IS×シグルイ 空挺乙女紅竜奇譚   作:梵葉豪豪豪

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第二歌 幻想

 地独路セニョリータは女性の権利を過激に追及する団体「せんじゅつ☆ONI」で異例の出世を遂げ代表となった女性である。すくたれ者との下馬評にも拘わらず、女性の権利を盾に政治家や自治体・企業への揺さぶり等が功を成し、ただの愚痴吐き倶楽部から金を生み出す一大団体へと変貌を遂げさせたやり手との評は強い。

 

 だがその地独路が、団体ビルの最上階にある自室で、凄惨な光景を目の当たりにしつつ床に這いつくばり震えていた。周囲には団体員の惨殺死体が4体転がっている。自身も右手の指を全て斬り落とされ激痛と恐怖に苛まれている在り様だ。

 

「やめて……」

 

 血と臓物の醸し出す異臭が満ちる中、その下手人たる人物はゆっくりと、確実に獲物の前に歩み寄る。日本刀を抱えた長身の少女は妖艶な笑みを浮かべるだけだ。

 

「やめてやめてください! あなた誰ですか!」

 

 問われてベラベラ喋る程この少女は迂闊者ではない。

 

「ド畜生ォォ!」

 

 開け放しのドアから、血まみれで片手を失った女性が残った手にバールのような物を抱え振り回し少女へと迫った。少女の真後ろに位置している。

 少女は瞬間ステップするように身体を捩じり、右手の日本刀を真横に振るった。しかし遠間でまだ相手に届かない。

 その一閃、少女の右手は鍔(つば)元の縁から柄尻の頭まで横滑りする。刀があらぬ方向へ飛ぶこともなく、切先は柄の分伸び切っていた。鍛錬された少女がもたらす精妙なる握力によって成せる業である。

 切先はわずかにこめかみを切り刻んだのみだった。しかし三寸切り込めば人は死ぬのだ。最小の斬撃で斃(たお)したが、これは即最後の獲物を屠りにかかるためだ。

 

 むせ返る血の匂いの中振り返った少女の甘い微笑みは、哀れ狩られる側の心根を決壊したダムのように崩壊させるには充分だった。

 

「ヒィッ」

 

 遂には地独路が小便を撒き散らしつつ背後へ駆け逃げだした。しかし見逃す少女ではない。

 気が付けば地独路自身の胸から長い刀が生えていた。少女が背後から一突きしたのだ。正確に心臓を狙われている。

 

「い、いくぅ……」

 

 地独路セニョリータは激痛と絶頂の中昇天した。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「……で、その団体さんはみーんな死んで壊滅、ほんで後から出るわ出るわ悪事の証拠、世間の皆さんおっぴろ目ってワケよ」

「ぞっとする話だなぁー」

 

 1組にて、一夏と背後の席にいる箒、そこに本音が加わり雑談三昧である。一夏らの入学前に起きた「せんじゅつ☆ONI」惨殺事件について本音が説明している。当時ビル内にいた90名近くが全員惨殺されるという戦後でも最大級の一つに掲げられる程の大事件として連日世間で騒がれた。だが本音の説明どおり、犯罪行為の証拠が曝け出されるにつれ世間の評価も微妙なものとなりアンタッチャブルな事件へと落ち着いていった。尚一夏はろくに世間の報道を見ない生活だったので友人の与太話でしかよく知らないまま今に至る。

 

「その証拠の中にはおりむー暗殺計画もあったらしいよ?」

「マジか」

「ねーしののん?」

「あ、そういや箒、この前そう言ってたよね」

 

 何故か自身に向けて話を振ってくるニヤケ面の本音に対し、箒は真意を見せない微笑を放った。

 

 事の真相を述べれば、団体が冗談で作った織斑一夏暗殺計画書が不幸にも内閣の知るところとなり、非合法を生業とする某部署にどういうワケか団体の暗殺が依頼された。それを受けた某部署の若きエースである箒が単独で遂行したのだ。

 ただその結末は箒曰く「箒頑張りすぎてたかも」の軽いノリで全員斬殺という凄惨なものとなり、流石に部署内ですら顰蹙を買ってしまう有様だった。言い出した当事者であるものの処置に困ったのが当の内閣であったが箒にとってはどうでもいい事である。

 

 本音が別の話題を切り出す。あまり声高に語れる話ではない。

 

「ところで決闘大丈夫? イケるー?」

「あぁ、まずは鍛え直さないとな」

「そこからですかい」

「まぁでも俺、中学まではバイト三昧だったから体力には自信あるぞ。生活苦だったもんで」

「おりむーの姉さんはちょっと怒られるべしよ」

「まぁまぁ」

 

 尚千冬が生活費を入れなかったのは自己管理のなさ故に気付いていなかったためとフォローしておくべきであろう。後に一夏から指摘されて一瞬何故の嵐になった千冬の表情はある意味一夏があまり見たくないものであった。

 

 ふと視線を感じて一夏が振り向くと、決闘の相手であるセシリアが睨んでいた。一応耳は完治したらしい。今の彼女を一口で述べると呆れの目線である。流石に気恥ずかしくなった一夏は逃げるように箒と本音に向き直った。

 

「剣道部に入るといい。既に剣道部の部長と顧問には推薦してあるからな」

「マジで? 感謝ッス」

 

 ここにきて箒がフォローしてくれた。仕事として一夏の護衛をしている身ではあるが、昔から見知った仲でもあるので学校生活の面倒を見るのも吝かではない。

 

「あれ、箒も剣道部?」

「私はバイト三昧で忙しくてね」

「そっか……」

 

 箒と一緒に練習できないのは一夏にとって落胆すべきことである。とはいえ後日剣道場で出会ってひっくり返ることになる。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 更識楯無は学園の見目麗しい生徒会長である。

 現会長を倒して勝った者が次期会長に成り上がれるという、日本の決闘罪を無視した実によじれたシステムがいつの間にか不文律として成立しているのは、箒からすれば哂うところであり何かと都合が良かった。

 

 その楯無と箒が廊下で対面したのは単なる偶然だった。

 

「篠ノ之箒さん」

 

 正対し、満面の笑顔で楯無が箒を迎える。笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣の牙を剥く行為が受け継がれたものだった。つまり今彼女は敵と対峙している。

 

「これは生徒会長、御機嫌よう」

 

 慇懃に箒がお辞儀をし、相変わらずの甘い微笑みで返した。彼女からは仄かに甘い匂いが立ち込めて、女生徒らの頬を僅かに染めている。その姿は楯無にとって実に気に入らない。

 

「傷は痛みますか?」

「ご心配なさらずとも。力は些かも衰えてはいませんよ?」

 

 楯無には左腕がない。余った袖は結んである。

 楯無の実家は隠密の家系であり、昔から政府から直に任務を仰せつかっている。少女の楯無が頭目を継いでいるのが現在の楯無家だ。内閣直属の某部署とは折り合いが悪く、度々衝突もしている。そして箒は任務の最中、楯無の左腕を斬り落としている。それ以来、楯無にとって箒は殺しても飽き足りない敵の一人となった。

 

 周囲の女生徒らが何ごとかと二人に注目する。手負いで尚学園最強の生徒会長と、美形で長身の新入生が過度の緊張感を伴って相対している様はある種のトリップでもあった。

 二人と周囲の者らの脳内に、楯無と箒が全裸で構えている映像が浮かび上がった。突如繰り広げられる脳内の決闘に周囲は呑まれていった。その時女生徒らの瞳は消えていたという。

 

 左腕がなく左脇腹にまで刀傷が続いている楯無が、右の手刀で箒の頸筋を一閃する。が、同じく箒も手刀を繰り出し滑るようにいなした。

 間髪入れず、飛び上がった楯無が左脚を横一直線に大股で繰り出す。楯無の秘所を真正面に捉えつつ躱す箒だが、その脚は囮であり、本命の右手刀が箒の大振りな左乳房に突き立った。嘔吐する箒だが笑みを浮かべたまま睨み返す。

 直後、足指を握り拳のように丸めた箒の右足首が、楯無の水月に深々と突き入った。今度は楯無が嘔吐を通り越して吐血する番だ。勢いのまま背を丸める。生涯使ったことのない蜜壺から血の混じった液体が溢れ出す。

 両者が同時に一回転し、勢いをもってお互いに優勢なポジションを取る。一瞬後、楯無の手刀が箒の頭部を上から斬り付け、真っ向唐竹割りにした。同時に箒の手刀も楯無の柔い頸を横一直線に一閃し、斬り飛ばした。お互いが大量に熱血を迸らせのけぞり、唐突に映像が途切れた。

 

 終わってみればその空間には楯無と箒は廊下でゆらりと立っているだけだった。尚立ち会った女生徒らには、この時の記憶がなかった。

 ただ甘い匂いを嗅いだというそれだけであった。

 




・女性権利団体
 二次作品謹製のよくあるあんなアレ。今回ぶち殺され要員として使わせてもらった。

・本音
 背中に欲い翼なんてものは生えていませんし目元に彫り物ありませんしメカ着ぐるみだったりはしません。

・箒
 モッピー頑張り過すぎてたかも(佐々〇望ボイス)。

・楯無
 手負いが強いってのは若先生も指摘していた話。
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