チャートどころか攻略情報が一ミリも役に立たない物語はーじまるよー!
この世界に生きている以上、原作キャラだけでなくモブや、イレギュラーである私にも人生というものがある。
ついでにいえば家族もいる。
「あらあらあら……お勉強もせずに遊びに行くなんて奈々(なな)はかわいいわね」
「お許しくださいお母様」
「私は別にいいのですよ?ですが……友達の一人も居ない貴方が突然こんな遅くまで……心配ねぇ」
「お許しください」
赤い目、隻眼、黒髪ロング、ギザ歯……まるでボスキャラみたいな外見のこの女性は私のお母様。
……まあその……この方も原作には登場して無いけど「祝福」持ちかつ「人外」でございます……はい。
名は紅始音(くれない しおん)……真名不明の「怪物」です。
この世界には祝福を持った人間だけでなく、人外の存在も多く住んでいる。
本編にも吸血鬼やアンデッドに、食人鬼、人造人間に宝石をコアとする怪物、宇宙から来た擬態生命体まで。
人知を超えた存在がちょくちょく出てくるのだがお母様もその内の一体だという……ただ人間に積極的に敵対する存在ではなく、むしろ私のお父様がただの人間である事から、ある程度好意を持っている事も理解している。
「まぁそれが貴方のやりたい事なら、止めはしないわ」
「本当にお母様の理解に感謝します」
お母様の祝福は「読心」、生まれてすぐ私の心を読んできて「オギャ」ったのはいい思い出だ、すくなくとも私の存在にある程度の理解を持ってくださるのは本当にありがたい。
「で……肝心の物語はどうしたのかしら?」
「その……全然、物語どおりにはならず……はい……」
「役に立たないわねぇ……」
まるで幹部クラスのボスにパワハラされる怪人の様な光景だが、お母様も最初から私をアテにしている訳ではない。
ぶっちゃけこの世界がハチャメチャなのは……ある程度長生きしている人外だとわかりきっている事らしい。
次から次へと侵略者や新種、さらに能力者まで生まれてくるのだ。
予言や予知能力もクソの役にも立たないらしく……お母様の代でも大予言がしょっちゅうひっくり返ったという……。
この世界の醜さは昔からだとは思わなかった。
「でもその様子だと主人公とヒロインは同じだったようね、だとすると……貴方自身も物語に組み込まれてるかもしれないわね」
「……」
「……それを考慮してないのは流石にアホよ」
「あえて考えてなかった事を言わないで下さるかしらお母様」
過酷な試練とか必要ねぇんだよ!ただただ俺は相応に世界に馴染んだ生き方がしたかったんだよぉ!無理だとしてもっ!
「この世界って本当に醜くないかしら」
「小物めいた事を言う暇があったら自分に出来る事を考えなさい」
「はい」
本当にクソ鬱世界ですこと!!
私は即座に部屋に転移して「設定資料・攻略チャートまとめ」を広げる。
最低限度、「無印」「N」で出てきそうな奴を机の上に広げる。
この世界の事なので下手したら更に後の時系列が前倒しになったりする可能性も高いが、少なくとも登場人物の年齢で逆算して出てくる可能性が高いのは初期の二作。
三作目より後はまだ子供だったり生まれてすらない人物だったりする、「パラドックス」とかを考慮すると生まれてすらこない可能性も考えなければならないかもしれないが……「NE」のキーとなる「特異点」の双子は曰く「考えるだけ無駄」だそうなので……。
それにこの世界が物語なら特に敵ポジションの奴らは否応が無く生えてくる可能性が高い。
逆に言えばわからない味方も突然に生えてくる可能性もあるし、敵キャラが味方になる可能性もある、逆もまたしかり。
ならば初手は絶対に攻撃しない事、そして可能な限り対話を諦めない事は徹底しなければならない。
そしてもしユウ達が危ない場合は……やるしかないだろう。
彼らが本当に主人公たりえるのなら、その危機も乗り越える可能性もある。
だが、それでも足りない可能性もある。
現実は創作より奇なりとも言うが創作物の中の現実はもっと奇としか言いようがない!
前世の世界には異能なんてなかったからそうそう世界の危機にはならんかったぞ!こっちなんて見てみろ!世界終焉スイッチが転がりすぎなんだよ!!加減しろ!
気を取り直して資料、最初の戦いはそう……ユウと翔子の戦い。
本当なら一話と二話に渡って過去と現在を行き来して描写され、二話目でようやく決着がつき。
そして三話で彼らの前に……最初の敵が出てくる。
最初の敵はそう……「今日起きた放火事件」で死んだ事によって「目覚めた力」の反動で攻撃衝動に支配され暴走する少年「駆郎(くろう)タクミ」一度打ちのめされた後に翔子の力で救われて仲間となる存在……。
……?
…………????
「クソわッ!!!!???こんなことしてる場合じゃなかろうがっー!!!」
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第三話「衝動」
目の前で家族は皆殺され、自分もまた流れ出る血と酸欠により少年は死んだ。
だが運命は彼に安息を許さなかった。
復讐心と破壊衝動が彼の中に眠る「獣の祝福」を目覚めさせた。
炎を纏い紅蓮を纏い「生存本能」に従い、崩れ落ちる屋敷を突き破って夜の闇に飛び出した。
瀕死の重傷を癒す為には血肉が必要だ、それも強き血肉が。
探す、魂の嗅覚に従い、己の命を永らえさせるモノを探す。
そして見つけた。
一人の少女だ、その少女は阿木宮翔子。
マンションの廊下を歩く彼女を見つけたのは引き合う祝福か?それとも呪いか?
そんな事はわからずに「駆狼タクミ」は「生存(サバイヴ)」の衝動のままに彼女へと飛びかかる。
「ッ!!」
だが彼女もまた「黄金の竜」だ。
「神」と対等に戦える可能性を秘めた竜は即座の殺気を感知して、獣の一撃をかわした。
「……変身」
即座にその姿を竜と人の間の存在へ変え、翔子は距離を取る。
決して鍛えに鍛えた達人や戦場に身を置き続けた者の動きではないが、純粋な能力がその動きを可能とする。
コンクリートの壁をぶち抜き、即座に下の駐車場に降り立つ二人。
「貴方……いや正気を失ってるね……」
素人目にも目の前の存在が悪意や敵意を持っているわけじゃない、先ほどの蜘蛛女とは違い目の前の「人狼」からはただ「生きたい」という感情しか読み取れなかった。
自分の力なら、目の前の存在を止める事が出来る……いや止めなければならない。
目の前にいるのはあの時のユウと同じく、自分の力を制御できない存在。
前は出来なかったが今は出来る。
人狼の攻撃を受け、避け、喰らいながらもチャンスを探る。
その応酬はたったの数分だけだったが、果てしなく長く感じた。
だがそれも終わりを告げる。
「そこまでです、駆狼タクミッ!!」
獣の本能に塗りつぶされていたはずの心が、自分の名を呼ぶ声によって引きずり出された。
どうして俺は戦っている?死んだ筈の俺が生きてるのは何故だ、そして俺の名を呼ぶのは誰だ?
疑問が頭を埋め尽くし、理性と冷静さが満ちていくと激しい痛みが襲ってくる。
タクミは変身を維持できずに倒れる。
「……阿木宮翔子、あなたの力で癒してあげてください」
「聞きたい事は沢山あるけど、そうだね……まずは……そうさせてもらうよ」
翔子の持つ「金竜」の力はそれこそ「祝福」と呼ばれる異能の中でも強力極まりない。
自分の戦闘力を底上げするだけでなく、自他問わずその傷を癒す事が出来る。
「ああ、間に合って本当によかったわ。これで可能性がまた一つ拓けた」
紫色の瞳の少女が安堵の溜息を吐く、心底安心している様子にこの少女に敵意や何か悪しき策謀があってこの少年を助けに来たという予想を翔子は否定する。
「……それで、この男の子……駆狼くんと……あなたはどういう関係?それとどうして私の力を知っているのかな?」
「私が一方的に知っていただけですわ、あなたの力もまた一方的に。目覚めていなくても他人の力が少し見える……そういう力なのですよ」
確かにそういう「力」ならありえるだろう、だとして。
「それに私からはあまり手出ししにくいから……困ったら空雅ユウと……そのタクミくんと頑張って、今のところは」
待って、の一言を伝えるよりも早く少女「奈々」は姿を消す。
「……消えた」
金竜の力を以ってしても捉えられない、一瞬だった。
謎は深まるばかり、首をかしげながらも近づいてくるパトカーや救急車、消防車の音を聞きこれはユウの家に厄介になりにいくしかないと決心する翔子だった。
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あっぶねぇ!!!翔子ならきっとどうにかするとは思っていたけど無事止まってくれてよかった……!
駆狼タクミは重要人物、純粋に戦闘力が高いだけではなく……精神的に成長した結果多くの異能者や人外の存在との架け橋にもなる。
ここで失えばどれだけの可能性が閉ざされるかわかったものではない………ぶっちゃけそんな損得感情で人を見るのも、とは自分でもどうかと思うが……これは知る者としての義務と宿命かも……いやそんなこともないかも。
ここは原作通りに行ってくれたからよかったものの、あの謎蜘蛛女みたいなイレギュラー要素がこの先も無数に出てくる可能性しかない。
もう頭が痛いし眩暈もするし、吐き気も止まらない。
下手な知識なら欲しくはなかったよ!!クソ!
・ユウくん
主人公不在
・翔子
実はめっちゃチート、メイン能力は竜人化と治癒
・ガバ預言者
あやうく後の重要人物をスルーする所だった
・タクミくん
狼男、本当はメッチャ優しい子なんだけど死に掛けて能力が暴走、祝福は『生存』
・タクミくんの家族の仇
原作では一期のボスだが
・母上
原作未登場
・父上
普通の人