ギンガ団員、ガラルにて   作:レイラ(Layla)

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8-スパイクタウンのパンク兄妹

『スパイクタウン 多くの店が雑然と並ぶどこかパンクな雰囲気の町』

 

 そう紹介してある看板を読む。ルリミゾはキルクスタウン南東、スパイクタウンに来ていた。街の入り口にはコンテナや謎の木箱、ドラム缶が散乱し、何故かシャッターが付いている。少し寂れたこの町は、キバナに次ぐ実力を持つジムリーダー、ネズの拠点だ。

 

 彼が特徴的なのは、何よりダイマックスを使わないという点だろう。そんなスタイルでありながら他のジムリーダーをなぎ倒し2位につける実力はとんでもない。何かのインタビューでは「ある意味で本来のポケモンバトルなんですよ」と語ったらしい。もともとダイマックスなんて関係のない世界でバトルをしていたルリミゾも共感したのを覚えている。

 

「疲れたしお店に入りたいわね、ウォーグル」

「クアァ」

 

 舗装されていない入り江を道路と呼ぶのかは怪しいが、9番道路を下った先にある町だ。ガラルには「そらをとぶ」で自分のポケモンと空を飛んで移動する文化がなく、アーマーガアタクシーが主流だという。無免許での鳥ポケモンでの「そらをとぶ」は危険だと委員会が禁止を提案したらしい。ジムリーダーは飛行が許されているが、誰も飛んではいないようだった。

 

 折角だから、とルリミゾは権力を行使し、ウォーグルに掴まって9番道路の入り江を越えて来た。水の上は寒く、正直ちょっと後悔したがウォーグルのウォーミングアップにはなっただろう。

 

 そう、今日はネズに練習試合を申し込んでいたのだ。お互いリーグ戦用のメンバーから3匹で戦うという取り決めをしており、手持ちを全て晒さないための工夫だった。ルリミゾにとってはどうせメンバーが変わらないため得な条件だし、ネズは手札を晒すことをあまり気にしていなかったが、それでも3対3にしたのはここで決着をつけたくなかったから。ゼンリョクを出すのは当日で、と電話越しに声が重なったのを覚えている。

 

「それにしてもなんっにもない町ね!」

 

 歩けど歩けど続くシャッターに思わず言いそうになった。シャッターばかりでブティックもなければ美味しそうな店もない。おまけに似たようなパンクファッションの男女がうろうろしている。半袖でへそを出しているが寒くないのだろうか。キルクスとそこまで遠くはないから少し空気が冷たいのだが、町の雰囲気も合わさって余計にそう感じる。

 

 どの街でも見つけやすいように統一された外観のポケモンセンターがめちゃくちゃ目立っている。街のネオンライトは負けじと輝いているが、その下にはシャッターが下りていた。ネズの試合まで少し時間があったので腹ごしらえをしようにも店が見つからない。10時にポケモンセンターの前に集合だ。

 

 一旦外に出て、光を浴びる。雨避けに張られた天井はかえって町を暗くしていて息が詰まりそうだった。

 

「クァア」

 

 普段から謙虚なウォーグルが珍しく隣で何かを主張している。見れば、視線の先にはきのみの木があった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 この町のジムリーダーであるネズの妹、マリィは9番道路に出てきていた。来シーズンからジムチャレンジに参加するマリィは、それに備えて兄のバトルからたくさんのことを学ぼうとしている最中だ。

 

「きのみ見分ける練習にもなるけんね」

 

 練習試合の後、疲れた兄のポケモンたちを労わるために今のうちからきのみを用意しておこうと思ったのだ。スパイクタウン入口近くに生えているきのみの木は、ジムチャレンジ期間を除けばスパイクタウンを訪れる人は少なく、誰も取る人がいないため、ポケモンが採っていなければたっぷりときのみを蓄えているはずだった。

 

・・・

 

「な、なんばしよっと・・・?」

 

 目に入ってきたのはヨクバリスと張り合ってきのみを取り合う少女。放しなさいよ!と声を上げて、浅葱色の毛先を振り回しながら必死に戦っている。

 

「あっ」

 

 こちらに気付いたのか、集中が切れてヨクバリスにひったくられてしまっていた。

 

「い、今見たのは内緒にしてくださいね・・・?」

 

 恐る恐るこちらを振り向く。キルクスタウンジムリーダー代理、ルリミゾだった。

 

・・・

 

「これはキーのみね?」

「いや、それはオッカですね、ポケモンが食べると不思議なことに炎に強くなります」

「ポケモンはすごかとね・・・」

「私たちにはちょっと硬くて辛いですから、料理しないと食べにくいですね」

 

 キーはまだぶにっとしていて柔らかいんです、と笑顔で教えてくれる。先ほどの野蛮な行動からは考えられないほど丁寧な物腰の人だった。お互い軽く自己紹介をして、3ヶ月後にジムチャレンジに参加すると言えば、きのみの見分け方を教えてくれるという。先に彼女が揺らして落としていたきのみを二人で拾いながら話をする。

 

「試合後のポケモンのためにですか?偉いですね~!あ、カムラの実だ」

 

 面と向かって褒められると恥ずかしい。モルペコはロゼルの実が気に入ったらしく、マリィの鞄に2つ詰め込んできた。

 

「キルクスからこの子が運んできてくれたので、ご褒美にきのみをあげようと思って」

 

 ウォーグルの口にきのみを運びながらそう説明された。なるほど、だから必死だったのかと勝手に納得する。どうやら噂よりも情熱的らしい。

 

「そういえば今何時ね?」

 

 はっとして見つめ合う。二人で覗き込んだ時計の針は10時のちょうど5分前を指していた。

 

「「あ!!」」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 9番道路で知り合ったネズの妹、マリィと話し込んでいるうちに集合時間ギリギリになっていた。二人で走ってスパイクタウンのポケモンセンターを目指す。

 

「まさかとは思いましたが、マリィと出会っていたんですね。おれはダメだから約束を破られたのかと思ったんだよね」

 

 息をきらしながら10時ちょうどに到着すれば、ネズから声がかけられる。噂通りネガティブだ。別行動していた(先に出発して置いてきた)ノマが非難の視線を向けていた。

 

「お待たせして申し訳ないです。本日はよろしくお願いします」

「よろしくね」

 

 外面(そとづら)モードにノマが「うげぇ」とでも言いたげな顔をしたので足を踏んでおく。

 

「いってぇ!」

「?、どうかしましたかノマさん、フィールド行きますよ」

 

 ネズたち兄妹を追ってフィールドに向かう。

 




9番道路で取れるきのみだけで話を作ろうと思ったんですが、なかなか難しかったです。9番道路では出ないきのみが登場します。
フライングでマリィの登場ですね。

感想・評価励みになります。今回も読んでいただいてありがとうございました。
次はバトルです。よろしくお願いします。

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