ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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プロローグ

Onogoro Island East Bay

05°32’17”N 152°16’02”E 2508hrs.

 

June 15, C.E.71

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーブ首長国連邦。

オノゴロ島、東海岸沿い付近。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ…父さん!」

 

シン・アスカは、長く続く山道を必死に走っていた。

 

先頭を行く父から離れないよう、後ろを走る母と妹を離さないように、ただ必死に走っていた。

 

「あなた…」

 

「大丈夫だ、目標は軍の施設だろ。急げ、シン!」

 

攻撃開始時間を食い込む形で、シンの家族は脱出船に向かって走っていた。

 

父と母の研究データを持ち出し、要らぬものは消去するためにモルゲンレーテの研究施設に立ち寄ってしまったのが致命的なミスであった。

 

頭上にはモビルスーツが降下しているのが見え、遠くでは信じられない速さで交戦する〝八機〟のモビルスーツの姿が見える。

 

「キャー!」

 

その八機のうちの一機が、自分たちの上空すれすれを飛び去っていき、胸に抱いた妹が叫び声を上げた。父と母が庇うようにシンとマユをしゃがませるが、その風圧は戦争の恐怖を思い知らせるには十分だった。

 

「かあさん!」

 

「ハァハァ…マユ!頑張って!!」

 

震える足を懸命に動かして走る妹と母親。

 

ふと、走っている振動で妹が肩から下げるポーチから、折りたたみ式の携帯端末が山道の下へと落ちてしまった。

 

「あー!マユの携帯!」

 

それに気付いた妹がとっさに足を止めてしまう。

 

「そんなのいいから!!」

 

「いやー!」

 

母が手を引くが、まだ幼い妹は言うことを聞かずにその場に佇んでしまった。シンは自然と山の斜面を降りる選択をした。大事な妹の携帯だ。避難船にたどり着いてから文句を言われるのも面倒くさい、そんな感覚だった。

 

 

 

パッと空が光った。

 

 

 

 

シンが振り向くと、モビルスーツから放たれたビーム兵器がこの山道の近くに着弾する様子が一瞬だけ。しかし、シンにはそれが鮮明に見えた。

 

 

直後、

 

衝撃。轟音。

 

 

吹き飛ばされたシンは、そのまま山道から崖下まで落ちていき、地面に体を打ち付けられた。

 

「だ、大丈夫かい!?君!!」

 

崖下はすぐに、オーブ軍の避難船乗り場だった。

 

シンは強か頭を打っていて、意識が朦朧とする。

 

今の衝撃は?

 

父は?

 

母は?

 

妹は——?

 

その思考が駆け巡った瞬間、シンは立ち上がり、家族がいるであろう山道を見上げる。

 

すると、そこには——。

 

 

「モビル……スーツ…?」

 

 

そう呼称するにはあまりにも大きく、あまりにも硬い。純白に包まれて閃光と煙の中にたたずむ神々しい姿。響き渡る駆動音の全てが、シンの五感を激しく揺さぶる。

 

まさに、シンの情景となった。

 

焦がれる理想の姿。不屈の在り方。

 

迫り来る敵を打ち倒していく無双の強さ。

 

すべてを払う光。

 

それが、本来なら歪まされた運命にあったはずのシン・アスカと、流星の『運命』の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED Destiny

白き流星の双子〝ジェミニ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C.E.72年。

 

一年半に渡った地球、プラント間の戦い。

 

それは、苛烈と混迷を極めたヤキン・ドゥーエ宙域戦を以てようやくの集結をみた。

 

やがて双方の合意の下、かつての悲劇の地、ユニウスセブンにおいて締結された条約は、今後の相互理解努力と平和とを誓い、世界は再び安定を取り戻そうと歩み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

《ORL-010、こちら管制塔。ローカライズ、オンライン》

 

プラントのコロニーの一つであるアーモリーワン。『兵器工廠』という名の由来を持つこのコロニーは今、慌ただしく事態が動き始めていた。

 

《こちらORL-010、ナブコムリンクを確認》

 

ゲイツとジンの編隊が着艦ベイへと進入し、定刻通りに到着する。宇宙とプラントの狭間となる港口には、多くのモビルスーツや船が隣接しており、それを制御する管制官たちも多忙な仕事に追われている様子であった。

 

オーブからやってきた船は、護衛を務めてくれたザフトのモビルスーツから離れて、港へと入っていく。

 

その慌ただしい様子を窓越しに、カガリ・ユラ・アスハは不安げに瞳を揺らしていた。

 

 

////

 

 

プラント内に設けられた人工湖から程近い場所に位置する基地でもまた、式典用のモビルスーツの配置や準備が進められていた。

 

《軍楽隊最終リハーサルは、一四〇〇より第三ヘリポートにて行う!繰り返す——》

 

「だぁ違う違う!隊のジンは全て式典用装備だ!!あれはマッケランのガズウートか?早く移動させろ!」

 

「ライフルの整備、しっかりやっとけよ!明日になってからじゃ遅いんだからな!ハウンド隊第二整備班は第六ハンガーへ集合させろ!!」

 

喧騒に包まれる中を、一台の軍用車が先を急ぐ。一人はザフトの作業員のツナギを着た若い男性で、もう一人はザフトの赤服というエースパイロットの称号とも言える服に身を包んだ男性だ。

 

そんな軍用車の前に、式典装備のジンが突如として現れ、ツナギの作業員が急ハンドルを切ると、なんとか足の合間を通り抜けて事無き得るのだった。

 

「す、すいません!」

 

ハンドルを握るヴィーノ・デュプレは、隣に座る赤服のパイロットに謝罪すると、別に大丈夫だと、パイロットはひらひらと手を返した。

 

「仕方ないって。こんなの久しぶりってか、初めての奴も多いんだしな。しかし、これでミネルバもいよいよ就役だ。配備は噂通り月軌道になるのかねぇ?」

 

そう言って自ら行先を見つめる赤服《ハイネ・ヴェステンフルス》は、自分が配属される新造艦『ミネルバ』がこれからどうなるか、漠然とした未来に思いを馳せるのだった。

 

そんな彼らの上空を一機のヘリが通過する。

 

「議長。クライン前議長から」

 

ヘリの中で端末を受け取ったプラント最高評議会議長に就任した男性、ギルバート・デュランダルは、その端末を見つめて顔をしかめていく。

 

軍基地に降り立ったヘリから、部下や他の士官たちと共に歩み出すデュランダルは、疲れたような言葉を紡ぐ。

 

「はぁ、彼の言うことも解るがね…だがブルーコスモス派の過激派が後ろにいるのだ。ザラ派もな。いくら条約を強化したところでテロリズムだけは防ぎきれんよ」

 

たしかに、シーゲル・クラインの言葉も理解はできるが、それでは何も変わらなかったから今の不安定な状態が生まれている。それを打開するためにも、この方針を変えるわけにはいかなかった。

 

「議長、オーブの姫が御到着です」

 

軍施設に入ったと同時に待っていた士官から伝えられた言葉に、ギルバートは小さく肩をすくめる。

 

「やれやれ、忙しいことだな」

 

今日もまた、落ち着いた時間は過ごせそうにないな、とデュランダルは心に言葉を止めながら、施設の奥へと足を進めていくのだった。

 

 

////

 

 

「カガリ、服はそれでいいの?ドレスも一応は持ってきているけど…」

 

船からターミナルに続く移動通路を進むカガリたち。表情が硬いカガリの後ろから、護衛役についてきていたキラ・ヤマトが、そっと声をかけた。

 

「な、なんだっていいよ。いいだろう?このままで」

 

「ウズミさんの言葉、カガリ忘れてるの?」

 

そうキラが言うと、カガリは気まずそうに言葉を濁す。やれやれ、議員としても板についてきたというのに、そう言ったところの苦手意識はなかなか難しいらしい。

 

「必要なんだよ、政治ってのは。こういう演出みたいなことも」

 

そう付け加えるように、キラと共に護衛としてやってきていたアレックス・ディノも言葉を繋げる。大きなお世話だと言わんばかり、カガリは振り返って口を尖らせた。

 

「わかってるよ!まったく…」

 

「その顔のどこがわかってるのよ」

 

そんなカガリの横にいるのは、オーブの首脳陣が着る服装とは違い、ムルタ・アズラエルから教わった通りのビジネススタイルに身を包んだフレイ・アルスターだ。

 

「アズラエルさんも言ってるわよ?こうやって、バカみたいに気取ることもないけど、軽く見られても駄目なんだって」

 

まずは相手に隙を見せない事。これ鉄則です、とアズラエルの声が聞こえてきそうなくらいに言うフレイの言葉に、カガリは反論の余地なく、ぐぬぬと顔をしかめた。

 

「今回は非公式とはいえ、君は今はオーブの重鎮なんだからな?」

 

「わかってるって!しつこいなぁ、もう」

 

これじゃあ、先が思いやられるな。そうアレックスがため息をつくのを見て、キラは困ったような笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だよ、僕らもそれで一緒に来てるんだからさ」

 

カガリの不安定さと危なげさを知っているからこそ、ウズミは二人にカガリとフレイの護衛を依頼したのだろう。

 

フレイ自身は、アズラエル理事の要望で同行することになったのだが、きた理由としてはカガリの思うところと同じだ。

 

「キラ、ラリーさんたちは?」

 

フレイが問いかけると、キラはカガリの後ろから前へと進んできて、フレイの隣に並んだ。

 

「護衛は僕らに任せて、先に市街地に向かったよ。ゆっくりできる時間もないしね」

 

基本的にアーモリーワン内部の護衛の役目はキラとアレックスだ。残りのメンバーは船に残って点検や整備、そして〝万が一〟の時のための保険のような役割もある。

 

通路から抜けてターミナルに入ると、多くの人で賑わっていた。明日は大きな式典がある。観光客が多いのもうなずけた。

 

「パパ!船は?軍艦なの?空母?」

 

無邪気な子供の言葉が聞こえてくると同時に、大人たちの言葉がアレックスの耳に届いてくる。

 

「やっぱり必要ですものね」

 

「ああ、ナチュラル共に見せつけてやるともさ」

 

ほんのわずかに届いた言葉。それを聴くと、アレックスの心は重くなる。あれだけの大戦があったというのに、まだナチュラルとコーディネーターの種族の壁は厚い。仕方がない事とはいえ、その壁の厚さに歯痒さや無力さを感じるのも事実だ。

 

その度に、父の憎悪に塗れた声が蘇ってくる。

 

「——アスラン?」

 

物思いに更けるアレックスの顔を覗き込みながら、カガリが彼の〝名〟を呟く。ハッとなったアレックスは、大丈夫と頷いた。

 

「ああ、すまない。なんでもないよ」

 

しばらく通路を進むと、港口からプラント内部に繋がるエレベーターの前へとたどり着いた。

 

四人は無重力から降りて地に立つ。いよいよもって、プラントへの入国だ。

 

「さて、ここからはお偉いさんスタイルで行くわよ?アスハ議員?」

 

そう言って微笑むフレイは、完全に仕事モードのスイッチが入っているようだった。

 

 

////

 

 

アーモリーワン市街地。

 

工廠として使われているコロニー内では、そこで働く人々の賑わいもあるが、式典も近いため多くの観光客や見物人が集まっている。

 

その人だかりの中を、三人の若い男女が歩いていた。目立たず、人の中に紛れて歩く彼ら。しかし、その目には何か鋭いものを感じる。

 

ふと、三人のうちの一人の少女が、街のショーウィンドウの前で立ち止まった。しばらくそのショーウィンドウを見つめると、少女は小さく体を揺らして、くるり。まるで踊るような仕草で体を回す。

 

振り向き様にそれを見たうちの一人が、呆れたような口調で呟いた。

 

「あ?何やってんだ、あれ」

 

「浮かれてるバカの演出…かもな」

 

もう一人もまた可笑しそうにその様子を見つめて答える。くるりと再び踊る少女を後ろに、彼らは気にしない様子で街中を進んでいく。

 

「じゃねえの?お前もバカをやれよ、バカをさ」

 

「冗談。そんなの命令ないし」

 

二人が歩き去っていくのに気付かないで、少女は楽しげに街の中で踊り、駆け抜けていく。周りの人々がその様子に視線を向けるが、そんなこともお構いなく彼女は楽しげに笑っていた。

 

「うふふ」

 

童話の中にある舞踏会で踊るお姫様のように。光があふれている景色の中で、少女は可笑しく笑って、くるりとステップを踏んでいく。

 

「あはは」

 

そして彼女は気付いていなかった。その先にある店舗から出てきた三人の人影に。

 

「それでマユのやつ…おっと」

 

「うわっ」

 

手に持っていた荷物を落とさずに、ぶつかってきた少女をそっと受け止めた少年は、呆気に取られている少女へ、心配した様子で言葉をかけた。

 

「君、大丈夫?」

 

顔を覗き込むと、少女の視線は下。少年も習うように下へ目を向けると、自分の両手が彼女の胸に触れているのに気がついた。

 

「あっ」

 

謝罪の言葉も言う隙もなく、少女は少年の手を振り払うと、先に行ってしまった二人を追いかけるように駆け出していった。

 

「あ…」

 

その後ろ姿に言葉をかけられず、少年は通路に立ち尽くして、駆け抜けていった少女の後ろ姿を見つめている。

 

「シンくん、君…」

 

その少年、シン・アスカ。

 

彼と共にオーブにいる家族への手土産を買っていたリーク・ベルモンドは、シンの所業を見つめながら引きつった笑みを浮かべていた。その表情を察したのか、シンは誤魔化すように手をパタパタと動かした。

 

「え!?あ、偶然ですよ!偶然ですって!」

 

そんなシンと肩を組んだもう一人の、ラリー・レイレナードも、シンの思わぬハプニングに意地悪そうな顔をして脇を突いた。

 

「お前もずいぶんオマセさんになって」

 

「やめてくださいってば!」

 

「やーい。このラッキースケベ」

 

「違うってば!」

 

ついにラリーとリークを振り払ったシンに、二人は楽しそうに笑って先に歩んでいく。

 

「うわー、シンがおこだ!おこ!」

 

「おいこら…待ってくださいよ!!」

 

そんな二人を追いかけるシン。

 

このとき、まだシンは知らなかった。

 

自分を待ち受ける——大いなる運命を。

 

 

 

 

 

 


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