ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第19話 デブリの戦い 4

 

 

ガイアを操るステラの状況は、一言で表すなら劣勢だった。

 

「えぇい!」

 

トールが駆るメビウスの動きは、先の大戦で培った物をさらに洗練し、機体の挙動、衝撃によるダメージコントロール、動きの見極めとチャンスを如何に利用し、そこに見え隠れする危険性も即座に見抜く力量を有している。

 

トールを相手取るガイアは、確かに性能面ではメビウスを圧倒しているのだろう。パイロットのセンスも悪くはない。ただ、二人の間には決定的に「経験差」による溝があった。

 

『あぐ…あいつ…あいつ!』

 

ビーム出力を切った状態のシュベルトゲベールⅡにより、足をすくわれデブリに叩きつけられるガイアの中で、ステラは呻き声と共に地獄の底から響くような苛立った声を出す。

 

頭部のバルカンで飛び去ったトール機を落とそうとするが、それを知っているかのようにトール機のフレキシブルスラスターは反転して急減速と旋回により機体を翻すと、ガイアを捕らえた銃口から無反動弾を打ち込む。

 

『——っ!?』

 

あんな体勢から…!!ステラは咄嗟にガイアを飛び上がらせると、メビウスから放たれた無反動弾がガイアが横たわっていたデブリを容易く打ち砕いた。

 

『くっそー!何で落とせないんだよアレは!』

 

アビスを駆るアウルも、自分たちが相手をする存在が常軌を逸している何かだということを理解し始めていた。片腕を失いながらも応戦するアビスに気づいたトールは、すぐに応戦体勢へと入る。

 

信じられない速度でデブリを縫うメビウスの動きは、「たかがモビルアーマー」と侮っていたアウルの心を完全にへし折った。強化された感覚でもメビウスを追うのがやっとだ。

 

気を抜けば迷路のようなデブリに行手を阻まれる。足を止めればさっき自分を焼いた特殊な弾丸がすぐに飛んでくる状況だ。

 

『くっそぉ!!』

 

アウルはフットペダルを踏み込んでアビスの速度を上げて行く。あの高速の一撃離脱に追いつくには、相手に追い付くしかない。胸部に備わるエネルギー砲でトール機を落とそうとしたが、メビウスはひらりと機体を横に傾けてエネルギー砲を紙一重で避けると、機体を振りまわしてバルカン砲をアビスに叩き込む。

 

バルカン砲に逆に足を止めれたアビスの背後からミサイルが迫る。

 

『アウル!!』

 

機動ポッドで迫るミサイルを撃ち落としたカオスが、足が止まったアビスを庇った。その前から、リークと合流したトールが迫る。

 

「ザフト機もエレメントを!次は決めるよ!!」

 

離脱から攻勢へと転じる中で、機動力に差が出るハイネのザクとも歩調を合わせる。消耗させられたスティングたちにとっては、高速度のモビルアーマーからの攻撃と、モビルスーツからの攻撃だけでも精神に掛かる負荷は大きい。

 

三機が削りきられるのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「くっそおおお!!この野郎!!」

 

シンは久しく見ていなかったラリーの本気の機動戦を目の当たりにしていた。

 

自分との模擬戦で見せた驚異的な機動。

 

同じ機体に乗っているとは思えない動きをするラリーの攻撃に翻弄され、何もできないまま敗北したことを覚えているシンは、そんな動きをしても落とせない相手に恐怖に似た何かを感じていた。

 

『…ーーっがぁっ!!そうだ!!そのまま…ぐぅ…!!俺に釘付けになってもらうぞ…流星!!』

 

デブリの中を動き回る二機は、まるで障害物など存在しないと言わんばかりに、機体のスラスター能力を存分に生かして空戦を繰り広げていた。

 

アーモリーワン近域では、ラリーが可変機に乗っていたこともあり、全力の機動が出来なかった事もあったが、それを抜きにしても、ネオが操るメビウスも、驚異的なラリーの軌跡に劣らず、人間離れしたものとなっていた。

 

互いの機体が高負荷に晒され、身体中からミシミシと軋む音が響く。ここまで高機動戦を継続したのは、ヤキンドゥーエで剣を交えたクルーゼとの戦い以来だ。

 

「くっ…そっ…たれがぁ…っ!!こっちは久々に死にかけてるってのに…!!」

 

背後を取られた瞬間に、フレキシブルスラスターを反転させて、フラップと逆ノズルのバーナーを吹かして、ラリーは急減速をする。取った…!!そう思った刹那、ネオの機体に備わるロケット砲の銃口がこちらに向けられていることにラリーは気がついた。

 

「な…にぃ…!?」

 

花火のように宇宙へと放たれるロケット砲。咄嗟に高負荷中で機体をさらに振り回す。高負荷でもアラームが出にくい設計をしているはずなのに、コクピットのモニターにはアラームが鳴りっぱなしだった。

 

「ぐ——っがぁああ!!」

 

『避けたのか…!?今のを!!』

 

奥歯を噛みしめながら、ラリーはロケット砲の雨を掻い潜っていると、ネオも機体を反転させてラリーの機体へと攻める。

 

『この程度でぇ…!!根を上げてたまるか…っがぁっ!!俺はこのために戦ってきたんだ…このためだけに!!』

 

想像を遥かに上回る殺人的な負荷を押し殺して、ネオはラリーへ迫る。二人の戦いにキラもシンも、手を出すことはできなかった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「ボギーワン、距離150」

 

「仕留めに来たわね!総員、衝撃に備えよ!行くわよ!…右舷スラスター全開!!」

 

オペレーターの言葉を聞いてから、タリアはすかさず指示を出した。アスランの提案通り、右舷の武装全てをデブリに向けて。

 

「右舷全砲塔、てぇ!」

 

刹那、衝撃、爆発。大きな揺れがミネルバを襲う。ハンガーにいたフレイや、マードックが襲いかかってきた揺れに耐えきれずにミネルバの床から足を離した。

 

「うわぁ!」

 

「うわわっ…!!バカヤロー!!」

 

まるで洗濯機に放り込まれたように姿勢を崩される中、ミネルバの個室に避難していたバルトフェルドや、ラクスたちも同じような驚異的な揺れを体感していた。

 

「ひゃあーー!!」

 

「大丈夫ですわ、ミーアさん」

 

涙目でラクスやアイシャに抱きつくミーアを宥めながら、ラクスは落ち着いた様子で戦況を見つめている。おそらく劣勢に立たされているのだろう。この揺れは起死回生の一手か、はたまた終焉を知らせるものなのか。

 

「どちらにしろ、こりゃあ派手な戦闘になってるみたいだなぁ…!!」

 

ベッドの脇に捕まるバルドフェルドの言葉に、ラクスも同意する。ただ、自分たちがここで死ぬとは思えない。なにせ、この船の守護神たちには、先の大戦の英雄がいるのだから。

 

「射角は取れた!回頭30!ボギーワンを討つ!タンホイザー照準、ボギーワン!」

 

アスランの思惑通り、デブリを吹き飛ばして現れたミネルバに対応できないガーディ・ルーの側面を捉える。右舷武装斉射と同時に展開していた陽電子破砕砲「タンホイザー」の発射口を敵艦へと向ける。

 

『何だと!?回避ーッ!取り舵いっぱい!』

 

「てぇ!!」

 

白と赤の閃光はガーティ・ルーの側面を捉える。幸いにも致命打を避けたが、それでも、これまでの優勢を削り取るには充分な効果を発揮した。

 

『ええい!あの状況からよもや生き返るとは!』

 

「見えた…!!よそ見!!」

 

タンホイザーの閃光に意識を削がれたネオの機体に、バルカンが命中する。メビウスの後部武装ユニットに火がついたのだ。

 

『ぐっ…!ええい!流星め!!』

 

ネオはすぐさま武装をパージすると、迫る流星から距離を取るためにデブリ内を飛翔してゆく。

 

細かい石飛礫が機体をかすめていく音が聞こえるが、ここで落とされるわけにはいかない。ラリーも掴んだ攻勢の機会を失わないように逃げるネオの機体を追いかけた。

 

「ええい、頃合いか!大佐達に帰還信号を。宙域を離脱する!」

 

ミネルバから距離を置いたガーティ・ルーから信号弾が上がった。それをみたスティングが即座にステラたちへ通信をつなげる。

 

『ステラ!』

 

彼女は追い立ててくるトールのメビウスに反撃しており、撤退する素振りなど微塵も見せていたかった。スティングは苛立ちながら、通信機越しに怒声を上げる。

 

『また嫌な思いをしたいのか!!』

 

『…っ!!わかった』

 

スティングの嫌な思いに、自身の乱れた感覚を思い出したのか、ステラはモビルアーマー形態になると一気にメビウスから離脱してゆく。

 

『アウルも!!離脱するぞ!!』

 

スティングとアウルも続いて戦線から離脱。トールとリーク、そしてハイネも、三機を追うことはできなかった。武装も燃料も限界が近づいていたからだ。

 

『撤退か…今回もお預けか…しかし』

 

ネオもまた、イアンからの帰還指示を受けて離脱を開始。逃げ足に特化すれば、追おうとしてくるラリーのメビウスを振り切るには十分な加速は稼げられる。背後からこちらを狙ってくるラリーの攻撃を翻して、ネオは離脱航路へと入った。

 

『俺の存在は知らしめれた』

 

それだけで、今のネオは充分だった。

 

まだだ。まだ、殺すには早い。

 

それに、まだ自分では流星を殺せない。

 

ネオは仮面を脱ぎ捨てて背部モニターから、こちらを見つめる流星を見た。

 

『またいつの日か、出会えることを楽しみにしているぞ、流星。そしてザフトの諸君』

 

飛び去ってゆくネオのメビウス。

 

ラリーは逃げることに徹するネオの機体を追うことをやめて、デブリ宙域に留まりながら光となって遠ざかってゆくネオの機体を見つめた。

 

「…はぁー…ふぅ…鮮やかな引き際だな…」

 

想像以上に強敵だった。ラリーは全身にのしかかる倦怠感と疲労に目を閉じたくなる衝動に襲われていたが、歯を食いしばってなんとか堪える。ここまで消耗させられたというのに、敵にはまだ余力があるようにも見えた。

 

果たして、この世界のネオ・ロアノークとは何者なのだ?少なくとも、自分が知る誰かではないということだけは確かだ。

 

「ラリーさん。敵は一体?」

 

合流したキラとシンの言葉に、ラリーは肩をすくめながら答える。

 

「わからん。だが深追いは厳禁だな、とりあえずは」

 

それにこちらもパワーや機体の限界もある。モニターに目を走らせれば、至るところからアラームが出ている状態だ。これはまた、ハリーにひどく怒られるな。そう思いながら、ラリーは二人と、遠くにいるリークやトールに指示を送った。

 

「帰投するぞ、メビウスライダー隊」

 

初陣となったメビウスライダー隊の戦いは、歯痒さを残したまま終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 


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