ユウ、翔子、タクミ、ツルギ、シンジ、そしてソウジ……。
両親が不在の中、この6人を屋敷に招待する事となった。
この世に生まれてこの方、他人を家に呼ぶなど初めてで、自分の交友関係の無さに涙する女!紅奈々!
「まあ、お茶も出せませんが……その、お話し合いをさせていただきましょう。私は紅奈々、少し前までは限定的に未来が見る事の出来た「半分人間」です、もう半分はよく知りません」
死んだ筈の人間が生き返り、物語に知らない登場人物が次々と現れ、挙句には私以外にも物語を知っている者まで出てくる始末。
こうなってしまってはもう吐いてしまった方が楽と開き直る事にした。
「なるほどな」
と一番に頷くのは最も「関わりが深かった」シンジだ。
次にユウと翔子もああ、と納得がいった様だった。
「それで私達にタクミを助けたりさせたわけなのかな?」
「はい、ですが正直言って私の知識は……あなた方二人があの蜘蛛の怪人と戦った時から既にもうクソの役にも立ってなかったので……おそらくまともに役に立った唯一の知識かと」
ガタッと誰かが立ち上がる音がした。
「……待て、俺が……俺の家族が襲われる事を知っていたのか」
「それに関しては、詳しくは知りませんでしたし。気付いた時には手遅れでした」
それはタクミだった、おそらくこの中で私をぶち殺す権利を持つとしたら、彼だけだ。
私の原作知識の中にはタクミの家の場所などなかったし、そもそもどうやって助けるというのだ?戦えもしないのに。
「私は……貴方に殺されるなら仕方ないというくらいには思っていますが……今はまだ、まだ少しだけ生きなければならない」
これはウソではない、少なくともユウと翔子、そしてタクミがまともに戦える様になるまでは私はまだ死ねない。
それにただ殺されてやるつもりもないので「全力」で逃げに徹した私を殺せるぐらいに強くなってくれれば未来も安泰だ。
「駆狼タクミ、そもそもお前の家族の仇はその女ではないだろう」
変な所から助け舟が来たぞ?矢車ソウジ、ツルギの同僚らしい。
しかし何故彼がその事を知っているんだ?
「……何故知っている」
「それは俺もそこの女同様に未来の知識があったからな、だが……それが上手くいかないのがこの世界だ。俺の知らない要因が次々と現れ、別の事件を起こしていく」
あー……こいつもつまりは「転生者」か、それとも未来から来た人間か。
しかしやたらに私を目の仇にしているのも、未来での私のムーブとか知っているのか……それとも。
「つまりは……これまでの歴史や、これからの運命が滅茶苦茶になっているって事か?」
「そうだツルギ、そしてそこの女は未来において人類を脅かす存在となる……と俺は知っていたが、何故かそうならない気もする」
ああ、やっぱり私の事も知ってた、しかし人類を脅かすのは何故?能力の暴走だったらマズイな……。
「それで、結局どうするというのですか」
「そうです、これからそんな歴史や未来の危機だなんて……」
ついていけていないのはユウと翔子だ、仕方あるまい、ただのちょっと異能を持っていただけの学生がこんな世界の危機に巻き込まれるなんて考えもしなかっただろう。
でも今でこそまだ弱いけれど、彼らには変える力がある。
「私としては、ユウと翔子、そしてタクミが未来において世界を救う者となる知識がありました、だからあなた達には強くなって欲しい」
「それは俺も同じだ、まず目先の家族の仇を討ち果たせるぐらいには強くなってもらわねば困る、駆狼タクミ」
ソウジの知識も私と同じかな?タクミは異種との架け橋となる存在だからな……特に強くなくては……。
「まあ、そうだよねータクミおにいちゃんは強くないとー」
突然知らない少女の声が部屋の中に響いた。
皆一斉に、声の方向を向くとそこには10歳ぐらいの少女。
ピンクの髪が滅茶苦茶目立つのに何故、今の今まで誰も気付かなかったんだ。
「……あの、どちらさまですか」
「あーそうだね、「あなた」は私と出会わなかったから初対面だね、私は「アリス・タイムライナー」……時間の旅人だよ」
…………ああああああ!!クロノスくんの妹かぁ!ついぞ設定だけしか出なかった!
NXあたりの歴史改変系でも特異点として消えずに正しい歴史を覚えていられる存在だ!
「なるほど、過去から死人がやってくれば未来からまだいないものまで来るか」
「そうだよなぁ、過去から来るだけとは限らないよな」
ソウジとシンジがうんうんと頷くが、それをツルギが頭を抱えてみている、私も頭を抱えて倒れ伏したいよ。
「そーれでねー……未来や歴史が変わっても唯一変われない私から皆様に一言言いに来たんだ!この世界ホントにロクでもないね!!まるでノリと勢いだけで作られた女児向けアニメだよ!!だからノリに乗ってアドリブで世界の危機を救ってね!以上!」
「ノリ……え?ええ……?」
「この世界はノリに乗ってる奴が強いの!強化フォームでも最悪お披露目の次の回には負けたりするかもしれない、だからとにかく強キャラムーブをして!なんか勝てそうな雰囲気を作って!フラグを立てて!倒す!それね!」
まるでオタクみたいな話し方をするな!
「お前は戦わないのか」
「必要なら戦うよ?っていうか正直、今のあなた達の誰よりも強い自信もあるよ?」
ソウジの言葉に対して、さも当然の様に「自分が強い」と言い返せるこの少女、間違いなく只者では無い。
記憶が正しければ「タイムライナー」の一族は未来と過去を好きに行き来できるんだった……確かにかなりどうにもならない相手の一人だ……。
というか、こんなに戦える奴が集まっているなら……
「そ……そうです!出来れば皆さんで……ユウさんや翔子さん、タクミさんに訓練をつけてもらえませんか?」
何も私が積極的にやらんでもいいじゃん!!!
「あ、奈々お姉ちゃんだっけ、あなたもやるんだよ」
は?え?
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ここは廃棄された採石場、一応の所有は国となっているが、主にツルギやソウジ達の様な組織の人間が訓練に使う場所。
「遅いぞ」
「はぁっ!まだまだだ……!」
ぶつかりあうのは赤と赤、ソウジとタクミだった。
タクミはいつもの灰色の姿ではなく、ソウジの組織で開発された変身装着式のパワードスーツを纏いつつも目にも留まらぬ凄まじいスピードで動いていた。
「お前は元から加速できるだろう、スーツの機能と合わせろ」
ソウジの鎧「KB-10」もまた、加速の力を持つ。
元々は宇宙からの侵略者に対抗する為に作られたスーツで、魔術ではなく純科学だ。
タクミが纏うのはそのプロトタイプである「5式」、加速機能は10秒間しか使えないが通常戦闘性能は最新のKB-10にも劣らない。
「……お前の強みを生かせ」
ソウジはタクミの事を多く知っている、気に食わない奴だとも思っている。
だがそれはそれとして、気持ちもわかるし、不幸になってほしいとも思っていない。
もう既に家族を失ってしまった彼の行く先に、せめて救いがあって欲しいとは思う。
だからこうして特訓をつける事だけでなく、旧式とはいえ強化スーツを提供するまでした。
一方で翔子とユウが相手にしているのはツルギとその先輩であるヒビキだ。
ヒビキは古代から日本で妖怪を相手に戦って来た一族の末裔、修羅場も多く潜り抜けてきたベテランだ。
「まずは基本的な体力をつける事、戦い続ける力を付ける事が一番大事だ!重りをつけたまま広場を30週!」
変身しているとはいえユウと翔子がドン引くほどの重量の重りを軽々と持ち上げながらヒビキは走る。
「やっぱ一流だな……ヒビキさんは……」
「ツルギ、お前も走るんだ」
「ハイ!」
そして奈々は。
「無理無理無理、剣なんて持てませんって!!」
「やるんです、やれ」
アリスに「戦えない事」の克服を命じられていた。
奈々には生来よりどういうわけか「武器」を持つと全身に怖気が走り、最悪アレルギー反応が出るという奇妙な体質があった。
まるで戦いアレルギーとでもいわんそれが、「自力」での介入を妨げていた。
だが前の敵のコルカス、アリス曰く彼は未来人だったらしいが……彼の様に奈々を狙う人物が現れる可能性も高い、だから自衛ぐらい出来る様になる為に克服しろとの事だった。
「案外、どんな奇跡だって起き放題だな……この世界は」
それをシンジは笑いながら見ていた。