ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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7-これから

 

 ポケモントレーナーとは誰であれ、戦いと強さに魅かれた者である。ジムチャレンジを突破できず、委員会に所属してジムトレーナーになった彼らも、職業としてポケモントレーナーの道を進んでいる。ジムチャレンジを何年も突破できず、推薦状が貰えなくなった者、心がポッキリと折れてリタイアした者。

 

 それでもポケモンバトルと関わりたいと、委員会の下でジムトレーナーの職業を選んでいる。ジムリーダー直属ではない彼らは、ジムの順位と関わりがない。毎年どこかのスタジアムに配属される。メジャー1位になろうが、マイナー落ちしようが彼らの仕事にはほとんど関係がないからだ。彼らにジムへの帰属意識はない。

 

 だが、それでも、

 

・・・

 

「あたしはメジャー1位を目指す。代理だろうが関係ないわ」

 

 すこし上を見ながら、ジムトレーナーに向かって話す。故郷への想いが話に熱意を吹き込む。

 

 ジムトレーナー達は一言一句聞き逃すまいと、やや大きめの声で語る少女に視線を集めている。彼女は代理という肩書を吹き飛ばすような、圧倒的なポケモントレーナーとしての力を示した。それが結果として、不安を感じていた彼らの心を大きく揺さぶったのだ。考えなしのバトルだったが、少女の「強さ」というただただ原始的なカリスマが観た者を魅きよせていた。アカギのモノマネを披露するのとは段違いに、彼女の初顔合わせは上手くいった。

 

「ナックルスタジアムにこのノーマルの印を刻み付けるの」

 

 そして、絶対に帰る。口にこそ出さなかったが胸の中に再び火を灯した。

 

「力を、貸してくれるかしら」

 

 少し不安げに、語りかける。ジムの運営にこんな大層な演説は必要ない。ジムトレーナーとの関係が悪くとも、彼らは仕事だからしっかりと働くだろう。彼女の練習、特訓に付き合ってくれるかは別として。だからそれはサポートしてくれ、という頼み。ノーマルタイプのジムトレーナーとして彼女のサポートをし、1位にのし上がるために協力してくれと、そう言っているのだった。

 

 長らくダンデのライバルを自称し、1位のトップジムリーダーに君臨しているキバナ。彼女なら、もしかすればキバナを。特に8つ目のバッジで躓いた2人は期待を抱かずにはいられなかった。そしてまた、無敗のチャンピオン、ダンデ。その覇権すら崩しうるのではないかと、偉業の一部に自分がなれるのではないかと、失った夢を彼女に重ねていた。彼らはこの日、委員会所属から変わったわけではないが、ノーマルジムのジムトレーナーとなった。

 

・・・

 

「さらっさらの毛並みねこのキュウコン!!毎日、いや1日に3回は手入れしてるのかしら!!」

 

「このうちわ、ワイルドエリアまで取りに行ってあげたでしょ!?この葉っぱ見たことあるわ!!」

 

 ルリミゾがダーテングのうちわを触りながらこちらに大声で尋ねてくる。少しうるさい。

 

 トレーナーとして行き詰った今でもポケモンの手入れと特訓は欠かさないでいた。それを見抜かれたことは嬉しくもあったが、敗北した今のノマにとってはただただ恥ずかしかった。恍惚の表情で解散したジムトレーナー達と違って、ノマは残るように指名されていた。

 

「その、」

「謝んなくていいわよ、ボコボコにして満足だわ」

 

 悪かったな、と続けるよりも先にルリミゾが答えた。後先は考えないが人の機微には敏いらしい。言葉はほとんど交わしていなかったが、バトルを通じて共に認めたことはお互い理解していた。

 

「あたしが勝ったんだからここで働いてもらうわよ」

 

 ああ、と返す。不満はどこにもなかった。キルクスの気温のせいで息が少し白んでいた。鼻を突きさす冷たい空気、それすら心地よかった。

 

「お前がキバナを倒すところが見たい」

 

 苦い思い出を浮かべながら、この少女がキバナを倒し、ナックルスタジアムを職場にする日を夢想する。

 

 暗い逆恨みだった。キバナを追い出し、自分は有象無象の一人としてそこで働くのだ。どれだけ気持ちが良いだろうか。キバナに大敗してから、推薦状を貰いに行くことをやめた。勝てるビジョンがまったく見えず、それからはリーグスタッフを経て今はジムトレーナーだ。ジムチャレンジャーの墓場において、何を目指すでもなく刀を日々研いでいた。

 

「嫌よ」

 

 意味が分からず、間抜けな顔でルリミゾの方へ振り向いてしまった。

 

「アンタの恨みを私に背負わせないで。だからアンタはキバナに勝てないのよ。勝手に不満になって、黙って溜めてる。そうだわ、小さいのよ!」

 

 小さいとかお前が言うのか、とは敗者だから言えなかったが、ノマにとって図星だった。

 

「もっと暴れればいいのよ。アンタのポケモンだってそれを望んでる。ホントはまだまだ上に行きたいくせに、すぐ諦めてぶつぶつ言ってる。アンタがしたいのはキバナを倒すことじゃない。ジムチャレンジを突破することでしょ」

 

 奔放な物言いでもザクザク突き刺さる。

 

「あたしを倒せたなら、いつでも推薦状を書いてあげる。あたしは1位になるんだし、問題ないでしょ。」

 

 なんなら明日挑戦してきてもいいわよ、と不敵に笑う。世間に見せてきたイメージとは違い、自分が代理なんて微塵も考えていない。ただ、ノマにとってはジムチャレンジ失敗以来、自分に期待してくれる人物が嬉しかった。

 

「お前が1位になってからだ」

 

 お返しに先に意味不明な言葉を返す。はぁ?という表情をしている。わかりやすいな、と思った。

 

「キバナは関係ない。1位になったお前を倒して、ジムチャレンジをクリアする。その方がドラマチックだ」

 

 続けて説明すれば、嬉しかったのか口元がニヨニヨしている。スタジアムから見える空は珍しく青かった。キュウコンのせいなのか、キルクスの気まぐれなのか、それともこの気持ちなのか、ノマにはわからなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「こんなに上手くいくことがあるかしら!ねえ!」

 

 自宅にて、ポリゴンZと一緒にくるくる回りながら喜ぶ。チラチーノが頭にくっついているため、少し重い。カッとなってバトルを始めてから、冷静になったのはダーテングを沈めた直後だった。嬉しそうに帰ってくるチラチーノを抱えながら、キルクスの冷たい空気に頭を冷やされ、ジムトレーナーと顔合わせだったことを思い出した。そこからは流れで熱意を語り、なんとか味方に付けられたようだった。ジムリーダー1位を狙っているのは嘘ではなく、ナックルシティジムが手に入れば地下の管理に関わることも増えるだろうと踏んでの目標だった。純粋にジムリーダーと戦いたい気持ちもあったが。

 

 自分が本当にこの世界の住人だったなら、なんと素晴らしい状況だろうか。ふと我に返って虚しくなる。頭の中の記憶と、このポケモン達、部屋に掛けてあるギンガ団の制服。思い出して、また気分が沈む。胸が詰まる。暮らしには慣れたが、一人別世界の住人であるという自覚。この異物感はきっと帰るまで取り除かれないのだろう。ベッドに倒れこみ、ロトム憑き機械、スマホロトムでニュースを調べる。ロトムの研究はギンガ団が最先端で、ルリミゾがいた世界ではまだ実用化されていなかった。

 

「へぇ。ダンデって弟がいたのね」

 

 次のシーズンから無敗のチャンピオン、ダンデが弟とその幼馴染にポケモンを渡すらしい。推薦状は成長を認めないと書かないつもりだという。身内贔屓しない公平さもチャンピオン人気のひとつだろう。大勢の観客が見守る中での敗北は、少年少女が味わう大きな挫折となりうる。見込みがない者を参加すらさせないのは優しさでもある。

 

 ジムチャレンジ開催まであと一ヶ月。メジャージムリーグの開始も同じだ。観客を楽しませ、ジムチャレンジャーを軽くふるいにかけるための仕掛け「ジムミッション」は基本的に前任からの流用だ。多少仕掛けや内装を変えることはするが、大幅な改造は問題が起きない限り行われない。これはジムトレーナーに任せてしまっていいだろう。

 

 問題はメジャージムリーグだ。8人のジムリーダーがそれぞれのジムリーダー相手に2試合ずつ、計14試合を行う。入れ替え戦のマクワがそうだったように、メジャーリーグ下位だからといって油断はできない。下位と上位で大きな差があるわけではないし、草・水・炎のジムリーダーは実力者だからこそジムチャレンジの序盤で加減を見極めてチャレンジャーを試している。

 

 とくにカブは前年度3位でリーグ戦を終えている。リーグが始まればパーティは変更不可なので、幅広くどの相手にも戦えるパーティを組まなければならない。ルリミゾの手持ちはいつもの5匹だけだったが。

 

「他のプランも考えておかないといけないわね」

 

 1位になることよりも元の世界に帰ることの方が重要だから、念のため(まあ当然1位になれると確信しているが)、しょうがなく、もしものために、ナックルエネルギープラントへの潜入を考えないといけない。面倒な相手を避けるため、どこを襲撃するにしてもチャンピオンやローズ委員長が離れている日を狙う。

 

 それにしても、この地方はシンオウに比べてあまりにも伝説が少ない。伝わっていないだけなのか、ほんとうに少ないのかはわからないが神話のような力を持つポケモンの話をルリミゾは聞いたことがなかった。

 

「人間の英雄伝説なんてホントどうでもいいわ。異世界に飛ばしてくれるポケモンはいないからしら」

 

 有名なのは厄災を退けた二人の英雄の伝説だが、ポケモンは登場しなかったはずだ。伝説について調べながら、ナックルシティのエネルギープラントを狙う。目標が明確に定まった。リーグで1位を取り、ナックルジムを獲れれば達成されるが、リーグ戦は3ヶ月もある。その間ただ戦っているだけというのは我慢できなかった。

 

 裏で顔を隠して遺跡や文献、資料を調べなければならないな、とギンガ団の頃の活動を思い出してふっと笑う。その時は故郷の世界からの相棒たちが活躍してくれるだろう。

 

 




ジムリーダーとしての目標:ナックルシティのスタジアムを公式に獲る
ギンガ団としての目標:伝説を調べてとにかくつよそうなぽけもんをさがす
ということを明確にする回です。あとジムトレーナーの捕獲。

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