ギンガ団員、ガラルにて   作:Ly

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9-vsネズ 練習試合

「ダイマックスがなくても、真に熱い試合はできるんだよね」

 

 あくまでおれの考えだけど、と補足しながらネズが語る。マリィから聞いた話では、その考えをマリィに押し付けることはせず、自分で貫き通しているだけだという。

 

 この切り出し方は賛同してもらおうというより、これから熱い試合をしよう、そう言っているのだと解釈してルリミゾはボールを構える。

 

 薄暗く、ネオンの光で怪しく照らされるのはバスケットコートのようなフィールドだ。観客席はなく、金網の向こうでマリィとノマが見守っている。パンクファッションの人たちはジムトレーナーだったらしい。金網の向こうでブブゼラを鳴らして応援している。

 

「あたしもダイマックスのない試合に慣れています、いい試合をしましょう」

 

 そう返せば、こちらを見てネズが頷いた。

 

「ふぅ・・・」

 

 肩を揉み、マイクスタンドを取り出し突然叫ぶ。

 

「おれは! スパイクタウン ジムリーダー! 悪タイプポケモンの天才、人呼んで『哀愁』のネズ!!」

「代理で頑張るおまえのために! 見守るマリィたちと共に!」

「行くぜー!スパイクタウン!!」

 

 エレキギターの音が聴こえそうな勢いで口上を述べている。バトルで気持ちを高めるためにやるらしい。惚れ惚れするくらいのいい声だ。マリィは少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

ジムリーダーの ネズが

勝負を しかけてきた! ▼

 

「まずはこいつだ!いくぜ!ズルズキン!威嚇だ!」

 

 歌うように繰り出されるズルズキン。ノマの個体より心なしかノリノリだ。

 

「バイウールー!」

 

 メエェ、ともふもふの塊が着地する。ズルズキンを見て少し怯んでいる。攻撃に力が入らなくなっただろう。初手からかなり悩まされる対面だった。ズルズキンはあまり動きが速くないため、バイウールーが「コットンガード」を先に積むことはできるだろうが、おそらく裏にいるであろうストリンダーに交代された場合は大きく不利になってしまう。

 ストリンダーは毒/電気タイプの特殊アタッカーだ。「ばくおんぱ」や「オーバードライブ」といった音、振動系の技が得意でとんでもない火力を誇る。バイウールーは特殊方面には強いというわけでもなく、ストリンダーに有効打もないのでなるべく対面させたくない相手だ。しかし、ストリンダーの着地に有利なポケモンを出すことを読み、ズルズキンで居座って「とびひざげり」を撃たれれば苦しい展開を強いられるだろう。

 

「ごめんねバイウールー。ウォーグル!」

 

 それでもやはりバイウールーとストリンダーの対面だけは避けたいのでウォーグルと交代する。

 

「シビれる音を聴かせてくれ!ストリンダー!」

 

 やはり交代。寒色のローなストリンダーが現れる。あまり速さに差はないので殴り合いだ。

 

「オーバードライブ!」

「ゴッドバード!」

 

 ジャアアアアン、と雷を纏った音波がウォーグルに迫る。ウォーグルはこちらを見て頷き、空高くへと飛翔する。初撃は避けることができたものの、「オーバードライブ」の攻撃範囲はとても広い。ストリンダーの反応よりも先に攻撃を叩き込み、あまりの威力にひるんで動けなくさせるための指示だった。空を旋回しながらストリンダーを狙うウォーグル、そして片時も目を離さず迎撃の準備をするストリンダーとネズ。

 

「今!飛び込んで!」

 

 先に口火を切ったのはルリミゾだ。風を切る音がここまで聞こえてくるほど加速し、弾丸となって飛来する。ストリンダーはネズを信じ、攻撃のタイミングを待ち続ける。

 

「まだだ…待てよ…」

 

 影がどんどん大きくなり、音はさらに近付いてくる。ネズの額に汗が垂れる。

 

「今だ!!放て!!」

 

 まさにドンピシャ。落雷のような爆音が周囲に響く。フィールドにいた人間は全身を揺さぶるビリビリとした感覚に包まれていた。爆音による痺れなのか、ネズの鮮やかな撃墜を見た痺れなのかはわからない。

 オーバードライブ最大の火力を最適な距離でヒットさせ、ウォーグルは力なく地に落ちた。あと1秒遅ければストリンダーが倒れていたし、あと1秒早ければウォーグルは倒れていなかっただろう。

 

「ありがとう、ウォーグル」

 

 努めて冷静にイエッサンを繰り出す。心はとんでもない絶技に震えていた。すぐに切り替え、状況を分析する。特殊アタッカー対決だ。

 

 ストリンダーは無傷であるものの、技を二回撃っただけとは思えないほど疲弊している。あの神業はそう簡単にできるもんじゃない、ちゃんとウォーグルの動きが効いている。信じて指示を出す。

 

「サイコキネシス!」

「ばくおんぱ!」

 

 フィールドの中心でお互いの技がぶつかり合う。ただウォーグルを落とし切って一度集中の切れたストリンダーをイエッサンが押し込んでいく。

 

「もっと震わせろ!」

「あたしを信じて!イエッサン!」

 

 トレーナー達も負けじと叫ぶ。中心で爆発が起こり、風に耐える姿勢をそれぞれ取る。

 

「ストリンダーが!」

 

 先に様子が見えたのか、観戦者の声が上がる。ネズの足元まで吹き飛ばされ、倒れたストリンダーがいた。

 

 立っているのはイエッサンだ。

 

「明日はポフィンにしましょう!好きなだけ作るわ!」

 

 こちらを見て嬉しそうに飛び込んでくる。感情を察知するイエッサンは喜びも悲しみも共有してくれる。マクワとの戦いで、揺らいだ心で力を引き出せなかったのは当然だった。あれ以来心を通わせようと努力した結果がついに出たのだ。

 

「この甲高いうなり声を聴け!タチフサグマ!」

 

 ネズの声とともに臨戦態勢のイエッサンがフィールドに戻る。現れたのはタチフサグマ。知識にあるマッスグマと異なりやたら悪そうな見た目のマッスグマには驚いたし、まさか進化までするとは思わなかった。大きくなった体躯で立ち上がり、何者も通れぬほどの圧でこちらを見ている。

 

 イエッサンは爆風で多少傷を負ったものの、押し勝ったおかげでまだまだ戦えるようだ。エスパータイプの技は悪タイプに通じないので、効果抜群のフェアリータイプ技「マジカルシャイン」を指示する。ルリミゾの心の機微と戦闘経験から予想して準備していたのだろう。技を言い終わるまでにすでに光が放たれていた。

 

「防げ!『ブロッキング』!続けて『じごくづき』!」

 

 タチフサグマ固有の技「ブロッキング」で「マジカルシャイン」が防がれ、イエッサンを突かんと迫って来る。後退しながら「マジカルシャイン」を撃つが、ネズのエースは段違いに速く全て避けられてしまう。

 

 想定外のスピードだ。だが見ているだけのルリミゾではない。経験と天性の勘で打開策を見つけ出す。

 

「ワンダールーム!」

 

 イエッサンが光った瞬間、突きがクリティカルヒットして吹き飛ばされる。ドラム缶に当たり、ボゥ!と音を上げながら缶がひしゃげる。

 

 「ワンダールーム」は周り一帯のポケモンの防御と特防を入れ替える技だ。物理攻撃に対しての防御力と、特殊攻撃に対しての防御力を交換する。特殊攻撃に対して強いイエッサンは、ワンダールーム下では物理に強くなるのだ。パラパラと砂が落ち、埃が舞うなかイエッサンは立ち上がる。

 

「マジカルシャイン!」

 

 物理に強いタチフサグマはワンダールーム下で当然特殊に強くなってしまうのだが、イエッサンが「じごくづき」を耐えて再び距離を取れたことの方が大きい。一矢報いんと放たれた「マジカルシャイン」は遂にタチフサグマを捉えた。効果は抜群だ。落とすまでには至らなかったが、次で確実に倒し切ることができるだろう。

 

「追いかけろ!」

 

 再び間合いを詰める戦いが始まる。イエッサンは後ろを一切振り返らず、ただタチフサグマだけを見ながら後退。「マジカルシャイン」で牽制しながらネオンの照らすフィールドを駆け巡る。

 

「後ろにドラム缶!右に避けてそのあとジャンプ!」

 

 イエッサンが壁に追い詰められないよう指示を出す。完璧な分担だった。全体を見渡せるトレーナーが目となり、頭脳となりポケモンに情報を伝える。ポケモンは戦闘を自分の判断でこなしながらトレーナーの意図を汲み取り勝利のための最善手を共に目指す。ちらりとも後ろを見ないでトレーナーの指示通りに障害物を避けていく。

 

・・・

 

 一種の完成形とまで形容できるほどの連携は、金網越しにノマとマリィの心を震わせていた。

 

「とんでもねえな、うちのリーダーは」

「すごか…」

 

 彼は委員会所属だが、もう意識は完全にノーマルジムの一員だった。

 

・・・

 

「こわいかお!」

 

 ネズとて黙って逃げ回られるだけではない。突然緩められた攻撃の手にイエッサンが意識を取られた瞬間、的確な指示を出す。捕食者のような恐ろしいタチフサグマの表情はイエッサンの足をすくませ、動きを鈍らせる。ルリミゾへの負担が大きくなる。もはやこれは1人1匹同士の戦いではなく、一と一の戦いだった。

 

 その影響は顕著に現れる。だんだんと距離は縮まっていき、ついにイエッサンが壁際に追い詰められたのだ。

 

「じごくづき!!」

 

 散々打った後だったが、これで終わらせるという気持ちを言葉に込めて改めて叫ぶネズ。

 

「マジカルシャイン!!」

 

 逃げられないのはタチフサグマとて同じ。回避と守りを捨て、全ての力をこの一撃に込める。

 

 

ドッ、と鈍い音がして同時に2匹、崩れ落ちた。

 

 

「最後だわ!バイウールー!」

「二回目の登場だ!みんなも名前を呼んでくれ!ズルズキン!」

 

 即座に交代し、ズルズキンが現れ威嚇する。バイウールーは少し怯えて攻撃に力が入らなくなった。が、構わず「コットンガード」で相手の攻撃に備える。ますます膨らむ毛にもはや物理攻撃は通用しない。

 

 それを見てズルズキンはバイウールーの前で目を閉じ気合を溜め始める。「きあいパンチ」だ。集中を阻害されてしまえばうまく決まらないが、もしかしたら一撃で持っていかれるかもしれない、という不安すら覚えかねない気迫だった。

 

「ボディプレス!」

 

 だが発動を邪魔する線は即座に切り捨て、迷いなく時間のかかる攻撃技を指示する。バイウールーは膨れた毛と共に飛び上がり、ズルズキンを潰す準備を整える。

 

 「ボディプレス」はポケモンが物理に強いほど威力が上がる技だ。「コットンガード」でとんでもなく物理に強くなったバイウールーは、威嚇されたことと無関係に凄まじい威力が出せる。やけにスローに感じる数秒間、ルリミゾはバイウールーを信じてただ見つめていた。

 

「打て!」

 

 グググ、と音が聞こえそうなほど捻られたズルズキンの小さな体がブレる。

 

ボ、とそれだけ音がして、毛玉は動かなくなった。

そしてまた、もう一匹は毛玉の下で気絶しているようだった。

 

・・・

 

「引き分け…」

 

 マリィが呆然と呟く。あまりにレベルの高い勝負にまだ理解が追い付いていなかった。

 

「ありがとうございました」

「おれのポケモン達も、おれも満足していますよ。ありがとうございました」

「あたしもです。やっぱり決着はリーグ戦でつけましょう」

 

 自然と笑みがこぼれる。フィールドの中心にお互い歩み寄り、握手を交わして練習試合は終わりを迎えた。

 

・・・

 

 マリィがネズのポケモン達にきのみを配る。

 

「アニキも、ルリミゾも凄かった」

 

 今度はキルクスジムであたしが挑むけん、待っといてよ。憧憬と期待の眼差しで見つめられる。思わぬ新規ファンだった。未来のジムチャレンジャーにエールを送る。

 

「待ってます!マリィならキルクスまできっと辿り着けます!」

 

 くぅぅ、締まらない音がルリミゾのお腹から聞こえた。

 

「「「・・・」」」

 

 一瞬の静寂のあと。

 

「では、ラーメンを食べにいきますか。お腹が空いてるんだよね」

「ス、スパイクタウン一押しのラーメンばい!」

 

 兄妹の誘いを断るわけにはいかないので、決してお腹が空いているわけではないが、別にこのままキルクスに帰ってもよかったが、案内に従って路地を進んでいく。ネズが言うのでしょうがなく、付いて行くだけだ。顔が赤いのはバトル後だからだ。少しひんやりとした空気に心地良さを感じながら後を追う。

 

・・・

 

 濃厚でまろやかな、不思議な白いスープのラーメンだった。ネギのさっぱりした風味と合わさって細硬い麺が進んでたまらない。不意に視線を感じて横に目をやれば、ネズがこちらを見ていた。少し怖い顔なので麺を噴き出しそうになるのを抑えて首をかしげる。何か、と。

 

「悩みがあれば言うんですよ」

 

 う、と箸が止まる。見抜かれていた。

 

「ジムリーダーとして先輩だから言うよ。今の立場は大変だと思うけど、無理はいけないね」

 

 代理という立場のおかげで、根底にある悩みはカモフラージュできているが、それでもやはりバトルから伝わるものがあったらしい。暖かすぎる気遣いに救われたような気持ちになる。

 

「ありがとうございます。あたしは大丈夫です。少し故郷が恋しくて」

 

 シンオウ地方出身ですから、と続ければ納得したような表情で頷いてくれた。

 

「辛くなったら、休みを取って帰ればいいんだよね。おれは故郷から出ていないからその苦しみはわからないけど、自分の身体が一番だよね」

 

 できるならそうしている!行き場のない言葉は胸に留めた。ネズに当たることは何一つ意味がないし、ありえない。この世界に来て一番夢中になったバトルだったが、また水をぶっかけられた気分だ。

 

「そうします」

 

 短く答えてから、キルクスに戻るまでどんなやりとりをしたのかはあまり覚えていない。




難産でした。
もしこれがフルメンバーのバトルだったらと思うと震えて続きが書けませんでした。
ジムトレーナーレベルだった手持ちと心を通わせ、鍛え上げ、やっと本来の手持ちの強さに近付いてきたなという段階です。
ダイマックスなしで2位、というのを見るに本当にネズは強いトレーナーですよね。こんなアニキが欲しかったです。

評価・感想励みになります。今回も読んでくださりありがとうございました。
はやくギンガ団らしい活動をしたいです。

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