ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
《地球軍第八艦隊所属、アガメノムン級戦艦「ケストレルII」の艦長、トーリャ・アリスタルフ少佐だ。プラント政府からの「ユニウスセブン破砕作戦」の要請を受けて合流する。貴艦への戦闘の意思はない》
落下するユニウスセブンへ向かう航路の中で、白旗と同意の攻撃意思のない信号を発しながら、地球軍の艦隊がミネルバへと近づいてきていた。
通信官から艦長へと役目を変えたのは、「トーリャ・アリスタルフ少佐」。元ドレイク級「ロー」と「アークエンジェル」のAWACS通信官を務めた古強者であり、デュエイン・ハルバートン指揮下の第八艦隊の旗艦である「ケストレルⅡ」の艦長に抜擢されたのだ。
「こちらザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。貴艦からのコードの承認ができました。助力のほど感謝いたします」
《なに、こちらとしても地球の危機だからね。断る理由なんてないさ》
敬礼を解いたトーリャはやんわりとした態度を見せて、引き連れてきた艦隊の詳細データをタリアへ送信する。
《こちらは自艦のアガメノムン級、そしてネルソン級二隻と、ドレイク級が3隻で構成されている。要望通り、こちらもメテオブレイカーを用意してきた》
第八艦隊が保有する三分の一にあたる戦力を引き連れてきたトーリャに、タリアは深い感謝を評した。デュランダルが地球軍に打診した際に、二つ返事で協力を申し出てきたのは第八艦隊だ。彼らは要請された機材や人員を持って、この窮地に駆けつけてくれたのだ。
「ご協力のほど、感謝いたします。少佐どの」
そう言ってタリアの横から通信へ加わった人物に、トーリャは驚きを隠せなかった。
《デュランダル議長!?その船に乗っていられるとは…》
「私だけではないのだがね」
《——は?》
そう言って困ったように微笑むデュランダルと、頭を抱えたくなるタリア。映像通信越しに視線を向けると、彼らの奥にはラクス・クラインと、そして最近彼女とペアを組むことになったミーア・キャンベルが、バルトフェルド同行の元ブリッジへと入ってるのが見えた。
こりゃあ…貧乏くじを引いたか。地球軍の帽子を深く被りながら、トーリャは訳ありだとハルバートン提督が困った顔をして言っていたことを思い返すのだった。
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アガメノムン級から出撃したのは、メビウスを改良した機体だった。数機のモビルアーマーと懸架された機体が編隊を組みながら、先行して出撃するラリーたちのメビウスへと追いつく。
《こちら、第八艦隊所属、ブラックスワン隊、隊長のカルロス・バーン大尉だ》
「久しぶりだな、バーン大尉」
ラリーの声に、久しく会った戦友にカルロスは笑みを返す。
《流星が合流しているとは聞いていたが…君たちも相変わらず多忙のようだな》
ヤキンドゥーエ戦役から、大規模な組織改編があった地球軍は、その力関係を宇宙と地上に二分することとなった。
宇宙は従来通り、デュエイン・ハルバートン提督が指揮する第八艦隊が統治し、ユーラシア連邦とオーブ首長国が管轄するアジア地区やヨーロッパ圏。そして、大西洋連邦が管轄するアフリカ、中東、アメリカ大陸と言ったところだ。
ブラックスワン隊は、第八艦隊付きの部隊として運用されており、主に宇宙での警戒任務や、ザフト過激派との小競り合いの対処に奔走している。
カルロス・バーンは、ヤキンドゥーエ戦役で生き残ったブラックスワン隊の隊長を継続しており、あの時に戦いに加わった多くの兵士も、ブラックスワン隊に在籍していた。
《はぁい、トール。元気にしてる?》
そう言ってトールのメビウスに語りかけてきたのは、ミューディー・ホルクロフトが駆る機体だ。隣にはシャムス・コーザと、スウェン・カル・バヤンが駆る機体も見える。
「スウェンさんたちもお変わりないようで」
《最近はコロニーやらステーションやらの護衛ばっかりだったからなぁ。体が鈍っちまうよ》
《シャムス。アンタ調子に乗って、ユニウスセブンに落ちるんじゃないわよ?》
《わかってるって!ミューディー!》
リークの声に応じるシャムスやミューディーたちも、年相応の兵士に成長している。彼らもブラックスワン隊として多くの任務に従事してきたのだろう。ふと、レーダーに新たな反応が加わったことを、三人の長であるスウェンが知らせる。
《こちらブラックスワン1。シエラアンタレス隊も合流したな》
その言葉通り、ブラックスワン隊の後方から、数機のザフト機を引き連れた青白いザクウォーリアーに乗る旧友がプラントからやってきた。
《久々の再会と言っても、ゆっくりはできないようだな、ラリー》
シエラアンタレス隊の隊長であるイザーク・ジュールを先頭に、ザフト軍も前列へと加わる。
青白いザクの隣には、漆黒のザクと、新緑のザクも並んでいる。両機にはニコル・アマルフィと、ディアッカ・エルスマンが乗り込んでいた。
「イザークたちも参加するのか?」
《まぁ、ザフト内もごちゃごちゃしていてな。動ける部隊で腕が立つのが俺たちだけだったわけさ》
正直に言えば、まだアーモリーワンからの混乱に立ち直っていないのが実情だ。新型機の奪取で揺れ動く内政を維持するために、こちらの事件に避ける人員として、経験豊富なイザークたちが割り振られるのは必然でもあった。
《よく言うぜ、ラリーたちが行くなら俺たちが出向くのも道理とか言ってたくせに》
《うるさいぞ、ディアッカ》
《相変わらず素直じゃないんですから》
通信回線越しに言い合いをする旧友たちに、シャムスやミューディー、カルロスたちも懐かしげに笑う。ここにいる全員が集まったのは、オーブで行われたフレイとサイの結婚式以来だ。
「久々だな、こんなやりとりも」
ラリーの言葉に、全員が同意すると地球の輪郭から太陽が姿を見せた。太陽光に照らされて遠目からでもユニウスセブンの姿がはっきりと見える。今から自分たちが向かう目的は、目と鼻の先だった。
《しかし、これだけ距離があるというのに。こうして改めて見ると、デカいな》
《当たり前だ。住んでるんだぞ俺達は、同じような場所に》
ディアッカのぼやきに、イザークがそう言葉を発する。皮肉ではあるが、自分たちが住んでいる場所を効率よく破壊しなければならないのだ。気分が滅入るのもわかるが…。
ディアッカもそれはわかっている様子だった。
《それを砕けって今回の仕事が、どんだけ大事か改めて解ったって話だよ》
《メテオブレイカーの投射位置は…ダメだ、予想より遥かに大きい。データはこちらで算出します》
予想よりも進行スピードも速い上に、崩れた構造物が変形している場所もある。あらかじめ用意してきたデータシートでは対応できないことを知ると、ニコルはすぐに再計算のソフトを走らせた。
《こちら、ケストレルⅡのAWACS「ソリッドアイ」だ。これより君たちをサポートする》
通信系を再調整していたケストレルⅡのAWACSが、各機に通信をつなげる。オンラインになった戦術データをリンクさせて、各機のパイロットはブリーフィングとなったこの場で耳を傾ける。
各機。よく聞いてくれ。
今回は我々地球軍とザフト軍の合同作戦となる。各機の役割とチームワークが重要になってくるミッションだ。失敗は許されないが、君たちにとってはいつものことだな。
作戦を説明する。
ブラックスワン隊、シエラアンタレス隊、そしてメビウスライダー隊。
各部隊は先行して現地へ赴き、バンカーポイントを確保してほしい。磁気嵐が強い上に、ユニウスセブンはすでに落下軌道に乗りつつある。足の速い君たちなら、先行して現地の調査ができるはずだ。
それと、所属不明の武装組織の報告もある。今回の事件の原因が何であれ、我々はあらゆる妨害、障害を突破し、ユニウスセブン落下を防がなければならない。
よって、今回の任務は二方向からの同時作戦となる。
ブラックスワン隊とメビウスライダー隊。君たちにはシエラアンタレス隊が運搬するメテオブレイカーを護衛してほしい。所属不明機から敵対行動があった場合、即時これを撃滅せよ。
シエラアンタレス隊は、バンカーポイントの特定と確保にあたってくれ。
我々の腕に、地球の命運が掛かっている。諸君の健闘を祈る。
「磁気嵐が報告以上にひどいな。落下軌道で破片がどう飛んでくるかわからんぞ!」
ユニウスセブン圏内に入ったラリーは、飛散するデブリを避けながら周辺警戒を行っていた。
リークとトール、そしてブラックスワン隊も続く中、眼下ではシエラアンタレス隊がユニウスセブンの壁面に到達しようとしている。
《たっぷり時間があるわけじゃない。ミネルバも来る。各機、手際よく動けよ!》
「了解!」
イザークの声が響き、全員が毅然とした声で答える。各機のコミュニケーションと、チームワークが肝になる任務だ。
この場にいる誰にも、ナチュラルだとか、コーディネーターという差別も、いがみ合いもない。誰もが地球を危機から救おうと必死だった。
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「各部隊、メテオブレーカーを持って先行しています」
「では、こちらも急ごう」
タリアの報告に、デュランダルは頷きながら応じた。すでにプラントからもナスカ級とローラシア級が出撃しており、破砕作業の増援も期待できる状況であった。
「要請に応じた大西洋連邦の宇宙艦隊は?」
《何をしているのか、まだ何も連絡は受けていないが…だが月から艦を出しても間に合わないな。あとは地表からミサイルで撃破を狙うしかないだろうな》
タリアの言葉に困った様子でこた答えるのは先導するトーリャだ。ケストレルⅡが先陣を切る形で進行しているが、要請に応じた大西洋連邦の船がレーダーに映ることもないし、通信範囲からの応答もなかった。
「それでは表面を焼くばかりで、さしたる成果は上げられないだろう。ともあれ、地球は我等にとっても母なる大地だ。その未曾有の危機に我々もできるだけのことをせねばならん」
ミネルバと到着すれば、レイのインパルスや、ハイネのザクも作業に加わることができるだろう。必要となれば、船の武装を使い、破砕作業を行うこともできる。
「この艦の装備ではできることもそう多くはないかもしれないが…各員、全力で事態に当たってくれ」
議長からの要請に応じるように、雇われたメビウスライダー隊も発進準備に取り掛かっていた。
「メビウスライダー隊も出すぞ!キラとシンも発進シークエンスへ!」
インパルスよりも航続距離のあるメビウスストライカーも、シエラアンタレス隊や、メテオブレイカーでの破砕作業をする機体や、飛散したデブリの除去に協力する手筈となっていた。
「キラ!」
コクピットの中で発進準備を進めるキラに、通信機からアスランが呼びかける。
「アスラン、どうしたの?」
「キラ…俺も…」
そう言って迷いのある目で見つめるアスランに、キラはため息をついて落ち着くようにアスランへ言葉をかけた。
「アスランの役目は、カガリを守ることだろう?」
「しかし…」
「全く…少しは信用してよ。僕だけじゃない。シンや、ラリーさんたちも出る。君はここで、カガリを守ってなきゃ」
「キラ…」
《発進1分前!》
ガゴンと、オーブの輸送船であるヒメラギのコンテナが開く。ミネルバと違い、カガリとアスランを乗せたヒメラギは、キラとシンを射出した後に離脱する予定となっている。昇降するリフターに揺られながら、キラはアスランへ笑みを向けた。
「妹を頼むよ、アスラン」
「…カガリが聞いたら怒りそうだ」
「口喧嘩なら僕の方が上だよ。さぁ、行こう。シン!」
「わかりました、キラさん!こっちの準備はOKです!」
《カタパルト。リニアレール蓄電率正常、ヤマト機、発進どうぞ!》
臨時管制官となったフレイから「気をつけて」とかけられる声に、サムズアップで答えたキラは声高らかに放った。
「ライトニング3、キラ・ヤマト、メビウスストライカー、行きます!!」
「続いてライトニング4、シン・アスカ、行きます!!」
アスランとカガリが見送る中、二機の流星は光を描いて、崩壊してゆくユニウスセブンへと飛翔してゆく。
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《太陽風、速度変わらず。フレアレベルS3。到達まで予測30秒》
『急げよ。9号機はどうか?』
『はっ!間もなく』
《放出粒子到達確認。フレアモーター受動レベルまでカウントダウンスタート》
《——5、4、3、2、粒子到達。フレアモーター作動。ユニウスセブン、加速開始しました》
ソーラーセイル機。ジェネシスの大元となった加速装置で速度を上げてゆくユニウスセブンを見つめ、幾人のザフトの軍人が歓声を上げる。
『さあ行け!我等の墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を、今度こそ正すのだ!』
その狂気に取り憑かれた思想は、世界に新たな一面をもたらすことになる。