勝ちは確定する。くだらない愚策だ。

 しかし、ルリミゾは「捻じ伏せたい」と思った。思ってしまった。

 凡才の我儘に付き合う必要はない。それなのに、戦いを好む天性が、今までに積み重ねてきた時間が、この戦いを正面から制することを望んだ。

 

 一手、詰みが遅くなったところで勝ちに変わりはない。

 

 だから、ヒステリックに形相を歪めたまま、ルリミゾはフェローチェに合図を送った。

 

「やれ!」

 

かぶりん

 

 目で追えなかった速度が、さらに加速する。右、左、天井、背後……。残像すら置き去りにして、攪乱しながらの『とびかかる』。草/悪タイプのダーテングに当たってしまえば、恐ろしいほどのダメージになることは必至。

 

 素早く、しかし走馬灯のようにゆっくりと『とびかかる』が迫る。

 

 しかし、先に間合いで動いたのはダーテングの扇子だった。

 

『辻斬り』

 

 元々は、素早いチラチーノを仕留めるために、秘密裏に磨いてきた大技。

 特性『葉緑素』で限界まで活性化された全身の細胞で、わずかな空気の流れを知覚する離れ業。遥か昔、まだカントーの人間が刀を握っていた頃、達人が間合いにて抜刀する太刀。極限まで研ぎ澄ました集中によって、一振りに尋常ではない威力を込める技。

 秘伝技『居合切り』を取り入れた『辻斬り』。

 

 一瞬に振り下ろされた扇子。

 

――されど、この世における異物たるウルトラビーストの速度には届かない。

 

「遅い」

 

 人は、速度に憧れる。人間が発明するあらゆる乗り物は、速度への憧れが形を得たものである。ポケモンと同じ速さで動くために、わざわざポケモンに掴まって移動する。ひ弱な人間は、何よりもわかりやすい"速度"に憧れた。

 

(才能には敵わない。あなたがどれだけ努力したって、あたしには追いつけないでしょう。闘争に慣れていないフェローチェは、生まれ持った物だけでこの世界のポケモンを圧倒している)

 

 まさに空振り。

 

(さよなら、キルクスジム)

 

 そう思って、ルリミゾが目を閉じようとしたときだった。

 

 振り下ろされたダーテングの扇子、剣先がピクリと動いた。

 

 ダーテングは、飛行タイプの技をいくつか習得できる。『エアカッター』、『エアスラッシュ』、『とびはねる』……。前者二つは特殊技で、ノマのダーテングは得意としていない。『とびはねる』がこの状況で使えないのも明らかだ。

 さて、残るひとつの技は、原義で使われることがほとんどない。ただ、ひこうタイプの力を乗せただけの斬りつけを技とするばかりである。

 

 だから、ダーテングがこの状況で用いたこの技は、まさに原義での使われ方であった。

 

 一度大きく振り下ろした太刀を、そのまま返して振り抜く技。

 

 またの名を――

 

「――『燕返し』」

 

 音はなかった。

 

 置き去りにするほど速い決着だったからだ。

 

 

 

 ()()()()()()

 

 

 

 ふらり、と世界の異物が打ち倒された。

 

 

 

 

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