ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第15話 出撃

 

 

 

 

「やはり来ましたか」

 

ガーティ・ルーのブリッジで、艦長であるイアンは当然だと言わんばかりの口調で呟く。データで表示されるのは、アーモリーワンで自分たちを追ってきた新型の船だ。

 

よほど、奪われたモビルスーツを取り戻そうと躍起になっているように見える。こちらとしては、計画の第一段階をクリアできたので文句はないが、こうも付き纏われると今後の動きに支障が出るのは明白だ。

 

「ああ。まっザフトもそう寝ぼけてはいないということだ。ここで振り切るとしよう」

 

《総員戦闘配備!パイロットはブリーフィングルームへ!》

 

「アンカー撃て!同時に機関停止。デコイ発射!タイミングを誤るなよ」

 

オペレーターの艦内放送が響く中で、イアンのシートの横にいたネオの体が無重力の中に浮かぶ。

 

撃破——とまでは言わないが、とりあえずあの新型艦を撒く必要はある。

 

モビルスーツのデータは取ったが、それを受け渡すにはどうしてもザフトの新型艦が邪魔であり、そして同時に「流星」の存在が計画の妨げにもなる。

 

イアンに自分の愛機の準備をさせるよう告げて、ネオも格納庫へと向かう。

 

さて、〝流星〟との挨拶は先ほど済ました。理論の証明は終わった。次は本気で戦うことにしよう。

 

作戦の局面を迎えながら、ネオは自身の戦いにニヤリと笑みを浮かべる。ここを切り抜けられれば、ネオ・ロアノークという人間は完成する。

 

あとは、自分の力が流星に通じるか…ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あの新型艦だって?」

 

ゆりかごから出たアウルが、ノーマルスーツに着替えたスティングの肩に手を置いて語りかける。自分たちを追ってくるのは、アーモリーワンで出会した新型艦だ。ブリーフィングルームに向かう道中で、スティングも肩をすくめて答える。

 

「ああ。来るのはあの合体野郎かな?それとも変形野郎か」

 

「今度こそバラバラか、生け捕るかってね」

 

「どっちにしろ、また楽しいことになりそうだな、ステラ」

 

スティングの声に、ステラはその整った顔つきの中、瞳だけに殺気を漲らせて頷く。よほどアーモリーワンで足蹴にされたことが気に入らなかったようだ。

 

「次は、必ずステラが落とす」

 

次は負けない。必ず落として、ネオに褒めてもらうんだ。殺気立つステラの様子に、アウルとスティングは互いの顔を見合わせて、先に向かってゆくステラの後に続くのだった。

 

 

////

 

 

「艦長がブリッジへ!」

 

タリアとアーサーがブリッジへと戻る。それぞれが自らの席に座ると、タリアは要人が考えられないほど乗り込む自艦の憂いを切り取って、艦長としての責務に取り掛かった。

 

「敵も、よもやデブリの中に入ろうとはしないでしょうけど、危険な宙域での戦闘になるわ。ハイネとレイで先制します。準備は終わってるわね?」

 

発進準備は終わっていますと答えたオペレーター。よし、とタリアが指揮を振るおうとした時、先ほど自分たちが入ってきたブリッジの出入り口が開いた。

 

「議長…」

 

振り返った先にいたのは、オーブの要人であるアスハ議員と護衛であるアスランを連れたデュランダルの姿があった。

 

「いいかな?艦長」

 

非戦闘員がブリッジに入るなど…と言いたげなタリアに、デュランダルはあえてそう問いかける。ずるい男だと思いながら、タリアは何も言わずに議長を見つめる。

 

「私はオーブの方々にもブリッジに入っていただきたいと思うのだが。君も知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験されてきた方だ。そうした視点からこの艦の戦いを見ていただこうと思ってね」

 

「…解りました。議長がそうお望みなのでしたら」

 

「ありがとう、タリア」

 

答えがわかっていただろう応答に、デュランダルは満足そうに笑みを浮かべながら、自分の席と、カガリたちをそれぞれの席へと案内する。タリアはデュランダルに悟られないよう息をついて、気を取り直した。

 

「ブリッジ遮蔽!対艦対モビルスーツ戦闘用意!」

 

戦闘が始まる。

 

ここまで来たら後には引けない。タリアは2度目となるミネルバの戦闘に備えて、深くその軍帽を被った。

 

 

////

 

 

ミッションを説明する。

 

目的は、奪われたザフト軍最新鋭モビルスーツ、カオス、アビス、ガイアの奪還、それが不可能な場合の破壊、撃破だ。

 

不明艦をボギーワンとし、ミネルバがボギーワンの補足、敵モビルスーツの相手が我々の役割となる。

 

敵の機体データだが、先の戦闘で見てもらった通りだ。詳細は機密事項のため、公表はできない。各員の判断によって戦術を組み立ててほしい。

 

おそらく敵は、先の大戦から形成されたデブリ帯を使って戦術を組み上げてくるだろう。こちら側はミネルバから先行し、敵がデブリ帯から顔を出したところを狙う。

 

駆け引きが重要になってくる戦いだ。各員、我慢比べになるだろうが、向こうを追い詰めているのはこちらだ。余裕を持って戦ってほしい。

 

作戦説明は以上だ。

 

各員の健闘を祈る。

 

 

 

////

 

 

 

《ザク・ブレイズウィザード、発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します》

 

ハンガーでは慌ただしく発進準備が進められていた。修復されたオレンジ色のザクと、中央カタパルトへインパルスのコアスプレンダーが搬入されていく。

 

《インパルス、発進スタンバイ。モジュールはブラストをセット。シルエットハンガー3号を開放します。発進シークエンスを開始します。ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認》

 

大型の搬送ユニットがザクの肩部を固定し、エアロックへと送り出していく。コクピットの中では、ハイネが機体の発進準備を整えていた。

 

《ハイネ機、カタパルトエンゲージ》

 

「全く、ミネルバでの初陣がこんなことになるなんてな!ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、発進するぞ!」

 

リニアカタパルトから、背部のウィザードシステムへ「ブレイズパック」を装備したハイネのザクが勢いよく射出されていく。ハイネ機はぐるりと機体を挙動させると、ミネルバの先鋒へ一気に飛び立っていった。

 

《続いてインパルス、どうぞ》

 

中央カタパルトへ到着したレイは、コクピットの中で思考を巡らせていた。

 

流星…ラリー・レイレナード。

 

懇意にしてもらっているデュランダル。そして、自身と深い関わりを持つラウ・ル・クルーゼを大きく変えてしまった存在。

 

レイは苛立ったように顔を歪める。

 

キラ・ヤマト。そしてラリー・レイレナード。自身の出自と、自身が憧れた存在に大きく関わった二人に、彼は表に出さない激情を抱えていた。

 

「…了解した。レイ・ザ・バレル。コアスプレンダー、発艦する!」

 

今は、それを出す時ではない。だが…俺は認めない。あんな存在を、認めてたまるものか…!!

 

そんな思いを胸に抱いて、レイはコアスプレンダーの出力を上げて深淵の宇宙へと飛び立ってゆく。続けて射出された各パーツと、ブラストシルエットとドッキングしたインパルスは、先行するハイネのザクを追うように進む。

 

他にも、ミネルバに配備された緑のザクウォーリアが数機出撃。一個編隊として運用するモビルスーツ部隊を吐き出したミネルバは、ボギーワンとの戦闘態勢に入る…はずだった。

 

《続いて、アスカ機、メビウス・ストライカー、どうぞ》

 

ここにイレギュラーが紛れ込む。

 

本来ならば、レイの隣でインパルスを駆るはずだった少年が。

 

本来ならば憎しみしかなかったはずの、オーブ軍と似たノーマルスーツに袖を通した少年が。

 

彼専用に組まれた可変機に乗って、汎用型のカタパルトの上へと搭載される。

 

シン・アスカ。民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」の若きエースパイロット。彼は操縦桿を握り締めながら目の前に広がる宇宙を見た。

 

《シン!あくまでザフトのサポートだからね!》

 

「了解!では、隊長、お先に!シン・アスカ、メビウス・ストライカー、行きます!」

 

整備を担当してくれたフレイからの声に応答して、シンの機体はカタパルトから一気に加速し、射出された。

 

《続いて、レイレナード機。メビウス・ハイクロス、カタパルトへ!》

 

次いで搬入されてくるのは、ラリーが乗り込む「メビウス・ハイクロス」だ。

 

機体コンセプトは地球軍のモビルアーマー「メビウス」と同じものであるが、機体骨格から最新フォーマットに見直され、コクピットも従来のモビルスーツと同等のレイアウトに変更。武装面もビーム砲とビーム攪拌幕、チャフ、ミサイルが標準装備となっており、機動力も過去から連なる改修の全てを踏襲した物として、大幅に改善されている。

 

今回の構成は、シンの可変機を主軸とした四機の高機動編隊となる。

 

「すまない、ハリー」

 

居住性が爆発的に改善されたコクピットの中で、ラリーは申し訳ない顔で通信先にいるハリーへ謝った。

 

こうやって出撃することになったのは、ラリーのわがままだった。デュランダルに打診し、自分たちを傭兵として雇うようにしたラリーは、戦いに巻き込まれる形となった仲間へ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

《デュランダル議長に雇ってもらう話?別に気にしてないわよ》

 

そんなラリーに、ハリーはあっけらかんとした声で平然と返す。その言葉に、後方で待機しているトールやリークも頷いた。

 

「ラリーさんのそういう予感、当たりますからね」

 

「そうそう。それにラリーをそこまで追い込んだ敵。僕も興味があるのは確かだし」

 

だから、ラリーが選んだ道ならついて行く。そう全員が口を揃えて言った。ラリーは少し気恥ずかしくもなり、感謝の気持ちに満たされながら、真剣な眼差しでメビウスの操縦桿を握る。

 

「わかった。だが、俺たちの目的は一つだ」

 

「 「了解!!」 」

 

二人の返事を受けて、ラリーは憂いを払う。もう迷いはない。

 

生きる。生き残って、使命を果たす。

 

ただそれだけ。

 

傭兵や民間軍事企業になっても変わらない、過去の自分から脈々と受け継がれてきた在り方。

 

それを果たすために、ラリーは前を見据えた。

 

自分が感じ取ったモノを確かめるために。

 

《メビウス・ハイクロス、カタパルトエンゲージ、発進どうぞ!》

 

「ラリー・レイレナード、メビウス・ハイクロス、出るぞ!」

 

「リーク・ベルモンド、メビウス、発進します!」

 

「トール・ケーニヒ、メビウス、行きます!」

 

三機のメビウスはミネルバから飛び立つと、先に出たシンのストライカーと合流し、四機の編隊を作って宇宙を行くのだった。

 

 

 

 


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