IS×シグルイ 空挺乙女紅竜奇譚   作:梵葉豪豪豪

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  間を開けすぎるものではないと思いました。まさかあの作品が終わるとは。


第四歌 阿修羅

 篠ノ之箒がクラス代表を拝領したのは、既に国家公務員の身とはいえ、自身の比類なき立身出世に向けた第一歩を高校生活で固めるためでもある。

 尚試合後のセシリアは当面の間入院生活を余儀なくされたが、卓越した現代の医療技術により復帰は早いとのこと。箒が既に彼女の病室を訪れ、非常に誠実な謝罪をしているが、セシリアの心中は定かではない。

 

 

「ところでさー、二組が代表交代したんだって」

 

 一組のクラスルームにて、谷本癒子が一夏と箒に向かって今ホットな話題を提供した。二人の机に向かい合って椅子から身を乗り出している。その笑顔が一夏に近い。

 何で自分たちの前に女子が取っ替え引っ替えやってくるのだろう? と一夏は疑問を挟まないでもなかったが、下手に思い煩わないことにした。何せここは女子校、自分が異物なのだ。そんな男子と、近づく女子を奥の知れない微笑みで流しているのが箒だ。

 

「学期始まったばかりじゃねぇか? 何の不思議」

 

 つい先日まで自分のクラスでその代表を巡って一騒動あったばかりである。他所のクラスにまで一夏は気が廻っていなかった。

 

「それがさー、後から入学した中国の国家代表候補が分捕ったんだってさ。実力で」

「それなら納得………するしかねぇなぁこの実力社会(マッチョイズム)」

 

 そうだよなぁ競争だよなぁ、と呟き天を仰ぎ見る一夏に、箒がそっと肩に手を置き微笑む。それがどういった意味を持つのかつい考え込んでしまったが、きっと激励の類だ、と夢想することにした。

 

「そろそろ代表戦かー。箒ちゃんなら代表候補とも張り合えそうだね」

 

 谷本から見て先日の代表決定戦で見た箒の御姿は議論の余地なく圧倒的なものであり、後日開催されるクラス対抗の代表同士による試合、称してクラス対抗戦で一組が勝ち得る可能性には大いに期待に胸を抱くものである。

 その応援に対し箒は女子すら惑わす相変わらずの妖艶な微笑みで応えた。

 

「ふふ、僭越ながらご期待に添えましょう」

「俺も全力で応援するぜ」

 

 尚優勝賞品は食堂で提供されるスイーツ食べ放題である。何故か谷本とガッシリ腕を組んでそのままガッツポーズを取る一夏は、大体ノリで生きているかもしれない。

 

「何だ代表は一夏じゃないんだ」

 

 背後から突然聞き知った女の声がした。同時に懐かしい匂いを嗅いでしまいつい一夏が振り返るも、そこには記憶の底から湧き上がる顰めっ面が見えた。

 

「え? ……鈴?」

 

 凰鈴音参上。

 一夏の幼馴染である。懐かしさより先に驚愕が先に来てしまった。尚彼女が顰めっ面を崩さないのは、一夏が谷本と腕を組んだままであるため、その胸中を露骨に顔に出している。

 

「「二組の!?」」

 

 周囲のクラスメイトが一斉にこちらに注目する。さもあらん、鈴音は二組に遅れて入学した中国の国家代表候補である。国際政治的な意図で派手に制服を改造しているため、格好だけは知っていた女子は多い。

 

「ねーねーおりむー二組の子とどんな関係?」

 

 布仏本音参上。ドヤりガール。

 

「幼馴染なんだ」

「ほぅほぅそれはそれは」

 

 腕を組み尤もらしく頷く本音。ふと一夏が隣の箒を見やると、その美形は頬杖をついて微笑んでいた。箒にしてみれば既に二人の関係について調査書には目を通してあったし、ついでに当時のウブな一夏には恋愛感情が欠片もなさそうという無駄な結論いや感想すら調査書には織り込まれていた。微笑ましいものだという感慨を抱く程度である。

 

 そんな一夏とその周りを見やった鈴音は強引に話を切り替えた。

 

「言っとくけどクラス代表はちゃんと話し合った上で円満に交替したからね?」

「そーうなんすか……」

 

 一夏がつい呼応してしまう。人間よく考えず反射的に会話を繋げてしまうことはよくある。

 一方の鈴音は、箒を見やると露骨に値踏みする態度を取った。この存在に対し下手に隙を見せるつもりはない。

 

「ふーん、アンタがねぇ……」

 

「一夏」

「何だ?」

「あの女に深入りしない方がいいわよ」

「え?」

 

 腕を組んだ姿勢と表情を崩さないまま語る鈴音の言葉に、一夏はそれが箒を指しているという想像が及ばなかった。

 

 その鈴音が突然腕を背面に廻す。バシッと打撃音が響いたと同時にその手には黒いもの、出席簿が握られていた。つまりは教室に入った千冬が出席簿を鈴音に向かって問答無用でスローイング。だが鈴音は後ろも見ずに受け止めたのである。

 

「うおっ!?」

「白羽取りッスよ!」

 

 一夏&本音が揃って目を剥くとほぼ同時に、鈴音が振り向いて出席簿を縦に投げ返す。狙いは正確に、千冬の筋肉質な掌に収まった。

 

「投げるな」

「突っ込み待ちか千冬姉ぇ!? ハムコ!」

 

 迂闊に突っ込んでしまい千冬with仏頂面の放つボールペンが額にヒットした一夏の不幸である。茶番を内心せせら笑う箒だったが、無論表には出さない。

 

「何というか、あいつ変わってねぇなぁ……」

 

 一夏が額をさすりつつも、いつの間にか去っていった幼馴染の姿をさながら淡雪のように思い描いた。落ち着いた態度こそ昔と違ってはいたが、嗅いだ体臭は昔の記憶そのままだった。かつていつも彼女は自分の隣にいた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 夜の学生寮は静寂である。否、騒がしいものは騒がしい。

 施設外の庭先、その隅にて鈴音は上級生3名に取り囲まれていた。曰く「代表を掠め取ったことが気に入らない」という。

 実情は、一組の代表候補生がボロ雑巾になった様にくそびびりまくった当時の二組代表が、鈴音が登場するやいなや喜んで交代を申し出て担任にすら捻じ込んだ次第である。クラスでは誰一人として異を唱えていない。

 要するに彼女らは弱いものをボコれば何でもいいのだ。

 

 一人が目の前の鈴音にメンチを切りつつ、嘲る声色で語る。

 

「手前ェか二組の代表奪った舶来物(がいこくじん)は」

「可愛いじゃねぇの」

「胸がな!」

 

 下卑た笑い声を盛大に漏らす3人。付き合うのも馬鹿馬鹿しくて、つい鈴音は耳をほじった。体型については言われ慣れている。そもそも15歳の女子があまり育っていないのは当たり前の話だ。

 

「蕾も可愛いかもなぁ!」

 

 上級生の手が鈴音の尻に迫ったその刹那、打撃音とともに上級生が頭を中心に上方へ吹き飛ばされた。鈴音が上級生の顎を掌底で突き飛ばしたのだ。

 吹き飛ぶ上級生の足を雑に掴んだ鈴音は、ソフトボールの投手さながらアンダースローにて哀れな生徒の体を振り回す。狙いたがわず上級生の頭が他の上級生の股間を直撃した。女性といえど急所である。

 絶叫すら捻り出せず悶絶する二人を放り出し残る一人が泡を飛ばし脱兎のごとく逃げ出すが、鈴音の脚は逃がさなかった。横薙ぎに円を描いて爪先を脱兎の脇腹にめり込ませた。上級生はもはやその場で転がりのたうち回り血反吐を吐くしかない。そして見上げる3人が浮かべた表情は恐怖だった。

 

「いちいち邪魔しないでよ」

 

 その一言だけ漏らして彼女は去っていた。

 凰鈴音を嘲笑うことなど不可能であった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 篠ノ之箒が寮に隣接する林の中にいたのは別に遊びたかったワケではない。食堂ですれ違いざまに鈴音から囁くように誘われたからである。

 

 舗装された道を並びただ無言で進む箒と鈴音。お互いも見ない。先に話を切り出したのは鈴音だった。

 

「突然だけど、アンタに喧嘩売るね」

「買いましょう」

 

 その場で箒は立ち止まった。即攻撃を警戒したのだが、鈴音はそのまま歩みを止めず、ある程度の距離を取って正対した。間合いには些か遠い。上着を投げ捨て、ゆっくりファイティングポーズを取る鈴音。

 まずは箒が相手の出方を探ることにした。

 

「何か要求でもおありですか?」

「私が勝ったら一夏に近づくな」

「でしょうね」

「チッ」

 

 予想通りに過ぎて内心せせら笑う箒。相手の舌打ちはその馬鹿にした心情を見透かされたのだろう。

 箒が背中に手を廻し、ゆっくりと引き上げる。同時に日本刀が抜き身で生えてきた。無銘である。ステゴロの相手に大人気ないとは微塵も思わない。

 

「それISの量子変換じゃん。IS乗りだったんだ」

「……話す必要が?」

 

 仕込み刀を抜いたように見せかけたつもりだったが、流石に手の内はバレていた。とはいえバレてもどうということはない。

 

 ファイティングポーズを崩さず、指2本を立てて鈴音が言葉の牽制を掛ける。

 

「私が勝った時の条件2つ目」

「ほぅ?」

「篠ノ之博士から奪った技術を寄越せ」

 

 これも予想の範疇である。中国政府直々に派遣されたのだから判りやすい。ただ優先順位が個人的なことの方が上位にあったのは意外だった。

 

「本国からの指示がそれですか」

「まぁぶっちゃけそうよ。アンタはいらないけど」

「できると思います?」

「安易に無理って吐かないタチなのよ」

 

 姉の篠ノ之束を殺して奪った発明や科学的成果の数々から、ISの技術に関しては政府にそっくり提供している。もはや日本にとってISは神秘でも何でもない。とはいえISなぞ放っておいても他国も追い付くのがオチだ。

 まだ幾つかは個人的に秘匿しているものはあるが、明かしてもいないそれを狙う辺り彼の国の強欲さは筋金入りのようだ。拉致ですらない。

 

 先に仕掛けたのは鈴音である。瞬足の足捌きで箒の懐に潜り込んだ。剛腕で持ってその美麗たる鼻面を粉砕する腹づもりである。

 だが瞬間、鈴音の拳を蛇のように絡めとる剣捌きでいなし、余裕で身を躱した。勢いのまま後方へ流れた鈴音は体制を崩した。右腕の肘から先が切り飛ばされバランスを崩したためである。

 改めて向き合う二人。自身の腕を拾った鈴音は、真新しい切断面に右腕を押し当てた。お互いが難なく融着する。握り拳が全く後遺症もなく元に戻ったことを示していた。

 

「あぁ貴方、戦術鬼の施術を受けていましたか」

「悪い?」

 

 戦術鬼。戦時中旧日本軍が開発した、人体改造により生み出される忠勇無双の生物兵器である。戦後に技術人材検体諸とも散逸したとは聞いていたが、どうやら中国が接収して開発を続行していた様子だ。箒の前世から綿々と続く記憶の中で流石に直接関わってはいない話ではあるが、資料に目を通していたことは憶えている。末期だなとは当時抱いたものだ。

 

「元は我が国の技術なんですけどねぇ」

「国粋主義なんてトイレのゴミ入れに纏めて捨ててしまえ」

「それは同感です」

 

 鈴音の周囲に旋風が舞い、彼女を覆い隠す。風が片手で振り払われた時には、既に鈴音の姿は変容していた。手足は肥大化・硬質化し、人相も変貌を遂げている。ツインテールの髪型こそ残っているものの、一目では凰鈴音とは断定しづらい。衣服は溶け込んでし仕舞い込まれているため、全裸と言えば全裸である。

 

「美形(いけめん)になり仰たか」

 

 昔は毒面(ぶす)に成り果てる戦術鬼だらけだったが、なかなかどうして今時の技術は見た目も重要視されているようだ。

 

「戦術鬼・鈴鬼、突撃」

 

 足元のアスファルトを粉砕し、強大な脚力を発揮して跳躍した。ただ直球に殴る蹴る、それだけである。

 

 高速脚回転! 豪脚による蹴りの連発は生身に当てれば肉片と化すこと必至である。

 紙一重で躱し、すれ違い様に箒が切り刻んではみたものの、表面一つ削ることは能わなかった。しかも日本刀の刃先は刃こぼれを起こしている。

 

 再度仕切り直しで両者相対する。箒は日本刀をISの技術、量子変換と呼ばれる収納術で収めた。淡雪のように抜き身が消えていく。代わりに別の日本刀を左腰から出現させた。今度は鞘に収まったままだ。

 鈴音が三度俊足を持って箒に肉薄する。拳や脚による打撃は基本的に円運動である。円を描いた右脚が正面に向く頃には箒の腹に達し、内臓を破壊せしめているだろう。

 

 箒が人差し指と中指の間で柄を掴み、蹴りを掻い潜り抜刀。鈴音の脚の外側を縫うように腕がしなり、奴のこめかみに切っ先を三寸切り刻んだ。

 人体の急所を強固に守っているのが戦術鬼ではあるが、その刃先はいとも容易く届いた。驚愕と脳に達する痛みで鈴音の思考が一瞬停止する。

 

 種を明かせば箒が使った一振りはレーザーブレードと呼ばれる業物である。銘は「雨月(あまづき)」。本来はISが振るう装備であり、それを人間用に小型化した代物だ。ISのバリアだろうとこの世に斬れないものは皆無と言い放って良い。

 

 返す刀で鈴音の左腕を肘関節から雑に両断する。額を再生しつつある鈴音の右膝が箒に迫るが、肘と脇腹で受け止める。鈴音に判断ミスがあるとすれば、利き手側を狙わなかった事ではあるが、ともかく箒に足を引っ張られ体制を崩した所に、箒による問答無用の斬撃が自身の左脇腹に深々と叩き込まれた。肺を潰したのだ。いかに身体を強化しようとも酸素供給に難が起これば万全に動くことは困難である。鈴音は大口を開けて酸素を取り込もうと足掻くが無駄である。

 

 その場で箒が踊った、ように見えた。実際は右側から1回転して切先の速度を上げているのだ。一瞬の間を開けるどころではなく、箒が振るった超速の刀身は鈴音の両脚をもろとも切断した。

 胴体が跳ね、宙を舞った鈴音だったが、残った右腕を赤熱化させ、手刀にて振りかぶり反撃に移る。まだ諦めない。

 直後に箒の刀身が縦に弧を描き、鈴音の右腕を無言で脇から肩へと斬り飛ばした。ついでに右のツインテールすらも持っていく。

 無防備を晒した達磨の鈴音に、箒が業物の柄頭を喉に一撃させた。叩き込まれたアスファルトが鈴音を受け止め切れず粉砕する。同時に鈴音の頚椎も粉砕された。

 

 それでも尚生きているのだから、箒は呆れつつも馬鹿馬鹿しい生命力と技術を目の当たりにしてつい愉快に笑ってしまった。ここから更に斬り刻んでいけば確実に絶命せしめるのだが、本当に馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

「今日はやめにいたす」

 

 興味を失ったのでさっさと納刀して踵を返し、寮へと戻ることとした。声の出ない鈴音が獣のような唸り声を上げる。「勝手に再生して勝手に帰れ」と箒は言い放ち、肩を竦めて帰路に着いた。獣の唸り声は長々と続いていたが無視した。

 また一人恨まれてしまった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 鈴音が自室に戻ったのは深夜11時も過ぎた頃である。思ったより自己再生に時間がかかってしまっている。方々に散った四肢を回収するだけでも難儀をしてしまった。

 

 二人部屋なので相方がいるのだが、その相方は既に寝ていたのは幸いである。シャワーを浴びている最中の「あのくそ女(アマ)あぁあ!」という叫びを聞かれずに済んだ。

 ベッドの中で深夜に一夏を想いつつ豪速球な妄想に耽るのは、来日して以降ほぼ日課になりつつある。右手は蜜壺の友と化す。

 

「……一夏……一夏……」

 

 相方のアメリカ人女子はとうに眠っている。仮に起きていたとしても、見て見ぬふりをする情が舶来人には存在した。

 




・せっしー
 折れてない。

・一夏
 姉ともども反射で生きる奴。

・鈴音
 山崎九郎右衛門。次回リベンジ。

【挿絵表示】

・箒
 ズルい奴。こちらは剣劇になったが、一方で山口先生の作品を読み返すと関節技が強いことが判ってとっても刺激をもらってしまう。

・蕾
 山口ワールド的隠語。
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