ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第18話 デブリの戦い 3

 

 

 

 

キラが飛び立った後でも、敵艦からの砲撃が止むことはなかった。モビルスーツ部隊はオーブのシンとキラが相手取り、大立ち回りを演じているが、ミネルバにかかる負担は減るどころか増すばかりだ。

 

「インパルス、ザクが依然カオス、ガイア、アビスと交戦中です!」

 

頼みの綱のモビルスーツ部隊も、まだこちらに引き返す兆しを見せていない。ええい、こうも一方的にやられるとは…。そう握り拳を作るデュランダルが、入り込んでくるような声色で声を上げる。

 

「この艦にもうモビルスーツは無いのか!」

 

「パイロットが居ません!」

 

その言葉が、隣に座るアスランの心に深く突き刺さった。オーブにいる自分の仲間たちが戦火に身を投じているというのに、自分はここで何をやっているのだろうか。そんな焦りにも似た感覚がアスランに深くのしかかる。隣にいるカガリも不安げに目を伏せるアスランの様子を見つめていた。

 

「艦長、タンホイザーで前方の岩塊を…」

 

「吹き飛ばしても、それで岩肌にぬって同じ量の岩塊を撒き散らすだけよ!」

 

副長の進言を、タリアはバッサリと断ち切る。それに岩塊に道を阻まれているということは、その岩塊がミネルバを守っている意味もある。

 

いたずらに辺りを吹き飛ばせば、辛うじて隠れられているミネルバの船体を敵の前に晒すことになりかねなかった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「くっそー!!なんなんだよコイツはぁ!!」

 

メビウス・ストライカーのスロットルを絞りながら、シンは纏わり付くように攻めてくる『メビウス』を睨みつけて叫ぶ。機体を翻してビームライフルを放つが、敵は更に鋭く機体を動かして、ビームの閃光を紙一重で避けてゆく。

 

今のを避けるのかよ…!!そう内心で毒付きながら、シンは相手が放ったビーム砲をシールドとビームサーベルで捌いて、さらに距離を置く。

 

「この動き…まるで…!!」

 

シンの動きに合わせて、キラが頭上から奇襲をかけるが如く、飛来する敵メビウスへ向かうが、キラのビームサーベルの一閃をひらりと避けると、モビルアーマーの機動力を活かして、敵は自分たちの射程圏内から離脱してゆく。

 

その動きはまるで、自分たちの隊長と同じような動きをしていた。

 

『ふふふ…あーっはっはっ!!所詮はこの程度か!!足りん!!まったくもって足りんぞ!!』

 

離脱した瞬間に、急制動でこちらへ矛先を向けたメビウスは、搭載されたバルカン砲で容赦なくシンのメビウス・ストライカーを釘付けにして行く。

 

「ぐうう…!!」

 

バルカン砲程度ではびくともしない強度を持つストライカーだが、動きは鈍くなるし、防がなければダメージは確実に蓄積してゆく。

 

『こういうのは気にいるかね?!』

 

敵メビウスを駆るネオが笑みに満ちた表情で言葉を漏らすと、メビウスの翼端に付いている小型の射出ポッドが切り離される。ビーム砲を有したそれは、身動きが取れないシンの周りへと展開して、彼を四方から蜂の巣にしようと動き回った。

 

迫り来るオールレンジなビームをシンは巧みに避けては逸らし、シールドで受けてはビームサーベルで薙ぎ払って凌ぐものの、手数ではネオの機体の方が有利だった。

 

『さっさと俺の元に来い、流星。でないと…貴様の大事な部下を失うことになるぞ!!』

 

ネオの地獄の底のような言葉に、ラリーの中で声が走った。

 

「キラ…?シン…!!」

 

カオスから放たれるビームを避けると、ラリーの機体はリークやトールの戦列から離れてデブリ帯を離脱してゆく。

 

「ラリー!!」

 

「こっちは任せた!厄介な奴がミネルバにいる!!」

 

彼の動きに反応したリークが声をかけたが、帰ってきたラリーの確信に近い声色を聞き、サムズアップをしてうなずく。

 

「任された!ラリーも気をつけて!!」

 

『行かせるものか!』

 

離脱しようとするラリーのメビウスを、モビルアーマー形態のガイアが追いかける。

 

だが、そんな彼女の意識はラリーにしか向いていなかったため、彼女が走るデブリの裏側からトールのメビウスが来ることに気がつくには時間が遅すぎた。

 

「おっとぉ!!お前の相手は俺だ!!犬っころめ!!」

 

デブリの稜線の影から突如として現れたトールのメビウスが放つ、シュベルトゲベールの一撃は、走行するガイアの横を捉えて完全に進路を変えさせた。

 

(ミネルバにはギルが乗っているんだ。絶対にやらせるものか!)

 

「くっそーミネルバが!レイ!援護に迎え!こっちは…」

 

飛び立ってゆくラリーに合わせるように、レイのインパルスもミネルバへと戻る進路を取るように、ハイネが指示を放った。迫り来るビームを避けて、彼もまた戦場に意識を集中させる。

 

『落ちろよ!コイツ!』

 

ポッドを戻し、ビームライフルを構えを構えようとするカオスだが、その際に起こる隙をリークは見逃さなかった。

 

「甘い!そこっ!!」

 

ポッドを格納した瞬間を狙った一撃は、硬直するカオスの頭部を的確にとらえる。黒煙を上げて、スティングのカオスはデブリの奥へと吹き飛んだ。

 

『なにぃいっ!!』

 

「欲張りすぎるからそうなるんだ!戦いでは謙虚さを持てよ!!」

 

頭部カメラを損傷したカオス、片腕を装甲ごと切り落とされたアビス、トールの追撃を受けて怯むガイア。

 

追い詰めたのはこちらだと思っていたのに。

 

スティングたちは、有数の流星たちにその身を包囲されているのだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「艦長!右舷のスラスターは幾つ生きてるんです?」

 

デュランダルの隣に座っていたアスランが、突然タリアへ言葉を投げる。彼女も少し戸惑った顔を見せてから、艦の状況を見てアスランの言葉に答える。

 

「…6基よ。でもそんなのでノコノコ出てっても、またいい的にされるだけだわ」

 

6基あれば十分だ。アスランは過去に学んだ航海戦術をフルに活用して、現状を打破する一手を口にした。

 

「同時に、右舷の砲を一斉に撃つんです!小惑星に向けて、爆発で一気に船体を押し出すんですよ。周りの岩も一緒に!」

 

その無茶苦茶な戦術に、保守派の副長であるアーサーが顔をしかめて反論する。

 

「馬鹿を言うな!そんなことをしたらミネルバの船体だって…」

 

「今は状況回避が先です!このままここに居たって、ただ的になるだけだ!」

 

アーサーの言い分は最もだが、今はセオリーが通用しない。むしろ、セオリーに殉じたものが後ろを取られて撃破される状況だ。主導権が向こうにある以上、それを上回る大胆さが必要だということ、アスランは先の大戦で学んでいる。

 

「確かにね。いいわ、やってみましょう」

 

その言葉に賛成を示したのは、意外にもタリアだった。艦長からの信じられない発言に、アーサーは口をアングリと開けて声を漏らした。

 

「艦長ぉ!!」

 

「この件はあとで話しましょう、アーサー。右舷側の火砲を全て発射準備。右舷スラスター、全開と同時に一斉射。タイミング合わせてよ!」

 

とにもかくにも、現状を打破できる可能性に賭けるしかない。持久戦になれば、身動きが取れなくなるのはこちらだ。

 

「…右舷側火砲、一斉射準備!合図と同時に右舷スラスター全開!!」

 

その考え方に、アーサーも渋々了解した様子で艦の火器管制システムへ指示を放ってゆく。真剣な眼差しでモニターを見つめるアスランに、カガリは心に入り込んでいた不安を抱えながら、この作戦の行先を見つめる。

 

 

 

 

////

 

 

 

光が走る。

 

いくつもの線が、シンの神経をすり減らすように、ストライカーの装甲ギリギリを削ぐように飛び去ってゆく。

 

「くっそぉお!!」

 

何分経った。何時間経った。そんな気が遠くなるような繊細な作業を強いられるシンの負担は、計り知れないものになってゆく。ほんのわずかに気が緩んだ時、眼前のモニターを緑色の閃光で溢れかえっていた。

 

しまった…!!とっさにシールドを構え、機体を捻るが、損傷は避けられない。シンはグッと目を瞑りそうになる恐怖を押し殺しながら、迫る閃光に目を向け続ける。

 

そんな光の幕の前に、一機の影が割り込んだ。手に持ったビームサーベルを振りかざして、キラのストライカーが、シンへ迫っていたビームを切り払った。

 

「シン!誘いに乗るな!この相手は危険すぎる!」

 

そういうと、キラはシンのストライカーを掴んでハリネズミのようなオールレンジ攻撃の柵から抜け出していく。あの手の攻撃は先の大戦でわずかに味わったが、中距離に取り残されればじわじわと嬲り殺しにされるだけだ。

 

一気に彼我の距離を詰めて、超接近戦に持ち込みつつ、高速域での機動戦で敵のオールレンジ攻撃を封じるくらいしか策はないが、それはあくまでオールレンジシステムが展開される前の話だ。

 

ああも防衛も攻撃も行えるポッドを展開されては、距離を詰める前にこちらに一撃当てられる可能性が高い。

 

「でも!このままじゃミネルバや…カガリ姉さんも!!」

 

「一人で守ろうと思うな!二人でなら守れる!!」

 

シンの焦るような言葉に、キラは真っ直ぐとした声色でそう返した。そうだとも。一人で守れないなら二人。二人でダメなら三人。四人、五人、大勢で守れば良い。

 

一人で戦っても、一人で力があっても、思いがあっても、何もできない。限界があるというなら…。

 

「一緒に戦うよ!シン!」

 

シンのストライカーの前でキラは操縦桿を握りしめる。ここには、僕だけではない。シンがいてくれる。仲間がいてくれる。だから、僕は戦い続けることができる!!

 

その決意に似た声に、シンも焦りを拭い去って武器を構えながら頷いた。

 

「はい!!」

 

そんなキラとシンのストライカーを見つめながら、ポッドを辺りに浮遊させてネオは仮面の奥の目をギラつかせる。

 

『程度は知れたか。ここで落とすのも一興ではあるが…』

 

そう言ってスロットルに力を込めようとした瞬間、ネオの操るメビウスへ一閃が降り注いだ。放たれたビームを咄嗟に躱して、ネオは頭上を見上げる。

 

「貴様あああ!!」

 

「ラリーさん!?」

 

突っ込んできたのはラリーのメビウスだった。展開されたポッドから放たれるオールレンジ攻撃が、中距離にいるラリーのメビウスへ放たれるが、彼は信じられない機動と、耐久性が向上したフレキシブルスラスターを手足のように操ってビームを全て避けると、奥に鎮座していたネオのメビウスへ一気に距離を詰める。

 

モビルアーマー同士の超接近戦だ。

 

『来たか、流星!!』

 

「何なんだお前は!!」

 

ネオもオールレンジ攻撃を司るポッドのシステムを諦めて、翼端のビームサーベルを展開したラリーの一撃を避けては、交戦状態へと移る。

 

ネオに追従していたダガーがラリーにビームライフルを向けて近づいてゆくが…。

 

「邪魔だ!」

 

ネオのメビウスを追うついでと言わんばかりに、ラリーの放ったビーム砲がダガーの頭部と胸部を貫き、すれ違いざまにビームサーベルの一閃が、ダガーの上半身と下半身を切り落とした。

 

『下がれ、ミラー!こいつは手強い!お前は艦を!』

 

高負荷のGに耐えながら指示を出したネオに従い、残りのダガー隊がミネルバに向かおうとしたが、その一機が到着したレイのインパルスによって撃墜される。

 

「させるかよ!」

 

シンとキラも、続くようにミネルバへ向かおうとするダガー隊を蹴散らしてゆく。

 

数々の爆発とビーム砲の光の向こうでは、二つの光が攻守を入れ替え、光の尾を持ちながら入り乱れてゆくのだった。

 

 

 

 

 


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