ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編
ハリー技師のプロポーズ大作戦1


 

「私はやっぱりダメな女の子よぉおおおーー!!」

 

皆さん、こんばんわ。

 

フレイ・アルスター役の桑島…じゃない。目の前の惨状に思わず現実逃避をしたくなりましたが、私は元気です。

 

目の前でうずくまって嗚咽をあげてるのか泣いているのか管を巻いているのかわからない相手は、私の尊敬する技師であるハリー・グリンフィールドだ。

 

仕事終わりに家に寄ってご飯でもと誘ったまでは良かったけれど、お酒が入った途端に手がつけられない状態となってしまった。ここまで乱れるのは初めて見るかもしれない。

 

エプロン姿の旦那であるサイも、困ったような顔をしている。まぁ、お酒を出してもいいと言ったのは自分だ。トランスヴォランサーズの経理やオペレーター以外にも、前大戦の経験から小説の執筆もしているサイに迷惑をかけるのも忍びない。

 

とりあえず片付けられるものだけ片付けてと伝えて、私は管を巻くハリーさんの相手を務める。え?そこはフレイが片付けるところ?それはヘリオポリスにいた頃の私に言ってやってください。というか、このあいだサイの帰りが遅い時にご飯と片付けまでやったら、「な、なにか不味いことでもしたかな?」とめちゃくちゃ警戒されたのだ。まったく、失礼しちゃうものよね。

 

エプロン姿が様になってきた旦那様はさておき、私はすんすん言って机に突っ伏しているハリー技師の心のケアをすることにした。

 

なんでも、ハリーさんの悩みは意中の相手であるラリーさんにあるとのこと。彼がなかなか告白しないため、ハリーさんとラリーさんはまだ交際すらしていないらしい。キスはしたともっぱらの噂であるが、そこから先には一切進めていないのだとか。

 

パッと聞くだけでは、はっきりしないラリーさんに問題があると思えるが、内情を知る私としてはなんとも言えない顔になってしまう。

 

何度かラリーさんが、ハリーさんへプロポーズをしようとしていた事は知っているし、なんなら本人から「今日こそ必ず」という意気込みまで聞いているまである。

 

そんな彼がバチバチの一張羅姿のまま死んだ目をしてハンガーへ連れてこられる姿を何度も見ているので、この件に関しては直前でヘタれて新型機や調整中の機体を盾に逃げるハリーさんが全面的に悪いとは思っている。

 

ここ最近では、高らかなプロポーズ大作戦宣言からディナーと新型機のテスト飛行までがセットな食事会ではないかと、仲間内では話になっていたりする。最初はうまくいくか、いかないかトトカルチョが整備士チームで流行っていたが、結果が変わらない賭けなど機能するはずもなく、今では死んだ目をして更衣室に入るラリーを慰める役を誰が負うか、交代制の札まである始末だ。

 

その点においては、ラリーさんに同情するしかない。そしてそれが起こるたびに、ラリーさん横から掠め取り隊の包囲網も狭まっていることを、ハリーさんは知っているのだろうか?

 

ハリーさんへの告白(笑)を決行した翌日には、シンの妹であるマユか、リークの妹であるカナミに連れられて出かけているラリーを彼女は知っているのだろうか。

 

ラリーは「子供が誘うことだから」と笑って流しているが、私にはわかる。あの二人の目は確実に横から掠奪する者たちの目だ。

 

今はまだまだラリーさんが動じていないので事なきを得ているが、あと2年もすればあの二人も立派な女性へと大変身するだろう。その時、ハリーさんが変わっていなかったらどう転ぶか予測できない。

 

私としては、どっちにしても関わりたくない事案であるが、恩師であるハリーさんの涙を無碍にすることはできない。

 

「ハリーさんから、ラリーさんに告白すればいいじゃないですか」

 

うわ言のような言葉を発して、自暴自棄に陥るハリーの言葉に適当に相槌を打って、彼女が落ち着くタイミングを見計らって私はついにその言葉を出した。

 

「え」

 

「ラリーさんは何度もプロポーズしようとしてるじゃないですか。なら、ハリーさんが押せばあっという間にゴールインですよ」

 

正直に言って、あの二人にはさっさとくっついて貰いたいものだ。そうすれば、私が既婚者であることをニュアンスで漂わせてくるハリーさんのオーラも無くなってくれて、整備士たちも万雷の拍手で祝ってくれること間違いなしだ。

 

だが、ここでもハリーさんはヘタれる。

 

とてもヘタれるのだ。

 

それもそのはず、ハリーさんはラリーさんと出会うまでまともな恋愛などしたことがないのだ。

 

冷静に考えて欲しい。昔から機械いじりが好きで、色気やオシャレに投資できる青春時代を軍に技師候補として捧げて、地球軍にとっては数合わせともいえる量産機「メビウス」の有用性を議会本部で叫んで、宇宙に左遷させられた経歴を持っているんですよ?

 

そんな人がまともな恋愛をできると思うか?結果、男達の豪胆さに負けない力強さを持ちながら、恋愛観では小学生レベルまで退化してしまう女性の誕生だ。

 

まぁ逃げた先が新型機のテストというのが可愛さの微塵もないのだけれど。

 

ウンウンと頭を悩ませては、やっぱり無理だと顔を青くさせ、けれどマユ達には取られたくないと頭を抱えるハリーさん。

 

そんな彼女にため息をついて、私は引き出しにしまっていたひとつの封筒を出し、ハリーさんの前へと置いた。

 

置かれたものを目にして手に取るハリーさんへ、中身を見るように促す。その封筒に入っているものは、オーブ島の一つであるヤラフェス島にオープンした遊園地型アミューズメントパークの入場券だった。

 

なんでも、戦後復興でパークの修繕にアズラエル財団が出資をしたため、こう言った優待券が届くらしい。これを受け取った張本人であるムルタ・アズラエルが右から左へ受け流すようにこちらに渡してきたのだから間違いはない。

 

こんなの貰えないよ、と遠慮するハリーさんへ、私は気にしないでと答える。これはすでに余りというか、持て余しているチケットなのだ。これが届いたときは次の休みにサイと二人で何度も遊びにいっているため、二人1回分くらい渡すのも造作もない。

 

チケットを見つめながらゴクリと息を飲むハリーさん。

 

そこから酒も抜けた彼女と計画を練ることにした。

 

名付けて、「いつもごめんね、プロポーズ大作戦」だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

それを言ったらサイが笑ったので軽く脇腹をこづいておいた。

 

 

 


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